Amaitorte

全12話予定 R-15 

フェリスマンの国

第5話 優しい思い出

1ページ目

(1コマ目:夕方の空。険しい色の雲。)

うわっ‼︎

(2コマ目:ドスッ、という重い音と共に背中から地面に叩きつけられたのは甲冑姿の人猫の騎士だった。)

(3コマ目:痛みに顔を歪める細目の灰色の人猫。そばには木剣が落ちている。)

いてて…

(4コマ目:人猫の眼前にサッと差し向けられる木刀のきっさき。)

2ページ目

(1コマ目:夕方の空の下、何人かの人猫たちが見守る中、灰色の人猫が見上げた先には、肩まで伸びた長い黒髪の人間の騎士が居た。百人隊長時代のナオミだ。)

第5話

優しい思い出

(2コマ目:上体を起こし、ナオミを見つめながら苦笑いを浮かべる灰色。)

…もう、隊長は
容赦ないんだから…

(3コマ目:ニヤリと歯を見せて笑う甲冑姿のナオミ。)

キッシッシ。

お前が弱いのが
悪いんだよ。

3ページ目

(1コマ目:がしっとお互いの腕を掴み合う、人間と人猫。ナオミはそのまま灰色を引っ張り上げる。)

(2コマ目:二人の様子を見ていたギャラリーの騎士たち。)

あーあ、グーベン副長
今回も勝てなかったか。

(3コマ目:残念そうにしつつも満足げに笑う人猫たち。)

あれでも
人猫同士なら
負けなしなのにな。

ははっ、
隊長が相手じゃ
仕方ねぇさ。

(4コマ目:徐々に深みを増す夕焼け。)

今日の訓練は
ここまで!

(5コマ目:横に並んだナオミとグーベン。その前には大勢の人猫の騎士たちが整列している。)

明日はいよいよ
作戦の決行日となる。

今夜はしっかりと休息し、
英気を養っておくように。
以上!

4ページ目

(1コマ目:夜。三日月の下、人口の光で眩しく照らされた副都の街並み。)

(2コマ目:川に掛かった橋の上を行き交う人猫たちの中に、一人端の手すりにもたれかかって立っているグーベン。)

(3コマ目:明るい色のジャケット、スラッとした黒いズボン。平服姿のグーベンは、片手をジャケットのポケットに突っ込み、もう片方の手で懐中時計を眺めている。)

(4コマ目:そこに近付いてきたナオミの後ろ頭と、ナオミに気付いて笑顔になるグーベン。)

グーベン。
すまん、遅くなった。
待ったか?

ああ、いえ、
私もさっき
来たとこ…

5ページ目

(1コマ目:照れ臭そうに身をよじりながら歩み寄ってくるナオミ。ジャケットを羽織り、首元にはリボンを巻いている。パンプスを履き、真っ白いスカートに不釣り合いなサーベルを腰から下げている。ナオミは不服そうな表情だが、その頬は赤らんでいる。)

…って、隊長!
なんですか、
その格好⁉︎

な、なん
ですかって
お前…

何かおかしい
かよ。

(2コマ目:ナオミの様子を見て優しい笑みを浮かべるグーベン。)

(3コマ目:端の真ん中で対峙するグーベンとナオミ。)

……平服なのに
佩刀してるのが
おかしい。

なっ…⁉︎

ば、馬鹿もん!
騎士たる者が
丸腰で出歩けるか!

6ページ目

(1コマ目:赤くなりながら怒り顔でずんずん歩くナオミ。)

……いや、
本当のことを
言うとな…

(2コマ目:通りを行くナオミとグーベン。)

きょ、今日はその…
大事な儀式だろ?
だから持参したんだ。

そら殊勝なことで…
でも儀式用の刀って
小刀なんじゃ…?

(3コマ目:絵のないコマ)

う、うるさいな!
似たようなもんだろ、
小刀は無くしたんだ!

あなたって人は…
律儀なんだか、
適当なんだか…

ああ、もう、
いいから
早く行くぞ!

(4コマ目:打って変わって、街灯すらない薄暗い通り。建物からぶら下がる看板が光る。)

宿屋

(5コマ目:小さな建物が立ち並ぶ人気のない暗い通りで、宿屋の前で立ちすくんでいるグーベンとナオミ。)

…着きましたね。

………。

7ページ目

(1コマ目:薄暗い室内。緊張した面持ちで腰から外した刀の鞘を持っているナオミ。)

(2コマ目:カチャ、と静かに刀をベッドサイドテーブルに立てかける。)

(3コマ目:部屋の天井。)

…なぁ、こんなこと、
本当に必要なのか?

なんですか、
今更。

(4コマ目:真っ白い浴衣に着替えたナオミ。ベッドの真ん中に座り、俯いて怒ったような顔をしている。)

……もし、
私が相手では嫌だと
おっしゃるなら、
今からでも…

べ、別に
お前が嫌だとは
言ってない!

ただ…古臭くて
馬鹿げた風習だと
思っただけだ。

8ページ目

(1コマ目:自分の死角で気まずそうにしている、同じく浴衣姿のグーベンに向かって話しかけ続けるナオミ。)

婚前式なんて…

(2コマ目:ベッドの上で正座しているナオミに、同じように話しかけるグーベン。)

…合理的な習慣だと思います。
体格が大きく違う種族同士
ですから。

結婚した後で、その…
相性が悪いことが分かると
それは悲惨らしいですよ。

…………。

(3コマ目:少し寂しそうな目になるナオミ。)

グーベン、
お前こそ…

…嫌じゃないのか、
私なんかが相手で。

9ページ目

(1コマ目:そっぽを向いているナオミと、振り向いてナオミに近づいていくグーベン。)

私の方が
年上だし…

隊長。

ガサツだし…
戦うことしか
能がなくて…

人間らしい
ところなんて
何も…

(2コマ目:目を合わせないナオミ。)

やっぱり、
お前にはもっと
ふさわしい
やつが…

隊長!

(3コマ目:グーベンがナオミの手を取り、ぎゅっと優しく握る。)

(4コマ目:振り向いたナオミ。ベッドに上がっていたグーベンが、ナオミの目をしっかりと見据えながら両手でナオミの手を包む。)

嫌なわけ…
ないじゃない
ですか。

10ページ目

(1コマ目:グーベンの真剣な眼差し。)

世間の言うこと
なんて関係ない。

あなたは
素敵な人です。

あなた以外の
人なんて
考えられない。

(2コマ目:グーベンを見上げ、嬉しそうに顔を赤らめるナオミ。)

グーベン…

(3コマ目:向かい合う二人。)

私も……
同じ気持ちだ。

お前以外のやつと
一緒になるなんて、
あり得ない。

(4コマ目:絵のないコマ)

大丈夫、
大丈夫です。

きっとうまく
いきます。

ああ、
そうだな…

11ページ目

(1コマ目:二人の腕と腕。)

(2コマ目:グーベンの笑顔に触れるナオミ。)

……隊長、
平気…ですか。

どうだ…見たか。
何も…問題など、
なかっ…たな。

ええ…
そうですね…

(3コマ目:抱き合う二人。)

これで…

ああ…私たち、
結婚できる…な。

12ページ目

(1コマ目:暗い部屋の中。ベッドに仰向けになっているグーベンは無表情に目を閉じている。ナオミはそのグーベンの上に乗っかるようにうつ伏せになっている。)

(2コマ目:放心状態でどこか遠くを見ているナオミ。両腕や背中にはあちこちに古い切り傷が見える。)

ふわふわ……

13ページ目

(1コマ目:暗い部屋。閉じられたカーテン。)

………明日の作戦で、
私たち……死ぬかも
しれないんだよな…。

………。

(2コマ目:絵のないコマ)

…大丈夫です。

(3コマ目:絵のないコマ)

あなたのことは、
私が必ず守ります。

(4コマ目:少し怖くなったように目を見開くナオミ。)

(5コマ目:しかし、すぐに目を閉じ、安堵の表情を浮かべる。)

……そうか、
頼もしいな。

14ページ目

(1コマ目:明るい空。遠くに見える山々。その下には深い森が生い茂る。)

(2コマ目:暗い森の奥からドドドドと地鳴りのような音を立てながら、全速力で走ってくる集団。陰になってよく見えないが、それは馬に乗った一段らしい。)

(3コマ目:轟音と土煙を上げながら走る馬の脚。)

(4コマ目:暗闇から徐々に姿を現す馬に乗った人猫たち。)

(5コマ目:何十人もの人猫が、長い槍を持ち、鎧を着て馬にまたがり、怒った顔をしながら森の中を走っている。副都騎士団の騎馬部隊だ。)

15ページ目

(1コマ目:部隊の中に一人だけ混じった人間の顔。肩まで伸びた長い黒髪を風になびかせ、真剣な面持ちで馬を駆るのは隊長のナオミだ。)

(2コマ目:横から明るい足音を響かせながら走り寄ってくる馬の脚。)

(3コマ目:それに気付いたナオミの目元のアップ。)

(4コマ目:近寄ってきた馬に乗っているグーベンは、ナオミの少し前を走りながら横目で微笑んでいる。グーベンに向かってナオミが話し掛ける。)

副長!
あまり前に
出過ぎるな!

ははっ。
置いてきますよ、
隊長!

(5コマ目:プープププーと進軍ラッパをを鳴らす別の人猫。)

16ページ目

(1コマ目:前方の光景。森を抜け、広々とした野原に敵の軍勢が集結している。)

(2コマ目:ワアアアアと雄叫びを上げながらこちらに向かってくる敵軍。その構成は、鎧をまとった二足歩行の犬、鳥、ウサギ、スライム状の軟体生物など、様々な生き物の集合体だ。)

(3コマ目:ナオミは腰のサーベルを抜いて敵軍に向け、大声で叫ぶ。)

突撃‼︎

17ページ目

(1コマ目:歩兵、騎兵が入り混じった人猫の騎士団と、その中心で剣を振り上げながら叫ぶナオミ。猛進する彼らの眼前には、同じようにこちらに突進してくる様々な生き物の軍団が広がっている。)

魔王軍の
残党どもを…

皆殺しに
するのだ‼︎

隊長!

(2コマ目:絵のないコマ)

隊長!

18ページ目

(1コマ目:野原に立ち上る黒煙。)

(2コマ目:ズザザ、と滑りながら急停止する馬。その上に乗っていた騎士が叫ぶ。)

隊長!

(3コマ目:あちこちではまばらになった騎士と魔物が争っている。馬を降りた騎士が駆け寄る先には、横たわる人猫を介抱しようとしているナオミの姿がある。)

何やってるん
ですか!

グーベン!
グーベン!

おい、
しっかりしろ!

(4コマ目:緊張した面持ちで周囲を警戒しながらナオミの後ろで跪いた騎士。ナオミは横たわったグーベンに視線を落としたままだ。)

ここは危険です!
早く移動を…

大丈夫だ、
この程度の傷なら
すぐ良くなる。

気をしっかり
持て!

(5コマ目:異変に気付き、ナオミを見る騎士。)

…隊長?

19ページ目

(1コマ目:横たわるグーベン。見下ろす騎士。ナオミはグーベンの腹部を手で一生懸命おさえているが、既にあたり一面は血で真っ赤に染まり、グーベンはぴくりとも動かない。)

グーベン!
どうした、
返事をしないか。

…………。

……隊長、
グーベン副長は
もう……

(2コマ目:ナオミの周囲に騎士が集まってくる。部下たちがざわざわと驚き、戸惑いの目を向ける中、隊長の頬には涙が流れている。)

私がついて
いるぞ、
グーベン。

必ず無事に
連れて帰って
やるからな。

………。

ずっと一緒だ、
グーベン。

(3コマ目:場面は変わり、昼間、街に隣接したどこかの森の中。)

20ページ目

(1コマ目:木々に囲われた草原を一人で歩くナオミ。髪の毛はばっさりショートになり、ジャケットとスカートの軍服を着ている。手には何かの瓶と花束を持っている。周囲の地面には、たくさんの白い長方形の石が規則正しく並んでいる。)

(2コマ目:石はどれも同じ形で、上から見ると縦長の板状で、一つが人の大きさほどだ。それぞれ、表面には何か文字が刻まれている。地面に仰向けに埋められた無数の墓標。そこは墓場であった。)

(3コマ目:一つの石の前に立ち止まるナオミ。)

(4コマ目:石を見下ろし、笑顔になるナオミ。)

…やあ、
グーベン。
今日も来たよ。

21ページ目

(1コマ目:空を見上げるナオミの残念そうな顔。)

王都の実家には
手紙を書いたよ。
結婚は…できな
かった…とだけ。

…詳しいことを
説明する気には
なれなくてな。

(2コマ目:皮肉っぽく笑うナオミ。)

ま、どうでも
いいよな。
実家なんて。

(3コマ目:視線を落とす。)

あれから
一月ほどに
なるか…

(4コマ目:急に顔を上げ、照れ臭そうに自分の髪の毛を触る。)

…ああ、この髪な。
昨日久しぶりに
街に出て…

切ってもらった。
…気に入ってくれる
といいんだが…。

(5コマ目:片手に持っていた花束と酒瓶を見せびらかすナオミ。)

それにほら、
お前が好きだった酒。
一緒に飲もうと思って
探してきたんだ。

(6コマ目:うっとりとした笑顔のまま、ゆっくりと屈み込んでいく。)

…今日も一日、
楽しく過ごそうな、
グーベン。

22ページ目

(1コマ目:ゆっくりと目を開けるナオミ。)

(2コマ目:窓の外からは傾き始めた日の光が黒いドレス姿のナオミを照らしている。ナオミは自宅の自分の部屋で椅子に腰掛け、頬杖をついてうたた寝をしていたところだった。)

………。

…また、
あの頃の夢か…

(3コマ目:絵のないコマ)

…ああ、そうか。
もうすぐ舞踏会に
行く時間だ。

23ページ目

(1コマ目:首相官邸の建物。)

(2コマ目:何か書類の束を持ちながら総理の執務室に入ってくる官房長官。)

サンドラ〜、
聞いて
くれよ。

この間可決させた
国民皆学法のこと
なんだけど…

(3コマ目:サンドラは机に突っ伏して眠っていた。机の上には書類の山が築かれている。)

う、う〜ん…

…あ、寝てた?
ごめん…

(4コマ目:疲れた様子で頭を起こすサンドラ。メガネがずれている。)

……んあ?
…お前かよ。

勝手に入って
くるなよな…。

(5コマ目:目を擦るサンドラと、心配そうな様子の官房長官。)

目が赤いな…
また泣いて
いたのか。

…この書類の
山は?

24ページ目

(1コマ目:ゆっくりと立ち上がるサンドラ。)

私たちの
政策に対する
抗議の手紙だ。

王国中の豪族やら
行政官やら…
マタタビ党に焚き
付けられた連中さ。

そんなものに
わざわざ
目を通してるの?
自分一人で…

持って
こられた
以上はな。

(2コマ目:官房長官の手に握られている紙の束。)

ところで、
お前はなんの
用なんだ?

(3コマ目:慌てて紙束を背中に隠す官房長官と、訝しむサンドラ。)

え、あ…いや…
ちょっと君の
様子を見にね。

明日から
しばらく
会えなく
なるでしょ。

(4コマ目:部屋の隅の棚に置かれていたグラスと酒の入ったガラス瓶に手を伸ばすサンドラ。)

…君、
寝巻きで
仕事してた
のかい?

寝坊して着替える
暇がなかったんだよ。
あのバカが起こしに
来なかったからな。

(5コマ目:サンドラと官房長官の後ろ姿。)

朝から出掛けて
やがるんだ。
全くどこで何を
してるのやら…

あのバカ…
って、
警備部長の
こと?

25ページ目

(1コマ目:酒を口に運ぶサンドラの背後でにやけ笑う官房長官。)

なんだ、
知らなかったの。
もう官邸中で
うわさに
なってるよ。

コンカツだよ、
コンカツ。

(2コマ目:ぶっ、と勢いよく口から酒を吹き出すサンドラ。)

(3コマ目:げほっ、げほっ、ぐへっ、と苦しそうに咳き込むサンドラ。)

ちょ、
大丈夫?

(4コマ目:振り返るサンドラと対面する官房長官。)

…お前、
今なんて
言った?

だから婚活。
お婿さん探し
だよ。

26ページ目

(1コマ目:屈託のない笑顔の官房長官と呆れた顔のサンドラ。)

舞踏会に行くんだってさ。
ブリブリなんとか伯爵
って人が主催の。

ブリブリ
って…

ブリリスケイフォリース
伯爵のことだな…。

(2コマ目:絵のないコマ)

知ってるの?

王都の北に住んでる
チンケな貴族家だ。
あいつと知り合いとは
知らなかったが…

(3コマ目:官房長官の横顔。)

なんかお母さんに
誘われたっぽいよ。
結婚相手を見つけて
もらうんだって。

(4コマ目:人猫のセリフに、顔を曇らせるサンドラ。)

その伯爵の交友関係は
分からないけど、
良い相手が見つかると
いいねぇ。

婿探し…?

あいつが……?

…………。

27ページ目

(1コマ目:絵のないコマ)

ね、サンドラ。

…サンドラ?
ねぇ、聞いてる?

(2コマ目:夜。何軒もの町屋敷がひしめく御屋敷街。一軒の建物の前の通りが一際明るく輝いている。)

(3コマ目:立派な屋敷の入り口。渋滞した馬車から降りてきたジャケット姿の人猫やドレスの人間が、煌びやかな灯の中に次々と入っていく。)

(4コマ目:弦楽器の音色が鳴り響く中、豪華なダンスホールの中では大勢の人猫、人間が踊っている。)

28ページ目

(1コマ目:談笑する人々。)

(2コマ目:音楽に合わせて踊る人々。)

(3コマ目:人猫、人間でごった返す屋敷の中に入ってきた黒髪の三人組。屈託のない笑顔で明るい色で肩を大きく出したデザインのドレスを着ているナオミの妹。その隣で落ち着いた雰囲気のドレスに堂々と身を包んでいる母親。そして不機嫌そうな表情で黒いゴシックなドレスを着ているのはナオミだ。)

わー、人が
いっぱい。

二人とも、
粗相のない
ようにね。

ふん…。

29ページ目

(1コマ目:明るい笑顔で横を振り向く妹と、それを訝しむナオミ。)

パンドーロ様!

(2コマ目:そこに立っていとぼけたにやけ顔のブチ模様の人猫の紳士に歩み寄る妹。)

やあ、
ミヤコさん。

誰だ、あの
オッサン…

(3コマ目:ナオミに耳打ちする母親と、少し戸惑っているナオミの横顔。)

ほら、前に
教えたでしょう。
あの子の
結婚相手の…

あ、ああ…

あれが例の
『隣町の男爵家の
ご子息』ね…

(4コマ目:笑顔で談笑しているパンドーロ様と妹。)

そうか…
あれが我が妹の
夫になるのか…

ふ〜ん……。

30ページ目

(1コマ目:ザワ、ガヤガヤと騒ぎ始める客たち。)

(2コマ目:ザワザワと驚いた顔で一斉に部屋の入り口の方に注目する。)

え、うそ…!

(3コマ目:緊張した面持ちで周囲をキョロキョロ見渡すナオミ。)

な、なんだ?
急に物々しい
雰囲気に…

(4コマ目:入り口から入ってきたのは白と黒の二人の人猫の騎士だった。)

騎士⁉︎

あ、あいつら
官邸警備部の
新人たちだ…!

(5コマ目:騎士たちは入り口の両脇に立ち、通路の真ん中をむいてビシッと敬礼する。入り口からは続けてドレス姿の人間の人影が現れる。)

ま、まさか…

31ページ目

(1コマ目:にこやかに手を振りながら部屋に入ってきたサンドラに周囲の客はこぞって驚嘆の目を向けている。)

あ、
あれは…⁉︎

ま、間違い
ない…!

ベテグラース
総理大臣‼︎

(2コマ目:驚き囁き合う客たちを見るナオミ。)

本物かよ…。

なんでこんな
ところに…?

(3コマ目:目の前にやってきたサンドラに、部屋の奥に置かれていたソファから慌てて立ち上がった人猫と人間の二人組。)

あ、あ、あ…
そ、総理大臣閣下!

あなたたちが
伯爵夫妻?

32ページ目

(1コマ目:冷や汗を大量にかいている伯爵夫妻。慌てて頭を下げる二人に、サンドラはにこりと笑みを浮かべる。)

こ、この度は、
よ、よ、ようこそ
お越しく、く…

こちらこそ、
どうも
ありがとう。

(2コマ目:後ろのいる客の方に振り返り、高らかに話し始めるサンドラと、戸惑いながらお互いを見合わせている夫妻。)

えー、皆様、
少々お耳を
拝借!

まず私をご招待いただき、
発言の機会を下さった
伯爵夫妻に感謝の言葉を
申し上げます。

招待…?
したの…?

い、いや…?
してないけど…

(3コマ目:パチパチと拍手が起こる中、一人訝しんだ目を向けているナオミ。)

あいつ…何を
企んでるんだ?

(4コマ目:聴衆に向かって話し続けるサンドラと、その言葉にざわっとする客たち。)

今夜私はある
重要な使命を持って
ここに参りました。

重要な
使命…⁉︎

一体
それは…?

(5コマ目:サンドラの怪しい笑み。)

私がここに来た
目的、それは…

33ページ目

(1コマ目:両手を広げ、きらきらした目で語り始めるサンドラ。)

我がタンポポ党の政策が
いかに素晴らしいかを
皆様にお伝えすることです。

(2コマ目:!??と、客たちに動揺が走る。ナオミは心底嫌そうな顔をする。)

34ページ目

(1コマ目:腕を振り上げながら演説するサンドラ。)

30分後

…すなわちですね、
国民皆学とは……
全国に学校を建設する
ことが我が国の…

(2コマ目:戸惑いながらも拝聴を続ける客たち。)

…これが
新しい……
…諸外国の状況を
見ても…

(3コマ目:続くサンドラの演説。)

60分後

……要するに…
…ですから…
大変な困難が…
ということで…

(4コマ目:うんざりした表情の客たち。うつらうつらとしている客もいる。徐々にその数は減っている。)

(5コマ目:さらに続くサンドラの演説。)

90分後

…それが本当に
おいしくて……
…だから一度…

…興味を引かれて…
…つまり料理とは…
まさしく……

(6コマ目:客は残り人猫一人になった。その一人もすっかり立ったまま居眠りをしている。)

35ページ目

(1コマ目:諸手を上げて演説を締めくくるサンドラ。シインと静まり返る人の減ったボールルーム。)

120分後

…というわけで、
皆様ご清聴ありがとう
ございました!

ダンスを再開
しましょう!

(2コマ目:くたびれた様子でソファに腰を鎮めている伯爵夫妻。演奏家は戸惑いながら寂しく音楽を奏で始める。)

…もうほとんど
誰も残ってない
じゃないか。

せっかくの
舞踏会が…。

一体何が
したかったんだ、
あの人は…

(3コマ目:酒のグラスを片手に会場内をうろつくサンドラは、椅子に座ったままぐーと寝息を立てている一人の人間に近付く。それはナオミの妹だった。)

36ページ目

(1コマ目:屋敷のバルコニー。室内からの光を背に、寂しそうに手すりに肘をついているナオミ。)

(2コマ目:得意げな顔でズカズカとバルコニーに入ってくるサンドラ。心底嫌そうな顔をするナオミ。)

おーっ、
奇遇だな!

まさか
こんなところで
出くわすとは。

(3コマ目:暗闇を向いたまま話し始めるナオミ。)

…演説だけじゃなくて
うそも下手なんですね。

誰かに私の行き先を
聞いたんでしょう。

(4コマ目:少しばつが悪そうにするサンドラ。)

演説は即興
だったからだ。

普段は台本が
あるからもっと
盛り上がる。

予定もないのに
わざわざここまで
足を運んで…

わざと舞踏会を
潰すようなことを
したんですか。

37ページ目

(1コマ目:向こうを向いたままのナオミ。)

嫌がらせの
ためだけに。

そんなに……
嫌いだったん
ですか、
私のこと。

(2コマ目:後ろに立ち尽くしているサンドラに見せないまま、少しつらそうな顔をしているナオミ。)

だとしたら
おあいにく様。
どうせつまらない
舞踏会でしたし。

台無しに
してくれて、
むしろせいせい
してます。

(3コマ目:少し照れ臭そうに下を向くサンドラ。)

そ、そうか…
そうだよな。

いや…

(4コマ目:サンドラのセリフに思わず拳を握り、怒りの表情で振り返るナオミ。)

分かっていた。
お前が望んでここに
来たんじゃないって
ことぐらい。

はあ⁉︎
だったら
なんで…

38ページ目

(1コマ目:ナオミの顔を真剣に見つめているサンドラ。)

ナオミ、
お前……

本当は人猫が
嫌いなんだろ?

(2コマ目:キョトンとするナオミ。)

⁉︎

(3コマ目:照れ臭そうなサンドラ。)

その…お前は人猫の
世界で生きてるのに、
いつも威風堂々と
してるし……

人猫相手に
少しも物おじ
しない。

いつも進んで
私をかばって
くれるし…

(4コマ目:憐憫の目を向けるナオミ。)

39ページ目

(1コマ目:バルコニーの二人。)

それに、お前は
私が官邸に部外者を
入れたことを
とがめはしたが…

決して人間を
抱いていることを
馬鹿には
しなかった。

そんな
こと…

(2コマ目:悲痛な面持ちで訴えかけるサンドラ。)

人猫との結婚なんて
したくない…
そうなんだろ?

私にはお前の
気持ちが分かる。

私たちは…
きっと同類……

(3コマ目:口を一文字に結ぶナオミ。)

40ページ目

(1コマ目:夜の屋敷のバルコニー。逆光に照らされた二人の影。)

いいえ。

(2コマ目:顔を伏せ、再度外の方を見るナオミ。)

ここに来たく
なかったのは…
本当にただ単に
つまらないから…

あなたを
守るのは、
それが仕事
だから…

…ただ、
それだけです。

(3コマ目:慌てるサンドラにナオミの表情は伺えない。)

だ、だが…

あなたと私は
同じじゃない。

(4コマ目:悲壮感漂うサンドラの顔を冷たい夜風がなぜる。)

人猫は
好きです。

良い相手がいれば
結婚したいとも
思っています。

41ページ目

(1コマ目:ナオミの隣に歩み寄り、顔を詰め寄るサンドラ。)

どうして⁉︎

人猫の何が
良いんだ!

総理…?

(2コマ目:必死な顔のサンドラ。)

あんなやつら、
ただの獣物じゃ
ないか‼︎

(3コマ目:サンドラの後ろ姿と、その態度に驚いているナオミ。)

あいつらは
私たちとは
違う生き物だ!

暴力的で…
すぐ野太い声で
怒鳴り散らすし…

身体だってそうだ。
デカくて、
毛むくじゃらで…

(4コマ目:がしっ、とナオミの右腕を掴むサンドラの右手。)

見ろ‼︎

42ページ目

(1コマ目:ナオミの右手を持ち上げ、さらにじぶんの左手の平を重ねてみせるサンドラ。ナオミは驚き、顔を赤らめる。)

分かるか?
ほら!

な、何を⁉︎

(2コマ目:重なり合ったサンドラとナオミの手。)

私たちの手、
同じ形だ!

(3コマ目:サンドラは必死の形相で、そのまま手を恋人繋ぎの形にしてみせる。)

人猫の手で
こんなことが
できるか?

手を握り
合ったり
できるか?

(4コマ目:見開かれたナオミの目。)

43ページ目

(1コマ目:手を繋いだままの二人。泣きそうな顔になるサンドラ。ますます顔を赤らめるナオミ。)

生き物は同じ
生き物同士…
人間は人間同士…

一緒になるのが
自然の摂理じゃ
ないのか?

(2コマ目:恥ずかしく真っ赤な顔を思わず伏せるナオミ。)

総理…
もしかして…

あなたがここに
来たのは……
あなたは私を…

(3コマ目:俯き、言葉に詰まったナオミの頭上からサンドラの声が降ってくる。)

「グーベン」

44ページ目

(1コマ目:下を向いたまま目を見開いているナオミの横顔。)

…だったか?

(2コマ目:顔を上げたナオミ。)

副都にいた頃の
人猫の恋人の名前。

なん……で…?

(3コマ目:サンドラの後ろ姿と、室内の方角を横目で睨みつけるナオミ。)

さっき
お前の妹に
聞いたぞ。

結婚するつもり
だったが、うまく
いかずに終わった
らしい…と。

……あんの
おしゃべりな
クソゴミが…。

(4コマ目:サンドラの口元。)

分かるよ……
なぜそう
なったのか。

(5コマ目:サンドラと、再び視線を外したナオミ。)

お前はその人猫を
受け入れようとした。
でもできなかった。

…違う。

(6コマ目:懇願するような、あるいは憐むような目でナオミを見上げているサンドラ。)

自分を責める
必要などない。

お前は何も
悪いことは
してないんだ。

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(1コマ目:拳を握り、真剣な怒りの表情を見せるサンドラ。)

歪んでいるのは
この世界の方だ。

私たち人間は
強要されてきた
だけなんだよ。

(2コマ目:悲痛な面持ちで目をつぶるナオミ。)

違う、
私は……

あんなおぞましくて
汚らわしい生き物に
愛情を注ぐことなど…

(3コマ目:ナオミの言葉は絶叫に変わる。)

私は…

グーベンのことを
愛していた‼︎

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(1コマ目:がくっ、と膝から崩れ落ちるナオミ。)

ナオミ…?

(2コマ目:ナオミの膝の上に、ポタポタと水滴が落ちる。)

一緒になれる
はずだった…

なのに
グーベンは…

あいつは
弱いくせに…

(3コマ目:気まずそうに驚くサンドラの顔。)

最後の戦闘で…
私をかばって…
それで……

(4コマ目:座り込んだまま、両手で顔を覆っているナオミ。)

あ、あああ
ああああ…‼︎

ああああああああ
ああああああ……‼︎

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(1コマ目:ナオミを見下ろしたまま慌てているサンドラ。)

……す、すまない。
そんなつもりは……

知らなかった
んだ…

なんで私が
王都なんかに…。

(2コマ目:顔をもたげたまま泣きじゃくるナオミ。)

副都に
戻りたい。

彼のそばに
居たい。

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(1コマ目:ナオミを見下ろすサンドラ。)

…………。

(2コマ目:泣きそうな顔になるサンドラ。)

そんなに…
そんなに大切な
人だったのか…
その人猫が…

悪かった。
お前の気持ちも
知らないで……

…そうだよな。
気持ち悪い
よな…人間が
相手なんて…

(3コマ目:くるりと踵を返すサンドラ。)

人間同士
なんて…

嫌だよな…。

(4コマ目:室内の方に去っていくサンドラ。ナオミはしゃがみ込んだまま動けない。)

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(1コマ目:ずかずかと屋敷の中を歩いていくサンドラ。それを慌てて追いかける二人の人猫の騎士。)

おや、総理。
今までどちらに…

帰るぞ。

は…ははっ!

(2コマ目:屋敷の表玄関。迎えにきた官邸の馬車に向かっていく総理と二人の警備。)

(3コマ目:バタン、と馬車の扉が閉じる。)

(4コマ目:馬車の中。サンドラは声もなく涙を流している。馬車の背面に登る騎士たちの足音がゴトゴトと聞こえる。)

出発!

(5コマ目:屋敷のバルコニー。いまだ床にへたりこんだままのナオミ。)

50ページ目

(1コマ目:手で涙を拭うナオミ。左目、)

(2コマ目:そして右目。)

(3コマ目:目を開き、少し前を向く。)

51ページ目

(1コマ目:ナオミがよろよろと起き上がったところへ、眠そうな顔の妹がやってくる。)

は〜…。
今日はあんまり
楽しくなかった
ですわね。

そろそろ
帰りましょう
って、お母様が。

(2コマ目:ミヤコの横顔とバルコニーの手すりに手をついたままのナオミ。)

…お姉様?

………。

(3コマ目:突如、バッとナオミがバルコニーの手すりを乗り越え、飛び降りる。驚くミヤコ。)

なっ!?

52ページ目

(1コマ目:ミヤコが手すりに駆け寄って下を見ると、ちょうどナオミが屋敷の庭にドサっと着地したところだった。)

(2コマ目:バルコニーの上に一人取り残されたミヤコ。暗がりの中立ち上がり、去っていくナオミ。)

(3コマ目:訝しそうな顔で姉の様子を見下ろすミヤコ。)

…全く、お姉様は
わけがわからない
ですわ。

(4コマ目:ダッ、と勢いよく駆け出すナオミ。邪魔にならないようドレスのスカートの裾を片手で鷲掴みにしている。)

53ページ目

(1コマ目:はあ、はあと息を上げながら全力で走るナオミの横顔。)

(2コマ目:ガラガラガラと音を立てて回転する馬車の車輪。)

(3コマ目:スピードを上げて走る総理の馬車。パカパカパカと蹄の音が暗い通りに響く。)

54ページ目

(1コマ目:人気のない夜の街を走るナオミ。)

(2コマ目:馬車の中で静かに泣いているサンドラ。)

(3コマ目:はあ、はあ、と息を上げるナオミ。)

(4コマ目:勢いよく進む馬車の後方でバッと横道から飛び出してきたナオミ。至近距離まで追いついた。)

55ページ目

(1コマ目:立ち止まり、仁王立ちで馬車の真後ろから大声を上げるナオミ。)

言ってません‼︎

(2コマ目:馬車の中で目を点にするサンドラ。)

56ページ目

(1コマ目:真っ赤な顔で叫ぶナオミ。)

人間が嫌だ
なんて…

言って
ない‼︎

57ページ目

(1コマ目:後ろを振り向きつつ、感極まり、さらに目に涙を溜めるサンドラ。)

(2コマ目:顔を抑え、そのまま声もなく泣きじゃくる。)

…………。

(3コマ目:馬車の上に乗った騎士たちは上官の叫び声に困惑する。)

警備部長⁉︎
突然何を…?

総理、
停めますか?

どうしますか?

(4コマ目:しかしサンドラは俯いたまま言葉を発することができない。)

……………。

(5コマ目:馬車は止まらず、黒いドレスを尻目にガラガラガラと音を立てて去っていく。)

58ページ目

(1コマ目:どさっとその場に崩れ落ちるナオミ。ぜーぜーと肩で息をする。)

(2コマ目:ナオミは人気のない通りの真ん中で、両手を地面についたままぜーぜー息をするばかりで動けない。)

TO BE CONTINUED...