本編
1ページ目
かつて、この街には
1400万の人々が住んでいたという。
2ページ目
はぁ、はぁ……
やっと割れた。
3ページ目
現在の人口、多分1人。
トム、起きてるんだろ。
そろそろ出てこいよ。
4ページ目
ぷは〜、よく寝た。
もう着いたのかよ。
食べ物、
食べ物〜。
5ページ目
テル、こっちに
猫の絵が付いた
袋があるよ!
袋入りの食べ物は
駄目だよ、腐ってる
かもしれないから。
缶詰だけ
持っていこう。
やっぱり?
テル!
警官だ!
隠れなきゃ!
6ページ目
7ページ目
…………。
……テル、
あいつら行った
みたいだよ。
8ページ目
西の大陸から流れ込んだ分厚い雨雲は
明るい太陽を覆い隠し、
凍える人々は姿を消した。
彼らがこの街に残していったのは
僅かな食料と消し忘れの電灯、
そして不気味な機械たちだけだった。
あ、トムと
人間だ。
おかえりー。
9ページ目
僕ちょっと友達に
挨拶してくるよ。
ああ、
分かった。
しっかし、お前も
物好きだよなぁ。
そうそう。
なんで人間なんかと
つるんでるんだよ。
今時「飼い猫」
なんかやってるの、
お前だけだぜ。
そうだよー、
今となっては僕は
貴重な存在なんだ。
テルは
この街で最後の
人間だから……
つまり僕は
最後の飼い猫
ってことさ。
ふぅん。
まぁ頑張れ。
10ページ目
トム、
おいで。
あの、皆さんも
よかったら……
あ、お構い
なく〜。
そうですか、
それでは……
11ページ目
12ページ目
……ねぇ、
テル。
何?
缶詰食べるのも
ちょっと飽きて
きたなぁ。
……そうだね。
13ページ目
テルの年ならちょっと
ぐらい漢字が書けても
いいはずなんだがなぁ。
うっるさいなぁ。
そういうお前は
字が書けるのかよ。
猫の手では
ペンは持てま
せぇん。
……もう
寝よっか。
14ページ目
15ページ目
少し雨脚が
弱くなってきた
かな……
ん?
人影だって?
16ページ目
そりゃ警官の
見間違いじゃ
ないの?
集団じゃなくて
一人で歩いてたんだ。
あれは人間だよ!
この街にもまだ
いたんだ!
危ないよ、
こんな所を
進んで。
いいんだ、
それより早く
外に出ないと。
17ページ目
うわああ
ああああ‼︎
ほら、言わん
こっちゃない。
いてて……
時間を食った。
急がないと。
18ページ目
あ……
19ページ目
やばい、やばい、やばい、
やばい、やばい………‼︎
あぐっ‼︎
20ページ目
テル……!
この地域は危険区域に
指定されました。
終わった。
住民の皆様には
避難命令が発せ
られています。
直ちに避難して
ください。
僕もみんなと
同じように……
南方に連れて
いかれる……‼︎
当該住民に
抵抗の兆候あり。
21ページ目
強制移送のため、
あなたを拘束させて
いただきます。
………。
…………?
22ページ目
23ページ目
24ページ目
25ページ目
攻撃者を発見。
不明な武器が使用
されました。
対処法を
検索……
26ページ目
しㇺ……
アアアアアア
アアアアア‼︎
27ページ目
28ページ目
な……何が
起こったんだ?
あいつは
いったい……
29ページ目
ひっ!
……………。
あ、あ、
あの……
き、君は、
その……
あ……
30ページ目
人間だ。
………。
お前、けがは?
い、いや……
あ、ありがとう。
31ページ目
……じゃ、俺は
先を急ぐんでな。
あっ……
ちょ……
ちょっと待って‼︎
もう行っちゃうの⁉︎
ほかの人間に
会ったのはすごく
久しぶりなんだ!
もっと話を
聞かせてくれ
ないかな?
……何だよ。
君の持ってる
それは武器……
なんだよね?
警官4体を一瞬で
やっつけたけど、
いったいどんな
仕掛けなの?
お礼もしたいし、
よかったら僕の
所に来ない?
………。
32ページ目
……あ、いきなり
ごめん。僕はテル
っていうんだ。
こっちは
白猫のトム。
は、初めまして。
……俺の名前は
タスクだ。
この武器が何なのか
気になるか。
教えてやっても
いいぜ。
33ページ目
おや、子供とは珍しいのう。
どこからおいでなすったのかね、
そこの 。
ああ、こいつ確か……
カズミん所にいるガキですよ。
……そうか、じゃ、
お前の名前は今日から
テル、だ。
僕の……名前?
カズミ、お前、
自分のガキに
何やってるんだ!
いいのよ!
こうするのが の
ためなんだから!
34ページ目
この場所のことは絶対に
誰にも秘密だぞ、テル。
うん、お兄さん。
テル、逃げろ‼︎
……う、うーん。
そうじゃな、それはきっと
わしらが大人だから……
お前さんはまだ
子供だからのう……
、おいで。
35ページ目
どうぞ入って
くださいな。
ビル…の裏口?
変な所に住んで
るんだな。
正面玄関は
大通りに面してて
危ないから……
なるほど……
36ページ目
あ……
ち、ち、
違う、違う!
ん?
エレベータに乗る
んじゃないのか?
そ、そっちは
地下に行く
エレベータだから!
地下には何も
ないから!
あ、ああ……
そうかよ。
本当だよ!
本当に何も
ないからね!
37ページ目
ほら、こっち
こっち。
分かったから
引っ張るなよ。
早くボタン
押してくれ。
ほほー、こりゃ
いい眺めだ。
38ページ目
部屋はたくさん
余ってるから、
どこでも
好きに使って。
何か要るもの
があったら
言ってね。
変なやつ……
39ページ目
40ページ目
41ページ目
ま、待ってー!
歩くの速いよ!
僕のうちで待ってて
くれてもよかった
のに……
食料集めに
行くんだろ?
いっしょに運んだ
ほうが早く済む。
だ、大丈夫かな、
こんな開けた道を
堂々と歩いて……
公道を歩くのに
誰に遠慮する必要が
あるんだ。
42ページ目
やっぱ閉まってるな。
扉を壊さねぇと。
少し待ってて、
僕が何か重そうな
ものを探し……
び、びっくり
した……
開いたぞ。
43ページ目
ちょっとこの店で
一休みしようぜ。
え?
44ページ目
何これ、
いい香り……
これは
紅茶。
こう……
ちゃ?
ああ、保存状態の
いい茶葉が残ってて
助かった。
ふぐっ!
45ページ目
テル、遠慮
した方が……
いや、
でもせっかく
だし……
あん?
おいしい。
それは
よかった。
ほら、おいしいよ。
トムも一口
飲んでみなよ
えー、やだよ!
そんな得体の
知れない……
あー、猫には
やらない方がいい
んじゃねぇかな。
これカフェイン
入りだし。
46ページ目
……いや、俺は
この街の出身じゃないぜ。
ここよりずっと
北の地方から来たんだ。
タスクのいた
所にはまだ人が
いるの?
いたのなら、
旅には出なかった
かもしれないな。
地元以外のことは
正確には分からな
いが……
もう、ここより北に
人間は一人も残って
ないんじゃないか。
やっぱテル
みたいな人間は
珍しいんだな。
みたい
だね。
どうする〜?
僕まで街から
いなくなったら。
ん……?
別にどうも。
野良に戻る
だけだよ。
47ページ目
またまたぁ、
お前に野良猫が
務まんの?
……。
ばかにするなよ、
僕だって昔は……
………あれ、
どうかしたの?
え、い、いや、
別に何も……
?……
その反応、
まるで大人たち
みたい……
もしかして、
君も猫の言葉が
分からないの?
猫の……
言葉…?
そ、そうか……
トムの声、タスクには
聞こえてなかったんだ。
僕、てっきり
……
48ページ目
子供ならみんな
猫の言葉が分かるって
わけじゃないのかな?
この街には
お前以外にも
いたのか?
動物とお話し
できる子供が。
あっ、僕のこと
疑ってるでしょ!
猫たちは本当に
しゃべってるんだよ!
君には聞こえないかも
しれないけど!
分かった、
分かった。
ククク。
信用されてない
みたいだなぁ。
そうだ!
僕たちがちゃんと会話
できてるんだってことを、
今から証明してみせるよ。
証明
だと?
49ページ目
トム、その場で
3回回ってニャン!
って言うんだ。
はぁ?
僕はれっきとした猫だぞ。
そんな犬みたいなまねが
できるか。
ちょ、ちょっと〜!
こういうときに協力して
くれないと困るよ〜。
50ページ目
これはな、
“日本刀”というんだ。
二本……刀?
200年近く前に
使われなくなった
古い鉄の剣さ。
この一本は俺の家に
昔からあったやつでな。
一本?
それで、その
武器には何か秘密の
機能が?
は?
そんなんじゃ
ねぇよ。
ただ、警官どもには
こんな年代物の武器への対処法は
記録されてないってことさ。
51ページ目
やつらは所詮機械だからな。
未知の武器が相手だと途端に
ぎこちない動きになるんだ。
その隙に外装が弱い部分を
切ればショートして壊れる。
狙いやすいのは首だな。
なるほど
なぁ。
あ……うわさを
すれば。
よし、テル。やつらを
少し間引いてやるか。
え、何するの?
52ページ目
警戒態勢!
警戒態勢!
不明な武器の
使用を検出!
現在攻撃を
受けています!
あっはっはっは!
どうだ、命中したぞ。
53ページ目
……なぁ、テル。
お前も自分の刀を
持ったらどうだ?
自分のって?
丸腰じゃ何かと不便だろ?
探せば同じようなのが
見つかると思うぞ。
いくらこの街でも
博物館の一つぐらいは
残ってるだろうし。
そうだ、
俺のを試しに
触ってみるか?
!
54ページ目
………。
い、いや、遠慮するよ。
僕には使いこなせそう
にないし……。
ふうん……
ま、無理にとは
言わねぇけど。
あ、でも銃を警官に
向けるのは絶対駄目だぞ。
まじでやばいことになる。
う、うん。
そうだね。
55ページ目
お前本当に漢字が
苦手なんだな。
もっと勉強
しないと。
……それ、よく
言われるよ……
誰に?
別によくない?
大抵の本には漢字の上に
ひらがな書いてあるし。
ばかだなぁ。
そりゃ子供用の
本だからだよ。
大人用の本には
読み仮名なんて
ないんだぞ。
大人用の本なんて
一生読まないし。
やれやれ……
しゃーねぇな。
56ページ目
おい、テル。
なぁに?
勉強なんてやめやめ。
決闘だ!
57ページ目
やったな!
おーい、
もう寝ようぜ。
………。
おらあああ‼︎
あははは!
58ページ目
はぁ〜……
人間ってのは
元気だねぇ。
僕は先に
部屋に戻って
るからな。
隠れても無駄だぞ、
出てこい!
隙あり!
59ページ目
60ページ目
ちょっと
疲れたな。
そうだね。
……疲れたら
眠くなってきた。
このままここで
寝ていい?
このままはちょっと
重いんだが……
61ページ目
おい本当に寝るな。
寝るならちゃんと
毛布をかぶれ。
……ったく。
62ページ目
63ページ目
64ページ目
意味が分かんない。
もう覚えられないよ。
いいから
見てろって。
……それで
ここをこう
やって……
……最後に
軽く引っ張る
と……
ジャーン。
ツルの出来上がり。
65ページ目
⁉︎
えっ?
何これ⁉︎
と、鳥の形に
なってる……
……やっぱり
見るのは初めてか。
信じられない……
紙を折ったり伸ばしたり
しただけでこんな……
お前、折り紙知ら
ないで今までよく
生きてこられたな。
すごいなぁ。
タスクは博識
なんだなぁ。
ねっ、もう一回。
もう一回教えて。
ああ、構わんよ。
66ページ目
ところで、ツルって
どんな鳥なの?
……そこまでは
俺も知らん。
67ページ目
………のことが……
だったのでしょう?
……になるのは
だけよ。
分かったかしら?
奇麗でしょう。
これも、あれも……
あなたにあげるわね。
ついに
68ページ目
わしらも南方行きか。
長かったような
短かったような……。
第一区住民の方は
指定の避難ステーションに
移動してください。
! !
どこに行ったの!
隠れてないで出ておいで!
この地域は危険区域に指定
されました。住民の皆様には
避難命令が発せられています。
放して!
まだ がどこかに……
69ページ目
70ページ目
雨が……!
雨がやんでる!
雲が晴れるのは
何か月ぶりだろうね。
もしかしたら
明日には太陽が
見られるかもな。
……あ。
71ページ目
……共和国が
よく見えるね。
けっ。
嫌な風景だぜ。
テル、お前、虹が
どうしてできるか
知ってるか?
日光ってのは一見すると
単色の光だが、大気中の
雨粒に分解されると……
???
……まぁ、とにかく、
太陽は青空の下で
見るのに限るよ。
72ページ目
……タスク?
どうかしたの?
俺、明日になったら
この街を出るわ。
えっ…
また降り出したら
次にいつやむか
分からんからな。
天気がいいうちに
できるだけ移動
しとかねぇと。
そんなに急いで
どこに行くのさ。
まだいたって……
73ページ目
……南方だ。
それが俺の
目的地。
俺はどうしても南方入り
しなきゃならねぇんだ。
だから……
……そんなの、
警官にエスコートして
もらえば早いのに。
わざわざ歩いて行く
必要なんて……
74ページ目
武器……。
タスクは向こうに、
武器を持ち込むつもり
なんだ……。
でも、いったい
何のために……。
……そういうお前は
なぜここにいるんだ?
僕?
ほかの人間と一緒に街を出て
りゃあ、少なくとも食い物に
困ることはなかったはずだ。
そうだな……
ここには……
街の外には持ち出せない
ものがあるから……
75ページ目
お前にとって……
そんなに大切な
ものなのか?
みんなと離れ離れに
なってまで……
……秘密。
それがお前んちの
地下にあるものか?
悪かった、
悪かったって。
詮索する気は
ないんだ。
さて……そろそろ
戻ろうぜ。俺は明日の
支度をしねぇと。
え……
あ、ああ……
うん。
76ページ目
寒くなって
きたな。
そ、そう
だね。
77ページ目
明日になったら……
タスクがいなくなる?
なぜだろう……。
とても嫌な気持ちだ。
胸がざわざわする。
78ページ目
とにかく、
どうにかしてタスクを
引き止めないと。
このまま何が何だか
分からないまま
お別れなんて嫌だ。
ああ、もう、
落ち着かない。
……ははーん。
そういうことか。
そういうこと
って何だよ。
僕にはよく分かるよ。
テルがなんで
いらいらしてるのか。
恋だよ。
79ページ目
はぁ⁉︎
つーまーりー、
好きになっちゃったんだよ。
テルが。タスクを。
僕が……?
恥ずかしがることない
んだよ。テルだってもう
お年頃なんだから。
いやいやいや……
やっぱりそんなの
ありえないって。
だってタスクは
男の子だよ。
僕は女の子じゃないし、
男の子を好きになる
はずがないよ。
80ページ目
ほら……
カズミ姉さんも
言ってただろ。
男の子を好きに
なるのは女の子
だけだって……
ぼ、僕には人間の
雄と雌の区別はよく
分からないし。
くそっ、猫に
相談した僕が
ばかだった。
でもさぁ、結局は
自分自身の心に聞く
しかないじゃん。
離れたくない……
って気持ちは
本当なんでしょ。
…………。
なら、それを
ぶつけるしか
ないよ。
81ページ目
……なぁ、トム。
お前、本当は言葉を
しゃべってなんか
いないんだろ?
なんだ、
やぶから棒に。
僕は本当は
頭が変になった
ただの子供で……
僕たちのこの会話も、
全部僕の勝手な妄想
なんじゃないのか?
………はっ。
何を言い出す
かと思えば。
そんな問いを
当の僕に投げかけても
意味などない。
僕の口から答えを聞いても、
それも君の妄想かもしれない
のだから。
82ページ目
ん?テルか?
開いてるぜ。
83ページ目
は、入ってもいい?
ちょ、ちょっと話が
あるんだけど……
おう、改まって
どうした。
こんな夜更けに
人の部屋……
84ページ目
85ページ目
86ページ目
お、お前……
な、何?
その服。
こ、これはね、
昔、カズミ姉さんに
もらったものなんだ。
あ……カズミ姉さんって
いうのは昔この街で一緒に
暮らしてた人で……
僕の親代わり
だった人。
いや、だから
………
僕や姉さんは最後の
南方避難グループに
入ってた。
でも僕には
大事な使命が
あったから……
……。
87ページ目
出発の直前、こっそり
みんなのもとを
抜け出したんだ。
もう2年ほど
前の話だ。
それから2年間……
人間に会ったことは
ただの一度もなかった。
寂しくはなかったよ。
トムやほかの猫たちが
いたから……
でも、君が現れて……
変わったんだ。
88ページ目
君は僕が知らない遊びを
いっぱい知ってて……
ううん、遊びの
ことだけじゃない。
それ以外にもいろんな
知識があるし……
君と一緒にいると、
この街が何倍にも広くなるような……
そんな気持ちになるんだ。
お願いします。
ここを出ていくのは
やめてください。
89ページ目
また元の生活に戻るなんて
耐えられない。君とずっと
一緒にいたいんです。
その代わり……
僕のことは好きなように
扱ってくれて構わない
ので……
よ、寄るな!
90ページ目
91ページ目
あ……
あ、あ、あ……
ち、違う……
92ページ目
違うんだ、
テル。
これは……
あああああ
あああ‼︎
テル、
いったい何が
あったんだよ。
あいつ部屋を
飛び出して
いったぞ。
93ページ目
何やってんだ、
俺は……
………
……仕方ない、
もうこのまま
出発しよう。
食料と武器は……
どっかで調達する
しかないな。
94ページ目
警官か……
視認されたな。
一旦どこかで
まかないと……
!
95ページ目
くそっ‼︎
何なんだよ、何が
いけなかったんだ。
荷物、取りに
戻ってくるかな。
知るもんか。
……ん?
あっ⁉︎
96ページ目
なんで大通りに?
まさか正面玄関から
出たのか⁉︎
何してるんだ、
早く戻ってこい‼︎
ばか……今あいつが
このビルに戻ってきたら
警官も付いてくるぞ。
ここを家宅捜索
されたいか?
………。
あっ、
待てよ!
97ページ目
早く……!
早くこの武器を
届けないと…!
98ページ目
タスク……‼︎
あ……
動体検知!
99ページ目
建物の中です。
確認します。
テル、外は
どうなってる?
100ページ目
なんだ猫か。
動物と判明、
無視します。
…
拘束器具を装着、
避難者として連行
させていただきます。
く、くそ……
101ページ目
ああ…
装着完了しました。
102ページ目
2名は避難者を最寄りの
避難ステーションに移送せよ。
ほかは警らを再開。
了解。
……テル、
あいつら行った
みたいだよ。
…………。
追わなくて
いいの?
103ページ目
……知らない。
知らないって、
おい、テル……
何とかしないと
あいつは……
別にいいだろ!
警官に捕まった
からって……
死ぬわけじゃない。
南方送りになる
だけだ。
あいつは南方に行こう
としてたんだ。だから
同じことじゃないか。
でも、それが
こんな形で終わる
なんて……
何が変わるんだよ!
今更あいつを助けに
行ったって……
104ページ目
どっちにしろこの街から
いなくなるんだ。
助けてなんかやらない。
僕のものにならない
なら……あんな奴
どうなってもいい。
……もう。
本当は思って
ないだろ、
そんなこと。
トム。
行こうぜ、
テル。
105ページ目
好きな子のピンチなん
だよ、駆けつけなきゃ。
あの警官どもから
彼を取り戻そう。
大丈夫、
きっと全部
うまくいくよ。
こんなところで
諦められない
だろ?
…………
…………。
……そうだね。
僕、行ってくる。
106ページ目
よし、
その意気だ!
僕も付いてって
やるよ。
きっと猫の手も
借りたいぐらい忙しく
なるだろうからね。
……。
107ページ目
108ページ目
……あ、あれ、
ここは……?
収容施設……
そうか……
俺は警官に
捕まって……
停電か何かで
学習装置の電源が
切れたのか。
109ページ目
クソがっ‼︎
この音……
南方の輸送
ドローンだ。
110ページ目
早いとこ
ここから脱出
しねぇと……
あれに
乗せられたら
終わりだ。
111ページ目
今度はいったい何だ?
聞いたことない音だ。
112ページ目
113ページ目
旧日本国自衛隊の
兵器を確認。
条例に基づき、
当地区は戦闘地域に
指定されました。
各機は直ちに住民の
避難誘導、保護を
開始してください。
共和国軍に通達し、
支援を要請……
……2、1、
タイムアウト。
妨害電波です。
通信不能。
114ページ目
輸送ドローンによる
情報の中継を提案。
人民輸送船2158号、
了解。
地元警察の要請を受け、
これより当機は通信可能高度
まで上昇、共和国軍に……
115ページ目
116ページ目
ドローンが破壊
されました。
全機、迎撃。
迎撃。
射撃開始。
117ページ目
118ページ目
タスク!
テルか⁉︎
助けに
来たんだ。
こりゃいったい……
停電や妨害電波も
お前の仕業か?
ひいっ!
119ページ目
まだ周りに
警官が残ってる!
踏み潰せ!
な、何だあれは?
誰が操縦してるんだ?
トムだよ。
トム⁉︎
120ページ目
あー忙しい忙しい。
まったく飼い猫も
楽じゃないぜ。
周辺状況……
画面表示切り替え
……これだ。
左後方に3体、
入り口周辺にも
残ってるな。
近くのやつ
から片付け
るか。
それっ!
121ページ目
タスク……
これ、返すよ。
大切なもの……
なんだよね。
122ページ目
……あ、
ありがとう。
今ベルトがないんだ。
少しの間、さやを
持っててくれるか?
うん。
123ページ目
そこの少年二人!
止まりなさい!
テル〜。
124ページ目
大体
潰したか?
よし、撤退!
急げ‼︎
入って!
本部に報告……
接続……
125ページ目
通信モジュールが
見つかりません。
接続不の……
126ページ目
あの警官、
僕らを探して
るのかな?
さぁな……
通常の巡回
っぽいが。
はぁ……
いったい何を
隠してるのかとは
思ってたが……
まさかお前んちの地下に
こんなくそでかい武器が
置いてあったとはなぁ。
127ページ目
この建物と装備品は
知り合いのお兄さんが管理
していたものなんだ。
お兄さんの前は
別の仲間が……
そうして代々、
秘密裏に受け
継がれてきた。
お兄さんが
殺されて……
僕が彼らの仕事を
引き継いだ。
128ページ目
ここにある装備品は
どれも貴重なもの
ばかりなんだよ。
実は弾も燃料も……
もうほとんど残って
ないんだ。
だからいざって
時まで絶対使う
なって……
でも、今日ぐらいは
いいよね。君を助ける
ためだったから……
あっ……
あ、
あのさ。
昨日のことは、
その……
つまり……
129ページ目
昨日はすまなかった。
お前を傷つける
つもりはなかった。
それから、今日は
ありがとう。
お前がお前の大切な武器を
臆せずに使ってくれたおかげで
俺は助かった。
僕の方こそごめんね。
君を脅かすつもりは
なかったんだ。
僕は
ただ……
130ページ目
これはあくまで
確認なんだが。
あの服はお前が普段
一人でいるときに
着ているものなのか?
ち、違うよ。
普段は絶対、
あんな服は着ない。
けど、タスクは
もう街を出るって
言うから……
それが嫌で……
でもタスクは
男の子だから……
カズミ姉さんは……
その、女の子じゃないと
おかしいからって……
…………。
……………
……そうか。
……ばかだな、
お前は。
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……まぁ、無理もねぇ
よな。お前にろくな
知識がなくても。
雨ばかりが降る、
この壊れた世界で……
寒さをしのぐために、
大人たちはいろんなものを
火にくべちまった。
大昔の本とかな。
お前の性指向も性自認も
全部お前自身が
生まれ持ったものだ。
それを人のために
偽ったりねじ曲げる
必要はねぇんだよ。
あの、言ってる
意味がよく……
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お前は恋愛は
男と女でないとできないと
思っているようだが……
別に男同士でも
できる。
はぁ?
お前がありのままの
お前でいてくれたら……
その、俺としても嬉しい。
……あ、え?
どういうこと?
い、いきなり言われ
てもよく分からない
っていうか……
だってカズミ姉さんの
言ってたことは……
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ちょ、
ちょっと…
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これで信じてくれるか?
えっ?
な、何?
今の。
知らなかったか?
なら教えてやる。
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今のはな。
「俺もお前が
好きだよ」……
って意味だ。
……そうか……
そうだったんだ。
何だか……
……とても
幸せな気分だ。
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大昔に建設された
長距離鉄道の線路跡だ。
この上を行けば
警官に見つからずに
街を出られるはず。
わざわざ
見送りさせて
すまないな。
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……どうしても、
行っちゃうんだね。
俺にはやらなきゃ
ならないことが
あるからな。
だが……
使命を果たしたら、
必ずこの街に戻ってくる。
約束するよ。
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じゃ、達者でね。
途中でくたばるんじゃ
ないよ。
へっ。
誰がくたばるかよ。
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かつて、この街には
1400万の人々が住んでいたという。
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現在の人口、多分1人。
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君を待っている。
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おしまい