全12話予定 R-15 

フェリスマンの国

連載途中のエピソード (41 / 46 ページ完成)

第4話 前に前に進め

1ページ目

(1コマ目:バキッという音と共に破壊されるドアと、そこに打ち付けられていた板。必死に大きな斧を振るっていたのは、茶ブチの飲み仲間の白い人猫だった。)

第4話

前に前に進め

(2コマ目:武器の斧を右手に、破壊されたドアを押して開く、騎士の制服姿の白。その後ろには同じく斧を抜いたハチワレと黒が続く。)

やっと
開いたか…

(3コマ目:見張り塔に続く渡り廊下を歩いていく人猫たち。)

2ページ目

(1コマ目:屋根の上によじ登る白とハチワレ。長い手袋とエプロン状のツナギを着込み、鼻と口を布で覆っているが、それでも眼前に広がる血だまりの強烈な臭いは防げず、思わず顔を歪める。)

ううっ…

これは
きついな…

(2コマ目:物悲しそうな黒。)

……さぁ、
早いとこ降ろして
やろう。

(3コマ目:すっかり明るくなった官邸の正門前道路のロングショット。見張り塔やその屋根の上には作業にあたる人猫たちが集まり、地上には整理にあたる騎士や野次馬が大勢いる。)

(4コマ目:どんよりした雰囲気で話し込んでいるナオミと副部長。)

誰かちゃんと
説明してください!

(5コマ目:突如響いた誰かの大声に、ナオミは振り返る。)

3ページ目

(1コマ目:戸惑う警備の人猫たちの前で不安な顔をしながら声を張っているのは、死んだ茶ブチの新妻だった。)

夫は…私の夫は
どこですか⁉︎

(2コマ目:その光景を見つめる副部長とナオミ。)

あ、あれは…
奥様でしょうか。

ど、どうしま
しょう。

…私から
伝える。

(3コマ目:未亡人に向かって歩みを進めるナオミ。)

(4コマ目:警備の一人が、近付いてくる上司に気付く。)

あ、け、
警備部長!

警備部長?

(5コマ目:ナオミの姿を見て怪訝な表情になる未亡人。)

人間……?

4ページ目

(1コマ目:戸惑い続ける未亡人に向かって深々と頭を下げるナオミ。)

(2コマ目:ナオミは頭を下げたまま話す。)

(3コマ目:見張り塔の屋根の上。血溜まりの中に、何かがあるのに気づく白。)

あ…

(4コマ目:真っ赤に染まった手袋が拾い上げたのは、血液を滴り落とす剥き身の小刀だった。)

(5コマ目:ボカッ、という音が地上から聞こえる。何事かと振り向き、地上を見下ろす白。)

(6コマ目:地上では未亡人が、夫の上司に向かって拳を振り下ろしていた。バランスを崩して倒れるナオミ。周囲の人猫たちが慌てて二人に走り寄る。)

5ページ目

(1コマ目:地面に倒れ込んだナオミを力一杯踏みつける未亡人。)

(2コマ目:背広の人猫に羽交い締めにされ、引き離される未亡人。さらに警備部の騎士たちが、ナオミを庇うように取り囲む。)

(3コマ目:人猫たちに羽交い締めにされながらも涙を流し、顔を真っ赤にしてナオミに向かって何かを喚き続ける未亡人。)

(4コマ目:ナオミは騎士たちに庇われながらゆっくり起き上がろうとするが、まだ顔を上げることはできない。)

6ページ目

(1コマ目:がらんとした官邸内の食堂。ロングテーブルと丸椅子が規則正しく並ぶ中に、一人寂しくポツンと立ち、殴られた頰をさするナオミ。)

(2コマ目:ナオミの背後から、故人の友達だった白い人猫がスタスタと歩いてくる。)

警備部長、
あ、あの…

ご覧いただき
たいものが…

(3コマ目:騎士が両手に白い布に小刀を抱えていた。血液はすっかり拭き取られ、さやとつかは本来の輝きを取り戻している。)

屋根の上で
見つけました。

(4コマ目:小刀を手に取り、それをまじまじと観察するナオミ。)

これって…

(5コマ目:小刀をさやから抜いて刀身を確認するナオミと、悲しそうにそれを見ている白。)

奥さんの…
ですよね、
きっと。

あの人に
返すべきかどうか
分からなくて…

だって、夫が自分の
小刀で自殺した
なんて知ったら……

7ページ目

(1コマ目:物悲しい顔を下に向けながら、パチっとさやを再びはめるナオミ。)

…ああ、
知らない方が
いいだろう。

これは私が
預かって
おく。

(2コマ目:ナオミの背後の側にある廊下から、寝間着姿のサンドラが現れ、警備部長はその声に驚く。)

警備部長、
何かあった
のか?

(3コマ目:ナオミを睨みつける、ボサボサ髪の不機嫌そうな顔。)

なぜ今朝は
誰も起こしに
こない。

(4コマ目:慌てて振り向きながら、サンドラに見えないよう上着の内側に小刀を押し込むナオミ。)

そ、総理。
もうお目覚め
でしたか。

(5コマ目:食堂の中に入ってくる総理大臣。それを止めようと早足で近くナオミの両手は既に空になっている。)

外が騒がしい
ようだが…

い、今は
表に出ない方が
よろしいかと…

(6コマ目:絵のないコマ)

……その時、
私は彼のすぐ近くに
いたんです。

8ページ目

(1コマ目:そこは中庭の入り口だった。明るい日差しが庭に降り注ぐ中、ちょうど日陰になる位置にいる二人。庭に降りる段差に腰掛け、うなだれているナオミの横に、相変わらず寝間着姿のサンドラが立っている。)

でも、扉を
開くことが
できなかった。

私のせいで
彼は……

もっと私に
力があれば…

あるいは、
もっと早く人を
呼びに行って
いれば…

(2コマ目:口数の多いナオミを物静かに見下ろしているサンドラ。)

(3コマ目:自分の額を片手で抑えるナオミ。)

…ああ、もし今回の
ことを新聞にでも
書き立てられたら…

は?

総理にもご迷惑を…
一体どうやって
おわびすれば…

(4コマ目:ナオミを見下ろしながら、少し呆れた様子で口角を上げるサンドラ。)

…なんだお前、
ブン屋の心配など
してたのか。

そんなことは
気にするな。
大丈夫さ。

(5コマ目:顔を上げるナオミをよそに入り口を横切るサンドラ。その明るい髪の毛を日光が照らす。)

総理…

余計なことは考えず、
今はただ彼の冥福を
祈ろうではないか。

9ページ目

(1コマ目:そう語るサンドラの横顔には少し影があった。)

……お前のせい
なんかじゃないさ。

(2コマ目:暗い部屋、台座に置かれた黒い死体袋。かつての同僚らが見下ろす中、未亡人はかつての夫の亡骸にすがりついて泣いていた。)

マルコ‼︎

(3コマ目:絵のないコマ)

10ページ目

(1コマ目:ある日の昼間の官邸。)

しばらくは空気が沈んでいた官邸にも、
数日後には元通りの日常が戻ってきた。

(2コマ目:広々とした総理大臣の執務室。自分の大きなデスクの大きな椅子に座り、メガネを掛けた総理は手元の冊子に視線を落としている。デスクの前方にあるローテーブルには警備部の副部長らや秘書官たちが腰掛け、同じ冊子を持っている。総理の正面に立ち、やはり同様の冊子を持って解説をしているのはナオミだ。)

…えー、以上が
副都サミット中における
警備計画の概要です。

(3コマ目:サンドラが手に持っていた冊子をポイと放り出す。)

情けない…
君には想像力という
ものがないのかね。

は⁉︎

(4コマ目:椅子に座ったままひょうひょうとした様子で説教をする総理と、それに苛立ち、見る見る鬼のような形相になったナオミ。)

こんなガチガチの
スケジュールでは
不測の事態に対処
できんだろう。

もっと柔軟に、
時間に余裕を
持たせたまえ。

11ページ目

(1コマ目:サンドラに顔を近付けるナオミ。キョトンとする総理に警備部長はたんかを切る。)

何が不測の事態ですか。
どうせ自由時間に
遊びたいだけでしょ!

(2コマ目:人猫たちが見守る中、思わず立ち上がってナオミを指差すサンドラと、一歩も引かずに机に両手を置いているナオミ。)

う、うるさい!
政治家にはいろいろ
あるんだよ、
この脳筋!

やかましい!
副都は私の方が
詳しいんだ!
黙って私に従え!

(3コマ目:ガミガミ、ギャーギャーと騒がしい執務室で、警備や秘書の人猫たちはのんびりと向き合い、茶などを飲んでいる。)

平和ですねぇ。

ええ。

(4コマ目:廊下を歩く白猫のトム。)

オデカケデ
ゴンス

(5コマ目:もとい、廊下を進むサンドラ。片手に黒い表紙の手帳を持っている。後ろからナオミの声が掛かる。)

総理、お待ち
ください。

12ページ目

(1コマ目:官邸の正面玄関に停まっている二頭立ての馬車。玄関から後ろを気にしつつ出てくるサンドラ。背後からはナオミが早足で追いついてくる。)

もー、いちいち
外出先について
くるなよ。

しょうがない
でしょう。
身辺警護する決まり
なんですから。

(2コマ目:パカパカパカと歩き始める馬。馬車の上には御者が一人と、背面にも二人がおり、いずれも人猫の騎士が勤めている。)

(3コマ目:馬車の屋形の中。窓の外では王都の街並みが流れている。)

今日はこれから
王宮に行って
王に謁見する。

(4コマ目:馬車の中に対面して座っているナオミとサンドラ。)

いわゆる定例謁見だ。
これまで延期されていたが、
今後は定期的に行うことに
なるからな。

(5コマ目:真面目な顔のナオミと、手元の手帳を開いて目線を落とすサンドラ。)

王様に会って
何をお話しされ
るんですか?

私の仕事ぶりの
報告…といった
ところだな。

形式上は
王は私の上司
だからな。

13ページ目

(1コマ目:ナオミが見つめる中、手帳に目線を落としたままのサンドラは不安そうな表情になる。)

(2コマ目:皮肉っぽい笑みを浮かべるナオミと、慌ててそれを睨み返してみせるサンドラ。)

珍しく
弱気ですね。
緊張してるん
ですか?

だ、誰が
緊張など…

(3コマ目:しかし、サンドラの強気はすぐに霧散し、その表情は再び不安に包まれる。)

…そうかもな。
相手が相手だ。

(4コマ目:その小さな両手の細くしなやかな指で手帳を閉じ、再び膝の上に置くように抱える。)

王宮に行くのは
親任式のとき
以来だし…

王と二人きりで
話をするのは
今回が初めてだ。

(5コマ目:ナオミはなぜかサンドラの手にぼーっと見とれていた。)

…………。

(6コマ目:サンドラに笑顔を作って見せるナオミ。)

…大丈夫ですよ。
王様といえど所詮は
一人の人猫です。

それはそう
かもしれんが…

(7コマ目:態とらしく得意げな顔で、ベルトの左腰にはかれたサーベルを左手でポンと叩いてみせるナオミ。)

もし噛み付いてきても
私が守りますよ。
そのための警護
でしょう?

ばっ…お前なぁ。
言って良い冗談と
悪い冗談があるぞ。

14ページ目

(1コマ目:呆れた様子で右手で右目を覆うサンドラ。)

だいたいお前は
私の部下である以前に
王に忠誠を誓った
騎士ではないのか?

(2コマ目:しかし、ナオミは真面目な表情で淡々と答える。)

名目上は
そうですが…

騎士団の最高指揮官は
あくまで総理大臣です。
君主ではありません。

よく言う…

(3コマ目:いつもの高飛車な態度に戻り、そっぽを向いてわざとらしくやれやれとため息をつく総理。)

最高指揮官など
それこそ形だけだ。

騎士団もお前も
私に指図ばかりして
命令なんか
聞きゃしない。

あなたの安全の
ためですよ。

(4コマ目:ムッとなるサンドラ。)

……。

(5コマ目:少し強気になったのを見て安心したのか、ナオミは少し柔らかい表情でサンドラを見ている。)

……いずれにしても、
王と政府が対立など
したら世も末だな。

(6コマ目:王都の街並みの奥に、ひときわ大きい建物が見える。四角いブロック状の構造がいくつも集まって出来たような、十数階はあろうその巨大な建造物は、陽の光を浴びて白く輝いている。)

15ページ目

(1コマ目:二人が進む目の前に大きな入り口があった。扉は開かれているが、入り口の奥は真っ暗で何も見えない。入り口の両脇には同じく槍を持った人猫の兵が二人立っている。)

(2コマ目:サンドラが間を通り抜けると、突然兵たちはガッと槍を交差させて後ろにいたナオミの行く手を遮った。)

失礼!

なっ⁉︎

16ページ目

(1コマ目:交差された槍の向こうにいるナオミを指差しながら、横にいる人猫の兵に向かって声を荒げるサンドラ。)

おい、そいつは
私の警護だぞ!

総理大臣閣下、
これより先は我々
王室近衛兵が守りし
王家の領域です。

(2コマ目:もう一人の近衛兵も口を開く。)

申し訳ありませんが、
騎士団の方は
お進みになれません。

(3コマ目:急に不安そうな顔になってナオミを見つめるサンドラ。)

…………。

総理…

(4コマ目:ナオミを見つめたままのサンドラ、棒立ちでそれを見つめ返すナオミ。その行く手を槍で遮り、二人の間に立ちはだかる二人の人猫の近衛兵。)

……仕方ない。
警備部長、その辺で
待っていろ。

(5コマ目:緊張した面持ちで真っ暗な部屋の中を進んでいくサンドラと、部屋の外でそれを見送るナオミ。)

かしこまり
ました。

(6コマ目:槍を縦に戻し直立姿勢に戻った二人の近衛兵。ナオミは入り口から少し離れたところでやれやれと言った風に右手をおでこに当てている。)

まずったな…そんな
しきたりがあったとは。
下調べが足りなかった
か……。

17ページ目

(1コマ目:上から見た王宮。建物のてっぺんは広々とした空中庭園になっており、芝生が生い茂り、木々や池が植えられている。)

(2コマ目:暗い室内から日光が降り注ぐ庭園に足を踏み入れるサンドラ。)

(3コマ目:庭園の中央には石でできた四角いエリアがあり、その真ん中に付いた屋根が小さな日陰を作っている。日陰の中にはテーブルと二つの椅子があり、サンドラから見て手前の椅子には何者かの背中があった。)

18ページ目

(1コマ目:明るい日差しの中立ち並ぶ木々。チュンチュンとどこからか小鳥の鳴き声が聞こえる。)

(2コマ目:脇にある池では水面が揺れ、中には魚の影が見える。)

(3コマ目:サンドラの目の前の椅子には騎士風のジャケットを着た長毛の人猫が座っていた。こちらに背を向け、新聞を読んでいる。)

(4コマ目:お辞儀をするサンドラと、背を向けたままバサッと新聞をめくる音を立てる人猫。)

国王陛下。

君が新しい
総理大臣か。

(5コマ目:椅子から動きすらしない国王とその背面に立ったままのサンドラの間には距離がある。)

ベテグラース君……
だったかな。こうして
言葉を交わすのは
初めてだね。

は、はい。

19ページ目

(1コマ目:不安そうな若き総理大臣の横顔。)

……
えっと、
その…

……相席しても
よろしいですか?

(2コマ目:その言葉に、王の耳がピクッと動く。)

(3コマ目:厳粛に背中で語る王に対し、慌てて顔中に冷や汗を流すサンドラ。)

……謁見の場では
王は臣下と対面せぬのが
ならわしだ。

えっ⁉︎
そ、そう
なんだ…

た、た、大変
失礼いたしました。

(4コマ目:椅子がギッと音を立て、王が立ち上がる。)

だが、まぁ……
構わんだろう。

(5コマ目:そのままサンドラから遠ざかり、テーブルの反対側に歩いていく。)

あ、あの…

20ページ目

(1コマ目:こちらを振り向いた王。ふわふわの長毛で薄いハチワレ模様に髭を蓄えたその人猫は、優しい目で総理を見つめていた。王の服は騎士の制服に似ているが、派手な装飾が最上位の階級であることを示している。)

そんなに固く
ならんでもよい。
気楽にやろう。

お掛けなさい。
今、茶を
入れさせる。

(2コマ目:初めて間近で目にした王の素顔を少し驚きつつ見上げているサンドラ。)

(3コマ目:王は自分が座っていた椅子をサンドラに譲り、自分はその反対側にあった椅子に座ろうとする。サンドラも屋根の下に入る。)

ふむ……
新聞に載ってる
似顔絵はあまり
似てないな。

え、あ…
あはは、
そうですね。

21ページ目

(1コマ目:カップに入った熱いお茶、急須、テーブルの上で開かれたノート。)

(2コマ目:小さな屋根が作る日陰の下、丸いテーブルに向かい合って座る君主と宰相。)

……このような計画のもと、
全国に段階的に学校施設を
建造していきます。

これが私の考える
教育制度の拡充への
道のりです。

(3コマ目:頬杖をつき、カップを片手に目を閉じて耳を傾けていた王。)

なるほど…
君の考えは
よく分かった。

…………。

(4コマ目:不安な表情で目線を下に落とし、どこか遠くを見ているサンドラ。)

……陛下も、
私の教育政策に反対
なさるでしょうか。

(5コマ目:目を見開く王。)

なぜ私が
反対すると?

国民皆学が実現すれば、
この国は良くも悪くも
大きく変わります。

マタタビ党は
猛反対しています。
人猫文化が
破壊されると…。

22ページ目

(1コマ目:悲しげな表情で下を見つめているサンドラ。)

やはり、私どもの行いは
人猫の陛下には間違いに
思われるでしょうか。

(2コマ目:その様子をじっと見つめる王の眼差し。)

……。

(3コマ目:テーブルに置かれた王のカップがコトと音を立てる)

…私は君主として、
君の政策に賛同する
ことはできない。

(4コマ目:諦めたような、少しほっとしたようにも見える表情を滲ませるサンドラ。)

陛下、
それでは…

反対する
こともだ。

(5コマ目:総理大臣をまっすぐ見据えたまま、毅然とした態度で語り続ける王。)

憲法の定めにより、
王は常に
政治的中立の
立場を守る。

例え種族が異なる
相手であっても
決して否定は
しないのだよ。

23ページ目

(1コマ目:語り続ける王と、その言葉に驚き、目を丸くして顔を赤ているサンドラ。)

君は民に道を示し、
民は君を信頼して
国を託した。

自分に自信を持ち、
迷わず進みなさい。

(2コマ目:サンドラは少し落ち着きを取り戻したが、まだ頬が少し赤い。)

…陛下の御命令と
あらば。

(3コマ目:和やかに、くしゃりと笑う王。)

君主は首相に
命令することは
できない。

これは
私から君への
励ましの言葉だよ。

24ページ目

(1コマ目:絵のないコマ)

また次回の
謁見でな、
総理大臣。

国王陛下。

(2コマ目:鼻歌を歌いながら庭園から建物内に戻っていくサンドラ。)

(3コマ目:薄暗い室内をズンズン歩いていくサンドラは鼻息を荒くし、自信満々と言った表情だ。)

(4コマ目:再び、総理大臣官邸。)

臨時議会を
開く⁉︎

(5コマ目:早足で地面を進んでいく黒いスーツとドレスの足下。)

そ、そんな無茶な!
今は地元に帰ってる
議員もいるのに…

ああ、直ちに
全員を呼び戻し、
国民皆学法案の
審議を始めねば。

(6コマ目:馬車から飛び出してきたサンドラを、迎えた官房長官、続いてナオミが追う。大真面目に浮かれた顔のサンドラを尻目に、二人の部下は慌てている。)

マタタビ党の
連中になんて
言われるか…!

それに肝心の
法案はまだ
草稿段階で…

その通りだ、
大急ぎで
仕上げるぞ‼︎

25ページ目

(1コマ目:明後日の方向を見上げながら右腕を振り上げるサンドラ。)

ちんたらしている
暇はないぞ!
国民が我々を待って
いるからな!

改革の勢いを
止めてはならない!
鉄は熱いうちに
ぶっ叩けだ!

(2コマ目:ハハハ、と高らかに笑いながら建物内に去っていくサンドラ。戸惑い立ち止まった官房長官とナオミは顔を見合わせる。)

王様に会って
一体何を
言われたの…?

さ、
さぁ…

(3コマ目:場面は変わる。広々とした地面にそびえ立つ、流線型と直方体が組み合わさった近代的な大きな建物。)

王国議会議事堂

(4コマ目:ザワザワと騒がしい室内。数列の長椅子に議員たちが並んで座っている。最前列にはサンドラ、副総理、官房長官ら閣僚の姿も見える。議員たちは各々隣に座っている議員と上機嫌に会話している。)

静粛に!
皆さん静粛に!

(5コマ目:サンドラたちと向かい合うように、反対側にも数列の長椅子があり、最前列にはマタタビ党の党首の顔もある。野党側の議員たちもガヤガヤと話し込んでいるが、サンドラたちとは対照的に不機嫌な様子だ。)

26ページ目

(1コマ目:長い長方形の会議場。左右両側に向かい合って並んだ長椅子は劇場のように中央にいくにつれ低くなっている。その椅子を埋め尽くすのは数百人の議員たちだ。)

(2コマ目:大きな背もたれの古い椅子に座った老眼鏡にケープを羽織った人猫の議長が、手元の紙を読み上げる。)

集計の結果、賛成多数。
よって国民皆学法案は
可決いたしました。

(3コマ目:与党側の椅子に座っていた議員たちが一斉に立ち上がり、ワアアアと歓声を上げ、各々が持っていた紙資料を頭上に放り投げた。)

(4コマ目:紙吹雪のように資料が舞い、笑顔がいっぱいの与党側席の中で、サンドラ一人だけは椅子に腰掛けたまま、目を閉じ静かに微笑んで大仕事を終えた実感を噛み締めている。)

これで…
良かったん
だよな。

(5コマ目:野党側席では怒号が飛び交い、議員たちが拳を振り上げている。マタタビ党の党首は眉間にシワを寄せ、腕を組んで総理大臣を睨んでいる。)

………。

27ページ目

(1コマ目:建物内の明るい廊下。部屋の中からゾロゾロと出てくる大勢の笑顔の議員たち。その様子を壁際に立ったまま眺めているナオミ。)

(2コマ目:総理の声に気付き、振り向くナオミ。)

勝ったぞ、
警備部長。

(3コマ目:少し誇らしげに歩いて出てきたサンドラ。)

総理、
おめでとう
ございます。

(4コマ目:人混みの中でナオミに顔を近づけ、耳打ちするように話しかけるサンドラ。)

私は資料室で
少し休む。

後で迎えに
来い。

(5コマ目:そのまま議員たちと共に去っていくサンドラ。ナオミは反対方向に歩き出す。)

分かり
ました。

(6コマ目:後ろを見ながら片手で自分の前髪を撫ぜるナオミ。その顔は安心したような安らかな笑顔をしている。)

しばらくは上機嫌が
続きそうだな。
私も楽ができそうだ。

28ページ目

(1コマ目:しんと静まり返った広々とした空間。かなり高いところにアーチ状の天井がある。)

(2コマ目:巨大で荘厳な空間には天井を支える丸い柱が規則正しく立ち並び、丸いカーブを帯びたデザインの本棚がその間を縫うように並んでいる。その広々とした滑らかな床を歩くサンドラの他にはひとっこ一人いない。)

(3コマ目:サンドラは本棚に囲われた空間で、台座の上に置かれた一体の石像を静かに見上げていた。マントを羽織り甲冑に身を包んだ人間の戦士の実物大サイズの像だが、剣の先端や左脚に左腕は欠け、顔も大きく抉られたように欠損しており人相は分からない。)

(4コマ目:石像を見上げるサンドラの横顔は、どこか誇らしげだ。)

29ページ目

(1コマ目:コツコツコツ、とサンドラの背後から近づく足音。)

(2コマ目:像を見上げたまま語り始めるサンドラ。)

…200年前、
魔王を倒した
勇者の像だ。

(3コマ目:勇者の像の顔のない頭部。)

どんな人間だったのか…
勇者の姿をかたどった
像や絵画はほとんど
現存していない。

大まかな形が
残っているだけでも
この一体はかなり
貴重だ……

(4コマ目:尚も像を見上げたままのサンドラの後ろ姿。)

私はな、警備部長。
時々この像を見に
ここに来るんだ。

(5コマ目:少し照れ臭そうな笑顔で振り返るサンドラ。)

そして思い出すんだ。
私たち人間にもできる
ことがあるのだと…

勇者と同じ種族
であることに
私は誇りを……

(6コマ目:しかし、その笑顔は一瞬で凍りついた。背後から近づいてきた人物の予想より高い位置にある頭がサンドラの驚いた顔に影を落とす。)

30ページ目

(1コマ目:そこにいたのはマタタビ党首だった。恐怖するサンドラに向かってほんの数センチまで顔を近づけ、牙を剥き出し燃える火山のように激怒している。)

ひっ‼︎

ベテグラース!!

(2コマ目:じりじりと詰め寄るマタタビ党党首と、後退りする小柄な人間。)

貴様、よくも
私の忠告を無視
してくれたな‼︎

(3コマ目:背中が本棚に着くところまで追い詰めらたサンドラ。汗を流し、目線を泳がせる。)

一体どうして
くれるんだ、
ええ⁉︎

だ、だから…
あの法案は
公約で……

31ページ目

(1コマ目:サンドラの顔の横の本棚を殴りつけるマタタビ党首。ドカ、と大きな音がして、サンドラは思わず目を閉じる。)

ふざけるな‼︎

(2コマ目:本棚が揺れ、大量の本がドサドサと落ちてくる。)

(3コマ目:本棚にパンチした方の腕を当てたまま、サンドラの小さな身体を覆うように立ち塞がり、怒鳴り続ける人猫。)

人間!
あまり調子に
乗るなよ。

総理大臣に
なって偉くなった
つもりか?

(4コマ目:資料室を歩いてきたナオミがその光景に気づく。)

(5コマ目:思わず本棚の後ろに隠れてしまうナオミ。)

な、なん
だ⁉︎

(6コマ目:本棚の影から不安げに様子を伺うナオミ。)

マタタビ党?
一体何を…

い、いや、
それより
どうしよう⁉︎

32ページ目

(1コマ目:本棚の影に隠れたナオミの向こうで、総理に向かって怒鳴り続けるマタタビ党首。)

貴様ら人間など所詮は
まともな判断力もない、
感情だけの種族だ!

(2コマ目:二人の方に向き直り、歯を食いしばるナオミ。)

誰のおかげで
この国が成り立って
いるのか考えろ!

お飾りの首相で
おればいいものを、
貴様は……

(3コマ目:ザッと本棚の影から飛び出したナオミの足。)

(4コマ目:仁王立ちになって二人に向かって叫ぶナオミ。)

総理から離れろ‼︎

33ページ目

(1コマ目:泣きながらこちらに視線を向けるサンドラと、振り向きながらこちらを睨みつけるマタタビ党首。)

お、お前…

なんだぁ…?

(2コマ目:ナオミは相変わらず不安げに冷や汗を流しているが、それでも目は逸らさず、左手を前で開く。)

総理、
こちらへ。

(3コマ目:そのまま二人に歩いて近づくナオミと、それに向かってダッと駆け出すサンドラ。)

警備の騎士
風情が…!

(4コマ目:人猫は怒り顔でこちらに向かってくる。)

私は今大事な話を
してるんだ!
邪魔をするな‼︎

(5コマ目:ナオミの右手。シャッと音がして抜かれる警備部長のサーベル。)

34ページ目

(1コマ目:ナオミの背中に回り込んだサンドラ。バッとサーベルをマタタビ党首に向けるナオミ。必死の形相の騎士を前に、人猫は少し戸惑い、足を止めた。)

なっ⁉︎

(2コマ目:サンドラ、ナオミ、そしてマタタビ党首は互いに牽制しあって動かない。)

…お前、自分が誰に
剣を向けているのか
分かっているのか?

誰でも
関係ない!

35ページ目

(1コマ目:正義感溢れるナオミの横顔。)

私が官邸の
警備部長で
いる間は…

私は官邸の
仲間を守る!

(2コマ目:その警備部長の様子に嫌悪感をあらわにし、目を細めるマタタビ党首。)

………。

(3コマ目:泣き顔のサンドラと剣を構えたままのナオミに向かって口を開く人猫の後ろ姿。)

ふん、いいだろう。
今日のところは
引き下がってやる。

だが覚えておけ!

(4コマ目:人猫の丸い手で人差し指を上げ、こちらを指差す怒り顔のマタタビ党首。)

こんなデタラメな
政治を続けていれば
数年で政権は崩壊だ。

かつての
スイレン党政権と
同じようにな!

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(1コマ目:泣きながら少し視線を落としているサンドラ。)

あの邪教徒どもが
与党時代めちゃめちゃに
したこの国を、一体誰が
立て直したと思う?

(2コマ目:怒りに満ちたマタタビ党首の口からは牙が覗いている。)

尻拭いをするのは
いつも我々、
マタタビ党だ!

(3コマ目:立ち去りながら小馬鹿にしたような表情でナオミを見下ろしている人猫。)

私が次の総理大臣に
なった暁には
警備部長のポストも
入れ替えだな。

人間に身辺警護を
任せる理由など
私にはないからな。

(4コマ目:ナオミの複雑な表情。)

………。

(5コマ目:鬼のような形相のまま去っていくマタタビ党首の背後で、ナオミとサンドラの二人は動かない。)

二人とも、
せいぜい今のうちに
官邸暮らしを楽しんで
おくんだな……

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(1コマ目:どさっと膝から崩れ落ちるサンドラ。)

(2コマ目:カシャッと剣をさやに戻して振り返るナオミ。サンドラは地面に座ったまま顔を覆って泣いている。)

はああ〜…
怖かった…

(3コマ目:静けさを取り戻した資料室。顔を覆ったままのサンドラの前で膝をつき、手を伸ばすサンドラ。)

大丈夫です、
もう大丈夫ですよ、
あいつはいなく
なりました。

(4コマ目:パシッ、っとその手を手で払い除けるサンドラ。)

触るな!

(5コマ目:ひっく、ひっくと震えながら泣いてるサンドラを、可哀そうな顔で見つめるナオミ。)

総理…

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(1コマ目:どん、と軽い衝撃によろめく。ナオミの肩に、サンドラが顔をうずめてきたのだ。)

(2コマ目:顔を赤らめ、両手を上げて慌てるナオミの胸で、サンドラは声もなく泣きじゃくっている。)

あ、あの…?

(3コマ目:戸惑いながらサンドラの頭を見下ろすナオミ。サンドラは顔を上げずにか細い声を上げる。)

すまない…
ナオミ。

(4コマ目:顔をますます赤くし、戸惑い目を泳がせるナオミ。)

…い、いえ。

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(1コマ目:両手を組み、あまり身体を触れないようにしつつ、それでも顔をナオミの肩に押し付けながら大声で泣きじゃくるサンドラ。その声が聞こえているのかいないのか、ナオミは戸惑いながらサンドラをそっと抱き寄せている。)

なんだ…?

なんなんだ、
この気持ちは…

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(1コマ目:曇り空と官邸の建物。)

──それからしばらくは
大きなトラブルもなく、
いつしか季節はゆっくり
変わり始めていた。

(2コマ目:入り口の両脇に立っている警備の人猫二人。片方が大きなクシャミをする。)

ぶへっちょい!

最近寒くなって
きたな。

(3コマ目:室内。ドアを開けて入ってきたのは、少し焦った表情の副部長。)

警備部長。

(4コマ目:大量の紙束や本に埋もれそうになりながら書類に何かを書いていたナオミが顔を上げる。)

おう、どうした
副部長。

身元の怪しい客は
厳しくチェック
するよう
仰せでしたよね。

(5コマ目:のんびりとしたナオミの横顔と、その正面に立つ副部長。)

ああ、
言ったが…

その、先ほど

人間のお客様
がいらして…

身分証をお持ちで
なかったので、別室で
お話を聞いている
ところなのですが…

(6コマ目:やれやれと言った表情で右手を頭にあて、ガタッと立ち上がるナオミ。)

…分かった、
私が行く。

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(1コマ目:不機嫌に廊下を早足で歩くナオミとそれに続く副部長。)

あんの色ボケ、
また官邸に部外者を
呼んだのか?

全く…外で人間に会う
機会は定期的に作って
やってるだろうが…!

(2コマ目:部屋の扉を開きながら上官を振り返る副部長と、そのままの勢いで部屋に突入しようとするナオミ。)

このお客様ですが、
少し変わっていまして、
一体どういうわけか…

ん?

(3コマ目:部屋の中には警備の騎士と人間の客がテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。その客の顔を見てナオミはドタと床に崩れ落ちる。)

警備部長の
お母様を自称
してるんです。

ナオミ!

(4コマ目:ドアの外から恐る恐る中の様子を伺う副部長と、怒り沸騰寸前の面持ちで起き上がるナオミ。)

どう思われ
ますか?

ああ、
私の母だ。
本物のな。

(5コマ目:絵のないコマ)

あとは私が応対する。
諸君は下がってよい。

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