第5話 優しい思い出
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うわっ‼︎
いてて…
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第5話
優しい思い出
…もう、隊長は
容赦ないんだから…
キッシッシ。
お前が弱いのが
悪いんだよ。
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あーあ、グーベン副長
今回も勝てなかったか。
あれでも
人猫同士なら
負けなしなのにな。
ははっ、
隊長が相手じゃ
仕方ねぇさ。
今日の訓練は
ここまで!
明日はいよいよ
作戦の決行日となる。
今夜はしっかりと休息し、
英気を養っておくように。
以上!
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グーベン。
すまん、遅くなった。
待ったか?
ああ、いえ、
私もさっき
来たとこ…
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…って、隊長!
なんですか、
その格好⁉︎
な、なん
ですかって
お前…
何かおかしい
かよ。
……平服なのに
佩刀してるのが
おかしい。
なっ…⁉︎
ば、馬鹿もん!
騎士たる者が
丸腰で出歩けるか!
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……いや、
本当のことを
言うとな…
きょ、今日はその…
大事な儀式だろ?
だから持参したんだ。
そら殊勝なことで…
でも儀式用の刀って
小刀なんじゃ…?
う、うるさいな!
似たようなもんだろ、
小刀は無くしたんだ!
あなたって人は…
律儀なんだか、
適当なんだか…
ああ、もう、
いいから
早く行くぞ!
宿屋
…着きましたね。
………。
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…なぁ、こんなこと、
本当に必要なのか?
なんですか、
今更。
……もし、
私が相手では嫌だと
おっしゃるなら、
今からでも…
べ、別に
お前が嫌だとは
言ってない!
ただ…古臭くて
馬鹿げた風習だと
思っただけだ。
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婚前式なんて…
…合理的な習慣だと思います。
体格が大きく違う種族同士
ですから。
結婚した後で、その…
相性が悪いことが分かると
それは悲惨らしいですよ。
…………。
グーベン、
お前こそ…
…嫌じゃないのか、
私なんかが相手で。
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私の方が
年上だし…
隊長。
ガサツだし…
戦うことしか
能がなくて…
人間らしい
ところなんて
何も…
やっぱり、
お前にはもっと
ふさわしい
やつが…
隊長!
嫌なわけ…
ないじゃない
ですか。
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世間の言うこと
なんて関係ない。
あなたは
素敵な人です。
あなた以外の
人なんて
考えられない。
グーベン…
私も……
同じ気持ちだ。
お前以外のやつと
一緒になるなんて、
あり得ない。
大丈夫、
大丈夫です。
きっとうまく
いきます。
ああ、
そうだな…
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……隊長、
平気…ですか。
どうだ…見たか。
何も…問題など、
なかっ…たな。
ええ…
そうですね…
これで…
ああ…私たち、
結婚できる…な。
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ふわふわ……
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………明日の作戦で、
私たち……死ぬかも
しれないんだよな…。
………。
…大丈夫です。
あなたのことは、
私が必ず守ります。
……そうか、
頼もしいな。
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副長!
あまり前に
出過ぎるな!
ははっ。
置いてきますよ、
隊長!
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突撃‼︎
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魔王軍の
残党どもを…
皆殺しに
するのだ‼︎
隊長!
隊長!
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隊長!
何やってるん
ですか!
グーベン!
グーベン!
おい、
しっかりしろ!
ここは危険です!
早く移動を…
大丈夫だ、
この程度の傷なら
すぐ良くなる。
気をしっかり
持て!
…隊長?
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グーベン!
どうした、
返事をしないか。
…………。
……隊長、
グーベン副長は
もう……
私がついて
いるぞ、
グーベン。
必ず無事に
連れて帰って
やるからな。
………。
ずっと一緒だ、
グーベン。
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…やあ、
グーベン。
今日も来たよ。
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王都の実家には
手紙を書いたよ。
結婚は…できな
かった…とだけ。
…詳しいことを
説明する気には
なれなくてな。
ま、どうでも
いいよな。
実家なんて。
あれから
一月ほどに
なるか…
…ああ、この髪な。
昨日久しぶりに
街に出て…
切ってもらった。
…気に入ってくれる
といいんだが…。
それにほら、
お前が好きだった酒。
一緒に飲もうと思って
探してきたんだ。
…今日も一日、
楽しく過ごそうな、
グーベン。
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………。
…また、
あの頃の夢か…
…ああ、そうか。
もうすぐ舞踏会に
行く時間だ。
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サンドラ〜、
聞いて
くれよ。
この間可決させた
国民皆学法のこと
なんだけど…
う、う〜ん…
…あ、寝てた?
ごめん…
……んあ?
…お前かよ。
勝手に入って
くるなよな…。
目が赤いな…
また泣いて
いたのか。
…この書類の
山は?
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私たちの
政策に対する
抗議の手紙だ。
王国中の豪族やら
行政官やら…
マタタビ党に焚き
付けられた連中さ。
そんなものに
わざわざ
目を通してるの?
自分一人で…
持って
こられた
以上はな。
ところで、
お前はなんの
用なんだ?
え、あ…いや…
ちょっと君の
様子を見にね。
?
明日から
しばらく
会えなく
なるでしょ。
…君、
寝巻きで
仕事してた
のかい?
寝坊して着替える
暇がなかったんだよ。
あのバカが起こしに
来なかったからな。
朝から出掛けて
やがるんだ。
全くどこで何を
してるのやら…
あのバカ…
って、
警備部長の
こと?
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なんだ、
知らなかったの。
もう官邸中で
うわさに
なってるよ。
コンカツだよ、
コンカツ。
ちょ、
大丈夫?
…お前、
今なんて
言った?
だから婚活。
お婿さん探し
だよ。
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舞踏会に行くんだってさ。
ブリブリなんとか伯爵
って人が主催の。
ブリブリ
って…
ブリリスケイフォリース
伯爵のことだな…。
知ってるの?
王都の北に住んでる
チンケな貴族家だ。
あいつと知り合いとは
知らなかったが…
なんかお母さんに
誘われたっぽいよ。
結婚相手を見つけて
もらうんだって。
その伯爵の交友関係は
分からないけど、
良い相手が見つかると
いいねぇ。
婿探し…?
あいつが……?
…………。
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ね、サンドラ。
…サンドラ?
ねぇ、聞いてる?
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わー、人が
いっぱい。
二人とも、
粗相のない
ようにね。
ふん…。
29ページ目
パンドーロ様!
やあ、
ミヤコさん。
誰だ、あの
オッサン…
ほら、前に
教えたでしょう。
あの子の
結婚相手の…
あ、ああ…
あれが例の
『隣町の男爵家の
ご子息』ね…
そうか…
あれが我が妹の
夫になるのか…
ふ〜ん……。
30ページ目
え、うそ…!
な、なんだ?
急に物々しい
雰囲気に…
騎士⁉︎
あ、あいつら
官邸警備部の
新人たちだ…!
ま、まさか…
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あ、
あれは…⁉︎
ま、間違い
ない…!
ベテグラース
総理大臣‼︎
本物かよ…。
なんでこんな
ところに…?
あ、あ、あ…
そ、総理大臣閣下!
あなたたちが
伯爵夫妻?
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こ、この度は、
よ、よ、ようこそ
お越しく、く…
こちらこそ、
どうも
ありがとう。
えー、皆様、
少々お耳を
拝借!
まず私をご招待いただき、
発言の機会を下さった
伯爵夫妻に感謝の言葉を
申し上げます。
招待…?
したの…?
い、いや…?
してないけど…
あいつ…何を
企んでるんだ?
今夜私はある
重要な使命を持って
ここに参りました。
重要な
使命…⁉︎
一体
それは…?
私がここに来た
目的、それは…
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我がタンポポ党の政策が
いかに素晴らしいかを
皆様にお伝えすることです。
34ページ目
30分後
…すなわちですね、
国民皆学とは……
全国に学校を建設する
ことが我が国の…
…これが
新しい……
…諸外国の状況を
見ても…
60分後
……要するに…
…ですから…
大変な困難が…
ということで…
90分後
…それが本当に
おいしくて……
…だから一度…
…興味を引かれて…
…つまり料理とは…
まさしく……
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120分後
…というわけで、
皆様ご清聴ありがとう
ございました!
ダンスを再開
しましょう!
…もうほとんど
誰も残ってない
じゃないか。
せっかくの
舞踏会が…。
一体何が
したかったんだ、
あの人は…
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おーっ、
奇遇だな!
まさか
こんなところで
出くわすとは。
…演説だけじゃなくて
うそも下手なんですね。
誰かに私の行き先を
聞いたんでしょう。
演説は即興
だったからだ。
普段は台本が
あるからもっと
盛り上がる。
予定もないのに
わざわざここまで
足を運んで…
わざと舞踏会を
潰すようなことを
したんですか。
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嫌がらせの
ためだけに。
そんなに……
嫌いだったん
ですか、
私のこと。
だとしたら
おあいにく様。
どうせつまらない
舞踏会でしたし。
台無しに
してくれて、
むしろせいせい
してます。
そ、そうか…
そうだよな。
いや…
分かっていた。
お前が望んでここに
来たんじゃないって
ことぐらい。
はあ⁉︎
だったら
なんで…
38ページ目
ナオミ、
お前……
本当は人猫が
嫌いなんだろ?
⁉︎
その…お前は人猫の
世界で生きてるのに、
いつも威風堂々と
してるし……
人猫相手に
少しも物おじ
しない。
いつも進んで
私をかばって
くれるし…
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それに、お前は
私が官邸に部外者を
入れたことを
とがめはしたが…
決して人間を
抱いていることを
馬鹿には
しなかった。
そんな
こと…
人猫との結婚なんて
したくない…
そうなんだろ?
私にはお前の
気持ちが分かる。
私たちは…
きっと同類……
40ページ目
いいえ。
ここに来たく
なかったのは…
本当にただ単に
つまらないから…
あなたを
守るのは、
それが仕事
だから…
…ただ、
それだけです。
だ、だが…
あなたと私は
同じじゃない。
人猫は
好きです。
良い相手がいれば
結婚したいとも
思っています。
41ページ目
どうして⁉︎
人猫の何が
良いんだ!
総理…?
あんなやつら、
ただの獣物じゃ
ないか‼︎
あいつらは
私たちとは
違う生き物だ!
暴力的で…
すぐ野太い声で
怒鳴り散らすし…
身体だってそうだ。
デカくて、
毛むくじゃらで…
見ろ‼︎
42ページ目
分かるか?
ほら!
な、何を⁉︎
私たちの手、
同じ形だ!
人猫の手で
こんなことが
できるか?
手を握り
合ったり
できるか?
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生き物は同じ
生き物同士…
人間は人間同士…
一緒になるのが
自然の摂理じゃ
ないのか?
総理…
もしかして…
あなたがここに
来たのは……
あなたは私を…
「グーベン」
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…だったか?
副都にいた頃の
人猫の恋人の名前。
なん……で…?
さっき
お前の妹に
聞いたぞ。
結婚するつもり
だったが、うまく
いかずに終わった
らしい…と。
……あんの
おしゃべりな
クソゴミが…。
分かるよ……
なぜそう
なったのか。
お前はその人猫を
受け入れようとした。
でもできなかった。
…違う。
自分を責める
必要などない。
お前は何も
悪いことは
してないんだ。
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歪んでいるのは
この世界の方だ。
私たち人間は
強要されてきた
だけなんだよ。
違う、
私は……
あんなおぞましくて
汚らわしい生き物に
愛情を注ぐことなど…
私は…
グーベンのことを
愛していた‼︎
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ナオミ…?
一緒になれる
はずだった…
なのに
グーベンは…
あいつは
弱いくせに…
最後の戦闘で…
私をかばって…
それで……
あ、あああ
ああああ…‼︎
ああああああああ
ああああああ……‼︎
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……す、すまない。
そんなつもりは……
知らなかった
んだ…
なんで私が
王都なんかに…。
副都に
戻りたい。
彼のそばに
居たい。
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…………。
そんなに…
そんなに大切な
人だったのか…
その人猫が…
悪かった。
お前の気持ちも
知らないで……
…そうだよな。
気持ち悪い
よな…人間が
相手なんて…
人間同士
なんて…
嫌だよな…。
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おや、総理。
今までどちらに…
帰るぞ。
は…ははっ!
出発!
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51ページ目
は〜…。
今日はあんまり
楽しくなかった
ですわね。
そろそろ
帰りましょう
って、お母様が。
…お姉様?
………。
なっ!?
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…全く、お姉様は
わけがわからない
ですわ。
53ページ目
54ページ目
55ページ目
言ってません‼︎
56ページ目
人間が嫌だ
なんて…
言って
ない‼︎
57ページ目
…………。
警備部長⁉︎
突然何を…?
総理、
停めますか?
どうしますか?
……………。
58ページ目
TO BE CONTINUED...