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グレー・ワールド
第2話 言葉
猫分儀スミレ
Nekobungi Sumire
(いやっ!)
(苦しいよ!)
(やめて…)
はっ
はあ はあ
「夢?」
「うん。」
「夢は夢です。それに、もしそんな事があっても、私がお守りしますから。」
「ありがとう…。」
「ところで、さっきから何を作ってるの?」
「朝食です。」
「こんな簡単なものしか出来ませんが…」
「トマトスープです。」
「冷めないうちにどうぞ。」
「わーい、いただきまーす。」
「と…とてもおいしいよ。」
「よかった!」
ゴン ゴン
「あれ、誰でしょう。」
「どなたで…あれ?誰もいなーい。」
「メリッサ、そうやって人をからかうのは止めなさい。」
「局長さん。」
「ウィスティ様の記憶喪失につきまして、呪文局からの通達です。『クネノマヤ文士連盟規約第62条E項により、能力一時喪失者と見なし…』」
「要は、もう一度文士資格のお勉強をしていただくという形に。」
「えー!またあのばあさんが来るの?」
「そういう決まりですから!じゃ!」
「ああ、ちょ、ちょっと!」
「ねぇメリッサ、「文士」って何?」
「え?」
「文士っていうのは、呪文を使える人のことです。ウィスティ様もその一人で…ていうか、先生が来たらそういう話を嫌になるほど…」
「言葉の持つ本来の力を引きずり出すことで呪文が魔法力として作用するのです。ですから、呪文として発せられるものも元を辿れば全て平文なのです。普通の文章を呪文として変換する術はクネグラム変換と呼ばれ、旧来から言霊の力に触れる方法として研究されて……」
「○X△◇∀♀‰※♪♬⦿◑▽●◓☂◎▼☖✓☎♯⁂◑⏎♮♫☂◎▼☖@※❖▱⁂♡♀‰※……」
うつら うつら
「……☀☁☃☂♫♬⁂……✓♯▽●◓〆♯⦿◎♬………◒◑♮♀♭〆……▱♬☂⁂✓………」
く───
「ウィスティ様!」
「あなたのために急ピッチで呪文論理をやり直してるんですよ!」
「少しは集中して下さい!」
「すいません…。」
「どこまで行きましたかしら?あ、そうそう。○△●※♥♧◓▲◉❖⁂♯……」
ペラ ペラ
(?)
トン トン
(『相手に向かって、手をかざしつつ…』?)
「…モ・サ・ユ・イ」
「…であるからして、その…」
ク… ク…
「んあ……」
フラッ
サッ
ドサッ
「呪文っていうのは、ああやって覚えるもんなんですよ!」
「そ、そうかな…」
「ウィスティ様の魔法力での『睡眠呪文』なら、せいぜい2〜3時間で目が覚めますよ。心配しなくても大丈夫です。」
「うん…。」
「そうだ、私が他にも呪文を教えてあげます!」
「え?」
「そうね。例えば…『ウアキディカ』」
「意味は『岩砕き』…ね。そのへんの石ころを砕く呪文です。」
「へー。」
「ウアキディカ!」
バン!
「うわっ!」
「すごーい!」
「私に出来るのはこんな事ばっかりですけど…」
「私はただの戦士ですから、戦闘魔法以外の呪文はあまり得意ではないんですよ。」
「そうなの?」
「それぞれの『役割』によって必要とされる力は変わります。その『権限』によって使える呪文も限られてくるんです。」
「私の『役割』って、何?」
どん
「あなたの役割はこの王国の主であること。」
「あなたは、どんな魔法でも何ら制限なく使えるのです。それどころか、本気になれば自然界に直接干渉する事も…」
「……」
「なんか、私が授業してるみたいですね。これじゃ、あの先生と変わんないな。」
「あはは!」
「でも、私がそんなすごい人だなんて…」
「それが…王族ってものなんですよ。」
「でもご安心下さい。」
「?」
「この国はとても平和です。自分の『役割』を行使せず、ただ流れに身を委ねて生きていくことも…出来ますから。」
「…………」
「ねえ、さっきの呪文って、石なら何でも砕けるの?」
「ええ。石で出来たものなら何でも。」
「あの大きな岩は?」
「いや、あそこまで大きい岩は難しいかと……」
「ウアキディカ!」
ズド──────ン
「すっ…」
バタッ
「わっ、ウィスティ様!」
「ん……」
「目が覚めましたか。」
「突然倒れられたので驚きましたよ。」
「え…」
「あ、あ、ご、ごめんなさい!」
「私……あー、あ…。」
クラッ
「くっ!」
トサ
「ダメですよ、急に動いたりしちゃ。」
「少し休まないと。」
「ごめん…。」
「いいえ。でも、ふふっ…ウィスティ様はすごい。」
「子供のうちからあんな強い力が出せるなんて…。」
「ウィスティ様は、過去のどんな王様より魔法力があるのかも…」
「メリッサ、私疲れちゃった。」
「ふふ。久しぶりに呪文を使ったからですよ。」
(でもなんだろう…とても幸せな気分…。)
(もうしばらく、こうしていたいな…)
「!」
「何者だ?」
「ウィスティを渡してもらおう。」
「メリッサ…」
「下がっていて下さい。」
「素直に渡さなければ…奪い取るまでだ。」
ヒュッ
(どこから剣を!?)
「不届き者め。返り討ちにしてくれる。」
「殿下には指一本触れさせん!」
「!」
ガツン
「ぐっ!」
ガッ
ガン ガン
「ヤッ!」
ガ───ン
ギッ ギシシッ
バッ
ガン
グイッ
「あっ!」
はあ はあ
ヨロ…
「うっ」
「くっ」
ガンッ ガンッ
ブン
「キャッ!」
どたっ
ぐっ
「メリッサ!」
「!」
ドカン
「ウィスティ様!」
キキッ
ぐぐぐっ
「力を!私に力を下さい!」
「!?」
(どうすれば……あ!)
(そうだ…メリッサ、頑張って!)
「ふぐぐ…」
ぐぐぐっ
ギジジ…
ギギッ
「!?」
ぐぐぐっ
「ぐあ!」
バッ
「!」
はあ はあ
「!」
ぐいっ
「…………」
ギギ
「…………」
ギッ
ガンッ ガンッ
「!!」
どさっ
トン
「!」
「ウアキディカ!」
バ──────ン
「キャ──────!」
ゴン
グサッ
「く…くそ!」
ヨロ ヨロ
ダッ
「あ、待て!」
「ピッ」
「ピッ」
バチ バチ
ゴオオオオオ
「!?」
「メリッサー!」
「……」
「……」
「…消えた。」
「今の…一体…。」
「わかりません…。」
「ああ、メリッサ。怪我はしてない?」
「ええ、私は大丈夫。」
「ウィスティ様ー!!」
ガッ
ドタッ
「一番大怪我をしたのってガネジリさんなんじゃ…。」
「うるさいですね!」
「この国はずっと平和だと思ってたのに…」
「防衛局の方では異常を感知出来なかったそうで。」
「アミトエナからの攻撃ではない、と。」
ずず
「私もてっきり、呪文で破壊された岩を見つけた時はアミトエナ人かと…」
「えと、それは我々です…。」
(なんか、大変な事になっちゃったのかな…。)
(私が戻ってきたせいなのかな…)
「あ!」
「どうしたんですか?大声出して。」
「……。」
(呪文で眠らせた先生を起こすの、忘れてた…。)
ぐ─────
つづく
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