全12話予定 R-15 

フェリスマンの国

連載途中のエピソード (41 / 42 ページ完成)

第2話 不安定な世界

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(1コマ目:空に浮かぶ険しい色をした雲。)

第2話

不安定な世界

(2コマ目:人猫の顔のアップ。閉じた目を徐々に開く。)

(3コマ目:眼前に広がる空模様は、朝焼けなのか、夕焼けなのかは分からない。)

(4コマ目:どうやら人猫は地面に寝転がっていたらしい。目を覚まし、真ん丸い目を大きく見開く。その白地に茶ブチの体毛には、横から陽の光が当たっている。)

2ページ目

(1コマ目:むくりと起き上がる茶ブチの人猫。その身長は子供のように縮んでおり、全身真っ白でふわっとした服を着ている。周囲の地面は黒く、草一本生えていない。)

ここは……

(2コマ目:人猫が立ち上がると、周囲には見たこともない風景が広がっている。風が全くないためか、鏡のように平らになった水面に険しい色の空が映っている。水平線の彼方まで広がる海には起伏のない小島が点在している。茶ブチの人猫以外に人影はなく、辺りは不気味なほど静かだ。)

ここは
どこだ…?

3ページ目

(1コマ目:辺りを歩く人猫。寒そうに腕を身体にまわしている。)

(2コマ目:キョロキョロと不安そうに周囲を見る人猫。)

母さん……?
父さん…?

誰か……
誰かいる?

(3コマ目:空を仰ぎ見る人猫の目に涙が浮かぶ。)

誰もいない
の…?

(4コマ目:突如、背後の水辺から声がする。)

ここに
いるよ。

(5コマ目:水辺に足を向けると、水面には自分の姿が写り込んでいる。)

こっちへ
おいで。

4ページ目

(1コマ目:チュンチュンという鳥の声で目を覚ます人猫。そこは朝日が差し込む小さな寝室だった。茶ブチの人猫は大人の姿に戻っており、服は着ていない。同じベッドには、まだスヤスヤと寝ている新妻の姿も見える。ベッド脇の小さな台には卓上ランプと、結婚式で使われた小刀が置かれている。)

(2コマ目:上半身を起こし、左手で眠そうに目をこする人猫。)

今のは……
夢か……。

(3コマ目:小さな人間の両手が、騎士の制服を着た大きな人猫の首にネクタイを巻いている。)

今日から
新しい配属先に
初出勤ね。

(4コマ目:まだダンボール箱などが置かれている狭い玄関口。茶ブチの人猫と、それを見送る妻。)

自宅から通える
ことになって
本当に良かったわ。

君を一人残して
営内生活なんか
できないさ。

(5コマ目:手を握り、見つめ合う二人。)

今日も一日
頑張ってね、
私の騎士さま。

5ページ目

(1コマ目:朝の光の中の総理大臣官邸の建物。)

(2コマ目:明るい廊下を歩くナオミの後ろ姿。その眼前には事務員のベルプルと白い人猫、いかつい目のライトグレーの騎士の姿が見える。)

おはよう
ございます。

おはよう
ございます、
警備部長。

(3コマ目:ナオミの制服の上腕や袖の部分には、以前と比べ模様が追加されている。また、パンツスタイルに変わっており、以前のようにスカートを履いてはいない。)

私が総理大臣官邸で
寝泊まりするようになって
数日が経った。

おはよう。

新しい制服、
お似合い
ですよ。

(4コマ目:小さな部屋の中。丸いテーブルを囲んだ大勢の人々でごった返している。ナオミなどの騎士、事務員、背広姿の人々など職種は様々だが、そのほとんどは人猫であり、人間の姿はナオミとベルプルしか見えない。何人かは手にメモ帳やクリップボードのようなものを持っている。)

閣議は9時から行われる
予定で、大臣の皆さまが
お越しになるのは……

(5コマ目:背広姿の白い人猫の話を黙って聞くナオミたち。)

早朝の日課──
官邸の上級スタッフが集まり
簡単なスケジュール確認。

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(1コマ目:ナオミを含む警備部員たちが見つめる中、つり目で目つきの悪いライトグレーの人猫が声を張っている。)

副部長(顔が怖い)を始めとする
警備部の古株たち……

(2コマ目:数人の人猫と、それに埋もれているベルプル。)

あとは事務方、執事、
総理の秘書官などだ。

(3コマ目:朝日に照らされ逆光となっている、中庭から見た官邸の内側。)

それが終わると、
南の中庭で警備部の
朝礼がある。

(4コマ目:何人かの警備部員姿の人猫がヒソヒソと談笑している。)

警備部員、
全員注目!

(5コマ目:警備部員の中に、あの茶ブチの人猫が混じっていた。その丸い目が声の方向を向く。)

(6コマ目:中庭に横に並んで立つナオミや副部長たちの眼前に、大勢の制服姿の警備部員が整列し、一様にナオミを見つめている。)

あー…今日が
初日の者も多いから
改めて自己紹介
しておく。

警備部長の
カザモーラだ。

総理を守る盾となるべく
官邸に詰める騎士の数は
およそ120人──

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(1コマ目:警備部員の一部がざわつき始める。)

あれが
部長…?

人間だぞ、
どういう
ことだ?

(2コマ目:後方にいた茶ブチの人猫は、まん丸い目を半月状にしながら難しい顔で上官の方向を睨んでいる。)

………。

(3コマ目:廊下を歩くナオミの後ろから、困り顔で声を掛けるベルプル。呼び止められたナオミも、心底嫌そうな顔をしている。)

ナオミさん、
あの……

(4コマ目:ドアが解放された部屋の入り口に立つナオミ。その足元には枕やぬいぐるみが散乱している。)

──その総理はと言うと、
いつものように朝から
スタッフを困らせている。

(5コマ目:怒り顔でズカズカと室内に入っていくナオミ。そこは総理大臣の寝室だった。大きなベッドの上ではサンドラが布団を被ったまま、うつ伏せに枕に顔を突っ込んでいる。寝室の出口からは、ベルプルと執事の人猫がこっそり中を覗き込んでいる。)

総理、朝です!
起きてください!

…うう、
うるさい…

(6コマ目:動かないサンドラの掛け布団を怒りの形相で強引にひっぺがすナオミ。)

出て行け。
今日は誰とも
会わん。

今日は
閣議の日で
しょうが‼︎

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(1コマ目:ナオミが見下ろす先で、寝巻き姿の総理大臣がうつ伏せになり、眠そうな目で警備部長を睨んでいる。)

他の大臣方に
あなたは欠席する
と伝えますか⁉︎

お前か…

(2コマ目:ナオミの叱責に、いやそうに目を閉じるサンドラ。その顔はなぜか少し赤らんでいる。)

総理!

あー、もう
分かったよ。

(3コマ目:けだるそうに上半身を起こすサンドラ。しかめっ面のナオミから目を背けるように顔をうなだれている。)

分かったから
私の前から
消えろ。

朝からお前の
顔など見たく
ない。

私だって
好きで見せに
来てるんじゃ
ない!

(4コマ目:横目にナオミを睨みつける寝起きのサンドラと、ベッドから去っていくナオミ。)

ったく、
なぜ私が
こんな…

(5コマ目:ナオミが部屋から出てくると、廊下ではベルプルと屋敷の使用人数人が待ち構えていた。)

ナオミさん、
いつも
助かります!

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(1コマ目:怒り顔のナオミの前に受け答えする、居心地悪そうなベルプル執事。その後ろにはメイド二人も並んでいる。)

総理を起こすのは
私の仕事では
ありません!

だって寝起きの
総理ってなんか
怖くって…

ねー。

これは絶対
日課には
したくない。

(2コマ目:屋敷の玄関。黒いスーツの人猫たちがぞろぞろと入ってくる。)

(3コマ目:ガヤガヤと賑やかな室内。大きなロングテーブルに並べられた四角い長椅子に、スーツの人猫たちが次々に着席していく。)

(4コマ目:テーブルの上にはそれぞれの席に資料らしき紙束が置かれている。部屋の入り口からドレス姿の人間が入ってくると、人猫たちがそれに注目する。)

おはよう。
皆揃っているな。

おはようございます、
ベテグラース総理。

(5コマ目:サンドラが長椅子の一つに腰を下ろすとギシっと音がする。)

では、本日の
閣議を始める。

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(1コマ目:自分の席の前に置いてあった紙束を手に取り、周囲を見渡しながら微笑むサンドラ。)

諸君、いよいよだ。
我々タンポポ党政権の
本格始動の時だぞ。

(2コマ目:オホン!とわざとらしく咳払いをしたのは、サンドラの左手に座っていた白い眉毛、白い体毛の老人猫だった。)

(3コマ目:老人猫の行動に少したじろぐサンドラ。)

失礼。
連立政権の…
だったな。

(4コマ目:得意げに腕を組む老人猫に、たちまち部屋中の視線が集まり、苛立ちをあらわにする。)

私たちスイレン党
あっての政権なの
だということを
お忘れなく。

うるせぇ、
ジジイ。

議会の過半数獲得の
人数合わせのくせに
偉そうだぞ。

(5コマ目:思わず立ち上がる老人猫に、なおも食い下がる若い人猫。慌ててたしなめるのは、サンドラの右手に座っていたとぼけ顔だ。)

何を⁉︎

よりにもよって
副総理の椅子なんか
要求しやがって…

まぁ、まぁ。
みなさん
仲良く……

(6コマ目:老人猫こと副総理の顔のアップ。)

君たち
タンポポ党は
設立間もない
新政党。

政権運営の
ノウハウも
ない。

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(1コマ目:総理を横目に淡々と演説を続ける副総理と、それを不服そうに眺めるタンポポ党の閣僚たち。サンドラは困ったように目を瞑っている。)

私たちスイレン党の
知恵と経験を総理は
必要としておられます。
でしょう、総理?

……。

チッ。

っぜえ。

(2コマ目:うんざりした様子でよそ見をしている総理の横で、上機嫌な副総理は威勢良く腕を振り上げる。)

仲良く共闘しましょう!
そしてマタタビ党の
石頭どもに一泡吹かせて
やるのです!

(3コマ目:ガッと大きな音を立ててぶつかりあう、木でできた斧と丸い盾。)

(4コマ目:中庭では大勢の騎士たちが、練習用の木の斧と盾で戦闘を行なったり、カカシ相手に斧を振るなど、各々鍛錬に勤しんでいた。全員、制服の上着を脱ぎ、シャツとベストだけになっている。)

全く、
冗談じゃねーや。

(5コマ目:中庭の隅で茶ブチの人猫と白い人猫が話し込んでいる。)

俺は人間の上官なんかに
仕えるために騎士に
なったんじゃねーぞ。

あの人間は
副都騎士団から
来たらしい。

なんでも前線で
百戦錬磨の隊長
だったとか……

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(1コマ目:二人の側を、同じようにベスト姿になったナオミが横切る。その右手には木刀のようなものが握られている。)

どうせお飾りの
隊長だったに
違いな…あっ。

噂をすれば。

(2コマ目:意地悪そうな顔になり、同僚に視線を向ける茶ブチの人猫。)

よし、あの部長を
ちょっとからかって
やろう。

え?
どうする
んだ?

(3コマ目:木刀を持ったまま歩き続けるナオミの背後に、急ぎ足の人猫二人組が近く。)

(4コマ目:そのままナオミの背中に乱暴にぶつかる茶ブチの人猫。ナオミは思わず険しい表情で姿勢を崩す。)

ぎゃっ!

(5コマ目:地面に手を着いたナオミが怪訝そうに見上げると、そこには上官を横目に見下ろしながらわざとらしく薄ら笑いを浮かべる人猫たちがいた。)

おっと失礼、そこに
いたのに気付きません
でした。

人間さんは
小さくって。

(6コマ目:立ち去ろうとする人猫たちに、起き上がりながら声を描けるナオミ。)

待て!
お前らは
新人だな。

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(1コマ目:茶ブチの人猫に向かって大声で怒鳴るナオミに、周囲の騎士たちまでもがざわつき始める。)

騎士訓練校で
教わった礼儀作法を
忘れたか!

(2コマ目:頭上を向き、わざとらしくとぼけた顔をする茶ブチ。)

とんでもない。
目上の者への接し方は
叩き込まれましたよ。

ただ……

(3コマ目:再びナオミに視線を落とす茶ブチ。その顔は侮蔑の笑みを浮かべ、あからさまにナオミを見下していた。)

自分より小さな生き物に
頭を垂れる方法なんて
教わりませんでしたから。

(4コマ目:周囲の騎士たちがドッと笑う。ナオミは呆れ顔では〜と深いため息を吐く。)

(5コマ目:ナオミは手に持ってた木刀を、茶ブチの人猫の方向にビッと向けると、茶ブチは意外そうに目を丸くする。)

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(1コマ目:険しい顔で部下を見上げるナオミ。その表情は静かな怒りに燃えているが、意外にも冷静な目をしている。)

そのひん曲がった
根性を叩き直して
やる。

決闘だ。

(2コマ目:木刀の先端と、その持ち手を憎々しげに見下ろす茶ブチの人猫。)

なにぃ…?

(3コマ目:場面は変わり、閣議が行われている会議室。机の上は大量の書類で散らかり、閣僚たちはあくびをしたり姿勢を崩したりと疲れの色が見える。サンドラは椅子から立ち上がり、周囲を見回しながら声を発する。)

諸君、少し
休憩にしよう。

はーい。

(4コマ目:官邸の最上階にある、中庭をぐるりと一周囲むバルコニーのような通路を、一人で歩くサンドラ。)

…中庭の方が
騒がしいな。

(5コマ目:ガヤガヤと声がする中庭をサンドラが見下ろすと、そこには何十人もの騎士たちが、二つの人影を取り囲んでいるのが見えた。その二つの人影とは、ナオミと、茶ブチの人猫のようだった。)

(6コマ目:バルコニーの手すりに両手をつき、遥か下の地面を見下ろし続けるサンドラの背後から、閣議ではサンドラの右手に座っていたとぼけた顔の閣僚が歩いてくる。)

官邸内で喧嘩騒ぎ
なんて…騎士どもは
何を考えてるんだ。

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(1コマ目:バルコニーの上の二人。心配そうな人猫を、サンドラが片手を挙げて制する。)

あの人間の
身が危ないよ。
サンドラ、
やめさせよう。

騎士のことは
騎士の問題だ。
黙って見てい
るんだ。

(2コマ目:ぐるりと輪を作った大勢の騎士たちの中で、互いを横目に見ながらウロウロしているナオミと茶ブチ。先に口を開いたのは、いやらしい笑みを浮かべた茶ブチの人猫である。)

そんな
ちっぽけな棒で
何ができるん
です?

私のこの斧は
木製の訓練用
ですが…

(3コマ目:茶ブチの手元のアップ。)

重量はそこそこある。
華奢なあなたなんかは
当たりどころが悪ければ
死んじゃうかも?

(4コマ目:茶ブチに対し、挑発的な笑い方をするナオミ。)

怖いでしょ。
今ならやめて
あげても……

お前こそ、
今更腰が
引けたのか?

(5コマ目:ゆっくりと足踏みをしながら睨み合う二人。)

御託はいいから
掛かってこい。それとも
人間相手に臆したか?

………。

(6コマ目:ナオミに背を向けた茶ブチ。その身体の後ろでゆっくりと斧を振り上げる。)

…ああ、そうかよ。

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(1コマ目:振り向きざまに斧を振り下ろす茶ブチ。)

(2コマ目:斧が風を切り、ブン!という大きな音を立てる。ナオミはそれを間一髪で避けた。)

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(1コマ目:斧を振り上げる茶ブチと、それを応援する同僚たち。)

いけー!

いいぞー、
やっちまえ!

(2コマ目:そのままの勢いで斧を振り下ろすと、ドガッという鈍い音が鳴り響き、地面が抉れ、土煙が舞い上がる。)

(3コマ目:しかし、またも既の所でそれを避けたナオミ。一歩下がり、体勢を立て直す。)

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(1コマ目:大柄な人猫に向かって走り出すナオミ。再び斧を振り上げる茶ブチの顔には焦りが見える。)

ちょこまかと……

(2コマ目:ヤッ!という掛け声と共に斧を突き出す茶ブチ。)

(3コマ目:その太い腕に、人間の小さな手がパッと被さる。)

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(1コマ目:一瞬時間が止まる。地面を抉り、土煙を巻き上げる斧。その持ち主は対戦相手が視界から消えたことに驚く。ナオミは大きく宙に飛び上がり、しかしその視線はしっかりと茶ブチの後頭部を捉えている。)

20ページ目

(1コマ目:木刀の先端が茶ブチの人猫の後頭部に直撃し、ゴンという鈍い音を立てる。)

(2コマ目:そのまま華麗に着地を決めるナオミの背後で、前のめりに倒れ込んだ人猫。そのドオオオオンという地響きの他には静寂のみが広がっていた。)

21ページ目

(1コマ目:眼前の光景に驚くサンドラ。)

(2コマ目:ギャラリーの人猫たちも同じように驚く。)

(3コマ目:うつ伏せに倒れた茶ブチは目を回し、その目には星が見えている。)

いてて…

(4コマ目:大きな背中を思い切り踏み付ける小さなブーツ。)

(5コマ目:倒れた人猫の巨体の上に乗っかり、木刀を相手の頭に向けたまま辺りを見渡し、戸惑うばかりのギャラリーを睨みつけるナオミ。)

他にこの私が
上官であることに
文句があるやつは
いるか‼︎

どうだ‼︎

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(1コマ目:一斉に視線を逸らし、ブルブルと首を振るギャラリーの人猫たち。)

………………。

(2コマ目:部下たちの前で勇ましく高らかに宣言するナオミ。)

人間を蔑むような真似は
私の隊では許さん‼︎

(3コマ目:地面に突っ伏したままの茶ブチは、苦しそうに片目を閉じつつ、もう片方の目は恨めしそうにナオミを見上げている。)

く、くそ。

(4コマ目:安心してその場を立ち去ろうとする政治家二人。ナオミを見つめるサンドラの口元は、心なしか微笑んでいた。)

…どうやら
収まった
みたいだね。

………ふぅん。

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(1コマ目:倒れたまま動かない茶ブチを後に、颯爽とその場を立ち去ろうとするナオミ。)

あいつを
医務室へ。

は、はい!

(2コマ目:ナオミに声を掛けられた一人の騎士が、バタバタと慌てて茶ブチに駆け寄っていく。その後ろで、ナオミは一人建物の中に入っていく。)

(3コマ目:ドサ、と気が抜けたように尻餅を着くナオミ。)

(4コマ目:そこはどこかの物置き部屋のようだった。薄暗い部屋の中、荷物の影で力なく壁に寄りかかるように座り込んだナオミ。中庭での様子とは打って変わり、額に汗にやつれた顔で息をしている。)

あー、しんど。

いつまでも
若い気分じゃ
いられんわ…。

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(1コマ目:紅茶が注がれたカップ。湯気を登らせるその水面には窓の外の三日月が映っている。)

(2コマ目:警備部長の大きな椅子の上に座り、目を閉じ、ゆっくりと紅茶を飲むナオミ。今やすっかりナオミのものになった事務机は大量の本や紙束で散らかり、前の持ち主との違いを際立たせている。)

ああ、
落ち着く。

(3コマ目:椅子から立ち上がるナオミ。窓の外は、もう完全に真っ暗だ。)

……さて、
行くか。

(4コマ目:薄暗い廊下の交差点で再び上着を着込んだナオミと、三人の人猫の騎士が話し込んでいる。)

深夜の日課──
部下たちと分担して
官邸内の見回りを行う。

(5コマ目:官邸の真っ暗な壁に並ぶ沢山の窓。その中の一つに小さな騎士の人影が見える。)

この建物はとにかく広い。
5階建てで北館・南館の2棟構造、
2つの中庭、2つの見張り塔があり…

無数の会議室や事務室、
住み込みのスタッフの
居住空間なども内包する。

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(1コマ目:薄暗い廊下を歩くナオミ。)

ここも
異常なし
…と。

静かな
夜だ。

(2コマ目:突如、背後からゴトッ、ドタドタ、と物音が聞こえる。)

(3コマ目:慌てて振り返る警備部長。)

⁉︎……
何の物音だ?

(4コマ目:足音を立てないよう、腰を低くして廊下を疾走するナオミ。目の前の扉の奥からは、バタバタ、ドサッという音が聞こえる。)

総理の寝室
からだ。

(5コマ目:隙間から微かに光が漏れる扉の前で立ち止まるナオミ。)

……

話し声…?

(6コマ目:緊張し、冷や汗を流すナオミ。腰のサーベルに手を掛け、静かに抜刀する。)

こんな夜中に
来客の予定など
ないはずだぞ…

もしや…。

26ページ目

(1コマ目:バンと勢いよく扉が開き、片手にサーベルを持ち必死の形相をしたナオミが部屋に飛び込んでくる。)

総理‼︎

(2コマ目:突然の来訪者に向かって同時に振り向いた、二つの赤い驚き顔。総理大臣のベッドの上で、仰向けに寝そべっていた体を慌てて起こしたのは、ナオミが見たことのない金髪の婦人で、慌てて腕で隠そうとしたその上半身は裸だった。その婦人の上に覆い被さる形で相手のあらぬ所を触っていたのは、お馴染みの寝間着姿の我らが総理大臣だった。)

キャッ!

お、おい!
勝手に入って
くるな!

27ページ目

(1コマ目:顔を真っ赤にし、カンカンになって飛び上がるように両手を振り上げるナオミ。頭から湯気を吹き出す人間がまくし立てる言葉は言葉になっていない。)

(2コマ目:官邸の入り口から出てくるナオミと、それに肩をがっしりと掴まれた金髪。)

(3コマ目:そして一人戻っていくナオミ。行き帰りで蒸気機関車のように頭から煙を出している上司の様子を、入り口を見張る警備員が不思議そうに見ていた。)

(4コマ目:再び総理の寝室。ベッドの上にちょこんととんび座りをし、落ち込むサンドラに向かって直立不動の姿勢で怒鳴り声を上げるナオミ。)

……あーあ、
いいとこ
だったのに。

官邸に
部外者を
入れるな!

(5コマ目:デスクランプの明かりがムードを演出する寝室で、しかし不機嫌そうな視線をナオミに向けるサンドラと、それを見つめ返しながらベッドの周りをズカズカと歩くナオミ。)

……。

あなたはご自分の
立場を分かって
おられるんですか?

もし今の人間が
スパイとかだったら
どうするんです?

官邸内の機密情報が
盗まれたら?
あなた自身の命が
狙われたら?

28ページ目

(1コマ目:部屋の窓を開けるナオミ。)

世間に
知られたら
どうなるか。

一国の
首相が寝室に
商売の…

それ以上
言うな!

(2コマ目:ベッドの上に座ったまま、ヘラヘラ笑いながら解説を続ける総理。窓の外を向いたままのナオミは苛立ちを露わにする。)

リーアちゃんはスパイ
なんかじゃないって。
私が総理になる前からの
顔馴染みなんだ。

(3コマ目:サンドラに近づき、憐れむような、咎めるような表情で語りかけるナオミと、気まずそうに自然を落とすサンドラ。)

顔馴染みの
相手ばかりじゃ
ないでしょう。

新顔が代わりに
来ることもよく
あるのでは?

う……

(4コマ目:ナオミが部屋から出ていこうとしたところで背後から声がかかる。)

……仕方
ないだろ。

(5コマ目:落ち込んだ総理大臣はベッドの上に座り、俯いたまま動かない。その様子を横目に見るナオミは尚も苛立っている。)

ここのベッドは……
私には広すぎるんだ。

(6コマ目:そのまま廊下を出て、バタンと部屋の扉を閉めるナオミ。)

……………
…知るかよ。

29ページ目

(1コマ目:明るい昼間の王都の街並み。)

その後、私は警備をより厳しくするよう
部下たちに指示を下した。

(2コマ目:ぼんやりした顔で廊下に佇むサンドラ。その後ろから急ぎ足でやってきたのはナオミだった。)

ここにおられましたか。
総理に飛び込みで
陳情のお客様が。

(3コマ目:目を背けるサンドラに、立ち止まって説明を続けるナオミ。)

予定外の客の
相手などするか。
追い返せ。

マタタビ党の
党首様です。

(4コマ目:右手で頭を抱えるような仕草でしぶしぶ振り返るサンドラ。)

…あの雷親父か。
会わないわけには
いかんな。

マタタビ党……
御政敵にあたる
方ですよね。

(5コマ目:ナオミの顔のアップ。)

人猫第一主義を党是に掲げ、
設立以来大半の期間を
政権与党として存在してきた
大政党。

30ページ目

(1コマ目:得意げに目を細めるサンドラ。)

それがこの私に
官邸を追われる形に
なって、さぞ悔し
がっているだろう。

(2コマ目:廊下を歩くサンドラのドレスの裾と、ナオミのブーツ。)

今日は
選挙のときの
意趣返しにでも
来たかな。

ご心配なく。
御会談の場には
警備の者を多数
配置しています。

(3コマ目:椅子に腰掛け、鬼のような形相でこちらを睨んでいる長毛の人猫。雷親父と呼ばれたその人物の怒り顔の迫力たるや、炎をバックにゴゴゴゴと地響きが聞こえてくるかのようだ。)

君らタンポポ党が
準備を進めている
「国民皆学法案」……

これを直ちに
凍結して
いただきたい!

(4コマ目:実際のその場所は、花が咲き乱れ樹々が生える草原のような静かな庭である。サンドラとマタタビ党首の二人は、草の中にポツンと置かれた小さな丸テーブルに座っていた。)

教育制度の拡充は
私どもの
公約でしたので…。

要は選挙の
人気取りのための
でまかせでしょう!

31ページ目

(1コマ目:そこは官邸のもう一つの中庭だった。建物に囲われた草原の中央で話し合う二人を、複数の警備部員が遠巻きに取り囲んで見張っている。ナオミはサンドラのちょうど後方で、無表情に会談の様子を眺めていた。)

……。

庶民のための
学校を税金で
建てるなど!

国中でそんなことを
すれば、地方財政は
たちまち破綻です!

(2コマ目:呆れたような顔のサンドラに、なおもマタタビ党首の話は続く。)

大増税となれば、
犠牲を強いられるのは
庶民の学校などとは
無縁の豪族たちだ!

(3コマ目:怒り顔で語り続けるマタタビ党首。)

我が人猫の一族が
築き上げた
この国の秩序、伝統が
全て崩れ去ってしまう!

(4コマ目:冷ややかな顔で目線を逸らすサンドラと、構わずガミガミと演説を続けるマタタビ党首。)

前時代から続く
荘園制……

マタタビ生産と
酒造業…
人猫文化……

32ページ目

(1コマ目:外からの光を背に、廊下を静かに歩いて進むサンドラと、その後ろで肩をいからせているナオミ。)

全く、何が伝統だ!
一方的にめちゃくちゃ
言いやがって。

(2コマ目:静かに目を瞑っているサンドラと、後ろを睨むように振り返っているナオミ。)

この王国は
三千年の歴史を持つ
由緒正しき国だった。

それを200年前、
毛むくじゃらどもに
作り替えられた。

(3コマ目:拳を振り上げて自説を並べ立てるナオミ。)

本物の旧家や
伝統文化なんか
何も残っちゃいない。
やつらは所詮……

あいつの
言い分も
理解はできる。

(4コマ目:どこか遠い目をしたサンドラの横顔。)

この200年の歴史が
人猫たちには全てなのだ。
我々にとって新しい文化でも
彼らにとっては伝統だ。

(5コマ目:明後日の方を見ながら呑気に話し続けるサンドラの真意を測りかね、不可思議な顔をするナオミ。)

それにしても、
あちらを立てれば
こちらが立たずか。

困ったなぁ。

………。

33ページ目

(1コマ目:総理大臣の執務室。広々とした部屋の中央に置かれた明るい色の大きなデスクは側面に国章をモチーフにした紋様が彫られており、横には国旗が立て掛けられ、背後の壁には同じく大きな国章が描かれている。大きな黒い椅子に腰掛け、何かの書類に筆を走らせるサンドラの周囲を数人の政治家や事務員が取り囲み、総理に向かってしきりに話し掛けている。)

あんな人間でも
仕事は真面目
なんだなぁ……

(2コマ目:サンドラの横顔のアップ。隣にいるとぼけた顔の政治家に話し掛ける総理の表情は険しく、よく見ると小さな眼鏡を掛けている。)

(3コマ目:サンドラの顔の更にアップ。何か話しながら、難しい顔で書類に目を落としている。)

(4コマ目:ナオミは去り際に部屋の入り口で立ち止まり、主人の様子を眺めている。)

なのにどうして
私生活はああも
だらしないのか……

34ページ目

(1コマ目:険しい色の空、鏡のような水面上に点在する島。そこはいつか見た光景だったが、太陽はますます水平線に近づき、雲の影はより一層黒くなっていた。)

(2コマ目:黒い地面にうつ伏せに倒れていた子供姿の茶ブチの人猫が、辛そうな顔で目を開く。)

………ああ。

またこの夢か…。

(3コマ目:茶ブチが体を起こすと、背後の水辺から再びあの声がする。)

やあ、また
会ったね。

(4コマ目:覗き込むと、鏡のような水面には自分ではない顔が写っている。それは紛れもなく人間のものだった。白い肌の丸顔で、肩には届かないが少し伸ばした明るい色の髪はウェーブが掛かっている。口元は笑っているが、長い前髪の影になっている目元を伺うことはできない。茶ブチと同じ白いふわっとした服で、年齢も近いようだ。)

こんばんは。

35ページ目

(1コマ目:膝を着いて水面下を見ている茶ブチと、全く同じ姿勢でそれを見つめ返す人間。)

君は一体
誰なんだい?

何言ってるの。
僕は君さ。

(2コマ目:二人は互いに手を近付ける。)

さぁ、
こっちに
手を伸ばして。

(3コマ目:人猫の丸い手と、人間のしなやかな手が近付き、触れ合いそうになる。)

手を…?

36ページ目

(1コマ目:手と手が触れた瞬間、水面に波紋が広がり、形が崩れたのは人猫の手の方だった。)

(2コマ目:波紋が広がり、驚いたように離れる人間の手。)

あっ…。

37ページ目

(1コマ目:徐々に静かになる水面の前で、両手を軽く閉じる。)

なんなんだ、
この感覚……

あれ?

(2コマ目:人間の子供は、自分の手をまじまじと見ながら戸惑っている。)

なんだこれ…
人間の手…?

(3コマ目:そっと自分の顔の触れる人間の子供。明るい色でウェーブの掛かった長い前髪から覗く、その大きな真ん丸い目は、あの茶ブチの人猫と全く同じだった。)

38ページ目

(1コマ目:すっかり暗くなった水辺に、人間の子供が膝を付いて座っていた。)

人間だ!

僕の体が
人間になってる!

(2コマ目:その背後にもう一人、人間の子供が立っていた。)

そうだとも。

(3コマ目:三日月の明かりに照らされた寂寞とした大地に、全く同じ髪型、同じ服装、同じ体格の二人の人間の子供が、まるで鏡を挟んで向かい合うように立っている。片方は戸惑いながらその大きなまん丸い目で相手を凝視しているが、もう一人の目は相変わらず髪に隠れて見えず、口元には不気味な笑みを浮かべているばかりだった。)

これが君の…
僕の、本当の
姿なんだよ。

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(1コマ目:再び薄暗い廊下を歩くナオミ。)

(2コマ目:外はすっかり真っ暗で、廊下にも人の気配はしない。)

今日の見回りも
問題はなし。

(3コマ目:ぼーっと辺りを見渡すが、廊下の奥は真っ暗で何も見えない。)

総理の寝室も
最近は静かだし…

(4コマ目:ナオミの背後から、ボサボサの長い髪をだらりと垂れ、白い服を着たのっぺらぼうの婦人が ゆらりと近づいて来る。)

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(1コマ目:そのままガバッとナオミの背中に抱きつく白い影。)

(2コマ目:驚き、少し顔を赤らめながらその人物を見下ろすナオミ。)

総理⁉︎

(3コマ目:膝をつき、背中に抱きついたまま離れないサンドラを振り払おうと暴れる警備部長。)

やめろ!
抱きつくな!

離せ、この
よっぱら…

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(1コマ目:サンドラは顔をくしゃくしゃにして涙を流しながら、ああああ、うううう、と言葉にならないうめき声を上げていた。)

(2コマ目:驚くナオミの眼前で、尚もうめきながら床に手を着くサンドラ。)

(3コマ目:手を伸ばしながら、怪訝げに主人の様子を伺うナオミ。)

総理、一体
どうされた
んですか?

(4コマ目:何かに気づき、目を見張るナオミ。)

(5コマ目:ナオミの右手が引っ張り上げられたサンドラの左手。その袖はずり落ち、サンドラはうつむいたまま顔を上げようとしない。)

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第2話 不安定な世界
最終更新: 2月19日
完成率: 97.6%
直近の平均執筆速度: 1.4日/ページ
残りページ数: 1ページ
完成予想日: 2月21日ごろ
Episode 2: Unstable World
Last updated: 19th February
Progress: 97.6%
Recent average making speed: 1.4 days/page
Remaining pages: 1 pages
Estimated completion date: Around 21st February