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CHAPITRE II
“LA PREUVE DANS LE COFFRET”
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最新ニュース
正体不明の怪盗、
ロンドンに出現
サザーク区にある博物館宛に犯行予告を出していた連続窃盗犯が、予告通り昨
博物館の展示品
昨夜盗み出される
ティラミス恐竜博物館で展示中の美術工芸品、ウルフォーゲルのオ
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中央ロンドンの橋上で火災発生
交通大混乱 立ち往生する通勤客
ロンドン消防本部は今朝、昨夜未明に市内で大規模な火災が発生したと発表
ヘッドライン
NEWS
アーセニウスとは
何者なのか?
最近サザークの博物館に届けられた犯行声明文。その送り主と見られる
首都警察、またもや
アーセニウスの逮捕に失敗
首都警察局は緊急記者会見を開き、本日未明に発生したウルフォーゲルのオーブ
盗難事件について発表を行った。グ
厳戒態勢の中、堂々と盗みを敢行
スコットランドヤードの無力さが
またしても露呈
ウルフォーゲルのオーブ盗難事件
なぜ防げなかったのか
ウルフォーゲルのオーブは今どこに?
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単刀直入に聞く。あなたは
「アーセニウス」 と呼ばれる
人物の関係者だね。
…………。
あなたたちのグループ……
特にリーダーである彼についての
詳しい話を聞きたいと思ってる。
連続窃盗犯
通称 「アーセニウス」 。
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約十年前より欧州各国
に出没。逮捕歴は皆無、
一度も捕まってない。
本名、国籍、種族
などの個人情報は
一切不明……
手品師のような
格好をしているという
噂もあるが、未確認。
過去の罪状は数知れず。
宝石強盗、人質誘拐、
企業スパイに詐欺行為……
そして昨夜、博物館から
ウルフォーゲルのオーブ
を盗み出した。
それがあなたの
カバンにあった。
…………。
……あのカバンは今、
私の家で預かってる。
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いや、ほら、
悪いとは思ったけど、
あなたは眠ってたし。
あのまま放置して
誰かに見られたら……。
安心して、知ってるのは
私だけだから。
誰にも教えてない。
…………。
……ふぅん。
おかしなことを言うもんだね。
君は警察の人じゃないのか?
そ、そうだけど。
あの荷物のことを
報告しないでいいのか?
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そんなことをすれば、
私はあなたに手錠を
掛けなきゃいけなくなる。
この場所はすぐ噂になる……
あなたは命を狙われてるようだし、
もし居場所が知られたら……
殺される……と、
そう言いたいんだね。
今は秘密にするしか、
あなた守る方法が……
ありがとう。
君の厚意に感謝するよ。
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別に盗っ人を
匿ってやるわけ
じゃない。
警察官として、
人をみすみす見殺し
にはしないってだけ。
なるほど、
人命は尊重して
くれるわけか。
それに……
私が死ぬような
ことがあれば……
次に狙われるのは
刑事さん、君だからね。
えっ。
私はここにいるのに、
荷物だけが無くなっている……
連中は疑問に思うよ。誰が
荷物を持ち去ったのか……。
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当然、私を保護した警察官が
疑われる。そうなったら君も
確実に消されるだろうね。
言っておくが、今更あれを
返しても遅いよ。君を道連れに
する方法は幾らでもあるからね。
むぐっ。
私たちは一蓮托生、
というわけだね。
いや、すまない。
失礼な事を言った。
お互いしばらく身動き
出来ないんだ。仲良く
しよう、刑事さん。
………。
その 「刑事さん」 って
のは止めてくれる?
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私はただの……
制服警官だから。
それじゃあ、
君のことはなんて……
あれを預かる代わりと言っては
なんだけど、これを貸してやる。
DVDプレイヤー?
入院中、退屈だろうな
と思ってさ。
なにそれ。
いや、その……
うちにあったのを適当に
持ってきたんだけど……。
ア、アメリカのアニメだよ。
「秘密探偵メール・ブランク」?
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でも、どうして……?
昔、私もここに入院してた
事があって……当時はもっと
小さな病院だったけど。
何にもやることが
無くて暇だった事を
思い出して……
あ、退院したらちゃんと
返しに来てよね。例の荷物と
引き換えだ。
………ありがとう。
なるべく早く元気になって、
これを返しに行くよ。
ずっとこれを取り上げたままじゃ、
君のお子さんが可哀想だからね。
…………。
…し……けど……。
え?
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どうして、私はあの時……
なんだか妙なことに
なっちゃったな……。
昨夜、橋に行った事が
バレてないか心配だけど…
その様子はないみたい。
あとは、うっかり
口を滑らせないように
気をつけなければ……
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シャーロックです。
もしもし、
私です。
なんだ、巡査か。
どうかしたの。
実は困った事に……
すぐこちらに来て
くれませんか。
こちら…って、
一体どこだよ。
ほら、例の……
昨夜の飛行船の
墜落現場です。
そ、そ……そんな事故は
私の知ったことじゃない。
そっちで適当にやりなさい。
他の者ではどうしようもないんです。
どうしても先輩が必要でして……
………………。
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……いや、まさかな。
平気だとは思うが……
無理に断るのも
おかしいし、
とりあえず現場に
行くしかない……。
……なんか、今日は
やけに人が多いな。
失礼、通して下さい。
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はい、押さないで
くださーい。
危ないですから
入らないで
くださーい。
どんな状況?
あ、アリス先輩。
それがちょっと……
川の向こうの署と
揉めてましてね。
ほら、丁度橋の真ん中に墜落した
ものですから……どちらの管轄かで
言い争いになったんですよ。
それじゃ、飛散した
部品を数えて……
より多く
散らばってる方
の管轄としよう。
冗談じゃない!
こっちの方が多そう
じゃないか!
重そうなパーツ
が散らばってる
方が……
………………。
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まさか、喧嘩の仲裁を
させるために私を……?
ある意味ホッと
したけど……
はぁ?
私は呼んでなんか
いませんよ?
なんで私が先輩を呼ばなきゃ
いけないんですか。気が済んだら
さっさと戻って下さい。
あー、ちょっと!
そこのあなた!
え、私は
てっきり……
あれ?じゃさっきの
電話、一体誰……?
困りますよ、
一般の方は
立ち入り禁止……
?
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あ……
よぉ。
あなた、
昨日の……
あの、現場の調査の
邪魔になりますから
入らないで下さい。
悪いですけど
ペット探しは
また今度に……
いや、いいんだ。
今日はお前に用が
あるんだ。
え…?
俺が電話でお前を
呼び出したんだよ、
アリス。
なぜ私の名前を……
悪く思うなよ。
お前のことは調べ
させてもらった。
あ、あなたは
一体……?
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俺の名はジェームズ……
ジョニー・ジェームズ。
保安局の
捜査官だ。
アリス・シャーロック巡査部長。
ウルフォーゲルのオーブ盗難事件
について、お前に話がある!
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保安局……通称、情報五課。
なぜあんたたちがこの事件に?
ロンドンの中心部で飛行船が
爆発炎上。テロ未遂事件として
五課が動いてもおかしくないさ。
もっとも、俺の
考えじゃあ、あれは
テロなんかじゃない。
糸を引いてるのは、
アーセニウスだ!
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知っての通り、
我々五課には逮捕権が無い。
犯人に手錠を掛ける時は
お前ら警察が必要になる。
でも、なんで
私みたいな普通の
お巡りを?
五課への協力は
特務課の刑事の
仕事じゃあ……
もちろん、
理由はある。
アリス、お前に
だけは話すが……
どうやら警察内部に
犯人一味に手を貸している
者がいるらしいんだ。
……⁉︎
け、警察内部に共犯者?
それは由々しき告発だぞ。
い、一体何の証拠が……
これだ。
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今朝、飛行船の残骸の下に
埋もれていたのを見つけた。
お前にも見覚えがあるだろ。
これは首都警察局が採用
している型の警察無線だ。
あ……
そ、それで……
無線機の持ち主は?
いや、それは
不明だ。
残念ながらデータは完全に
破壊されていて、個人を特定
出来る情報は無かったよ。
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だが、昨夜あの場所に
警察官がいたことは
間違いないのさ。
助かった……
だが、まだ安心は出来ないぞ。
無線機を紛失した事がバレたら
私が共犯者にされてしまう……
いや、私がオーブを
預っているのは
事実だけど……
断じて窃盗の共犯
などではない!
そんな事を話していいの?
私が共犯者だという可能性も
あるでしょうよ。
ははは、それは100%
あり得ないよ。
お前は昨日、鳥を捕まえるのを
手伝ってくれたからな。
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無線機が墜落現場にあったことから
考えて、この持ち主は犯人一味と
行動を共にしている可能性が高い。
事件当日は相当忙しく
立ち回っていたはずだ。
市民のペット探しを
手伝うような、暇な
お巡りなんぞが……
盗難事件に関わって
いるはずがない、
って言いたいの……?
その通り!
我ながら名推理だ。
表立って刑事に協力を仰ぐのは
ちょっと危険だからな。
そんなわけでお前を選んだのさ。
………………。
それにしても、まさか鳥を
追い掛け回してた変な男が
五課のスパイだったとは。
へへっ。
意外だったろ?
………ん?
って事は、あの鳥が言ってた
機密書類がどうのこうのって
……もしかして本当の話?
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……やっぱり。
あんなに必死だったのは、
あの鳥が秘密を漏らして
あなたの立場が危なくなる
かもしれないから?
誰にも言うな!
誰にも言うなよ!
わああああああ‼︎
言ったら殺す!
わ、わかった!
わかったから!
ハンドル!
そうさ……あいつは
俺が仕事の電話をするのを
いつも横で聞いてたんだ。
し、心配
しすぎだよ。
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あいつがもし
何かヤバい事を
喋ったら……
私が聞いた限りでは
抽象的な事しか言って
なかったし……
何日かしたら
全部忘れちゃう
かも……。
いいや、あいつの
性質は俺が一番
よく知ってる。
自然に忘れるには何ヶ月も……
台詞を消すには別の文章を
吹き込んで上書きするしか……
捕まえてやる!
鳥ぐらい私が
捕まえてやるから!
だからちゃんと
前見て運転して!
ティラミス恐竜博物館
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オーブ盗難事件の現場だ。
俺はここで関係者に話を聞く。
お前も適当にぶらぶらしてろ。
あ、うん。
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こ、これは
一体……?
ああ。ひどい
有様だよなぁ。
あ、アリス?
タバサ!なんで
こんな所に?
そりゃこっちの台詞よ。
私は鑑識。あんたは他の区の
お巡り。何しにここへ?
このところ色々
ありまして……。
タバサ、この大量の
瓦礫は何なの……?
骨よ、これは。
あ、骨って言っても
恐竜の骨ね。
ああ、よくあるアレか……
骨格標本ってやつ?
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原型が分からないほど
粉々じゃん。
一体ここで何が?
アーセニウスが
爆破したの。
爆破⁉︎
犯行日時は予告されて
いたから、博物館側は
その時に合わせて……
警備員を大勢配備
していたみたい。
ところが……
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顔を見た者はいないみたい。
とにかく、爆発と立ち込める煙で
館内が大混乱に陥った隙に……
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視界が開けた時には
オーブは消えてた……
ってことらしいよ。
ふーん……。
これから骨の破片を調べるの。
硝煙反応から爆弾の種類が
絞り込めるかもしれないしね。
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酷い話だよねぇ。
何百万ポンドもする標本を
宝石一個のために
粉微塵にするなんて……。
…………
……何百万ポンド⁉︎
こ、こんな、
ただの骨がそんなに
高価なのか……。
恐竜学者が
この光景を見たら
卒倒するわね!
ね?ね?
今夜一緒に
食事でもどう?
舌平目が
美味しいお店
があってさ。
あいつ、わざわざ
事件現場まで来て
何やってるんだ?
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ああ、どうも……はい、
私がこの博物館の館長、
マイク・ティラミスです。
ここにオーブを展示
してあったのです。
何の変哲も無い台ですね。
ガラスも無いんですか?
はあ……しかし、
セキュリティは完璧だと
思っていたものですから。
ほら、四方に監視
カメラもあります。
カメラの映像は
警備室からも見張って
ましたし……
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同じ映像を外部の警備会社
にも送信し、24時間体制で
監視していたのです。
確かに、監視体制は
完璧のようですが……
爆煙で視界が途絶えて
しまえば、カメラも役に
立たなかったわけですね。
まさかこんな事に
なってしまうとは……
ああ、めまいが……。
大丈夫かな、この人……。
ところで館長。
一つ大きな疑問が
あるんですが……
ここは恐竜の博物館なのに、
なぜ鳥の絵が描かれた工芸品
なんか展示したんですか?
えっ?そこですか?
は、はぁ……
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ジョニー君、
困るんだよぉ。
つべこべ言うな、
グレッグ。
他所の署の、しかも
制服警官を勝手に
連れ回したりして。
我々警察にも管轄
というものが……
お前に迷惑はかけて
ないだろ。
これも捜査の一環だ。
アリス、
そろそろ帰るぞ。
あ、うん。
…………。
なんだ、お前も
関係者に話を聞いて
回ってたのか。
い……いや、
そんなつもりじゃ……
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うんうん、感心感心。
これからも刑事役を
頼んだぞ。
………。
ところで、
さっきのオジサン
誰だったの?
ああ、あのデコスケか。
以前仕事で知り合った
刑事だ。本物のな。
いいか、アリス。
他の警察官もそうだが……
特にあいつには
絶対事件のことを
話すんじゃないぞ。
もしかして、
あの人を疑ってるの?
ま、まさかぁ……
そういうわけじゃないが、
あいつはお調子者で口が軽い。
すぐ余計な事をペラペラと……
な、なんか
あったのかな……
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こっちでも探してるが、
情報が少なすぎる。まだオーブに
ついての手掛かりはないのか。
こちらも
全く進展がない。
なぁ、とてもじゃないが
俺たちだけじゃ手が回らない。
もっと人手を増やせないか。
馬鹿言え!
あまり大っぴらに動くと
怪しまれる。
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俺達がオーブを狙ってるって
事自体、絶対に秘密なんだ。
バレたら俺達全員の首が危ない。
元はと言えばお前のヘマだ。
ボスは相当イラついてるぞ。
何とかしろ。
……………。
クソッ。
一体どこへ
消えやがったんだ、
あの小娘どもは……
弾は命中したはずなんだ。
どっかで野垂れ死んでても
よさそうなもんだが……。
……待てよ。もし死体が
上がって、警察に事件として
処理されていれば……