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CHAPITRE VI
“ÊTES-VOUS PRÊT À OUVRIR LES YEUX ?”
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……アリスか。
……ジョニー。
私は……降りる。
………………
……わかった。
別にいいさ。元々、お前に
近付いたのは警察に探りを
入れるためだったんだ。
六課が絡んでいると
分かった今は……もう
その必要も無くなった。
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あんな無線機は何の証拠にも
ならん。六課なら警察用の
装備も調達出来るだろうしな。
お前の助けは要らない。
俺は一人でも戦えるからな。
……………。
……今まで
危険な目に遭わせて
すまなかったな。
ジョニー、私……
もう会うこともない
だろう。元気でな。
……………。
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……いつもそうだった。
正義のヒーローに憧れて……
口では冒険がしたいと言いながら……
自分からは何も行動を
起こそうとしてこなかった。
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そのくせ、いざ本当に
危険が迫った時は
怯えるばかりで……
慌てふためいて、
でも結局
何も出来なくて……。
肝心な場面では
逃げることしか
頭に無かった。
人を守るどころか、
感情に任せて人を傷つける
ことしか出来なくて……
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……で、どうなのよ?
捜査の方は。
あ、ああ……
まぁね。
……でしょうねぇ。
鑑識ももうお手上げ状態よ。
何にも見つからないんだもん。
認めたくないけど、
流石はアーセニウスね。
…………。
あ、そうそう。
マジで最低な事が
あってぇ。
え、何?
ほら、あの日
博物館で採取した
恐竜の骨の欠片。
よく調べたら骨じゃなくて、
間違って普通の石か何かを
持って帰っちゃってたのよ!
あー……
そりゃうっかり
だったね。
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お前は骨と石ころの区別も
付かないのか!って
チーフには呆れられるし。
もう最悪よ。
まぁ、一応解析には
使ったけど……
あははは……
は……
あんなもの、ただの
石ころじゃないか。
何の価値も
ありゃしない。
ひょっとして
あの恐竜は……
まさか、
アーセニウス達は
気付いて……?
いや……
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ジョニーの鳥!
こんな所に
いたのか……!
と、とにかく
捕まえなきゃ……
ああ、でも……
もうジョニー達に
関わるわけには……
そうだ……あんな鳥を
追いかける事に
何の意味がある。
子供みたいに
ヒーローぶるのは
おしまいにしなきゃ。
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お巡りさん、あの鳥は
是非見つけてください!
頼みます!
…………。
……くっ。
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ア、アリス⁉︎
何を迷ってるんだ私は。
ジョニーの奴は
困っていたじゃないか!
警察官が
困った市民を助けて
何が悪い!
逃がさないぞ!
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私ももう少ししたら
戻るから……
うん、それじゃ。
……どうにも
落ち着かない。
ふん。きっと
少し緊張して
るんだ。
もうすぐこの
街を出るんだ
から。
そう、もうこんな鬱陶しい街
とはおさらばして、別の街で
別の仕事をするんだ。
色んな土地で……
色んな偽名を使い分けてきた。
正体を隠すために。
他にも大勢いるんでしょ?
“二人だけの秘密” を
共有している女の子は。
そうだ……
何を気に病む
必要が?
あんな女、どうせ
二度と会わないつもり
だったじゃない。
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必要な事……。
……………。
………あの女は、
一体いつから……
……最後に一応、
謝りに行ってやっても
いいかな……。
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ウルフォーゲルのオーブ
の台座!
なぜこんな所に⁉︎
ええい、考えてる
暇はないぞ。
やるっきゃない!
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ミセルワケニハ!
コノ キミツ
ショルイ!
ふふ、ついに捕まえた。
早速、署に戻って
返還の手続きを……
いや、待てよ。
こんなびしょ濡れで
戻ったら、またあいつに
なんて小言を言われるか……
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オット、コリャ
マズイ。
コノ キミツ
ショルイ……
同じ台詞の繰り返し……
やっぱり知能はない
ただのペットなのか。
ツカマッタラ、
オワリダ。
もう捕まってる
だろ!
階段を登る音……
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いまお釣りを
出しますねー。
……………。
何、こっちは
今いそが……
ああ、ボス!
大変です!
監視対象の女性が
さっき自宅に帰ってきて、
その直後に……
……え?
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恐竜学者が
この光景を見たら
卒倒するわね!
あんな無線機は何の証拠にも
ならん。六課なら警察用の
装備も調達出来るだろうしな。
予告声明を受け取ったのは、先月
サザークにオープンしたばかりの
「ティラミス恐竜博物館」で……
六課が絡んでいると
分かった今は……もう
その必要も無くなった。
こんなの
馬鹿馬鹿しい噂話だろ?
笑っちゃうよな……
同じ映像を外部の警備会社
にも送信し、24時間体制で
監視していたのです。
どうやら警察内部に
犯人一味に手を貸している
者がいるらしいんだ。
ああ、どうぞ捨ててくれ。
この状況じゃむしろ
好都合ってもんだ。
ああ。恐らく
警察か病院の記録を
盗み見たんだろう。
どんなおかしな与太話でも、
それを信じる人がいる限り
危険な事に変わりはない。
人にはそれぞれに適した役割
ってものがあると思いますよ。
慣れない事はしないで下さい。
あれはねぇ、
人工ルビーなんだよ。
あんなもの、ただの
石ころじゃないか。
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セキュリティは完璧だと
思っていたものですから。
出来ればこの件は
内々に済ませたかった
のだが……
予告された犯行時刻は
今夜で、警察は既に博物館
周辺に緊急配備を……
多少の事では動じ
なくなるのですよ。
あのジジイ、根は小心者
なんだぜ。こんな大袈裟な
金庫まで作らせちゃってさ。
いざ金庫を開ける時は
決まって大勢のお客様が
お越しになるんですよ。
警察のご厄介になる
とは、大事になって
しまいましたなぁ。
おや。そういう能力は
泥棒ばかりじゃなくて
刑事にも必要だと思うが?
アーセニウスは十年ほど前から
欧州各国に出没している犯罪者ですが、
正体は未だ謎に包まれており……
ウルフォーゲルのオーブの
本来の持ち主だ。
それも名のある方ばかり。
警察署長や政府高官、
軍上層部のご友人も……
お前は骨と石ころの区別も
付かないのか!って
チーフには呆れられるし。
そういうことか。
やっぱりあの魚は……
うちらの連れに何か
ご用ですかいのぉ。
でも早く捕まえ
ないと、大変な
ことに……。
車や航空機に噛み付き
車体に偽の信号を流して
操縦を乗っとるんだ。
アーセニウス……
来てくれたんだね。
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………………、
………………。
………………。
ああ、まさか
再び動き出すとは……
……モニタして
いて良かったぜ。
大空を飛び回る鳥は
自由の象徴じゃないか。
アーセニウスからオーブを
横取りするつもりなんだ。
マリー、
愛してるの。
行かないで。
マリー。
ずっと一緒に……
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彼女に死んでほしくなければ、
ウルフォーゲルのオーブを持って……
バンクサイド発電所跡に来い。
一人でな……。
奴め、あの鳥に
伝言を吹き込んで
いったんだ。
ヤバいですよ、
ボス!
ここも危険かも
しれません!
早く逃げましょう!
何してるんですか、
ボス! 急いでこの
街を出ないと……
え、ええ……。
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ここはバンクサイドの
発電所だな。ずっと昔に
閉鎖された……
ああ、そうだ。
よく分かったな。
こんな所を
根城に暗躍
していたとは……
あ、ボス!
ボス……?
そこにいるのか?
こいつらの
ボスとやらが……
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ご指示の通りに
準備を整えました。
後は待つ
だけで……
どうも、また会いましたね。
いいえ、見なくても
分かっていますよ。
あなたが誰なのか。
…………。
あなたが黒幕
だったんでしょう?
そう……
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マイク・ティラミス館長。
驚いた。
どうして私だと
気付いたのかね?
あなたの正体だけでなく
これまでの悪事も企みも
全て分かってます。
ほほう……
刑事さんの推理を
お聞かせ願いたいね。
ええ、随分周りくどい
計画を立ててくれたもんです。
あのルビー玉一つのためにね。
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何だと?
あのオーブは
見張られていた。
普段は頑丈な金庫に入れられ、
警報機は警察署に直結……
普通に考えて盗むのは不可能。
金庫は滅多に開けない上、
開ける時は必ず客が来る……
しかも普通の客ではない。
それも名のある方ばかり。
警察署長や政府高官、
軍上層部のご友人も……
なぜ政府の関係者が
わざわざ宝石なんかを
見物しに集まるのか?
政府も薄々、あのオーブに
何か重要な秘密が隠されている
事に気付いていたんです。
……やがて様々な勢力が
オーブの秘密を巡って
水面下で動くことになった。
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もし誰かが勝手にオーブを
持ち出し、秘密の情報を
解析でもしたら大変………
抜け駆けをさせないために
毎回複数の関係者が集まり
お互いを牽制し合った。
オーブは高度に政治的な存在になり、
もはや持ち主のザッハトルテ自身を
含め、誰も手出しが出来なくなった。
でも、あんたは知恵を絞った。
オーブを手に入れるには
どうすればいいか……。
……………。
そして打ち出した奇策……
それが恐竜博物館だった。
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あんたは博物館を新設し、その
オープン記念の展示にするという
名目でオーブを借りる事にした。
でも、本物の恐竜の骨格を
調達してくるには
膨大な費用と手間が掛かる……
だから造り物の骨格を
用意してきて、偽の博物館を
でっち上げたんだ。
鑑識官が教えてくれましたよ。
骨だと思って持ち帰った物が
ただの石ころだったと……。
はっはっはっ。
何を言い出すのかと
思えば……
化石に足りない箇所を
模造品で補完するのは
一般的な事だよ。
一つ偽物の骨があったからと
行って、骨格全てが偽物
だと証明した事にはならん。
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もちろん、他にも
証拠はありますよ。
それが、あの博物館の
不自然なまでに偏った
セキュリティ体制です。
何だと?
オーブ一つのために
何台も監視カメラを設置
していた一方で……
なぜか恐竜の骨格を
見張っているモニタは
一つも無かった。
それもそのはず……
見張る価値のある物など
他には無かったんです。
!……
そして、あの時
警備室であんたが
言っていた言葉……
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同じ映像を外部の警備会社
にも送信し、24時間体制で
監視していたのです。
映像が外部送信されているなら
回線を盗聴するか、
警備会社をハッキングすれば
第三者も同じ映像を観られる。
政府関係者はそれで納得し、
オーブの一般公開には
反対しなかったのでしょう。
各勢力が映像を通じてオーブを
監視するなら、誰かにオーブの
情報を解析される心配はない。
でも、実はそれすら
あんたの策略の一部
だった。
映像を流した
真の目的はオーブを
守る事ではなく……
自分自身に疑いが
掛からないように……
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わざとカメラの前で
別の誰かにオーブを
盗ませる事だった。
例えば、そう……
アーセニウス一味に。
急ごしらえの博物館に
模造品の恐竜……彼らは罠だと
気付いていたでしょうが……
結果的に目立ちたがりの
劇場型犯罪者を挑発する
事には成功した。
もちろん、むざむざオーブを
くれてやるつもりはない。
後で取り戻すために……
オーブには追跡装置が
仕掛けられていた。
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恐らく、ザッハトルテ邸からの
運搬中の隙を狙って……
台座のパーツの中に発信機を……
オーブそのものは紛れもない
本物だから、アーセニウスは
装置には気付かない。
大まかな流れはこうでしょう。
まず盗みの現場を
カメラに目撃させ……
一旦アーセニウスを泳がせた後、
発信機からの信号を元に
一味の逃走先を特定……
アーセニウスを殺し、
オーブは秘密裏に回収。
他の勢力が血眼になって
アーセニウスを探している間に
じっくりオーブを解析する……。
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アーセニウスはまんまと
あんたの仕掛けた罠に
飛び込んできた。
けれど、当日になって
予定外の事が起きた。
アーセニウスは恐竜を爆破し、
爆煙で監視カメラの目を塞いで
しまった。
決定的瞬間が映らなければ
自分のアリバイが
崩れかねない……
裏をかかれて焦ったあんたは
更に大きなミスを犯した。
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オーブを載せた飛行船を
ミサイルでハッキングし、
強引に捕獲しようとした。
でも乗組員が抵抗したため
ミサイルは爆発してしまい、
飛行船は橋の上に墜落……
挙句に追跡装置の存在にも
気付かれてしまった。
乗組員は咄嗟にオーブの
台座だけを取り外して
川に捨て、逃亡……
結局、オーブは本当に
「行方不明」に
なってしまった。
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でも、あなたの部下は
追跡装置のモニタを諦めては
いなかったんですね。
だから今日になって台座を
拾った途端に私は拉致された。
当たってますか?
ふん……さ、さっきから
聞いていれば発信機だの
ハッキングだの……
まるでスパイ映画の
小道具のような物ばかり
登場するが。
私たちが一体どこから
そんな物を調達したと
言うのかね?
確かに、ただの
一般人の寄せ集め
なら不可能ですね。
あなた方自身が情報六課の
局員か何かでなければ
出来ない話でしょう。
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乗り物に噛み付いて
コントロールする魚、
六課の秘密兵器……
コッドミサイルの存在は
五課のジョニー捜査官が
教えてくれました。
そちらの御二人が
同じミサイルで私とジョニーを
殺そうとした時にね。
お前ら……
ジェームズを殺そうと
したのか……?
は、はい……
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58
六課の秘密兵器に
ついて知っている
男をその兵器で……
局内に犯人が居ますと
宣伝してやったような
もんじゃないか!
ジョ、ジョニーの奴
ザッハトルテの屋敷を
嗅ぎ回ってたんで……
万が一オーブを
先に見つけられたら
まずいと思って……
まぁ、いい。
ジェームズもそのうち
始末してやるわ。
だが、お前さんの推理には
まだ肝心な部分が欠けているぞ。
なぜあなた自身が誰かの
手先ではなく、首謀者だと
分かったか……でしょ?
ザッハトルテが糸を
引いている可能性も
考えましたが……
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彼ならわざわざロンドンに
博物館を作らせなくても
自宅に罠を敷けたはずです。
古い屋敷を期間限定で一般公開
するのは税金対策にもなるので
近年はよく行われています。
でも一番の決め手は……
あなたの手下が全員
「犬」だったことです。
……………。
あなた方「犬族」は
徒党を組んで動くのが
好きな生き物だ。
手下が犬で固められているなら
首謀者も当然……
そう考えるのが自然でしょう。
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はっ……最後の一つは
何となく差別的で
気に食わんが、まぁいい。
全てお前の言う通りだ。
私は情報六課の局員として
内外の同胞たちを集め、
このグループを作った。
あの恐竜の骨格は
六課の工作班が
用意してくれた物だよ。
政府の機関の一員として
国を守ってきたあんたが
どうしてこんな事を……
私たちの守るべき国は
今のこの国ではない
事に気付いたからだ!
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人間やライオンのような
支配階級には上れず……
猫のように数の優位もない。
昔から私たちのような
力なき種族は虐げられ、
搾取されてきた。
ウルフォーゲルのオーブに隠された
大量破壊兵器、それを独占すれば
私たちの種族は力を持てる!
我々はこの島を
犬族の王国にするのだ!
汚らわしい暴力主義者め。
お前の妄想など何一つ
実現するものか。
お前ら犬どもの
好きにはさせないぞ。
この動物!
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クソ生意気な女め。
だが威張っていられる
のも今のうちだ。
私たちが目的もなく
お前を連れてきたと
思うかね?
お前を人質に
アーセニウスを
呼び出してある。
アーセニウスは
義に厚い男だという噂。
仲間が捕まったと
知れば必ず助けに
来るだろう……
オーブを持って
のこのこやって来た所を
とっ捕まえてやる。
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ふっ……
ふふふふ。
何だ?
何がおかしい?
私を助けに来るですって?
全く、見当違いも甚だしい。
私はアーセニウスの仲間でも
何でもないんです。
全くの無関係ですよ。
今更しらばっくれるな。
だったらなぜ警察署ではなく
自宅に台座を持ち帰った?
…………。
大方、一度捨てた台座が
やっぱり欲しくなって
探しに戻ったのだろう。
アーセニウスめ、
首都警察に内通者を
忍ばせていたとはな。
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はは、私なんて
彼本人に会った事すら
ありませんよ。
私が唯一接触したのは
一味の中の………いいえ、
それももう終わった話です。
………?
彼女のことだって……
結局、最後まで何も
知ることは出来なかった。
彼女の名前も……
髪の色も……
何をわけのわからん
事を言っとる。
ま、どうでもよいわ。
お前ら、警戒を怠るなよ。
はい、ボス。
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当分この街には
戻れないな。
この国には、
だろ……。
とにかく空港に
行かないと。
無事に出国
出来ると
いいんだが……。
…………退院したらちゃんと
返しに来てよね。例の荷物と
引き換えだ。
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67
………ありがとう。
なるべく早く元気になって、
これを返しに行くよ。
ずっとこれを取り上げた
ままじゃ、君のお子さんが
可哀想だからね。
…………。
…し……けど……。
え?
子供なんか
いないし……
そのDVDも
私のなんだけど……
くくくっ。
あははははっ。
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72
ううむ、遅い。
アーセニウスめ、
一体何をしている。
ボス、どうします。
もしこのまま奴が
現れなければ……
ふん、そうなったら
見せしめにその女を
バラしてやるだけよ。
まぁ、
もう少しだけ
待ってみよう。
……馬鹿馬鹿しい。
こんなのは
時間の無駄だ。
誰も来るはずがない。
ここに連れて来られた時点で
私の命運は決まっている……
さっさと殺せば
いいものを……。