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願い事は気を付けて
しなければ。
仲間になった事、
私は後悔なんて
してないよ。
例え私が誰かに
毒を盛られ……
倒れるような事が
あっても、こうして
私の王子様が……
魔法のキスで
起こしに来てくれる。
そうだろう?
……ああ、
そうだとも。
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六課の中の誰かが
オーブを
欲しがってる?
そんな話は
初耳だけど……
捜査中の俺達を
形振り構わず
消そうとしたんだ。
俺達が見つけるよりも前に
アーセニウスからオーブを
横取りするつもりなんだ。
あるいは彼ら自身に
アーセニウス一味との
繋がりがあるのか……
六課にアーセニウスの
共犯者……あまり
考えたくはないな。
とにかく、お前の
発明品のおかげで
死にかけたんだ。
今回ばかりは調査に
協力してもらうぞ。
はいはい……
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コッドミサイルね。
確かに設計したのは
僕だけど……
誰が何の作戦に
使ってるかまでは
関与してないから……
お前の権限で
直近の利用者一覧を
割り出せないか?
ちょっと難しいな。
結構前からある兵器だし、
そこまで詳細な記録は……
俺達を襲った
奴らが誰なのか
知る必要がある。
奴らの身元さえ
突き止められれば、
今度は俺達が攻勢に……
もういい。
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そんな事、もう
どうでもいいの……
アリス?
おいおい、何を
言い出すんだ。
やられっぱなしで
いいわけないだろ!
ここで引いたんじゃ…
やめて!
な、何なんだよ
いきなり……
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ば、ばか言え。
秘密だなんて……
あんなのは
ただの噂で……
君たちを襲った
連中は、そうは思って
ないみたいだけどね。
ジョニー。
………………。
言ってよ。あのルビーに
一体何があるっていうの?
…………。
教えてあげなよ。
彼女には知る権利が
あるはずだよ。
このヤマがどれほど危険か
事前に何も知らされず
ここまで連れ回されたんだから。
………。
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データ解読、
87%まで完了。
現在のピア数は
3億2千万……
それで全部正常に
動いてるのがすごいよな。
どう?
今の状況は。
はい、今の所全く順調です。
この勢いなら間もなく……
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デジタルデータって?
あのルビーは何十年も前から
あるんじゃないの?
そ、そんな事は
俺も知らん!
大体、記録の原理や
情報の読み取り方法は
全く不明だし……
もし本当に
情報を読み取れた
としても……
そのデータは強力な
暗号で保護されて
いると予想される。
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データ解読状況、
現在93%……
何れにせよ、そんな
噂がいつのまにか
裏社会に広まり……
あのオーブの
“中身” の存在は
公然の秘密になった。
やがて様々な勢力が
オーブの秘密を巡って
水面下で動くことになった。
政治屋、軍、情報機関、
外国人、犯罪組織……
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旧ドイツ帝国が秘密裏に
開発しながら、歴史の闇に
葬られた大量破壊兵器……
その設計図が
隠されていると
言われている。
……………
……は?
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な、アリス。こんなの
馬鹿馬鹿しい噂話だろ?
笑っちゃうよな……
確かにね。
でも……
どんなおかしな与太話でも、
それを信じる人がいる限り
危険な事に変わりはない。
だから君らは
襲われたんだ。
違うかい?
あー、知らん知らん。
そんなクソを信じる
奴が悪いんだ。
悪い奴が来たら
ぶっ飛ばす。
それだけだろうが。
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ジョニー!
…………。
あいつを許して
やってくれな。
あれでも本当は
良い奴なんだよ。
でも、これ以上
誰も君に強制は
出来ない。
一緒に捜査を続けるのも、
ここで降りるのも、
君の自由だから……
おやすみ。
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その立体座標の配列に
暗号が隠されていた。
こうして拡大して
見ると、まるで満天の
星空のようですね。
そうね。人の手で
造り出された宝石の
中に輝く星の河……
ルビー色の銀河。
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気が付きませんでした。
この鳥が点々の集まりで
出来ていたなんて。
視点によって
有り様は大きく
変わるんだ。
個の集合体が、俯瞰すれば
漠然とした一つの存在になる。
小さな水滴が集まって出来る雲。
音色の連鎖が織り成す音楽。
人々の人生が形造る街の雑踏。
一つ一つの個の存在、
価値は見過ごされて
しまいがちだけどね。
銀河が星の集まりで
ある事を、過去の人々が
見抜けなかったように。
さながら、この鳥は
ルビー色の星雲って
ところですね。
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分かった。
すぐそっちに行く。
例の警察官の所へ?
うん、もう一度
会ってくる。
ボスもマメですねぇ。
もう放っておけば
いいのに。
今の状態で放置すると
余計な事を言いふらす
可能性があるの。
まだ完全に信用
されたわけじゃ
ないからね。
最後の一押し。
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なに、今日はどこに
連れて行ってくれるの?
それは着いてから
のお楽しみ、さ。
……ねぇ、一体
どこまで行くの?
この場所だ。
ちょっと何してんの?
こんな裏口みたいな
所に勝手に入って……
いいから、
いいから。
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こんな所に
私を連れて
きて……
誰かに見つかったら
どうするんだ。
ふ、不法侵入だぞ。
はは、不法侵入
どころの騒ぎじゃ
ないさ。
そら、これを
見てごらん。
あっ……‼︎
こ、これは……⁉︎
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秘密探偵
メール・ブランク
の映画だ!
こっちでは上映
されないはずなのに、
どうして……?
ふふ、驚いたかい?
あなたの
仕業……?
こう見えても機械を
扱うのは得意でね。
実は今日、ちょっと
コンピュータを使う
作業があって……
そのついでに
用意しておいたんだ。
用意しておいたって……
一体どうやって?
簡単な事さ。最近の映画館は
みんなコンピュータ制御で
映像も遠隔配信だからね。
アメリカにあるデジタルシネマ
配信センターのサーバに侵入して
映画のデータを盗みだした。
えーっ‼︎
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丁度この時間
この部屋が
空いてたからね。
データを転送して
ここの映写機にセット
しておいたってわけ。
今このフロアには
従業員が居ないのも
確認済み……
どうだ。
どうって……
一緒に映画でも、
観ないか?
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観る。
そうこなくっちゃ。
誤解しないでよ、
これはあくまで
義務なんだから。
私には警察官として、
盗品を検分し適切な
処置を取る責任が……
ああ、そうだな。
ワーハッハッ
ハッハッハ‼︎
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それ以上近付いてみろ、
メール・ブランク。
ここにあるミサイルの
発射スイッチを押すぞ!
くっ、卑怯だぞ、
エッグノッグ伯爵!
あー、しまった!
今だ、ブランク!
………。
映像は綺麗だけど、
内容はTV版に輪を
掛けて酷いな……
なぁ、アリス……
………?
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………。
やったな、
ブランク!
ああ。正義のスパイ探偵、
メール・ブランクに不可能は
ないのさ!
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ワクワクする
秘密兵器を沢山
持ってて……
頭が良くて、
強くて、
かっこよくて……
私も、彼みたいな
ヒーローになりたかった。
それで君は
警察官に?
ああ……
そうかもね。
犯人を追いかける
警察官は現実世界の
ヒーローだから……
皮肉だよね。
正義の味方を目指して
いたはずなのに……
こうして大人になった今、
犯罪者と肩を並べて
盗品の映画を観てる。
ははっ。
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挙句に、その犯罪者に
夢中になってしまって
いるなんて……。
よくもやってくれたな、
メール・ブランク!
だが、覚えていろ!
我輩の野望は
終わってはいないぞ!
次こそは吾輩が
勝利するのだ!
ワハハハハ!
…………。
ねぇ、あなた達一味の
目的って一体何なの?
やっぱり世界征服とか?
はぁ?
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いやー、見事な
クソ映画だったなぁ。
ありゃコケても
仕方ないわ。
あっはっは。
えっ…そ、そうか。
他の映画にした方が
良かったかな……
いや、嬉しかったよ。
私は楽しめたし……
今日は、ありがとう。
……ああ。
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49
さぁ、アリス。
見てごらん。
わぁ、すごく綺麗!
ずっと住んでる街なのに、
こんな風に見下ろした事
なんて無かった……。
君の家は
見えるかな?
うーん、多分ここ
からじゃ建物の影に
なってるかな……。
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もう泥棒なんか
辞めてさ。
仕事も、あの宝石も、
全部かなぐり捨てて……
私の家で平穏に暮らすの。
…………。
追っ手の方は
私が何とか誤魔化して
みせるよ。
これでも私、
警察官なんだから。
……………。
………好きなんだ。
あなたの事が。
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52
……ふっ。
残念だけど、それは出来ないよ。
私にとっては大切な仕事なんだ。
私たち一団は
根っからの
根無し草……
国から国へと
飛び回る、
自由の鳥さ。
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自由の鳥はね、
いつだって大冒険に
飢えているんだ。
一つの街に
ずっと居る事なんて
出来やしない!
……………。
そっか、
そうだよね……
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確かに過去には
色んな人がいた……
でも、今は君だけだ!
…………。
君だけを愛してる。
マリー……。
この気迫……
うっかりしたら信じて
しまいそうな……。
ああ、アリス……
……………。
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57
どうした?
あ、あ……
い、いま気付いた。
あなた……
やっぱり嘘をついてる。
アリス、何の
根拠があって……
だって、こんなの……
何も感情がこもってない。
あの時とは全然違う。
あの時?
あの夜……
あなたが撃たれた後。
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あの時のキス……
あれは本当に愛する人の
為のキスだったんだね。
……。
あの時、あなたは
アーセニウスの名前を呼んだ。
あなたはアーセニウスを
愛してるんだ。
……き、君。
そうか。段々
わかってきた。
彼は男性で
アメリカ人……
でしょ?
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なっ……なんだい、
藪から棒に……
あなたの話し方を
“観察”していた。
何だと?
怪我で錯乱状態の
人が無意識に外国語を
話すのは難しい……
咄嗟に出るのは母国語。
あなたの場合はそれが
フランス語だった。
一方で英語はアメリカ訛り……
発音も母国の学校で習っただけ
にしては完璧すぎる。
現地の人々と直に
接して覚えたんだ。
問題はそのきっかけだ。
アメリカに留学していた?
それとも移住した?
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否、どちらでもない。
君、ふざけるのも
いい加減に……
男性的な口調。
長期の留学等で不特定多数の
言葉を耳にしていれば偏った発音、
言い回しにはならないはず。
きっと同性の言葉遣いを
聞いて覚える機会があまり
なかったんだ。
閉鎖的な環境で
極少数の男性に英語を
教わったんでしょ。
あなたの場合、つまりは
アーセニウスから。
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あなたは国を捨てて一味に
加わったんだ。何年もの間、
行動を共にするうちに……
口調や身の振り方が
無意識に……
や、やめて
くれ……。
……………。
はは、あなたが顔を
こんな風に赤らめるの、
あの時以来だね。
私の前ではどんな時も
冷静だったのに、彼の事を
言われただけでこれだ。
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ひどい人……。
大勢の女の子の心を盗んでおいて、
自分はずっと彼の事を……
でも、単に
恥ずかしがってる
だけじゃないね。
………。
その表情は……悲しみ?
憎悪?それとも後悔?
なんだろう……
あ、もしかして……
捨てられたの?