第2話 不安定な世界
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第2話
不安定な世界
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ここは……
ここは
どこだ…?
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母さん……?
父さん…?
誰か……
誰かいる?
誰もいない
の…?
ここに
いるよ。
こっちへ
おいで。
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今のは……
夢か……。
今日から
新しい配属先に
初出勤ね。
自宅から通える
ことになって
本当に良かったわ。
君を一人残して
営内生活なんか
できないさ。
今日も一日
頑張ってね、
私の騎士さま。
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おはよう
ございます。
おはよう
ございます、
警備部長。
私が総理大臣官邸で
寝泊まりするようになって
数日が経った。
おはよう。
新しい制服、
お似合い
ですよ。
閣議は9時から行われる
予定で、大臣の皆さまが
お越しになるのは……
早朝の日課──
官邸の上級スタッフが集まり
簡単なスケジュール確認。
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副部長(顔が怖い)を始めとする
警備部の古株たち……
あとは事務方、執事、
総理の秘書官などだ。
それが終わると、
南の中庭で警備部の
朝礼がある。
警備部員、
全員注目!
あー…今日が
初日の者も多いから
改めて自己紹介
しておく。
警備部長の
カザモーラだ。
総理を守る盾となるべく
官邸に詰める騎士の数は
およそ120人──
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あれが
部長…?
人間だぞ、
どういう
ことだ?
………。
ナオミさん、
あの……
──その総理はと言うと、
いつものように朝から
スタッフを困らせている。
総理、朝です!
起きてください!
…うう、
うるさい…
出て行け。
今日は誰とも
会わん。
今日は
閣議の日で
しょうが‼︎
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他の大臣方に
あなたは欠席する
と伝えますか⁉︎
お前か…
総理!
あー、もう
分かったよ。
分かったから
私の前から
消えろ。
朝からお前の
顔など見たく
ない。
私だって
好きで見せに
来てるんじゃ
ない!
ったく、
なぜ私が
こんな…
ナオミさん、
いつも
助かります!
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総理を起こすのは
私の仕事では
ありません!
だって寝起きの
総理ってなんか
怖くって…
ねー。
これは絶対
日課には
したくない。
おはよう。
皆揃っているな。
おはようございます、
ベテグラース総理。
では、本日の
閣議を始める。
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諸君、いよいよ我々
「タンポポ党」政権の
本格始動の時だぞ。
失礼、副総理。
タンポポ・スイレン
連立政権…だな。
君たち
「タンポポ党」は
設立間もない
新政党。
我が「スイレン党」の
力添えあっての
政権なのだ…という
ことをお忘れなく。
偉そうに…!
古いだけが
取り柄の
泡沫政党が。
全く、なんで
連立なんかする
羽目に……
スイレン党は人数合わせさ。
俺らだけじゃ議会の過半数は
取れなかったからな。
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それが連立の条件に
副総理の座を
要求してくるとはな…
図々しいジジイだよ。
政権獲得の
代償が
これか…。
仲良く共闘しましょう!
そして「マタタビ党」の
石頭どもに一泡吹かせて
やるのです!
全く、
冗談じゃねーや。
俺は人間の上官なんかに
仕えるために騎士に
なったんじゃねーぞ。
あの人間は
副都騎士団から
来たらしい。
なんでも前線で
百戦錬磨の隊長
だったとか……
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どうせお飾りの
隊長だったに
違いな…あっ。
うわさを
すれば。
よし、あの部長を
ちょっとからかって
やろう。
え?
どうする
んだ?
ぎゃっ!
おっと失礼、そこに
いたのに気付きません
でした。
人間さんは
小さくって。
待て!
お前らは
新人だな。
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騎士訓練校で
教わった礼儀作法を
忘れたか!
とんでもない。
目上の者への接し方は
叩き込まれましたよ。
ただ……
自分より小さな生き物に
頭を垂れる方法なんて
教わりませんでしたから。
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そのひん曲がった
根性を叩き直して
やる。
決闘だ。
なにぃ…?
諸君、少し
休憩にしよう。
はーい。
…中庭の方が
騒がしいな。
官邸内で喧嘩騒ぎ
なんて…騎士どもは
何を考えてるんだ。
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あの人間が
危ないよ。
サンドラ、
やめさせよう。
騎士のことは
騎士の問題だ。
黙って見てい
るんだ。
そんな
ちっぽけな棒で
何ができるん
です?
私のこの斧は
木製の訓練用
ですが…
重量はそこそこある。
華奢なあなたなんかは
当たりどころが悪ければ
死んじゃうかも?
怖いでしょ。
今ならやめて
あげても……
お前こそ、
今更腰が
引けたのか?
御託はいいから
掛かってこい。それとも
人間相手に臆したか?
………。
…ああ、そうかよ。
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いけー!
いいぞー、
やっちまえ!
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ちょこまかと……
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いてて…
他にこの私が
上官であることに
文句があるやつは
いるか‼︎
どうだ‼︎
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………………。
人間を蔑むような真似は
私の隊では許さん‼︎
く、くそ。
…どうやら
収まった
みたいだね。
………ふぅん。
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あいつを
医務室へ。
は、はい!
あー、しんど。
いつまでも
若い気分じゃ
いられんわ…。
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ああ、
落ち着く。
……さて、
行くか。
深夜の日課──
部下たちと分担して
官邸内の見回りを行う。
この建物はとにかく広い。
5階建てで北館・南館の2棟構造、
2つの中庭、2つの見張り塔があり…
無数の会議室や事務室、
住み込みのスタッフの
居住空間なども内包する。
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ここも
異常なし
…と。
静かな
夜だ。
⁉︎……
なんの音だ?
総理の寝室
からだ。
…
……
話し声…?
こんな夜中に
来客の予定など
ないはずだぞ…
もしや…。
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総理‼︎
キャッ!
お、おい!
勝手に入って
くるな!
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……あーあ、
いいとこ
だったのに。
官邸に
部外者を
入れるな!
……。
あなたはご自分の
立場を分かって
おられるんですか?
もし今の人間が
スパイとかだったら
どうするんです?
官邸内の機密情報が
盗まれたら?
あなた自身の命が
狙われたら?
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世間に
知られたら
どうなるか。
一国の
首相が寝室に
商売の…
それ以上
言うな!
リーアちゃんはスパイ
なんかじゃないって。
私が総理になる前からの
顔馴染みなんだ。
顔馴染みの
相手ばかりじゃ
ないでしょう。
新顔が代わりに
来ることもよく
あるのでは?
う……
……仕方
ないだろ。
ここのベッドは……
私には広すぎるんだ。
……………
…知るかよ。
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その後、私は警備をより厳しくするよう
部下たちに指示を下した。
ここにおられましたか。
総理に飛び込みで
陳情のお客様が。
予定外の客の
相手などするか。
追い返せ。
マタタビ党の
党首様です。
…あの雷親父か。
会わないわけには
いかんな。
マタタビ党……
御政敵にあたる
方ですよね。
人猫第一主義を党是に掲げ、
設立以来大半の期間を
政権与党として存在してきた
大政党。
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それがこの私に
官邸を追われる形に
なって、さぞ悔し
がっているだろう。
今日は
選挙のときの
意趣返しにでも
来たかな。
ご心配なく。
御会談の場には
警備の者を多数
配置しています。
君らタンポポ党が
準備を進めている
「国民皆学法案」……
これを直ちに
凍結して
いただきたい!
教育制度の拡充は
私どもの
公約でしたので…。
要は選挙の
人気取りのための
でまかせでしょう!
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……。
庶民のための
学校を税金で
建てるなど!
国中でそんなことを
すれば、地方財政は
たちまち破綻です!
大増税となれば、
犠牲を強いられるのは
庶民の学校などとは
無縁の豪族たちだ!
我が人猫の一族が
築き上げた
この国の秩序、伝統が
全て崩れ去ってしまう!
前時代から続く
荘園制……
マタタビ生産と
酒造業…
人猫文化……
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全く、何が伝統だ!
一方的にめちゃくちゃ
言いやがって。
この王国は
三千年の歴史を持つ
由緒正しき国だった。
それを200年前、
毛むくじゃらどもに
作り替えられた。
本物の旧家や
伝統文化なんか
何も残っちゃいない。
やつらは所詮……
あいつの
言い分も
理解はできる。
この200年の歴史が
人猫たちには全てなのだ。
我々にとって新しい文化でも
彼らにとっては伝統だ。
それにしても、
あちらを立てれば
こちらが立たずか。
困ったなぁ。
………。
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あんな人間でも
仕事は真面目
なんだなぁ……
なのにどうして
私生活はああも
だらしないのか……
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………ああ。
またこの夢か…。
やあ、また
会ったね。
こんばんは。
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君は一体
誰なんだい?
何言ってるの。
僕は君さ。
さぁ、
こっちに
手を伸ばして。
手を…?
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あっ…。
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なんなんだ、
この感覚……
あれ?
なんだこれ…
人間の手…?
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人間だ!
僕の身体が
人間になってる!
そうだとも。
これが君の…
僕の、本当の
姿なんだよ。
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今日の見回りも
問題はなし。
総理の寝室も
最近は静かだし…
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総理⁉︎
やめろ!
抱きつくな!
離せ、この
よっぱら…
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総理、一体
どうされた
んですか?
42ページ目
総理!
私が分からない
んですか⁉︎
TO BE CONTINUED...