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ここにおられ
ましたか。
あの、
ご覧いただき
たいものが…

屋根の上で
見つけました。

これって…

奥さんの…
ですよね、
きっと。
あの人に
返すべきかどうか
分からなくて…
だって、夫が自分の
小刀で自殺した
なんて知ったら……
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でも、扉を
開くことが
できなかった。
私のせいで
彼は……
もっと私に
力があれば…
あるいは、
もっと早く人を
呼びに行って
いれば…


…ああ、もし今回の
ことを新聞にでも
書き立てられたら…
は?
総理にもご迷惑を…
一体どうやって
おわびすれば…

…なんだお前、
ブン屋の心配など
してたのか。
そんなことは
気にするな。
大丈夫さ。

総理…
余計なことは考えず、
今はただ彼の冥福を
祈ろうではないか。
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しばらくは空気が沈んでいた官邸にも、
数日後には元通りの日常が戻ってきた。

…えー、以上が
副都サミット中における
警備計画の概要です。

情けない…
君には想像力という
ものがないのかね。
は⁉︎

こんなガチガチの
スケジュールでは
不測の事態に対処
できんだろう。
もっと柔軟に、
時間に余裕を
持たせたまえ。
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何が不測の事態ですか。
どうせ自由時間に
遊びたいだけでしょ!

う、うるさい!
政治家にはいろいろ
あるんだよ、
この脳筋!
やかましい!
副都は私の方が
詳しいんだ!
黙って私に従え!

平和ですねぇ。
ええ。

オデカケデ
ゴンス

総理、お待ち
ください。
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もー、いちいち
外出先について
くるなよ。
しょうがない
でしょう。
身辺警護する決まり
なんですから。


今日はこれから
王宮に行って
王に謁見する。

いわゆる定例謁見だ。
これまで延期されていたが、
今後は定期的に行うことに
なるからな。

王様に会って
何をお話しされ
るんですか?
私の仕事ぶりの
報告…といった
ところだな。
形式上は
王は私の上司
だからな。
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珍しく
弱気ですね。
緊張してるん
ですか?
だ、誰が
緊張など…

…そうかもな。
相手が相手だ。

王宮に行くのは
親任式のとき
以来だし…
王と二人きりで
話をするのは
今回が初めてだ。

…………。

…大丈夫ですよ。
王様といえど所詮は
一人の人猫です。
それはそう
かもしれんが…

もし噛み付いてきても
私が守りますよ。
そのための警護
でしょう?
ばっ…お前なぁ。
言って良い冗談と
悪い冗談があるぞ。
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だいたいお前は
私の部下である以前に
王に忠誠を誓った
騎士ではないのか?

名目上は
そうですが…
騎士団の最高指揮官は
あくまで総理大臣です。
君主ではありません。
よく言う…

最高指揮官など
それこそ形だけだ。
騎士団もお前も
私に指図ばかりして
命令なんか
聞きゃしない。
あなたの安全の
ためですよ。

……。

……いずれにしても、
王と政府が対立など
したら世も末だな。

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おい、そいつは
私の警護だぞ!
総理大臣閣下、
これより先は我々
王室近衛兵が守りし
王家の領域です。

申し訳ありませんが、
騎士団の方は
お進みになれません。

…………。
総理…

……仕方ない。
警備部長、その辺で
待っていろ。

かしこまり
ました。

くそっ……そんな
しきたりがあったとは。
下調べが足りなかった。
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国王陛下。
君が新しい
総理大臣か。

ベテグラース君……
だったかな。こうして
言葉を交わすのは
初めてだね。
は、はい。
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……
えっと、
その…
……相席しても
よろしいですか?


……謁見の場では
王は臣下と対面せぬのが
ならわしだ。
えっ⁉︎
そ、そう
なんだ…
た、た、大変
失礼いたしました。

だが、まぁ……
構わんだろう。

あ、あの…
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……このような計画のもと、
全国に段階的に学校施設を
建造していきます。
これが私の考える
教育制度の拡充への
道のりです。

なるほど…
君の考えは
よく分かった。
…………。

……陛下も、
私の教育政策に反対
なさるでしょうか。

なぜ私が
反対すると?
国民皆学が実現すれば、
この国は良くも悪くも
大きく変わります。
マタタビ党は
猛反対しています。
人猫文化が
破壊されると…。
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やはり、私どもの行いは
人猫の陛下には間違いに
思われるでしょうか。

……。

…私は君主として、
君の政策に賛同する
ことはできない。

陛下、
それでは…
反対する
こともだ。

憲法の定めにより、
王は常に
政治的中立の
立場を守る。
例え種族が異なる
相手であっても
決して否定は
しないのだよ。
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また次回の
謁見でな、
総理大臣。
国王陛下。



臨時議会を
開く⁉︎

そ、そんな無茶な!
今は地元に帰ってる
議員もいるのに…
ああ、直ちに
全員を呼び戻し、
国民皆学法案の
審議を始めねば。

マタタビ党の
連中になんて
言われるか…!
それに肝心の
法案はまだ
草稿段階で…
その通りだ、
大急ぎで
仕上げるぞ‼︎
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25

ちんたらしている
暇はないぞ!
国民が我々を待って
いるからな!
改革の勢いを
止めてはならない!
鉄は熱いうちに
ぶっ叩けだ!

王様に会って
一体何を
言われたの…?
さ、
さぁ…

王国議会議事堂

静粛に!
皆さん静粛に!

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26


集計の結果、賛成多数。
よって国民皆学法案は
可決いたしました。


これで…
良かったん
だよな。

………。
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27


勝ったぞ、
警備部長。

総理、
おめでとう
ございます。

私は資料室で
少し休む。
後で迎えに
来い。

分かり
ました。

しばらくは上機嫌が
続きそうだな。
私も楽ができそうだ。
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…200年前、
魔王を倒した
勇者の像だ。

どんな人間だったのか…
勇者の姿をかたどった
像や絵画はほとんど
現存していない。
大まかな形が
残っているだけでも
この一体はかなり
貴重だ……

私はな、警備部長。
時々この像を見に
ここに来るんだ。

そして思い出すんだ。
私たち人間にもできる
ことがあるのだと…
勇者と同じ種族
であることに
私は誇りを……

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32

貴様ら人間など所詮は
まともな判断力もない、
感情だけの種族だ!

誰のおかげで
この国が成り立って
いるのか考えろ!
お飾りの首相で
おればいいものを、
貴様は……


総理から離れろ‼︎
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34

なっ⁉︎

…お前、自分が誰に
剣を向けているのか
分かっているのか?
誰でも
関係ない!
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35

私が官邸の
警備部長で
いる間は…
私は官邸の
仲間を守る!

………。

ふん、いいだろう。
今日のところは
引き下がってやる。
だが覚えておけ!

こんなデタラメな
政治を続けていれば
数年で政権は崩壊だ。
かつての
スイレン党政権と
同じようにな!
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36

あの邪教徒どもが
与党時代めちゃめちゃに
したこの国を、一体誰が
立て直したと思う?

尻拭いをするのは
いつも我々、
マタタビ党だ!

私が次の総理大臣に
なった暁には
警備部長のポストも
入れ替えだな。
人間に身辺警護を
任せる理由など
私にはないからな。

………。

二人とも、
せいぜい今のうちに
官邸暮らしを楽しんで
おくんだな……
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37


はああ〜…
怖かった…

大丈夫です、
もう大丈夫ですよ、
あいつはいなく
なりました。

触るな!

総理…
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40

──それからしばらくは
大きなトラブルもなく、
いつしか季節はゆっくり
変わり始めていた。

ぶへっちょい!
最近寒くなって
きたな。

警備部長。

おう、どうした
副部長。
身元の怪しい客は
厳しくチェック
するよう
仰せでしたよね。

ああ、
言ったが…
その、先ほど
人間のお客様が
いらして…
身分証をお持ちで
なかったので、別室で
お話を聞いている
ところなのですが…

…分かった、
私が行く。
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あんの色ボケ、
また官邸に部外者を
呼んだのか?
外で人間に会う機会は
定期的に作ってやってる
だろうが、全く…!

このお客様ですが、
少し変わっていまして、
一体どういうわけか…
ん?

警備部長の
お母様を自称
してるんです。
ナオミ!

どう思われ
ますか?
ああ、
私の母だ。
本物のな。

あとは私が応対する。
諸君は下がってよい。
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42

母様!
なんで官邸に
いるんですか⁉︎
なんでって、
そりゃあなたに
会いに来たのよ。

ここは私の
職場ですよ!
そうよ。
同じ都内にあるのに、
あなたちっとも家に
帰ってこないじゃない。

………それで、
私に一体なんの用
ですか?

本当に警備部長の
母ちゃんだったとは…
何しに来たんだろ?
シーッ!

はい、これ。
あなたの分。
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なんです?
これ……
………
………

舞踏会の
招待状⁉︎
すごいで
しょう!


送り主は…
ブ…ブリリスケ…
…なんとか伯爵。
そうよ、
あの有名な伯爵家が
主催する舞踏会。

そんな伯爵
聞いたこと
ない。
お母さん、それを
送ってもらうのに
とっても頑張ったん
だから!
だからナオミ、
舞踏会の日には
ちゃんと家に
帰ってくるのよ。
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か、母様!
そんな勝手に…
だいたい
その日って
一体いつ…


この日は…
サミットに……
副都に出発する日の
前日だ。
きっと当日は都中の
名家や旧家の殿方が
大勢いらっしゃるわ。

あなたの結婚相手を
探すのには絶好の
機会でしょう?
人生のゴールを
見つけることより
重要な用事なんて
ないわよね。

……確かに、この日に
用事はありませんが…
しかし翌日に…
なら
決まりね!