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第4話 記憶

グレー・ワールド
第4話 記憶
猫分儀スミレ
Nekobungi Sumire
ワ───
ワ───
コロコロ
「ウィスティ!」
『そうだ…メリッサと私は、ずっと昔から友達だった…』
『時は過ぎ…』
ゴーン ゴーン
ゴゴゴ
『いつからか、私は人と話すことが出来なくなっていた。』
「まだ、声が出ないままなの?」
「……………。」
「…………」
「ねえ、ウィスティ。あなたに「手話」を一つ教えてあげる。」
「?」
「こうして…」
「こう!」
くるっ
「これが、あ……」
「あれは…」
コト コト
「♫」
「あ、ウィスティ様おはようございます。」
「メリッサ、これってどういう意味?」
くるっ
「え…何です、今の。」
「私、思い出した…。これは、あなたが昔教えてくれた手話。覚えてるでしょ?」
「「手話」って何ですか?」
「知らないの?」
「ええ…申し訳ありません…。」
『なぜ?』
「やっと、昔のことを少しだけ思い出したと思ったのに。」
「あれはただの夢だったのか?メリッサが嘘を言ったのか?それとも…」
「着きましたよ、ウィスティ様。」
『呪文局』
「…では、またのお越しを、大臣殿。」
「ええ、ごきげんよう。」
ニヨ ニヨ
「局長さん!」
「げっ、メリッサ!それにウィスティ様も…」
「こんにちは。」
「なに驚いてんの。あなたが呼びつけたんでしょうが。」
「そ、そうでしたな…。」
「ではこちらへ。呪文局へようこそ!」
「その名の通り、呪文局は言の葉…情報の管理や保管が主な業務です。」
「各種文献、詩面や公文書…」
「そしてこれが我々の管理する、最も大切な物の一つ。地下図書室です。」
「それで…どうして私がここに呼ばれたんですか?」
「ええ、実は図書室への扉には封印がされていまして。」
「クネノマヤ王族にしか解くことの出来ない、封印の呪文ですね。」
「つまり、私にしか扉を開けられないってこと?」
「そういうことです、殿下!」
ガヤ ガヤ
「本来、毎年一回扉を開いて大掃除をするんですが…」
「他に王家の方はいらっしゃらないし、ここ何年も扉を開けられなかったのです。」
「もうどれだけ汚れているやら!想像しただけで恐ろし…」
ヒィ〜
「いいから、早く扉を開けましょうよ。」
「おっと、そうでしたね。ではウィスティ様、ここに書いてある呪文を!」
「これを、読めばいいんですか。」
「はい。」
「ナココ・オリバト・キラヘ」
ピカッ
ゴゴゴゴゴ
「さぁ、お掃除部隊かかれー!」
ワー ワー
ドドドドドドドドド
「私も、中を見ていい?」
「ええ、もちろん。」
(結構長い階段だな…)
「!?」
「すごい…こんな大きな部屋が地下にあったなんて…。」
「ええ。」
「呪文局の敷地を超え、街の地下全体へと広がっています。この大図書室はまさに…」
「国家の記憶の中枢なのです!」
「ウィスティ様、迷子にならないで下さいよ!」
「はーい。」
「あ、ウィスティ様。青色の棚の本にはお手を触れないよう。」
「とても気化しやすい記録がありますから!」
ズオオ
(………)
(!)
(広いなぁ…本当に迷子になっちゃいそう。)
「!」
(どこからか文字が…)
「この本だ。」
パッ
ブワッ
「!」
ゴゴゴー
「先ほど申した通り、青い棚の本は文字が気化しやすいんです。」
ビクッ
あた ふた
「いや、あの、その、ごめんなさい!」
「ああ、いいんですいいんです。一冊ぐらい。」
「開いたら消えてしまうんだから、そもそも読めやしないのです。おかしいと思いませんか、そんな本にも本棚があるのって。」
「失う一方の記憶にも居場所がある…それってどんな意味があるんでしょうね。」
「……」
「!?」
「何だろ…?水たまり?」
「さらさらしてる…これ、水じゃない。」
「そうか…これは記憶だ。」
「え?」
「空気中に溶けた文字、つまり「記憶」が結露したのです。」
「そして滴となった記憶は集まって水たまりへとぶっ」
「…………」
バシャ バシャ
「すごいよガネジリさん。水みたいなのに全然濡れない!」
「はしゃぎ過ぎると転びますよ。」
「大丈夫、大丈夫。もう子供じゃないんだから…」
「!」
「わっ!」
ドボン
「……!?」
「扉?」
「わっ」
「わわ!!」
ゴボッ
ゴボ ゴボ
「…!」
「はぁ…」
「はぁ…」
ガリッ
ガリッ
ガバッ
「うぐっぐうっ」
「ぐはっ!」
「ぶはっ!!」
「げほっ」
「げほっ」
「ウィスティ様、大丈夫ですか。」
「うん」
「下に…扉があった。」
「扉?」
「はて、こんな所に扉はなかったはずですが…」
「もう、心配させないで下さい!」
「この水たまりを乾かして後日調査を行いましょう。」
(………)
「腕がどうかされましたか?」
「い、いや別に……。」
ポン
「そうだ、アイスクリームを買ってきましょうか。近くにおいしいお店があるんです。」
「その辺にSPもいるし平気ですよ。」
「あ、でも…」
(一緒にいてほしいんだけど…)
(こうして、こうか…)
(どういう意味なんだろう…)
「…ひとつ教えてあげる。」
「こうして…こう!」
「これが、あ…」
「「これが、あ…」?」
「これが、あ…あ……あ……」
「あなたの名前」
「…え?」
くる
「「ウィステリア」」
「あなたの名前…」
「そうだ、あなたが…」
「私に「手話」を教えてくれたのは、あなた…?」
「そう、そうだよ、ウィスティ。」
「メリッサ、なのね…」
ダッ
ダダッ
「ちょ、メリッサ苦しい。」
「ご、ごめん。」
「でも、どうして?ていうかこの姿…」
「うん。」
「話すよ、全部。話したいことがたくさん…」
「……?」
「どうして、泣いてるの?」
「え…」
ポロ ポロ
「あはは、なんでだろ。涙が止まんないや。」
つづく