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第6話 アクセプト

グレー・ワールド
第6話 アクセプト
猫分儀スミレ
Nekobungi Sumire
ガバッ
はー
はー
(…………)
(…あれ?)
(何か違う…?)
(何が違うんだろう…)
『科学省』
「新鮮な魚はいらんかえー」
「ありがとう」
「ジョセ、怪我の調子はどう?」
「うん、実はまだ気絶した前後の記憶がなくてな…」
「アミトエナの怪物にぶん殴られたんじゃないかー」
ハハ ハハ
「うーん、そうだったっけなぁ…」
カチャ
「さて、本題なのですが…」
「ウィスティ様、もう一度あの地下大迷宮の探検にご参加下さい。」
「ダメですよ!あんな危険な所にまたウィスティ様をお連れするなんて!」
「リスクはわかります!」
「ですが、迷宮には封印された扉が多数。探索の続行には殿下のご協力が必要不可欠なのです!」
「そんなこと言って、ウィスティ様の身に何かあったらどうするんです!」
「しかし、あれは大変な科学的発見なのです!何が何でも探索をしなくては!」
「メリッサ、私は別に…」
「ウィスティ様」
「私たちからもお願い。」
「ウィスティ。」
「私たちと一緒に、地下迷宮に来てちょうだい!」
「………!!」
「私たちは、この街の地下に君の記憶喪失の謎が隠されていると考えている。」
「あの迷宮の中を探れば君の記憶を取り戻す鍵が見つかるかもしれない。」
「どうして地下迷宮と私の記憶が関係あるんですか?」
「そうだ!ウィスティ様のことと、あの迷宮は関係ない!」
「この世界が、君の夢だからだ。ウィスティ。」
「クネノマヤは、私の夢なんかじゃない!」
「教授…」
「ま、まぁ聞いてくれ。」
「君はあの迷宮に近づいたとき、失われていた記憶に予期せず出会ったことがあるのでは?」
「……!」
「…迷宮の入り口に溜まっていた「記憶」に触れたとき……私は何かを見ました。」
「誰かの腕……それに刃物が見えた。そして……」
「……恐らく、それは君自身の記憶だろう。」
「この世界は、君の夢…いや、君の心そのものだと言った方が正しいかもしれない。」
「だからこの世界のどこかに、失われた記憶が隠されているはずだ。」
「記憶喪失というのは、記憶が消えてなくなるわけじゃない。」
「記憶はどこかにちゃんとあるけど、それを見つけることが出来ないだけなんだ。」
「「記憶」が迷宮の入り口に水のように溜まっていたのは、恐らく…」
「迷宮の奥底に眠る記憶の断片が吹き出してきていたのだろう。」
「それで、迷宮を探索して記憶を見つければ、私は全てを思い出す…と?」
「そういうことだ。」
「私……私は嫌です。今までに触れた記憶は恐ろしいものばかり…」
「私は今でも十分幸せです。」
「昔の記憶なんて取り戻したくありません。」
「…うむ、わかった。君が望まないならこれ以上「記憶」に触れる必要は無い。」
「でも、迷宮の探索だけは協力してほしいんだ。」
「いいえ、殿下はご協力いたしません。あそこは危険が大きすぎます。殿下自身も反対されていますし…」
「実は……私たちは、とても困ったことになっているのだ。ウィスティ、君の助けが必要なのだよ。」
「どういうことですか?」
「他者の夢に侵入し、眠っている人の心を探ることが出来る機械!今こうして私たちが君の夢の中に侵入するために使っている装置!」
「私たちが“EREBOS”と呼んでいるものだが…これを発明したのは君のお父さんなのだ。」
「その話は、メ…メリッサから聞きました」
「うむ…君のお父さんは、天才的な科学者だった。私はかつて彼と共にEREBOSの研究をした仲間だったが…」
「基本的な設計や理論は全て彼一人が作り上げたのだ。」
「彼が去って以来、この発明に関する一切の権利は…」
「娘である君の物となったのだ。」
「EREBOSの所有者はウィスティ、君だ!」
「私が、所有者…?」
「そうだ。つまり、この発明はお父さんの遺産なのだ。」
「しかし!今君は昏睡状態にある。」
「もしずっとこのままの状態が続けば、君は遺産の相続権を失うことになる…。」
「私、お父さんの遺産なんて要りません…」
「外の世界の物は何も…」
「君がそう思うのはわかる…」
「しかし、どうしてもこの「遺産」を君に受け継いでもらわなければ困るのだ。」
「私たちが作った装置…EREBOSは、素晴らしい発明であると同時にとても恐ろしい技術でもある!」
「EREBOSを使えば、我々の意識を相手の夢の中に送り込むことが出来る。そこで剣を振るい「悪夢」を退治すれば…心の病を治す、画期的な精神医療となる。」
「しかし、剣の矛先を夢の住人、夢の世界そのものに向ければ……」
「相手の心、人格そのものにダメージを与えることも出来るのだ!心を思うままに改造することや破壊し尽くすことさえ可能なのだ!」
「……。」
「君がお父さんの最後の家族なのだ。君が昏睡状態を抜け出せなければ…」
「EREBOSの権利は、君でも私たちでもない、第三者の手に渡ってしまう。悪意を持った人間がこの装置を手にすれば…」
「そう、外の世界にはこの装置を悪いことに使おうとする者共がいるのだよ…。」
「そんな…」
「今すぐ目を覚ましてくれとか、記憶を取り戻してくれとは言わない…」
「でも私たちは、あなたの記憶喪失の謎だけでも解き明かしたいんだ。だからお願い、協力して!」
(……)
「わかりました。」
「ウィスティ様…!」
「皆さんと一緒に地下迷宮に行きます。」
「おおっ!ありがとうウィス…」
キュピーン
「よく言って下さいました!ウィスティ様!」
「みなさんの話はサッパリわかりませんが、古代遺跡にロマンを求める心は同じ!なにとぞよろしくおねがいしますぞ!」
パシパシ
「ああ…」
「待て、アレックス!」
ドタ バタ
「思い出したぞ!俺に岩をぶつけたのはお前か!」
「さあて、何のことかなー!」
ハハハハ
ドバ ドバ ドバ
「局長、あんまり飲むとお身体に…」
「うるせー!」
「ガネジリさんどうしたの?なんか荒れてるね…」
「なんでも失恋されたとかいう噂ですよ。」
「しかし…先程の話、無理に受けなくても良かったですのに…」
「ううん」
「私はただ、みんなに好きなことをやっていてほしい。」
「私がいないと出来ないことなら私がやらなきゃ…」
「ウィスティ様は人に気を使い過ぎだと思います!食事だって私がお作りしますのに、その辺で済まそう…だなんて。」
「そ、それはいいのいいの!マジで!」
『あなたはクネノマヤ国王の娘にして後継者、ウィスティ王女様です!』
『あなたは今、夢を見ているの』
『どうしてもこの「遺産」を君に受け継いでもらわなければ困るのだ!』
(…………。)
「あ……」
「──なんてことがあってさ」
「あはは」
「…ねぇ、メリッサ」
「ん?」
「私は……どうしてもメリッサ達のお話が信じられないの。この世界が本当に私の夢なのか…」
「………。」
「これが夢だとしても…それは私の夢ではないのかもしれない。私は誰かの夢の登場人物の一人でしかないのかも……」
「だとしたら、私はメリッサが思っているような人じゃない……。私は私でしかないんじゃないかって。」
「ウィスティ、あなたは…」
「あなたは、私の知ってるウィスティだよ。間違いない。」
「あなたも、私のことがわかるでしょう?」
「………。」
「さっき、あのおじいさんが言ってたけど、」
「外の…あなたの世界には……」
「私のお父さんとお母さんはもう、いないのね…。」
「………ええ、亡くなられてる。」
「交通事故でね。」
「私は……」
「そのとき決心したの。」
「私が、ウィスティを守ってあげるんだって。」
「でも、その時はどうしていいかわからなくて。色々格闘技を習ってみたり……けんかには強くなったけどね。」
「馬鹿な子供だった……結局、あなたを守ることは出来なかった。」
「あなたが橋から飛び降りた時、私…」
「私はそんなこと、してない…」
「あ、いや…」
「ごめん。その…そんなつもりじゃ…」
「ううん、いいの。」
「ありがとう…。」
「………。」
「その後…メリッサはどうしてたの?」
「勉強してた。」
「あなたを…助ける力が欲しかった。だから、私は臨床心理士になろうと思った。」
「その甲斐もあって…今、私はEREBOS研究チームの一員。まだ本物の心理士じゃないけど…」
「でも、どうして……?なんで、私なんかのために…。」
「え?」
「なんでって…」
「……うん。」
「どうして……かなぁ。」
「……ウィスティ?」
「私ね、昔のことはほとんど何も覚えてなくて…」
「今でもわからないことだらけで……」
「でも、メリッサがいてくれるから…私は平気なんだ。」
「あなたのことは、覚えてるから…私は自分を見失わないでいられる。だから…私、嬉しいんだよ。」
「ずっと一緒にいてくれて…。あなたにとっては、とても長い時間だったんだよね?」
「メリッサ…ありがとう。」
「ちっ…」
「違うよ、そうじゃない。」
「?」
「私が待ってたのはね…。」
「こう……」
「……え?」
「あ…」
「あ、いや……その違うんだ。」
「…ごめんなさい。わかんないよね、こういうの…」
「うん……わからない、私には…。」
「あの、メ…」
「メリッサ!」
「私、嫌じゃないよ…。」
グサ
グサ
「そうよ、あなたは野蛮な人間…」
「本当のあなたを知ったら、彼女はきっとあなたを嫌いになるわ。」
「………」
「私は……」
「!」
「あ……待って!」
「……」
「メリッサ…」
「ふふふ…そうよ。あなたの本性は……」
(…………)
「あなたはまだ忘れたまま。あなた自身を。」
「私自身…。」
つづく