全8章 R-12 2011-2016 完結済

アリス・シャーロック:ルビー色の星雲

第4章 子どもたちの協奏曲

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​CHAPITRE IV

​“LE CONCERTO DES DESCENDANTS”

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​いいかい、アリス。
この事は私たち
二人だけの秘密だよ。

​え……?

​この部屋での出来事も、
私たちの事も………

​お互いの心にだけ
留めておくんだ。
約束してくれるかい?

​……なるほど、
そうだったのか。

​ん……?

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​これが……あなたの
いつものやり口なんだ。

​自分が携わった人々から
秘密が漏れないように……

​こういう方法で
口を塞いできたんだ。
今までもずっと……

​な………

​突然何を
言うんだ。

​色んな土地で……
色んな偽名を使い分けてきた。
正体を隠すために。

​何を根拠に、
そんな……

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​だって、そんな
理由でもなければ……

​こんな、顔も悪くて
歳もいってる人、相手に
してくれるはずないもの。

​他にも大勢いるんでしょ?
“二人だけの秘密” を
共有している女の子は。

​……………。

​あなたの正体は
もう見抜いた。

​見抜いた以上、
あなたを信じる事は
出来ない。

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​…………なら、
私のことを警察に
報告するか?

​えっ……

​いや、
それは……

​ま、まだ………
待っていてやらない
でもないけど……

​その…あなたは
まだ包帯が
取れないし……

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​あの金髪の女の子、
昨日から姿が見えなくてね。

​そ……それは
不思議ですねぇ。
ははっ。

​ま、よくある事だけど。
全く、どこをほっつき
歩いてるんだか……

​あの子の入院証明書と
その他諸々必要書類。

​あとこれに目を通して
サインを……

​はいはい。

​…………。

​ねぇ、先生。
ルビーって幾らぐらい
するもんなのかなぁ。

​ん?
ルビー?

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​そりゃあ、ものに
よるだろうけど……
例えばどんな?

​うーん、
何て言うか……
形は丸くて……

​大きさは
これくらいで……

​あっはっは!

​そんな
大きなルビー、
ありゃしないよ。

​え?で、
でも……

​あんたが言ってるの
「ウルフォーゲルの
オーブ」の事だろう?

​ニュースに出てたやつ。

​あれはねぇ、
人工ルビーなんだよ。

​宝石としての価値は
全く無いんだよ。

​人工……

​ルビー⁉︎

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​本物のルビーだったら
べらぼうな値段がするん
だろうけどねぇ。

​本物じゃ
ない………

​一体どういう
事……?

​あ、いたいた!
おいアリス。

​郊外まで出掛ける
用事が出来たんだ。
ちょっと付き合え。

​誰?

​えーっと、今事件を
一緒に捜査してる…

​ああ、同僚さん?

​アリスはもうお返ししますよ。
ちょっと書類の手続きをね。
例の銃撃事件の被………

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​あああああああ、
私たちもう行きますね!
先生もお忙しいでしょ!

​やっぱり
書類は郵送で
お願いします!

​え?あぁ……

​……そうだよ。
もちろん天然のルビー
なんかじゃないさ。

​わっかんないなぁ。
そんな物がなんで
宝物扱いされるのさ。

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​芸術品の価値ってのは
素材の値段じゃないだろ。

​物質ではなく、
そこに載っている情報に
値打ちがあるのだ。

​あの変な鳥の像に
芸術的な価値があるとも
思えないけどなぁ……。

​ところで、今日は一体
どこに行くわけ?

​かなり田舎だ。

​そこに住んでる
事件の関係者に
会いに行く。

​関係者って?

​ウルフォーゲルのオーブの
本来の持ち主だ。

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​ボス!

​ボスー!

​ボス!
よくぞご無事で……

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​よしよし、みんな
心配かけてごめんね。

​飛行船が落ちた時は
どうなる事かと……

​戻って早々だけど、
今日は皆にやって
もらう事があるの。

​でも、ボス。もう
アジトを移さないと
危険ではないですか?

​心配ないよ。
この国の警察や諜報部は
何も掴んじゃいない。

​私は幸運にも
警察の事件担当者に
近付く事が出来た。

​現在、その警察官の
自宅に潜伏中である。

​こんな短期間に
そこまで……

​毎度の事とは言え
流石はボスだ。

​では早速、仕事の準備に
取り掛かりなさい。

​ウィ、ボス!

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​あ、そういえば……

​あいつからは……
何か連絡あった?

​え、パトロンから
ですか?いいえ、
今のところ何も。

​……………。

​そう……。

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​ウルフォーゲルのオーブの所有者、
ハワード・ザッハトルテ卿。

​元政治家だ。

​国会議員で
外務大臣まで務めた
経歴の持ち主だ。

​外務大臣……⁉︎
でも、そんな名前
知らなかったな。

​百歳近いジジイだよ。
外務大臣だったのも
俺達が生まれる前の話さ。

​で、政界引退後は
田舎の屋敷に引っ込んで
隠居生活中ってわけ。

​博物館のティラミス館長とは
現役当時からの知り合い
だったらしい。

​博物館のオープン記念の
目玉が欲しかった館長が
ザッハトルテに頼んで……

​門外不出の家宝である
オーブを貸してもらった、
という事なんだそうだ。

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​ジョニーさん、
いらっしゃい。

​しばらく!

​よし、着いたぞ。
ここだ。

​これはまた……
でかい家だな。

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​ささ、どうぞこちらへ。
主人がお待ちかねです。

​おう。

​ご主人様……
お客様をお連れしました。

​うむ……
入ってもらいなさい。

​暗いな……

​ジョニー・ジェームズです。
捜査状況についてご報告に……

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​うむ、ジョニー君。
よく来てくれたね。

​今日は少し体調が悪くてね。
椅子に座ったままで
失礼するよ。

​オーブの行方は
分かったのかね?

​ライオンだ……!

​昔ながらの
ライオン貴族……!

​いいえ、それは
まだですが……

​捜査は順調に進んで
おります故、もう
間もなく……

​うむ、
大変結構。

​嘘ばっかり。

​ところで、
お連れの方は?

​失礼。ご紹介が
遅れましたが……

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​彼女は一緒に捜査を
している相棒でして、
首都警察局の……

​アリス・シャーロック
刑事です。

​そうでしたか。

​初めまして、刑事さん。

​私がザッハトルテです。

​ジョニー君と私は
古い馴染みでね。

​出来ればこの件は
内々に済ませたかった
のだが……

​警察のご厄介になる
とは、大事になって
しまいましたなぁ。

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​……………。

​……ザッハトルテさん。
失礼なようですが……

​大切な宝玉が盗まれた
割には、随分冷静で
いらっしゃいますが……

​ホッホッホ……

​私のような年寄りに
なると……

​多少の事では動じ
なくなるのですよ。

​あのオーブは主人が
何十年だか前にご友人に
頂いたとかで……

​それ以来、一度も屋敷の
外に持ちだした事は無かった
そうなのですが……

​オーブはこの
屋敷の中で保管を?

​ええ、そうですよ。
地下の大金庫に。

​ご覧になります?

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​オーブを保管して
いた金庫です。

​すげぇ!

​扉や壁は全て鋼鉄製で
錠前も最高級のもの……

​それに警報機は
地元の警察署に
直結されてます。

​あのジジイ、根は小心者
なんだぜ。こんな大袈裟な
金庫まで作らせちゃってさ。

​さっきは平気そうな事
言ってたけど、今だって
内心ドギマギしてんのさ。

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​ここまで頑丈な金庫なら
今までアーセニウスが手を
出せなかったのも頷ける……

​そうですよ。それを
あんな博物館に貸し出した
ばっかりに……ブツブツ

​こんな分厚い扉だと
普通に開け閉めするのも
大変そうですね。

​まぁ、でも実際
滅多に開ける事は
無いんですよ。

​オーブを見るのは
十年に一回か二回
ぐらいでした。

​いざ金庫を開ける時は
決まって大勢のお客様が
お越しになるんですよ。

​お客さんが
大勢?

​ちょっとした
パーティ状態
ですね。

​それも名のある方ばかり。
警察署長や政府高官、
軍上層部のご友人も……

​へぇ…

​大した人脈……
流石は元政治家
だわ。

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​よし、機器の接続に
問題は無さそうだ。

​しかし、ボスは
一体何を始める
つもりなんだろ?

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​それは今から
説明します。

​本日の任務……

​それはズバリ、
暗号解読。

​暗号解読?

​有り体に言うと
ハッキングね。

​よほど複雑な暗号だから、
並大抵のコンピュータじゃ
解読できない。

​膨大な計算資源が
必要になるの。

​ははぁ。ここにある
コンピュータをフル動員して
解読させるんですね。

​一台では無理でも、沢山の
コンピュータで並列化すれば
能力は上がります。

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​ちょっと違うかな。
ここにあるのは
ただのサーバ。

​計画全体の
指揮をするだけ。

​実際に仕事をする
クライアントは
これから集める。

​どうやって
ですか?

​ネットに繋がっている
世界中のコンピュータを
乗っ取るの!

​そして、私たちの持つ
データを送り込んで
並列処理で解読させる。

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​解読したデータは
再度ここに集約されて
完成するってわけ。

​そんな事、
本当に可能なんですか?
大体、どうやって侵入を……

​どんなコンピュータにも
バックドアがあるもんだよ。

​アメリカ政府用のね。

​しかし、見も知らぬ他人の
コンピュータを勝手に使って
迷惑を掛けまくるのは……

​いやいや。

​他人のコンピュータを
占領して使用不能に
するわけじゃない。

​余ってる処理能力を
ほんのちょっとずつ
盗み出すだけ。

​持ち主は
侵入された事にすら
気付かないはず。

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​それに、今回はあちこちの
国にあるダミーの中継基地を
経由するつもりなんだ。

​万が一ハッキングが
発覚しても
この場所は安全。

​ははぁ、
そんなことまで
考えていたとは。

​用意周到
ですね。

​各国の機関に問い合わせ……
発信元を突き止める頃には
私たちは既に去った後。

​管轄が枷となって
連中の動きを
遅くするの。

​国境を跨いで飛び回る
私たちに、警察は
追い付けっこない。

​流石はボスだ!

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​さぁ、音楽を
始めよう。

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​見ろ、アリス。
あそこを飛んでるのは
オオハクチョウだ。

​は?

​渡り鳥だよ。今の時期、
アイスランドの方から
南下してくるんだ。

​連中向けに
冬だけ営業する店が
グラスゴーにあって……

​はぁ……

​それにしても、
鳥類の生態に随分
詳しいんだね。

​ああ。
こう見えても本業は
鳥類学者なのさ。

​え、本業…?

​フッ……
冗談、さ。

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​俺はな……
鳥が好きなんだ!

​へぇ〜……

​おい、そんな顔するな。
好きって言っても
そういう意味じゃない。

​全く、あんな
いけ好かない連中の
何がいいのかねぇ。

​お前は鳥、
嫌いなのか?

​全部が全部じゃないよ。
皿の上で大人しくしてる
鳥は好きだし。

​あははっ。
そりゃそうだ。

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​でも、大空を飛び回る
鳥は自由の象徴だろ?

​だから
いけ好かないの!

​勝手に国境を超えてきて
我が物顔で街に居座って、
都合が悪くなったらトンズラ。

​あいつらは法律なんて、
地面に足が着いてる生き物に
しか関係ないと思ってる。

​武器や麻薬密輸の
温床にもなってるのに、
取り締まりようがない。

​確かに、警察にとっては
厄介な連中かもな。

​なぁにそれ!
人ごとみたいに。

​あなただって
連中を取り締まる
側でしょうが。

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​大体、そんな自由な生き物を
檻に入れてペットにしてたのは
どこの誰だっけ?

​くくく……
痛いところを
突いてくる。

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​今日は手間、
取らせたな。

​いや、別に……

​ま、五課の花形
捜査官とは言っても
仕事はこんなもんよ。

​地味な取り調べに
偉いジジイの
挨拶回り……

​スパイ映画に出てくるような
大冒険を期待してたか?

​………。

​そんな事思ってないよ。
子供じゃあるまいし。

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​………?

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​あ!

​あの男、
まさか……

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​何だ⁉︎

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​わぁっ!

​何なんだ、あいつら⁉︎
撃ってきやがった!

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​くそっ、
ふざけやがって!

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​付いてこれるもんなら
付いてこい!

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​スピードを落とし始めたぞ。
諦めやがったか?

​ん?……何だ?
何を企んでる?

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​アリス、運転代われ!

​ええっ⁉︎

​いいから早く!

​ちょ、ちょ、
ちょっと!

​ペダル
高っ…

​コッドが来る!

​何?

​ミサイルだ!

​ミ、ミサイル⁉︎

​お前は運転に
集中しろ!

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​くそっ!
落とされた!

​まだまだ、
もう一発!

​また来やがった‼︎

​ひ、ひぃ!

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​きゃああああ!!!

​落ち着けアリス!
ちゃんと前見て
運転……

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​わぁ‼︎

​しまった…‼︎

​しつこい連中だ…!

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​くっ……
こんな拳銃では……‼︎

​だ、ダメだ!

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​い、生きてる……

​ミサイルは
不発だったの?

​あ………あれ……?

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​な、なんかハンドルが
硬くなったような……

​回す事は回せるのか?
なら、まだパワステが
切られただけだ。

​……⁉︎

​た、大変……!
ブレーキが効かない…‼︎

​しかもスピードが
どんどん上がってる!

​コッドは
追跡ミサイルの
一種だが……

​車や航空機に噛み付き
車体に偽の信号を流して
操縦を乗っとるんだ。

​操縦を乗っ取る⁉︎

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​車載コンピュータや
オートパイロットを
自動的にハッキング。

​一度操縦を奪ってしまえば
後は望みの場所に誘導して
捕まえるなり……

​事故に見せかけて
崖から落として殺すなり
自由自在ってわけだ。

​魚型のミサイル……
まさかあの飛行船も?

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​じゃ、じゃあそのミサイルを
引剥がしたら元通りに?

​ああ……
だが、そう簡単には
いかない。

​噛み付いた状態のミサイルを
強引に引っ張ったり、衝撃を加えると
爆発するんだ!

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​い、一体どうすれば……

​幸い、ミサイルが
噛み付いてるのは
トランクのフタだ。

​トランクを壊して
フタごと取り外す!

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​ジョニー、もう
あまり時間がない!

​この道路、
このまま進むと……

​もうすぐ急カーブが……

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​ははは……
まぁ………

​そういう展開になる
のがお約束だわな。

​馬鹿な事言ってないで。
大丈夫なんでしょうね。

​タイムリミットまで
どれくらい時間が?

​わかんないよ!
カーナビは動かないし、
携帯電話の地図じゃ……

​クソ頑丈に
作りやがって……

​……よし、
あとはここを
切れば……

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​片方外したぞ!
あと半分!

​カーブが見えてきた!

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​ジョニー……!

​……だ、ダメだ!
もう……

​………‼︎

​…………!!!

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59ページ目

​流石の俺も……
今回、ばかりは……
……肝を冷やしたぜ。

​だが……これで
あの連中の正体は
分かった。

​正体……?

​ああ、あんな馬鹿げた
兵器を使ってる所は
一つだけさ……

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​……六課だ。

​情報六課……

​秘密情報局!

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​あのクソッタレな
ミサイルを作ったのは
アレックス博士。

​六課の局員で、
兵器開発部の部長だ。

​※道端にあったクルマを借りパク中

​ああ、心配するな。
あのクソ野郎とは
顔見知りだから。

​とにかく博士の家に
行ってミサイルの
事を調べないと……

​さぁ、着いたぞ。
この先だ。

62ページ目

​TO BE CONTINUED...