全8章 R-12 2011-2016 完結済

アリス・シャーロック:ルビー色の星雲

第5章 ルビー色の銀河

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​CHAPITRE V

​“LA GALAXIE RUBIOUS”

​キャー‼︎

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​大丈夫、ここ
まで来れば……

​死ぬかと思った……
さっきのは一体……?

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​あなた!

​しっかり……

​………………。

​…………。

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​うぐ…!

​痛っ…。

​……………。

​……?

​誰かいる?

​身体が
動かない……

​ここは、
どこなの……?

​………………、
………………。

​なに……
英語で喋ってるの?

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​ああ、そうか。

​アーセニウス……
来てくれたんだね。

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​すまない。
君を探し出すのに
時間が掛かってね。

​ここは……
病院なのか?

​そうだ。君は
怪我をしたんだよ。

​怪我……?

​……そうか、
そうだったな。

​危険な目に遭わせて
すまなかったね。

​いいんだ。

​一緒に居たいと
願ったのは
私だから……

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​願い事は気を付けて
しなければ。

​仲間になった事、
私は後悔なんて
してないよ。

​例え私が誰かに
毒を盛られ……

​倒れるような事が
あっても、こうして
私の王子様が……

​魔法のキスで
起こしに来てくれる。
そうだろう?

​……ああ、
そうだとも。

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​邪魔するぞ。

​どうしたんだい、
こんな時間に。

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​保安局捜査官の
ジョニー・ジェームズ。

​彼女は首都警察局の
シャーロック巡査部長だ。

​……はい、
いらっしゃい。

​アレクサンダー・
ネクアータ博士です。

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​ホットココアを
淹れましたよ、
シャーロックさん。

​ジョニー君も
飲むかい?

​いらん。

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​六課の中の誰かが
オーブを
欲しがってる?

​そんな話は
初耳だけど……

​捜査中の俺達を
形振り構わず
消そうとしたんだ。

​俺達が見つけるよりも前に
アーセニウスからオーブを
横取りするつもりなんだ。

​あるいは彼ら自身に
アーセニウス一味との
繋がりがあるのか……

​六課にアーセニウスの
共犯者……あまり
考えたくはないな。

​とにかく、お前の
発明品のおかげで
死にかけたんだ。

​今回ばかりは調査に
協力してもらうぞ。

​はいはい……

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​コッドミサイルね。
確かに設計したのは
僕だけど……

​誰が何の作戦に
使ってるかまでは
関与してないから……

​お前の権限で
直近の利用者一覧を
割り出せないか?

​ちょっと難しいな。
結構前からある兵器だし、
そこまで詳細な記録は……

​俺達を襲った
奴らが誰なのか
知る必要がある。

​奴らの身元さえ
突き止められれば、
今度は俺達が攻勢に……

​もういい。

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​そんな事、もう
どうでもいいの……

​アリス?

​おいおい、何を
言い出すんだ。

​やられっぱなしで
いいわけないだろ!
ここで引いたんじゃ…

​やめて!

​な、何なんだよ
いきなり……

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​こんなの
もう沢山!

​なんで私が
こんな目に遭わなきゃ
いけないの⁈

​ウルフォーゲルの
オーブって一体何⁉︎

​なんであんな
ルビーをみんなが
欲しがるの⁉︎

​まさか、君……
何も教えてないのか?

​あのオーブの
秘密……。

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​ば、ばか言え。
秘密だなんて……

​あんなのは
ただの噂で……

​君たちを襲った
連中は、そうは思って
ないみたいだけどね。

​ジョニー。

​………………。

​言ってよ。あのルビーに
一体何があるっていうの?

​…………。

​教えてあげなよ。
彼女には知る権利が
あるはずだよ。

​このヤマがどれほど危険か
事前に何も知らされず
ここまで連れ回されたんだから。

​………。

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​……あくまで
不確定な情報に
過ぎないが……

​あのオーブの中身
に関する話だ。

​中身……?
中身って何?

​あれは単なる
宝石じゃない。

​あのルビーは……
記録媒体なんだ。

​中にデジタルデータが
保存されているんだよ。

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​データ解読、
87%まで完了。

​現在のピア数は
3億2千万……

​それで全部正常に
動いてるのがすごいよな。

​どう?
今の状況は。

​はい、今の所全く順調です。
この勢いなら間もなく……

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​デジタルデータって?
あのルビーは何十年も前から
あるんじゃないの?

​そ、そんな事は
俺も知らん!

​大体、記録の原理や
情報の読み取り方法は
全く不明だし……

​もし本当に
情報を読み取れた
としても……

​そのデータは強力な
暗号で保護されて
いると予想される。

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​データ解読状況、
現在93%……

​何れにせよ、そんな
噂がいつのまにか
裏社会に広まり……

​あのオーブの
“中身” の存在は
公然の秘密になった。

​やがて様々な勢力が
オーブの秘密を巡って
水面下で動くことになった。

​政治屋、軍、情報機関、
外国人、犯罪組織……

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​そしてもちろん、
あの泥棒一味も。

​それでこんな事件が
起きてるっていうの?

​アーセニウスが
博物館を襲ったのも……

​六課の局員が
姿を現したのも……

​95%……

​あと一息だな。

​全部その “中身” と
やらのためなの?

​……ああ。

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​97%……

​98%……

​それで、その……
噂では……

​中にはどんな情報が
隠されていると?

​それはだな……

​99%……

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​旧ドイツ帝国が秘密裏に
開発しながら、歴史の闇に
葬られた大量破壊兵器……

​その設計図が
隠されていると
言われている。

​……………

​……は?

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​よし、早速
プロジェクタに
写してみなさい。

​はい、ボス。

​こ、これが……!

​ええ。

​これこそ私達が
探し求めていた……

​旧世紀の遺産。

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​な、アリス。こんなの
馬鹿馬鹿しい噂話だろ?
笑っちゃうよな……

​確かにね。
でも……

​どんなおかしな与太話でも、
それを信じる人がいる限り
危険な事に変わりはない。

​だから君らは
襲われたんだ。
違うかい?

​あー、知らん知らん。
そんなクソを信じる
奴が悪いんだ。

​悪い奴が来たら
ぶっ飛ばす。
それだけだろうが。

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​ジョニー!

​…………。

​あいつを許して
やってくれな。

​あれでも本当は
良い奴なんだよ。

​でも、これ以上
誰も君に強制は
出来ない。

​一緒に捜査を続けるのも、
ここで降りるのも、
君の自由だから……

​おやすみ。

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​これが暗号解読前の
オリジナルデータですか。

​ええ。
ウルフォーゲルのオーブの
内部構造図ね。

​ルビーの中に刻まれた
無数の小さな光点……

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​その立体座標の配列に
暗号が隠されていた。

​こうして拡大して
見ると、まるで満天の
星空のようですね。

​そうね。人の手で
造り出された宝石の
中に輝く星の河……

​ルビー色の銀河。

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​気が付きませんでした。
この鳥が点々の集まりで
出来ていたなんて。

​視点によって
有り様は大きく
変わるんだ。

​個の集合体が、俯瞰すれば
漠然とした一つの存在になる。

​小さな水滴が集まって出来る雲。
音色の連鎖が織り成す音楽。
人々の人生が形造る街の雑踏。

​一つ一つの個の存在、
価値は見過ごされて
しまいがちだけどね。

​銀河が星の集まりで
ある事を、過去の人々が
見抜けなかったように。

​さながら、この鳥は
ルビー色の星雲って
ところですね。

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​監視対象の女性が
通りに現れました。

​自宅に戻る所の
ようですね。

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​分かった。
すぐそっちに行く。

​例の警察官の所へ?

​うん、もう一度
会ってくる。

​ボスもマメですねぇ。
もう放っておけば
いいのに。

​今の状態で放置すると
余計な事を言いふらす
可能性があるの。

​まだ完全に信用
されたわけじゃ
ないからね。

​最後の一押し。

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​はぁ……。

​マリーはどこへ
行ったんだろう……。

​……もう、戻って
こないのかな……。

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​やぁ、アリス。

​マリー。今まで
どこにいたの?

​何だ、君。
あまり元気がないな。
どうかしたのか?

​え?

​いや、別に……
何でもないよ。

​良かったら、
ちょっと二人で
出掛けないか?

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​なに、今日はどこに
連れて行ってくれるの?

​それは着いてから
のお楽しみ、さ。

​……ねぇ、一体
どこまで行くの?

​この場所だ。

​ちょっと何してんの?
こんな裏口みたいな
所に勝手に入って……

​いいから、
いいから。

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​ねぇ、ちょっと。
これ非常階段じゃ
ないの。

​大丈夫、
大丈夫。

​あ……あれ⁉︎
こ、ここは……

​ここは
映画館の中だ!

​そうだ。

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​こんな所に
私を連れて
きて……

​誰かに見つかったら
どうするんだ。
ふ、不法侵入だぞ。

​はは、不法侵入
どころの騒ぎじゃ
ないさ。

​そら、これを
見てごらん。

​あっ……‼︎
こ、これは……⁉︎

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​秘密探偵
メール・ブランク
の映画だ!

​こっちでは上映
されないはずなのに、
どうして……?

​ふふ、驚いたかい?

​あなたの
仕業……?

​こう見えても機械を
扱うのは得意でね。

​実は今日、ちょっと
コンピュータを使う
作業があって……

​そのついでに
用意しておいたんだ。

​用意しておいたって……
一体どうやって?

​簡単な事さ。最近の映画館は
みんなコンピュータ制御で
映像も遠隔配信だからね。

​アメリカにあるデジタルシネマ
配信センターのサーバに侵入して
映画のデータを盗みだした。

​えーっ‼︎

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​丁度この時間
この部屋が
空いてたからね。

​データを転送して
ここの映写機にセット
しておいたってわけ。

​今このフロアには
従業員が居ないのも
確認済み……

​どうだ。

​どうって……

​一緒に映画でも、

​観ないか?

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​ば……

​馬鹿言うな!
私は警察官だぞ。

​盗んだ映画なんて
誰が……

​いいじゃないか。
どうせ上映されなかった
映画だ。

​犯罪は犯罪だ!

​……あ、そう。
君がそれでもいい
ならいいけど。

​言っておくが、
劇場でこれを
観られる機会は……

​今夜が最初で最後
だと思うがね。

​…………。

​どうする?
アリス。

​…………………
…………………。

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​観る。

​そうこなくっちゃ。

​誤解しないでよ、
これはあくまで
義務なんだから。

​私には警察官として、
盗品を検分し適切な
処置を取る責任が……

​ああ、そうだな。

​ワーハッハッ
ハッハッハ‼︎

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​それ以上近付いてみろ、
メール・ブランク。

​ここにあるミサイルの
発射スイッチを押すぞ!

​くっ、卑怯だぞ、
エッグノッグ伯爵!

​あー、しまった!

​今だ、ブランク!

​………。

​映像は綺麗だけど、
内容はTV版に輪を
掛けて酷いな……

​なぁ、アリス……

​………?

44ページ目

​………。

​やったな、
ブランク!

​ああ。正義のスパイ探偵、
メール・ブランクに不可能は
ないのさ!

45ページ目

​正義は、必ず勝つ‼︎

​……私の、憧れ
だったんだ。

​メール・ブランクが?

​子供の頃のね。

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​ワクワクする
秘密兵器を沢山
持ってて……

​頭が良くて、
強くて、
かっこよくて……

​私も、彼みたいな
ヒーローになりたかった。

​それで君は
警察官に?

​ああ……
そうかもね。

​犯人を追いかける
警察官は現実世界の
ヒーローだから……

​皮肉だよね。
正義の味方を目指して
いたはずなのに……

​こうして大人になった今、
犯罪者と肩を並べて
盗品の映画を観てる。

​ははっ。

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​挙句に、その犯罪者に
夢中になってしまって
いるなんて……。

​よくもやってくれたな、
メール・ブランク!

​だが、覚えていろ!
我輩の野望は
終わってはいないぞ!

​次こそは吾輩が
勝利するのだ!
ワハハハハ!

​…………。

​ねぇ、あなた達一味の
目的って一体何なの?
やっぱり世界征服とか?

​はぁ?

48ページ目

​いやー、見事な
クソ映画だったなぁ。

​ありゃコケても
仕方ないわ。
あっはっは。

​えっ…そ、そうか。
他の映画にした方が
良かったかな……

​いや、嬉しかったよ。
私は楽しめたし……

​今日は、ありがとう。

​……ああ。

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​さぁ、アリス。
見てごらん。

​わぁ、すごく綺麗!

​ずっと住んでる街なのに、
こんな風に見下ろした事
なんて無かった……。

​君の家は
見えるかな?

​うーん、多分ここ
からじゃ建物の影に
なってるかな……。

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​……やっぱり、
行っちゃうの?

​ああ。

​一箇所に留まるのは
危険だからね。

​またどこか
別の国に行くよ。

​……………。

​一緒に、暮らさない?

​え?

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​もう泥棒なんか
辞めてさ。

​仕事も、あの宝石も、
全部かなぐり捨てて……
私の家で平穏に暮らすの。

​…………。

​追っ手の方は
私が何とか誤魔化して
みせるよ。

​これでも私、
警察官なんだから。

​……………。

​………好きなんだ。

​あなたの事が。

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​……ふっ。

​残念だけど、それは出来ないよ。
私にとっては大切な仕事なんだ。

​私たち一団は
根っからの
根無し草……

​国から国へと
飛び回る、
自由の鳥さ。

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​自由の鳥はね、
いつだって大冒険に
飢えているんだ。

​一つの街に
ずっと居る事なんて
出来やしない!

​……………。

​そっか、
そうだよね……

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​分かってくれ、アリス。
私も本当は辛いんだ。

​きっとすぐに戻ってくるよ。
君に会うためにね。

​白々しい嘘……
二度と戻ってくる
はずがない。

​私なんて……
彼女にとっては
何でもないんだ。

​その言葉を
信じられたら
いいんだけど……。

​アリス、何を
言うんだ。

​もちろん、
嘘なんかじゃないさ。
信じてくれ。

55ページ目

​確かに過去には
色んな人がいた……
でも、今は君だけだ!

​…………。

​君だけを愛してる。

​マリー……。

​この気迫……
うっかりしたら信じて
しまいそうな……。

​ああ、アリス……

​……………。

56ページ目

57ページ目

​どうした?

​あ、あ……

​い、いま気付いた。
あなた……

​やっぱり嘘をついてる。

​アリス、何の
根拠があって……

​だって、こんなの……
何も感情がこもってない。
あの時とは全然違う。

​あの時?

​あの夜……
あなたが撃たれた後。

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​あなたは寝ぼけて……
私を誰かと間違えて…

​私に、キスをした。

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​あの時のキス……
あれは本当に愛する人の
為のキスだったんだね。

​……。

​あの時、あなたは
アーセニウスの名前を呼んだ。

​あなたはアーセニウスを
愛してるんだ。

​……き、君。

​そうか。段々
わかってきた。

​彼は男性で
アメリカ人……
でしょ?

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​なっ……なんだい、
藪から棒に……

​あなたの話し方を
“観察”していた。

​何だと?

​怪我で錯乱状態の
人が無意識に外国語を
話すのは難しい……

​咄嗟に出るのは母国語。
あなたの場合はそれが
フランス語だった。

​一方で英語はアメリカ訛り……
発音も母国の学校で習っただけ
にしては完璧すぎる。

​現地の人々と直に
接して覚えたんだ。

​問題はそのきっかけだ。
アメリカに留学していた?
それとも移住した?

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​否、どちらでもない。

​君、ふざけるのも
いい加減に……

​男性的な口調。

​長期の留学等で不特定多数の
言葉を耳にしていれば偏った発音、
言い回しにはならないはず。

​きっと同性の言葉遣いを
聞いて覚える機会があまり
なかったんだ。

​閉鎖的な環境で
極少数の男性に英語を
教わったんでしょ。

​あなたの場合、つまりは
アーセニウスから。

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​あなたは国を捨てて一味に
加わったんだ。何年もの間、
行動を共にするうちに……

​口調や身の振り方が
無意識に……

​や、やめて
くれ……。

​……………。

​はは、あなたが顔を
こんな風に赤らめるの、
あの時以来だね。

​私の前ではどんな時も
冷静だったのに、彼の事を
言われただけでこれだ。

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​ひどい人……。
大勢の女の子の心を盗んでおいて、
自分はずっと彼の事を……

​でも、単に
恥ずかしがってる
だけじゃないね。

​………。

​その表情は……悲しみ?
憎悪?それとも後悔?
なんだろう……

​あ、もしかして……

​捨てられたの?

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65ページ目

66ページ目

​あ…………。

67ページ目

​あ、あの……
その……

​恋愛ごっこは……
もう終わりだ。

​もう……君に
嘘はつかない。

​真実だけ、言う。

​君の事など、初めから
愛してなんかいない。

​騙して従わせようと
しただけだ。

68ページ目

​………………。

​でも、もういい。

​マリー……

69ページ目

​TO BE CONTINUED...