短編

雨の街のテル

連載途中のコミック (93 / 144ページ完成)

本編

1ページ目

(1コマ目:昼間。摩天楼の立ち並ぶ街並みのロングショット。寒々しい空は一面が雨雲に覆われ、降りしきる雨がビルのシルエットをぼやかしている。)

かつて、この街には
1400万の人々が住んでいたという。

2ページ目

(1コマ目:場面は突然変わる。大きな音を立ててガラスが砕け散る。ガラスの破片と共に飛び込んできたのは何者かによって投げ込まれたコンクリートブロック。)

(2コマ目:ブロックがガラスの破片だらけの床に落ち、鈍い音を立てる。)

(3コマ目:割られたのは全面ガラスの自動ドアだった。室内には大量の破片とブロック、外側にはそれを投げ込んだ人物の影。)

はぁ、はぁ……
やっと割れた。

3ページ目

(1コマ目:ビル街のロングショット。地面がかすむほどの豪雨で、街は全くの無人である。ただ一人、謎の人物が割れたドアにかがんで腕を突っ込み、鍵を開けようとしている。人物が侵入しようとしている建物はコンビニらしい。)

現在の人口、多分1人。

(2コマ目:コンビニの看板には24の文字があるが、店内は薄暗い。)

(3コマ目:ドアが開けられ、店内に侵入した人物。背丈からすると子供のようだ。子供の顔はまだ見えない。子供は全身黒色の服を着ているが、長袖コートの裾から出た手や、ハーフパンツの下からのぞく膝は白い。首元には白いシャツと黒いネクタイが見える。)

(4コマ目:店内の商品を見渡す子供の後ろ姿。少し長めでウェーブの掛かった黒髪は雨にぬれている。子供は茶色いリュックサックを背負っている。店内にはこの侵入者以外に人の気配はないが、子供が突然つぶやく。)

トム、起きてるんだろ。
そろそろ出てこいよ。

(5コマ目:背中のリュックがもぞもぞと動き出す。)

4ページ目

(1コマ目:子供はリュックの肩ベルトに手を掛ける。子供が振り向くと、その顔はあどけない少年のものだった。同時に、リュックの中からにゅっと生き物が顔を出す。首輪を付けた白い短毛の猫は、少年に向かって言葉を発する。)

ぷは〜、よく寝た。
もう着いたのかよ。

(2コマ目:リュックから飛び出し、光沢のある床に着地する猫。)

(3コマ目:猫は何かに気付き、ある方向を見つめている。一方、少年は商品棚から缶詰をすくい、次々と自分のリュックの中に放り込んでいる。)

食べ物、
食べ物〜。

5ページ目

(1コマ目:白猫の後ろ姿。猫が見つめる商品棚はペットフード売り場だった。そこにはレトルトパウチや缶詰が並んでいる。)

テル、こっちに
猫の絵がついた
袋があるよ!

(2コマ目:ペットフード売り場に近寄り、猫の隣にかがみ込む少年。)

袋入りの食べ物は
ダメだよ、腐ってる
かもしれないから。

缶詰だけ
持って行こう。

やっぱり?

(3コマ目:窓の外から、ザ…ザ…ザ…と足音が聞こえてくる。)

(4コマ目:足音に気付き、振り向いた少年の顔には恐怖の色が浮かんでいる。)

(5コマ目:血相を変えて慌てる少年。)

テル!

警官だ!
隠れなきゃ!

(6コマ目:窓際の雑誌棚のそばの床に飛び込む少年。窓の外から聞こえるザ…ザ…ザ…という足音はどんどん大きくなる。)

6ページ目

(1コマ目:ザッ、ザッ、ザッ、という足音と共にコンビニの表を通り掛かるのは、人型のロボットの一団だった。それらは長身で首は異様に細く、顔はのっぺらぼうである。長い円筒状のマーチング帽子をかぶり、隊列を組んで行進する様子はオモチャの兵隊をほうふつさせるが、真っ黒の全身は親しみよりも威圧感を振りまいている。少年は猫を抱き、床に伏せたまま動かない。少年とロボット警官たちは窓ガラス一枚と雑誌棚を間に挟み、その距離は1メートルもない。だが、雑誌棚の死角に隠れたテルに、ロボットたちが気付く様子はない。)

7ページ目

(1コマ目:ロボットたちの足元のアップ。ザッ、ザッ、ザッ、という足音に混じってカチャリ、カチャリという機械音が聞こえる。)

(2コマ目:少年テルと猫のトムのアップ。テルの目は固く閉じられ、冷や汗を流している。トムは外をにらんでいるように見える。)

(3コマ目:ビル街のロングショット。規則正しい足音は遠ざかっていき、黒いロボットたちは雨霧の向こうに消えていく。)

(4コマ目:かがみ込んだままのテルの腕の中から、トムが顔を出し、窓の外をいちべつする。)

…………。

……テル、
あいつら行った
みたいだよ。

8ページ目

(1コマ目:絵の無いコマ)

西の大陸から流れ込んだ分厚い雨雲は
明るい太陽を覆い隠し
凍える人々は姿を消した。

彼らがこの街に残していったのは
僅かな食料と消し忘れの電灯
そして不気味な機械たちだけだった。

(2コマ目:二十数階はあるであろう大きなガラスビル。)

(3コマ目:狭くて薄暗い道を、黒い傘をさしたテルが寂しく歩いている。)

(4コマ目:さらに狭い裏路地に、傘を擦りそうになりながら入っていくテル。その腕にはトムが抱かれている。裏路地の片側の建物には裏口らしき扉が付いている。)

(5コマ目:裏路地にいた二匹の野良猫がこちらに気付き、顔を向ける。片方は黒いハチワレで、もう片方は三毛猫である。)

あ、トムと
人間だ。

おかえりー。

9ページ目

(1コマ目:トムがテルの腕からで出ようとする。)

僕ちょっと友達に
挨拶してくるよ。

ああ、
わかった。

(2コマ目:二匹の野良猫はゴミバケツの横の小さな囲いの下で雨宿りをしているようだった。トムは二匹の元に走り寄る。テルはどこからか鍵束を取り出し、チャリチャリと音を鳴らしながら鍵をめくっている。)

(3コマ目:トムに向かって話しかける二匹の野良猫。)

しっかし、お前も
物好きだよなぁ。

そうそう。
なんで人間なんかと
つるんでるんだよ。

(4コマ目:二匹の視線が集中するのはトムの首輪。)

今時「飼い猫」
なんかやってるの、
お前だけだぜ。

(5コマ目:鍵をドアノブの鍵穴に差し込むテル。一方トムは野良猫たちの言葉に対し、むしろ得意な顔をして答える。)

そうだよー、
今となっては僕は
貴重な存在なんだ。

(6コマ目:トムとそれを見つめる二匹の野良猫。)

テルは
この街で最後の
人間だから……

つまり僕は
最後の飼い猫
ってことさ。

ふぅん。
まぁ頑張れ。

10ページ目

(1コマ目:ドアがキイイと音を立てて開く。テルはドアノブを片手に、トムの方を振り返る。)

トム、
おいで。

(2コマ目:テルは真っ暗な屋内に入りつつ、駆け寄るトムを迎える。)

(3コマ目:ドアの中から野良猫たちに話しかけるテルと、それに応えるハチワレ。)

あの、皆さんも
良かったら……

あ、お構い
なく〜。

そうですか、
それでは……

(4コマ目:ドアを閉めるバタンという音と、それに続いてガチャリと鍵が掛けられる音が、再び人影の無くなった狭い裏路地に響く。)

(5コマ目:場面は変わり、室内。カーペットに置かれた湯沸しポットから伸びたプラグが白い壁のコンセントに刺さっている。ポットとその周りにある沢山の缶詰を、窓からの光が照らす。)

(6コマ目:缶詰に囲まれたティッシュペーパーの箱と、片手鍋。鍋の中の湯からは湯気がのぼっている。)

11ページ目

(1コマ目:部屋の中のロングショット。室内には折りたたみ式のロングテーブルが三つ並んでおり、四つ目のテーブルは床に倒され、バリケードのようになっている。バリケードの向こう、部屋の奥側の壁は一面がガラス窓になっており、窓の外には沢山のビルが見えるが、そのシルエットは相変わらず振り続ける雨でぼやけている。床は一面がカーペットで、部屋の隅の床に置かれたポットや鍋のすぐそばには、膝を抱える姿勢で座り込んだテルがいる。また、トムはその傍らで伏せている。)

(2コマ目:トムの眼前には食べ物の入ったおわんが置かれ、トムはそれをもぐもぐと食べている。)

(3コマ目:テルはどこかつまらなそうな顔をしながら、右手に持ったフォークを缶詰に突っ込み、その中身を食べている。)

12ページ目

(1コマ目:トムは空っぽになったおわんを見つめながら、缶詰の底をフォークで引っかいているテルに話しかける。)

……ねぇ、
テル。

なに?

(2コマ目:床に何個か転がった空っぽの缶詰のアップ。)

缶詰食べるのも
ちょっと飽きて
きたなぁ。

……そうだね。

(3コマ目:夜。部屋の中は暗く、窓の外では雨が降り続いている。)

(4コマ目:床に置かれた卓上ランプは柔らかい光を放っている。)

(5コマ目:床に倒された三つのロングテーブルが三方を囲んでいる。その囲いの中には数冊の本が置かれ、丸くなっているトム、そしてパジャマに着替え、毛布のようなものをかぶってうつ伏せに寝転がっているテルがいる。トムが見つめる最中、テルはランプの明かりを頼りに、大きな手帳にペンで何かを書いている。)

13ページ目

(1コマ目:あきれたような、小馬鹿にしたような表情でテルの手元を見下ろすトム。)

テルの年ならちょっと
ぐらい漢字が書けても
いいはずなんだがなぁ。

(2コマ目:赤面してトムをにらみつけるテル。トムは意に介さず、テルの左手を踏み越えて歩いていく。)

うっるさいなぁ。
そう言うお前は
字が書けるのかよ。

猫の手では
ペンは持てま
せぇん。

(3コマ目:ふあ〜あ、と大きなあくびをするトムと、それを見つめるテル。)

……もう
寝よっか。

(4コマ目:テルがランプに手を伸ばしてスイッチを押すと、周囲は暗くなる。)

(5コマ目:もぞもぞと動いて毛布のようなものを深くかぶるテル。)

(6コマ目:テルの右手と、毛布に潜っていくトムの尻のアップ。)

14ページ目

(1コマ目:ロングテーブルのバリケードに囲まれて眠りに落ちるテルとトム。一人と一匹は身を寄せ合うように丸くなっている。)

(2コマ目:大きなガラスビルのロングショット。テルたちの住みかとなっているその建物は、夜の雨の中に浮かんでいる。ビルは一か所を除き、ほとんど全ての窓が不自然な薄明かりを放っている。)

15ページ目

(1コマ目:昼間。街のどこかの雑然としたビルの並び。)

(2コマ目:服屋の店内。テルは沢山の服が畳んで置いてある棚に手を伸ばして物色している。トムはその横で興味もなさそうに自分の手をなめている。)

(3コマ目:ビルの廊下を歩くテルとトム。テルは何とはなしに窓の外に目をやる。)

少し雨脚が
弱くなってきた
かな……

(4コマ目:退屈そうな表情で、引き続き窓の外を見ているテルのアップ。)

ん?

(5コマ目:テルの目元のアップ。その表情はさっきとは打って変わり、目は信じられないものを見たかのように見開かれている。)

(6コマ目:窓から見た地上の風景。歩道には、なんと人間のシルエットが一つ。)

(7コマ目:ビルの廊下。)

人影だって?

16ページ目

(1コマ目:廊下を疾走するトムとテル。)

そりゃ警官の
見間違いじゃ
ないの?

集団じゃなくて
一人で歩いてたんだ。
あれは人間だよ!

この街にもまだ
居たんだ!

(2コマ目:片開きの小さな窓を開き、身を乗り出すテル。外はビルとビルの間の狭い空間で、数階下に地面が見える。)

(3コマ目:隣のビルの壁に取り付けられた小さいろくひさしに飛び移るテル。トムもそれに続こうとする。)

(4コマ目:薄いろくひさしの上を進むテルとトム。)

危ないよ、
こんな所を
進んで。

いいんだ、
それより早く
外に出ないと。

17ページ目

(1コマ目:テルの足元のろくひさしに突然ヒビが入り、大きな音を立てて割れる。)

(2コマ目:ろくひさしの一部が完全に外れ、テルと一緒に落下する。それをトムはひさしの無事な部分の上で立ち止まって見つめる。)

うわああ
ああああ‼︎

(3コマ目:鈍い音を立てて地面に落ちたテルのアップ。その表情は痛みにゆがんでいる。)

(4コマ目:のろのろと立ち上がるテルの後ろでスタイリッシュに着地するトム。)

ほら、言わん
こっちゃない。

いてて……
時間を食った。
急がないと。

(5コマ目:開けた場所に駆けて飛び出すテル。そのすぐ目の前には複数の黒い人影がある。)

18ページ目

(1コマ目:不吉な表情で人影の方に振り向くテル。)

あ……

(2コマ目:テルの目線よりはるかに高い場所に並んだ黒いのっぺらぼうの顔が、小さな少年を見下ろしている。それはロボットの警官だった。)

(3コマ目:一瞬の静寂の後、トムを抱え、血相を変えて走り出すテル。そのすぐ後ろを合計四体の警官が走って追いかける。)

19ページ目

(1コマ目:走る警官たち。)

(2コマ目:泣きながら走るテルと、その胸に抱かれたトム。)

やばい、やばい、やばい、
やばい、やばい………‼︎

(3コマ目:ロングショット。建物が密集した歩道と車道の区別もない狭い道路で、小さな少年を徐々に追い詰める警官たち。)

(4コマ目:警官の右手のアップ。どこからともなく取り出された警棒がカチャっと音を立てて伸長する。)

(5コマ目:ロボットが警棒でテルの左腕を殴りつける。)

あぐっ‼︎

(6コマ目:苦渋の表情を浮かべ、抱いた猫をかばうように肩から倒れる少年。跳ねる水しぶきに映ったテルの姿はぼやけている。)

20ページ目

(1コマ目:地面に倒れこんだまま顔を持ち上げ、ぜー、ぜーと肩で息をするテルと、それを見下ろす大きなロボットたち。少年の腕の中の猫も飼い主と同じくロボットたちを見上げている。)

テル……!

(2コマ目:テルを見下ろしたまま声を発するロボットの一体。)

この地域は危険区域に
指定されました。

(3コマ目:ロボットたちは少年の周りをうろつき、一体が音声を発している最中別の一体は警棒を振り回している。テルたちは地面に倒れたまま動けない。)

終わった。

住民の皆様には
避難命令が発せ
られています。

直ちに避難して
ください。

(4コマ目:テルの顔のアップ。少年の目元はぬれているが、その目はロボットたちを恨みとも憎しみとも取れる表情で見上げている。)

僕もみんなと
同じように……

南方に連れて
行かれる……‼︎

(5コマ目:ロボットたちのうちの残りの三体も警棒を取り出して構える。)

当該住民に
抵抗の兆候あり。

21ページ目

(1コマ目:じりじりと近づいてくるロボット。)

強制移送のため、
あなたを拘束
させて頂きます。

(2コマ目:ロボットの右手のアップ。その手は次の動作のために振り上げられている。)

(3コマ目:思わず目を閉じるテル。)

(4コマ目:軽快な足音が駆け寄ってくる。)

(5コマ目:次の瞬間、何か棒状の物が飛び出し、振り下ろされた警棒と激突して重い金属音を立てる。)

(6コマ目:恐る恐る片目を開けるテルは、自分とロボットたちの間に別の人影があることに気付く。)

………。

…………?

22ページ目

(1コマ目:予想外の光景に目を見張るテルとトム。自分たちの前に謎の人物が立ちはだかっている。その身長はテルには大きく見えるが、ロボットよりはずっと低い。謎の人物はショート丈のコートに付いたフードを深くかぶり、顔は見えない。背中には黒いリュックを背負い、ジーンズの裾は光沢のあるロングブーツにしまわれている。手には手袋をしているのか、真っ黒で肌の色は見えない。その両手は長い一本の剣が握られている。)

23ページ目

(1コマ目:謎の人物の後ろ姿とロボットたち。緩やかな曲線の刃に当てられた警棒は、その持ち主と共に固まっている。)

(2コマ目:キョロキョロと首を動かし始めるロボットたちのアップ。二つの武器はギギギときしむ音を立てている。)

(3コマ目:テルの顔のアップ。驚きと好奇心に満ちたその目からは悲壮感は抜け落ちている。)

(4コマ目:謎の人物の手元のアップ。握った手ににわかに力が入る。)

24ページ目

(1コマ目:人物が突進するかのごとく剣を振り上げ、警棒が払われる。)

(2コマ目:続いて剣が振り下ろされると、ロボットはそれを自らの腕でガードし、硬い衝撃音が響き渡る。)

(3コマ目:ぎこちない動きのロボットの顔のアップ。)

25ページ目

(1コマ目:せん光が走り、ガリっと音を立ててロボットの首に刃が突き刺さる。)

(2コマ目:首に刃が刺さったまま押し倒されるロボット。)

(3コマ目:ロボットが倒れ、重い音と共に水しぶきが上がる。次の標的に向かって走り始めた人物を前に、仲間の警官たちは慌てている。)

攻撃者を発見。
不明な武器が使用
されました。

対処法を
検索……

26ページ目

(1コマ目:すかさず二体目のロボットの首に剣が突き刺さる。)

しㇺ……

(2コマ目:謎の人物が剣を振り上げると、刃を引き抜かれた二体目のロボットが力なく倒れる。)

(3コマ目:そのままの勢いで三体目のロボットの顔面に、今度は剣のつかがしらが激突する。)

(4コマ目:三体目のロボットの顔面はぐちゃぐちゃにひび割れている。ロボットは思わず顔を手で覆って奇声を発するが、人物はすでに四体目のロボットの元に駆け寄っている。)

アアアアアア
アアアアア‼︎

27ページ目

(1コマ目:人物の周りを一回転する剣。)

(2コマ目:人物の動きが止まると、背後では四体目と三体目のロボットの首が切り裂かれ、空中には破片が飛び散っている。その瞬間、はるか後方ではようやく二体目のロボットの背が地面に接触し、水しぶきを上げていた。)

28ページ目

(1コマ目:ガシャンと音を立て地面に倒れこむ三体目と四体目のロボット。ヒビだらけだった三体目の顔面は、その衝撃で黒いガラスの破片となって弾け飛ぶ。今までは見えなかった顔面の下には、人間の目に位置する場所にカメラセンサーがある。)

(2コマ目:上体を起こし、恐ろしげな表情で人物を見上げるテルとその腕に抱かれたトム。)

(3コマ目:テルの横顔と、謎の人物の後ろ姿。剣を正面に構え直した人物の周囲の地面には四体のロボット警官のなきがらが横たわる。)

な……何が
起こったんだ?
あいつは一体……

(4コマ目:くるっとこちらを振り向く謎の人物。)

29ページ目

(1コマ目:ギクッと緊張して身をよじるテル。その視線の先には、上向きになった刃がある。)

ひっ!

(2コマ目:完全にテルの方を向いている謎の人物。フードに隠れたその顔はまだ見えないが、二つの目だけが不気味に光り、テルを見下ろしている。)

……………。

(3コマ目:二人のロングショット。片手で猫を抱き、尻餅をついた姿勢のまま後ずさるテル。謎の人物は右手で剣のつかを持ち、左の腰にぶら下がっている黒いさやの先端と剣の先端を一緒に左手でつかんでいる。)

あ、あ、
あの……

き、君は、
その……

(4コマ目:謎の人物の腰のアップ。剣がさやの中に収められる。)

(5コマ目:謎の人物はフードを外す。目を丸くするテル。)

あ……

30ページ目

(1コマ目:フードの下から出てきたのは、短いツンツンの黒髪。肌はテルと同じぐらい白いが、顔つきはテルよりもどことなく大人びている。無表情にテルを見下ろすそれは、紛れもなく人間の少年の顔だった。相手の少年は口を開く。)

人間だ。

(2コマ目:テルの顔のアップ。その瞳はぼんやりと相手を凝視し、頬はそこはかとなく赤らんでいる。)

………。

(3コマ目:立ち上がろうとするテルと、直立不動でテルを見下ろしたままの少年のロングショット。)

お前、けがは?

い、いや……
あ、ありがとう。

31ページ目

(1コマ目:唐突に反対を向き、歩き始める謎の少年。)

……じゃ、俺は
先を急ぐんでな。

(2コマ目:慌てた顔で手を伸ばそうとするテルのアップ。)

あっ……
ちょ……

ちょっと待って‼︎
もう行っちゃうの⁉︎

(3コマ目:立ち上がって相手に近寄るテルと、立ち止まって今度は身体を横向きに、顔をテルの方に向ける少年のロングショット。)

他の人間に
会ったのはすごく
久しぶりなんだ!

もっと話を
聞かせてくれ
ないかな?

……何だよ。

(4コマ目:謎の少年を見つめる、ぎこちない笑顔のテルと、その腕に抱かれた無表情のトム。背後には警官の死体が映る。)

君の持ってる
それは武器……
なんだよね?

警官4体を一瞬で
やっつけたけど……
一体どんな仕掛けが?

(5コマ目:食いつくように謎の少年を見つめるテルの横顔と、無表情にそれを見つめ返す相手。)

お礼もしたいし、
良かったら僕の
所に来ない?

………。

32ページ目

(1コマ目:相手を見つめるテルとトム。)

……あ、いきなり
ごめん。僕はテル
っていうんだ。

こっちは
白猫のトム。

は、初めまして。

(2コマ目:下を向いて目をつむる謎の少年。その口元はかすかに笑っている。)

……俺の名前は
タスクだ。

(3コマ目:再び目を開き、優しい笑みでまっすぐテルを見据えるタスク。)

この武器が何なのか
気になるか。

教えてやっても
いいぜ。

(4コマ目:うっとりとした表情で静かにタスクを見つめるテル。)

33ページ目

(1コマ目:回想シーン。画面は不鮮明で、セリフはところどころが塗りつぶされている。場所は不明だが、背景は明るい。低い位置から見上げた大人の男性二人の顔のアップ。片方は若い黒髪で、片方は白髪でひげの老人だが、逆光になっている二人の顔はよく見えない。いずれも背広を着ている。)

おや、珍しいのう。
どこからおいでなすったのかね、
そこの    。

ああ、こいつ確か……
カズミん所にいるガキですよ。

(2コマ目:雨の降る昼の空。)

(3コマ目:明るい場所。黒髪の男性の後ろ姿。男性は大きな窓から外を眺めている。窓のふちの壁は白い。)

……そうか、じゃ、
お前の名前は今日から
テル、だ。

僕の……名前?

(4コマ目:少し暗い場所。言い争いをしている男女。背広の若い男は怒りの形相で、女を指差している。長い黒髪を束ねた女は後ろ姿で表情は見えないが、拳は固く握られている。)

カズミ、お前、
自分のガキに
何やってるんだ!

いいのよ!
こうするのが   の
ためなんだから!

34ページ目

(1コマ目:暗い場所。はるか頭上の天井には丸い照明が点々と並んでいる。)

この場所のことは絶対に
誰にも秘密だぞ、テル。

うん、お兄さん。

(2コマ目:明るい場所。若い男性の胸部のアップ。男性は右手で懐から拳銃を取り出そうとしている。)

テル、逃げろ‼︎

(3コマ目:明るい場所。老人の横顔。)

……う、うーん。
そうじゃな、それはきっと
わしらが大人だから……

お前さんはまだ
子供だからのう……

(4コマ目:暗く、さらに不鮮明な画面。雲のようなもや。)

(5コマ目:真っ暗だが、どこからか怪しい光が差し込んでいる場所。女性の胸部のアップ。女性はこちらに右手を差し伸べている。)

   、おいで。

35ページ目

(1コマ目:再び現在。建物の内側。ドアがギーッと音を立てて開くと、外には白猫と二人の少年の姿が見える。)

(2コマ目:猫と二人の足元のアップ。滴り落ちる水滴が床をぬらし、外から差し込む光を淡く反射させている。人間二人の先陣に立って屋内に入ったトムが口を開く。)

どうぞ入って
くださいな。

(3コマ目:テルによってドアが閉められ、室内はにわかに暗くなる。あたりを見渡すタスク。)

ビル…の裏口?
変な所に住んで
るんだな。

正面玄関は
大通りに面してて
危ないから……

(4コマ目:テルがドアのそばにあった棚のようなものを引きずり、重い音を立てる。タスクはテルの発言に応答しながら何かに気付く。)

なるほど……

(5コマ目:タスクの後ろ姿が、T字の通路のうちの一つを見つめている。照明もなく暗いその通路の入り口には、三角コーンとそれに斜めに掛けられた工事現場のポールのようなものが置かれ、人の侵入を拒んでいるように見える。通路の途中には無造作に置かれたダンボール箱が一つある。通路の奥は暗いが、突き当たりには狭いエレベータのドアが見える。ドアの上にはランプの光が見える。)

36ページ目

(1コマ目:ポールを乗り越えて通路を進もうとするタスク。その後ろで、テルは慌てた顔をする。)

あ……

ち、ち、
違う、違う!

(2コマ目:タスクの左腕のアップ。背後からテルの右手が飛び出し、抱きつくようにがっしりとタスクの腕を捕まえる。)

(3コマ目:キョトンとした表情でテルの方を振り向くタスク。)

ん?
エレベータに乗る
んじゃないのか?

そ、そっちは
地下に行く
エレベータだから!

(4コマ目:テルの顔のアップ。テルはなぜか真っ赤な顔で必死の形相をしている、)

地下には何も
無いから!

(5コマ目:戸惑い、同じように赤面するタスクの顔。そのタスクにかじりついたままのテル。)

あ、ああ……
そうかよ。

本当だよ!
本当に何も
無いからね!

37ページ目

(1コマ目:二人が向かったのは広くて明るいエレベータホールだった。ホールには複数の大きめのエレベータが並んでいる。)

ほら、こっち
こっち。

分かったから
引っ張るなよ。

(2コマ目:ホールに先に到着していたトムがエレベータの呼び出しボタンに向かって体を伸ばしている。)

早くボタン
押してくれ。

(3コマ目:エレベータの内側。階数表示は上昇を示し、14、15と数字を刻んでいる。)

(4コマ目:明るく広いT字の廊下。沢山のドアが並び、床はカーペットになっている。)

(5コマ目:一つのドアが開けられている。)

(6コマ目:部屋の中。窓から景色を眺めるタスクの後ろ姿。その窓はテルが寝泊まりしている部屋のものよりは小さく、窓の周囲には壁が存在する。)

ほほー、こりゃ
いい眺めだ。

38ページ目

(1コマ目:ドアの外に一歩出て笑顔で手を振るテル。)

部屋は沢山余って
るから、どこでも
好きに使って。

何か要るもの
があったら
言ってね。

(2コマ目:部屋の中のロングショット。部屋の中央にあるローテーブルは正方形で、トップは白いが真ん中は空洞になっている。テーブルの周囲四方には同じ形の黒いソファが並んでいる。ソファは人一人が寝そべれそうな大きさだ。部屋の隅にはドアが、その反対側の壁にははめ殺しの窓が存在する。ドアがバタンと閉められる様子を、部屋に一人残されたタスクが見つめている。)

変なやつ……

(3コマ目:場面は変わって夜。街の夜景のロングショット。空は真っ暗で、相変わらず冷たそうな雨が降っているが、多くのビルは明かりが点いており、街は明るく見える。)

(4コマ目:街の通り。沢山並んだ街灯が人も車もない道路を照らしているが、暗くなっている街灯が一本だけある。)

(5コマ目:調子の悪い街灯のアップ。ライトがジージー音を立てながら暗く点滅している。)

39ページ目

(1コマ目:先の戦闘で破壊されたロボット警官たち。夜の雨に打たれながらも、それらは変わらずそこに横たわっている。)

(2コマ目:突然、大きな手がロボット警官のなきがらの一つをつかむ。それは指が二本しかない簡素なロボットアームで、腕にはシマシマ模様が付いている。)

(3コマ目:道路のロングショット。地面に散らばった死骸に群がるそれらはゴミ回収車のような形状だが、車体の下には大きなブラシがつき、人間が乗る運転席は存在せず、小さな窓には複数のランプがビカビカと光り、頭には大きな収納口と長い機械の二本の腕が付いている。二台のロードスイーパーロボットが、手分けしてロボット警官のスクラップを回収している。)

(4コマ目:ロードスイーパーの頭の収納口にヒョイと放り込まれる警官。)

(5コマ目:別の道路。4本足の小さなピザボックス型のロボットが、車道のふちをトコトコと歩いている。)

40ページ目

(1コマ目:一本の電柱の前で立ち止まると、カタっと音を立ててピザボックスの頭上が分離する。その背後で、作業を終えた二台のロードスイーパーが走り去っていく。)

(2コマ目:ピザボックスの分離した頭部は口から飛び出たアームで電柱をつかみながら、首を長く伸ばして上昇していく。その電柱とは例の調子の悪い街灯だった。)

(3コマ目:街灯のランプ部分のアップ。ピザボックスから細い多関節の腕が三本伸び、ランプの蓋をあけ、棒状の蛍光灯のような部品を引き抜き、代わりに取り出した別の同じ部品を取り付けようとしている。)

(4コマ目:ピザボックスの頭部が下降を始めると、街灯がパッと明るく点灯し、他の街灯と同じようになった。)

41ページ目

(1コマ目:夜明け前の街。空がかすかに明るみ始め、薄暗い街路では街灯が規則正しく並んでいる。)

(2コマ目:日中。街を歩くタスク、テル、そしてトム。)

ま、待ってー!
歩くの速いよ!

(3コマ目:無表情に飼い主の後を歩くトム。不安な表情で傘を差し、昨日と同じようにリュックを背負って旅人に続くテル。余裕の表情で先頭を歩くタスクは傘も差していない。)

僕のうちで待ってて
くれてもよかった
のに……

食料集めに
行くんだろ?

一緒に運んだ方が
早く済む。

(4コマ目:雨雲と立ち並ぶ建物。)

だ、大丈夫かな、
こんな開けた道を
堂々と歩いて……

公道を歩くのに
誰に遠慮する必要が
あるんだ。

(5コマ目:スーパーマーケットの看板のアップ。)

42ページ目

(1コマ目:スーパーの入り口に集まった二人と一匹。タスクは入り口のガラス扉を調べている。)

やっぱ閉まってるな。
扉を壊さねぇと。

(2コマ目:あたりを見渡すテル。その背後で後ずさるタスク。)

少し待ってて、
僕が何か重そうな
ものを探し……

(3コマ目:扉に向かって思いっきり蹴りを入れるタスク。突然の行動に驚いたテルとトムは目を丸くする。)

(4コマ目:放射状に太いヒビが何本か入り、扉が開く。悠然と中に入っていくタスクを見つめるテル。)

び、びっくり
した……

開いたぞ。

43ページ目

(1コマ目:昼間。どこかのビル街。)

(2コマ目:歩道を歩く二人と一匹。タスクは左手にダンボール箱を担いでいる。テルとトムはタスクの顔を見ている。)

(3コマ目:一軒の店に目を留めるタスク。それはチェーンの喫茶店だった。)

(4コマ目:通り過ぎるテルとトムの背後で、ドア越しに店内を見るタスク。喫茶店は二十数席程度の広さで、照明の落とされた店内は当然のごとく人影はなく、ガランとしている。)

(5コマ目:喫茶店の扉に近づいていくタスクと、呼び止められて振り返るテルたち。)

ちょっとこの店で
一休みしようぜ。

え?

44ページ目

(1コマ目:ティーカップのアップ。カップにはポットから鮮やかなオレンジ色の液体が注がれ、湯気が立ち上る。)

(2コマ目:喫茶店内の席に着いたテルの前に、液体の入ったティーカップを置くタスク。テーブルの上にはもう一組のティーカップと、角砂糖入りのガラス瓶、そして何本かのクリーマーの袋がある。トムはキョトンとした顔でそれを眺め、テルの顔はとても緊張している。)

(3コマ目:こうこつとした表情でカップの中をのぞき込むテル。)

何これ、
いい香り……

これは
紅茶。

(4コマ目:テルの後ろ姿と、その対面に座り、満足げな表情で手に持ったカップの香りを確かめるタスク。)

こう…
ちゃ?

ああ、保存状態の
いい茶葉が残ってて
助かった。

(5コマ目:トムがテルのカップに顔を近づけ、くんくんと香りを嗅ぐ。)

(6コマ目:その直後、顔をしかめて遠ざかるトム。)

ふぐっ!

45ページ目

(1コマ目:トムの眼前で慎重にカップを持ち上げるテルと、その様子を不思議な顔で見つめるタスク。)

テル、遠慮
した方が……

いや、でも
折角だし……

あん?

(2コマ目:険しい顔で紅茶を一口すするテル。)

(3コマ目:一転して笑顔になるテル。)

(4コマ目:笑顔で紅茶を飲み始めるテルと、それを見て同じ笑うタスク。)

おいしい。

それは
良かった。

(5コマ目:トムにカップを近づけるテルと、それに口を挟むタスク。)

ほら、おいしいよ。
トムも一口
飲んでみなよ

えー、やだよ!
そんな得体の
知れない……

あー、猫には
やらない方がいい
んじゃねぇかな。

これカフェイン
入りだし。

46ページ目

(1コマ目:ティーポットのアップ。)

……いや、俺はこの街の出身
じゃないぜ。ここよりずっと
北の地方から来たんだ。

(2コマ目:テルはじっとタスクの顔を見ている。)

タスクのいた所には
まだ人が居るの?

(3コマ目:そのタスクはほおづえをつき、目をつむっている。)

居たのなら、
旅には出なかった
かもしれないな。

(4コマ目:タスクの後ろ姿とテルの顔。タスクは窓の外に視線を投げ、テルはタスクの顔を見たまま、浮かない表情を浮かべる。)

地元以外のことは
正確には分からな
いが……

もう、ここより北に
人間は一人も残って
ないんじゃないか。

(5コマ目:視線を交わすトムとタスク。)

やっぱテル
みたいな人間は
珍しいんだな。

みたい
だね。

(6コマ目:皮肉っぽい笑みでトムの背中をなでながら、トムに話し掛けるテル。タスクはその様子に気付き、けげんな顔をする。)

どうする〜?
僕まで街から
居なくなったら。

ん…?

別にどうも。
野良に戻る
だけだよ。

47ページ目

(1コマ目:会話を続けるテルとトム。タスクはテルのその様子に、完全にドン引いている。)

またまたぁ、
お前に野良猫が
務まんの?

……。

バカにするなよ、
僕だって昔は……

(2コマ目:タスクの様子に気付き、振り返るテル。)

………あれ、
どうかしたの?

え、い、いや、
別に何も……

(3コマ目:タスクの返答をいぶかしむテル。)

?……

その反応、
まるで大人たち
みたい……

(4コマ目:テーブル全体のロングショット。テルを見つめるトム。テルはタスクに話し掛けるが、タスクは両手を膝の上に置いている。)

もしかして、
君も猫の言葉が
分からないの?

猫の……
言葉…?

(5コマ目:赤くなった頰を軽く引っかき、猫の方に視線を落とすテル。)

そ、そうか……
トムの声、タスクには
聞こえてなかったんだ。

僕、てっきり
……

48ページ目

(1コマ目:再びテーブル全体のロングショット。トムは椅子の上に寝転がり、テルはそれを見ている。タスクはテルの様子を伺いつつ、両手で椅子の縁を触っている。)

子供ならみんな
猫の言葉が分かるって
わけじゃないのかな?

この街には
お前以外にも
居たのか?

動物とお話し
できる子供が。

(2コマ目:怒った顔でタスクを見るテルと、興味がなさそうに片手を降るタスク。)

あっ、僕のこと
疑ってるでしょ!

猫たちは本当に
しゃべってるんだよ!
君には聞こえないかも
しれないけど!

分かった、
分かった。

(3コマ目:椅子の上で身体を丸めるトムが、ほくそ笑んでテルを見上げる。)

ククク。
信用されてない
みたいだなぁ。

(4コマ目:突然笑顔でトムをわしづかみにするテル。)

そうだ!

(5コマ目:立ち上がり、不機嫌そうなトムを抱き上げてタスクに話し掛けるテル。)

僕たちがちゃんと会話
できてるってことを、
今から証明してみせるよ。

証明…?

49ページ目

(1コマ目:ひざまずく姿勢で猫を床に置く少年。)

(2コマ目:ガッツポーズで猫に命令するテル。タスクは椅子に座ったまま彼らを観察している。)

トム、その場で
三回まわってニャン!
って言うんだ。

はぁ?

(3コマ目:不満そうな顔でテルを見上げるトム。)

僕はれっきとした猫だぞ。
そんな犬みたいなまねが
できるか。

(4コマ目:そのままプイと顔を背け、スタスタと歩き出すトム。)

(5コマ目:慌ててトムに追いすがるテルだが、トムは歩みを止めない。彼らの様子に旅人は思わず笑顔になる。)

ちょ、ちょっと〜!
こういう時に協力して
くれないと困るよ〜。

(6コマ目:見上げる狭い階段。その先にあるドアは開け放たれ、外光を取り込んでいる。)

50ページ目

(1コマ目:6階建てのビルを見下ろすショット。1階が先ほどの喫茶店で、屋上にはタスクと傘を差したテルがいる。屋上に出るための扉の内側にはトムの姿も見える。)

(2コマ目:片手で剣を抜き、講釈を始めるタスクとそれを背後から見つめるテル。)

これはな、
“日本刀”というんだ。

にほん…とう?

200年以上前に
使われなくなった
古い鉄の剣さ。

(3コマ目:両手で日本刀を握り直すタスクと、その脇に移動するテル。二人のはるか下の方には道路が見える。)

この一本は俺の家に
昔からあったやつでな。

いっぽん?

(4コマ目:画面は歩道を歩く10人ほどのロボット警官隊を映し出すが、タスクたちの話は続く。)

それで、その
武器には何か秘密の
機能が?

は?
そんなんじゃ
ねぇよ。

ただ、警官どもには
こんな年代物の武器への対処法は
記録されてないってことさ。

51ページ目

(1コマ目:ロボット警官のバストアップ。)

(2コマ目:笑顔で説明を続けるタスクとそれを聞くテル。タスクは自分の首に左手を当てる。)

やつらは所詮機械だからな。
未知の武器が相手だと途端に
ぎこちない動きになるんだ。

その隙に外装が弱い部分を
切ればショートして壊れる。
狙いやすいのは首だな。

なるほど
なぁ。

(3コマ目:屋上から地上を見下ろすテルは、歩道を歩いているロボット警官に気付く。警官たちはもうすぐ喫茶店の前を通過しそうだ。)

あ……うわさを
すれば。

(4コマ目:屋上の壁に隠れるように身を寄せ合う二人の少年。タスクがいたずらっぽい笑顔を浮かべると、それを見たテルは不安になる。)

よし、テル。やつらを
少し間引いてやるか。

え、何するの?

(5コマ目:屋上の脇にあった大きなプランターと、二つの鉢植え。いずれも土が入っているが、植物は生えていない。)

52ページ目

(1コマ目:ビルの上からの落下物。)

(2コマ目:7階分の高さを落ちてきた植木鉢が、ロボット警官の一体の頭に激突する。)

(3コマ目:植木鉢を食らったのは最後尾にいた警官だった。警官は地面に倒れ、煙を噴いている。そのほかの警官たちは驚き、一斉に振り向く。)

(4コマ目:バラバラに散らばり、身構える警官たち。)

警戒態勢!
警戒態勢!

不明な武器の
使用を検出!

(5コマ目:地上の騒乱を屋上から伺う少年二人。)

現在攻撃を
受けています!

(6コマ目:屋上の壁の影にかがんで隠れる二人。不安そうなテルをよそに、タスクは笑っている。)

あっはっはっは!
どうだ、命中したぞ。

53ページ目

(1コマ目:大笑いを続けるタスクにつられ、思わず笑顔になるテル。)

(2コマ目:夕方。暗くなりつつあるビル街。)

……なぁ、テル。
お前も自分の刀を
持ったらどうだ?

(3コマ目:再びダンボール箱を担いで歩いているタスクと、猫を抱いて歩くテル。)

自分のって?

丸腰じゃ何かと不便だろ?
探せば同じようなのが
見つかると思うぞ。

いくらこの街でも
博物館の一つぐらいは
残ってるだろうし。

(4コマ目:腰にはいた刀を左手でさやごとベルトから引き抜くタスク。)

そうだ、
俺のを試しに
触ってみるか?

(5コマ目:そのまま刀をテルの眼前に差し出す。テルは意外そうな、でも好奇心に満ちた顔をする。)

54ページ目

(1コマ目:差し出された刀に手を伸ばそうとするテル。)

………。

(2コマ目:手を引っ込めるテルと、それを見つめるタスク。テルの表情は傘に隠れている。)

い、いや、遠慮するよ。
僕には使いこなせそう
にないし……。

ふ〜ん。
ま、無理にとは
言わねぇけど。

(3コマ目:刀を腰のホルダーにしまい直すタスク。)

(4コマ目:再び歩き出す二人。)

あ、でも銃を持つのは
ダメだぞ。もし連中の
前で銃を出したら……

う、うん。
そうだね。

(5コマ目:夜。テルの住処であるビルの窓からは光が発せられている。)

(6コマ目:タスクが案内されたドアの前。少し隙間が開けられたドアからは柔らかい光が漏れている。)

55ページ目

(1コマ目:部屋の中。二人は大きいソファに隣り合って座っている。二人の目の前の机には教科書やノートが雑然と並べられており、テルの手にも一冊の教科書がある。)

お前本当に漢字が
苦手なんだな。

もっと勉強しないと
駄目だぞ。

……それ、よく
言われるよ……

(2コマ目:けげんな顔でテルを見つめるタスク。テルは不機嫌そうに教科書に目線を落としている。)

あ?

別によくない?
大抵の本には漢字の上に
ひらがな書いてあるし。

(3コマ目:得意げな表情で説明するタスク。)

馬鹿だなぁ。
そりゃ子供用の
本だからだよ。

大人用の本には
読み仮名なんて
無いんだぞ。

(4コマ目:教科書から手を離し、ソファに横たわるテル。)

大人用の本なんて
一生読まないし。

やれやれ、
しゃーねぇな。

56ページ目

(1コマ目:ソファに寝転がったまま目を閉じているテルと、ソファの後方に歩いていくタスク。)

(2コマ目:タスクの呼び声に起き上がって後ろを見るテル。)

おい、テル。

なぁに?

(3コマ目:突然、投げ付けられた枕がテルの顔に直撃する。)

(4コマ目:やや乱れた髪でタスクの方を見るテル。タスクの両手には、更に二つの枕がある。)

勉強なんてやめやめ。
決闘だ!

57ページ目

(1コマ目:楽しそうな表情で、枕を持ち、投げる素振りを見せるテル。)

やったな!

(2コマ目:半開きのドアから室内に入ってくるトム。)

おーい、
もう寝ようぜ。

(3コマ目:トムのすぐ脇に枕が飛んでくる。驚いて飛び上がる白猫。)

(4コマ目:室内のロングショット。枕を持って走り回る笑顔のテルとタスク。それを見つめるトム。)

………。

おらあああ‼︎

あははは!

(5コマ目:走るタスクと、それを追いかけるテル。二人の表情は無邪気で明るい。)

58ページ目

(1コマ目:部屋から出て行こうとするトムと、それには胃を介さず部屋の中を走り回るタスク。)

はぁ〜……
人間ってのは
元気だねぇ。

僕は先に
部屋に戻って
るからな。

(2コマ目:満面の笑みの人間二人。タスクは二つ持った枕のうち一つを放り投げ、テルはそれをかがんでよける。)

(3コマ目:タスクはテルを見失った様だ。枕を手に、キョロキョロと周囲を見渡す。)

隠れても無駄だぞ、
出てこい!

(4コマ目:テルが突然背後のソファから飛び出し、両手に持った枕を振りかぶると、枕はタスクの顔面にさく裂する。)

隙あり!

59ページ目

(1コマ目:ソファに倒れたタスクと、その上に枕と一緒に雪崩れ込むテル。二人とも笑っている。)

(2コマ目:かすかな明かりを残し、暗くなった部屋。窓の外では雨が降り続く。)

60ページ目

(1コマ目:暗い部屋。共にソファの上で横たわる二人。あお向けになったタスクの胸には枕があり、その枕の上にはテルの頭がある。周囲の床にも余計な枕が落ちている。)

(2コマ目:タスクとテルのアップ。二人は眠そうにうつろな目で遠くを見つめている。)

ちょっと
疲れたな。

そうだね。

(3コマ目:そっと目を閉じるテルの顔のアップ。)

……疲れたら
眠くなってきた。

(4コマ目:絵の無いコマ)

このままここで
寝ていい?

このままはちょっと
重いんだが……

61ページ目

(1コマ目:頭を持ち上げてテルの頭を見るタスク。)

おい本当に寝るな。
寝るならちゃんと
毛布をかぶれ。

(2コマ目:テルの頭のアップと、それに手を近づけるタスク。)

……ったく。

(3コマ目:しかしテルに触れることはなく、目を細め、手を握って離すタスク。)

(4コマ目:力を抜き、頭を倒すタスク。)

(5コマ目:部屋の中のロングショット。照明はいつのまにか完全に落とされ、二人は同じポーズのまま眠っている。)

62ページ目

(1コマ目:朝。ビル街のロングショット。)

(2コマ目:テルの事実上の玄関となっている裏路地の扉。いつものようにリュックを背負い、傘をさしたテルは扉を背後に、飼い猫と二匹の野良猫と一緒に何か話している。)

(3コマ目:タスクが扉の中から大きなあくびをしながら現れる。それを振り返るテルの笑顔は爽やかだ。)

(4コマ目:どこかの通り。大きな雑貨店の入り口に向かって歩いている二人と一匹。)

(5コマ目:雑貨店の店内。タスクは商品棚の前でかがみ込んで何かを取ろうとしている。トムはタスクの様子を観察している。テルは興味深そうに、棚の高い所にある商品を見ている。)

63ページ目

(1コマ目:タスクの両手のアップ。いつもの手袋は外し、フォークで何かの缶詰の中を突っついている。)

(2コマ目:テル、タスク、トムの三人。どこかの物陰で、二人は小さな段差に腰掛けながら食事を行なっている。トムはテルの足元で、おわんに入れられた何かを食べている。二人の荷物はそれぞれの脇に置かれたままになっている。二人は和やかな顔で何か談笑している。)

(3コマ目:頭上の風景。高架になった高速道路のようなものが二本クロスし、暗い影を落としている。高架の下には色んな形のビルが並んでいるのが見える。)

(4コマ目:再びどこかのビル街を歩いている一行。)

(5コマ目:歩き続ける二人と一匹。テルは笑顔をタスクに向けており、タスクはどこか前方を見ながら、何かを指差してしゃべっている。)

(6コマ目:一本の街灯のアップ。昼間の街灯には灯りは灯っていない。)

64ページ目

(1コマ目:テルの住処のビル。)

(2コマ目:テルの部屋の中。部屋に置かれたロングテーブルに、どこからか持ち込まれたパイプ椅子が二つ。向かい合って椅子に座った二人と、テーブルの上で箱座りをするトム。大きな窓を背後に、テルは難しい顔をしている。)

意味が分かんない。
もう覚えられないよ。

いいから
見てろって。

(3コマ目:タスクの手元のアップ。タスクはテーブルの上で紙を折り曲げている。)

……それで
ここをこう
やって……

(4コマ目:タスクの手元を見つめるテルのアップ。)

……最後に
軽く引っ張る
と……

(5コマ目:テルの目が見開かれ、その表情は驚嘆に変わる。)

(6コマ目:タスクが両手を持ち上げてみせると、その手の中には折り紙で作った鶴があった。)

ジャーン。
ツルの出来上がり。

65ページ目

(1コマ目:目を丸くし、手を伸ばすテルの顔のアップ。)

⁉︎

えっ?
何これ⁉︎

(2コマ目:鶴の折り紙を手渡すタスクと、それを恐る恐る受け取るテルの手元のアップ。)

と、鳥の形に
なってる……

……やっぱり
見るのは初めてか。

(3コマ目:ロングテーブルを上から見下ろしたショット。テルはまじまじと手の中の鳥を観察し、トムも興味があるように顔を近づける。タスクはほおづえをついてテルたちの様子を眺めている。机の上には未使用の折り紙が何枚か散らばっている。)

信じられない……
紙を折ったり伸ばしたり
しただけでこんな……

お前、折り紙知ら
ないで今までよく
生きてこられたな。

(4コマ目:うっとりと鶴を見つめるテルの顔のアップ。)

すごいなぁ。
タスクは博識
なんだなぁ。

(5コマ目:絵の無いコマ)

ねっ、もう一回。
もう一回教えて。

ああ、構わんよ。

(6コマ目:椅子に座ったまま折り紙を折るテルと、その横に立って教えるタスク。トムは興味を失ったのか、テーブルの上で丸くなって眠っている。)

66ページ目

(1コマ目:教え教わりながら見つめ合う二人の顔のアップ。)

(2コマ目:顔を赤らめて視線を外す二人。テルの手元の鶴は徐々に出来上がっていく。)

(3コマ目:テーブルの中央に仲良く並んだ二つの鶴。その周りにはカブトや紙飛行機、パクパク鳥などの折り紙もある。)

ところで、ツルって
どんな鳥なの?

……そこまでは
俺も知らん。

67ページ目

(1コマ目:回想シーン。画面は以前よりもさらに不鮮明になっている。真っ暗で何も見えない。)

………のことが……
だったのでしょう?

(2コマ目:長い黒髪を束ねた女の肩。顔は見えない。)

……になるのは
   だけよ。
分かったかしら?

(3コマ目:真っ暗闇の中で、布のようなものがはためいている。)

奇麗でしょう。
これも、あれも……
あなたにあげるわね。

(4コマ目:暗い。画面は更に不鮮明になる。)

(5コマ目:画面はにわかに明るくなる。雨の降る空。)

ついに

68ページ目

(1コマ目:どこかのロングショット。広い地面に停まっている十数メートルはあるであろう巨大な乗り物。ほとんどは影になっていて見えないが、その乗り物は直線が多く様々なパーツが組み合わさったような無骨な形状をしている。乗り物の入り口らしき部分から降りたタラップから、列をなした人々が乗り込んでいる。人々の周囲にはそれを見張る長身の人影も見える。)

わしらも南方行きか。
長かったような
短かったような……。

第一区住民の方は
指定の避難ステーションに
移動してください。

(2コマ目:逆光で不鮮明な画面。)

   !   !
どこに行ったの!
隠れてないで出ておいで!

この地域は危険区域に指定
されました。住民の皆様には
避難命令が発せられています。

(3コマ目:明るい画面。)

放して!
まだ   がどこかに……

(4コマ目:真っ白な画面。)

69ページ目

(1コマ目:再び現在。夜の空模様。黒い雨雲にかすかな切れ目が生じる。)

(2コマ目:街の上空。徐々に雲の切れ目が広がり、本来の夜空が見える。)

(3コマ目:さらに雲の切れ目が大きくなり、雨粒の数が見る見る減っていく。)

(4コマ目:ビルのベランダのロングショット。雨音は消え、ベランダの床には静かな水たまりが点在する。建物の中からタスクとテルが現れ、外の様子を伺っている。)

70ページ目

(1コマ目:夜の街に繰り出した二人。地面に反射した街灯の光がきらめく中、少年たちは大はしゃぎで大通りの真ん中を走り回る。)

雨が……!

雨がやんでる!

(2コマ目:沢山の街灯に照らされた大きな高架の遊歩道のロングショット。その上で、二人はなおも夢中で走っている。)

(3コマ目:立ち止まり、空を見上げる笑顔のテルとタスク。)

雲が晴れるのは
何か月ぶりだろうね。

もしかしたら
明日には太陽が
見られるかもな。

(4コマ目:タスクの顔のアップ。何かに気付いた様子で頭上に視線をやった少年の笑顔は少しこわばっている。)

……あ。

71ページ目

(1コマ目:タスクにならって頭上を見上げるテルの表情はうんざりとして要る。タスクは明らかに不機嫌そうに頭上をにらみつけて要る。)

……共和国が
よく見えるね。

けっ。
嫌な風景だぜ。

(2コマ目:テルの方に向き直り、得意な顔で説明を始めるタスク。それを聞くタスクは無表情で棒立ちになっている。)

テル、お前、虹が
どうしてできるか
知ってるか?

日光ってのは一見すると
単色の光だが、大気中の
雨粒に分解されると……

???

(3コマ目:高架の遊歩道の手すり。下には別の道路と手すりも見える。)

……まぁ、とにかく、
太陽は青空の下で
見るのに限るよ。

(4コマ目:小さなアーチ型の屋根のアップ。屋根の内側には照明が光っている。)

(5コマ目:水たまりが光を反射する遊歩道の上にある、二本の柱で支えられた小さな屋根のバス停のような場所。その屋根の下のベンチに並んだ腰掛ける二人。タスクは刀を膝の上に置いている。)

72ページ目

(1コマ目:難しい顔をして自分の手元を見ているタスク。それに気付き、視線を投げるテル。)

(2コマ目:心配そうな顔でタスクに話しかけるテルの顔のアップ。)

……タスク?
どうかしたの?

(3コマ目:顔を上げ、遠くを見つめるタスク。その発言にテルは驚き、顔には不安が過ぎる。)

俺、明日になったら
この街を出るわ。

えっ…

(4コマ目:水たまりに映った建物と、タスクの後ろ姿。)

また降り出したら
次にいつやむか
分からんからな。

(5コマ目:立ち上がってろうばいするテルに対し、タスクは座ったまま動かない。)

天気がいいうちに
出来るだけ移動
しとかねぇと。

そんなに急いで
どこに行くのさ。
まだ居たって……

73ページ目

(1コマ目:タスクの顔のアップ。目元は見えないが、その表情に陰りが差す。)

……南方だ。

(2コマ目:目をつむって説明を続けるタスクと、それをけげんな顔で見つめるテル。)

それが俺の
目的地。

俺はどうしても南方入り
しなきゃならねぇんだ。
だから……

(3コマ目:目を細め、視線をそらすテル。)

……そんなの、
警察にエスコートして
もらえば早いのに。

わざわざ歩いて行く
必要なんて……

(4コマ目:タスクの手元のアップ。膝の上に置かれた刀のさやを、その両手が固く握り締めているのが見える。)

74ページ目

(1コマ目:テルの顔のアップ。口を開けたまま複雑な表情でタスクの手元を横目にしている。)

武器……。

タスクは向こうに、
武器を持ち込むつもり
なんだ……。

でも、一体何の
ために……。

(2コマ目:目をつむったままテルに話しかけるタスク。)

……そういうお前は
なぜここに居るんだ?

(3コマ目:顔を見合わせる二人。テルはとぼけた顔で、タスクは口元に皮肉めいた笑みを浮かべるが、二人とも目は笑っていない。)

僕?

他の人間と一緒に街を出て
りゃあ、少なくとも食い物に
困ることはなかったはずだ。

(4コマ目:再び顔をそむけるテル。両腕を背中にまわし、どこか悲しそうに顔をうつむくが、視線は上を向いている。)

そうだな……

ここには……
街の外には持ち出せない
ものがあるから……

75ページ目

(1コマ目:椅子に座ったままのタスクと、彼に背を向けたまま少し離れた場所でうつむいているテル。)

お前にとって……
そんなに大切な
ものなのか?

みんなと離れ離れに
なってまで……

……秘密。

(2コマ目:口元に笑みを浮かべるタスクの顔のアップ。)

それがお前んちの
地下にあるものか?

(3コマ目:必死の形相で横からタスクに飛びつき、そのコートをわしづかみにするテル。抱きつかれる形になったタスクは慌てて右手を振り弁明をする。お互いそれぞれの理由で顔を赤くしている。)

悪かった、
悪かったって。

詮索する気は
ないんだ。

(4コマ目:立ち上がって小さな屋根から離れるタスク。遠い目をしているタスクを、テルが寂しそうな顔で見つめる。)

さて……そろそろ
戻ろうぜ。俺は明日の
支度をしねぇと。

え……
あ、ああ……
うん。

76ページ目

(1コマ目:夜の街のロングショット。遊歩道の上を歩いていくタスクと、数歩後ろから続くテル。二人の背景には薄暗い沢山の四角いビル。真っ暗な南の空に浮かぶまばらな雲の、そのまたはるか上には、緩やかな上むきのカーブを描く、一本の明るい光の筋が東西に伸びている。中央からは細く薄い小さな直線状の光が天と地の方向に伸び、天を向いた弓と矢をほうふつさせる。よく見るとその筋は無数の小さな光点で構成されており、人工物であることが分かる。宇宙空間に浮かんだ巨大な構造物、それはオービタルリングだった。)

寒くなって
きたな。

そ、そう
だね。

77ページ目

(1コマ目:真っ暗な背景にテルのバストアップ。握りしめた右手で胸を抑え、不安げな表情でうつむいている。)

明日になったら……
タスクが居なくなる?

なぜだろう……。
とても嫌な気持ちだ。
胸がざわざわする。

78ページ目

(1コマ目:テルの部屋。室内は暗く、外の建物などから差し込む光のみが壁を照らしている。)

(2コマ目:胸に右手を当てたまま落ち着きなく室内をウロウロしているテル。険しい表情で語るテルを、トムはカーペットの床に座ったままじっと観察している。)

とにかく、
どうにかしてタスクを
引き止めないと。

このまま何が何だか
分からないまま
お別れなんて嫌だ。

(3コマ目:両手を握りしめて肩をいからせるテルの後ろ姿と、それを見つめる猫の横顔。)

ああ、もう、
落ち着かない。

(4コマ目:急に何かに気づき、右手で顎を触りながらしたり顔で目を細めるトム。)

……ははーん。
そういうことか。

(5コマ目:立ち止まって猫の言葉に振り返るテルと、床に座ったままのトム。)

そういうこと
って何だよ。

僕にはよく分かるよ。
テルがなんで
いらいらしてるのか。

(6コマ目:あやしい笑顔を浮かべるトムの顔のアップ。)

恋だよ。

79ページ目

(1コマ目:地面にはいつくばり、真っ赤な顔を猫に近づけるテルと、ニヤニヤしながらテルを指差すトム。)

はぁ⁉︎

つーまーりー、
好きになっちゃったんだよ。
テルが。タスクを。

(2コマ目:困惑して視線をそらすテル。その腕にじゃれつくように顔をもたれ掛けるトム。)

僕が……?

恥ずかしがることない
んだよ。テルだってもう
お年頃なんだから。

(3コマ目:慌てたように猫を振り払い、上半身を起こす少年。)

いやいやいや……
やっぱりそんなの
有り得ないって。

(4コマ目:右手を胸にかざして弁解を始める少年と、それをキョトンとした表情で見つめる猫。)

だってタスクは
男の子だよ。

僕は女の子じゃないし、
男の子を好きになる
はずがないよ。

80ページ目

(1コマ目:今度は右手を下げて左手を胸に当て、動揺した表情で目を泳がせる少年と、それを見ている猫の後ろ姿。)

ほら……
カズミ姉さんも
言ってただろ。

男の子を好きに
なるのは女の子
だけだって……

(2コマ目:顔をそむけるトム。)

ぼ、僕には人間の
雄と雌の区別はよく
分からないし。

(3コマ目:がっかりしたようなふてくされたような表情で赤いほおを膨らませるテルと、真面目な顔で再度少年に向き直る猫。)

くそっ、猫に
相談した僕が
馬鹿だった。

でもさぁ、結局は
自分自身の心に聞く
しかないじゃん。

(4コマ目:じっと少年を見る猫の横顔。)

離れたくない……
って気持ちは
本当なんでしょ。

(5コマ目:悔しそうな顔で横目にトムをにらみ返すテルの顔のアップ。その赤い顔には汗が流れている。)

…………。

なら、それを
ぶつけるしか
ないよ。

81ページ目

(1コマ目:立ち上がり、猫に背を向ける少年と、ポツンと座ったままの猫。)

……なぁ、トム。

お前、本当は言葉を
しゃべってなんか
いないんだろ?

なんだ、
やぶから棒に。

(2コマ目:テルの顔のアップ。影になった表情は暗く沈んでいる。その後ろ頭をみる猫の表情はキョトンとしている。)

僕は本当は
頭が変になった
ただの子供で……

僕たちのこの会話も、
全部僕の勝手な妄想
なんじゃないのか?

(3コマ目:皮肉めいた笑みを浮かべるトムの顔のアップ。)

………はっ。
何を言い出す
かと思えば。

(4コマ目:絵の無いコマ)

そんな問いを
当の僕に投げかけても
意味などない。

僕の口から答えを聞いても、
それも君の妄想かもしれない
のだから。

82ページ目

(1コマ目:壁に立てかけられた刀の先端と、そのそばの床に無造作に置かれたベルトとホルダー。)

(2コマ目:少年の手元のアップ。両手で缶詰や水筒などをリュックにしまいこんでいる。)

(3コマ目:そこはタスクの部屋の中だった。窓際には立てかけられた刀とベルトがあり、タスクはその手前で正座の姿勢で座っている。タスクの周囲にはダンボール箱や数個の缶詰が散らばっており、タスクはうつむいて膝の前に置いた自分のリュックに荷物を詰めているようだ。)

(4コマ目:ドアノブのアップ。コンコンとノックが聞こえる。)

(5コマ目:ノックの音に気付いて頭を上げ、横目にドアを見るタスク。)

ん?テルか?
開いてるぜ。

83ページ目

(1コマ目:ガチャ…と音がして扉が開き、テルが外から顔を覗かせる。)

は、入ってもいい?
ちょ、ちょっと話が
あるんだけど……

(2コマ目:靴下を履いていないテルの両脚と、リュックに目を落としたまま返事をするタスク。)

おう、改まって
どうした。

(3コマ目:テルの方を振り向くタスクの顔。)

こんな夜更けに
人の部屋……

(4コマ目:タスクの目元のアップ。その目は何かに気付いたように見開かれている。)

(5コマ目:足元のアップ。落下した缶詰が積まれた缶詰に当たり、ガラガラと音を立てて崩れる。)

84ページ目

(1コマ目:驚嘆の表情でドアの方を振り向いているタスク。)

(2コマ目:その視線の先には白いワンピースを着た人物が立っている。)

85ページ目

(1コマ目:部屋に入ってきたテルは両手を前で合わながら、もじもじと緊張した面持ちで顔を赤らめ、目線をそらしている。その服装はいつものネクタイとは打って変わり、リボンベルトの付いた真っ白なワンピースで、フレンチスリーブからは二の腕が見えており、膝丈の裾から下ははだしである。)

86ページ目

(1コマ目:入口の前で直立しているテルと、それを尻餅を付いたような姿勢で仰ぎ見ているタスク。)

お、お前……
な、何?
その服。

(2コマ目:照れてはにかんだような表情で自分の胸元を触るテル。)

こ、これはね、
昔、カズミ姉さんに
もらったものなんだ。

(3コマ目:そわそわと居心地悪そうな仕草で後ろを振り向くテルと、床に座ったまま後ずさるタスク。)

あ……カズミ姉さんって
いうのは昔この街で一緒に
暮らしてた人で……

僕の親代わり
だった人。

いや、だから
………

(4コマ目:赤いほおに一筋の冷や汗を流し、目を閉じるテルの顔のアップ。)

僕や姉さんは最後の
南方避難グループに
入ってた。

でも僕には
大事な使命が
あったから……

(5コマ目:タスクの顔のアップ。テルとは逆に彼は青ざめ、恐怖の表情と共に多量の冷や汗をかいている。)

……。

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(1コマ目:目をつぶって説明を続けるテルと、その前方でよろよろと立ち上がるタスク。)

出発の直前、こっそり
みんなのもとを
抜け出したんだ。

もう2年ほど
前の話だ。

(2コマ目:テルを見据えたまま後ずさりし、窓に近づくタスク。)

それから2年間……
人間に会ったことは
ただの一度もなかった。

(3コマ目:窓際の壁に背中を付けるタスク。後ろ手に触った刀がカタっと音を立てる。)

寂しくはなかったよ。
トムや他の猫たちが
居たから……

(4コマ目:徐々にタスクに近付く赤い顔のテル。右手で左手を握り、お祈りのようなポーズで顔を上げ、タスクの顔をじっと見つめる。)

でも、君が現れて……
変わったんだ。

88ページ目

(1コマ目:上目使いにタスクを見つめるテルの顔のアップ。)

君は僕が知らない遊びを
いっぱい知ってて……

(2コマ目:ワンピースの裾とテルの脚。)

ううん、遊びの
ことだけじゃない。

(3コマ目:絵の無いコマ)

それ以外にも色んな
知識があるし……

(4コマ目:口を結んで白い顔にだらだらと汗を流し、窓に背を付けたままテルを見下ろすタスク。)

君と一緒にいると、
この街が何倍にも広くなるような……
そんな気持ちになるんだ。

(5コマ目:テルとタスク。左手を刀に触れたまま動かないタスクに対し、テルは深々と頭をさげる。)

お願いします。
ここを出て行くのは
やめてください。

89ページ目

(1コマ目:再び持ち上げられたテルの左手のアップ。)

また元の生活に戻るなんて
耐えられない。君とずっと
一緒に居たいんです。

(2コマ目:お祈りのポーズでタスクに近付くテル。テルの表情は真剣そのものだが、タスクは間近に迫ったテルを恐怖の表情で見つめ、ますます身を縮める。)

その代わり……

僕のことは好きなように
扱ってくれて構わない
ので……

(3コマ目:タスクの顔のアップ。とうとう目を閉じて顔を背け、大声を上げる。)

よ、寄るな!

(4コマ目:タスクの両手のアップ。左手に握った刀のさやを持ち上げ、ガッと勢いよく右手をつかに掛ける。)

90ページ目

(1コマ目:一瞬の後、タスクの左手に握られたさやから刀が消え、光る刃がテルの首元に食い込んでいる。)

(2コマ目:テルの顔のアップ。目を丸くし、口をあんぐり開け、首に当てられた刀にその顎が反射している。)

91ページ目

(1コマ目:部屋の中のロングショット。少し後ずさりしたポーズで動かないテルと、右足を前に、日本刀を抜き、テルの首元に刀を当てる構えのまま固まっているタスク。)

(2コマ目:タスクの顔のアップ。急に冷静になるが、表情はこわばったままである。)

あ……

(3コマ目:我に返り、慌てて刀を引っ込めるタスクと、動かないテル。)

あ、あ、あ……
ち、違う……

(4コマ目:テルの脚のアップ。その身体がフラッと傾く。)

92ページ目

(1コマ目:青ざめた顔でペタリと床に座り込んでしまうテルと、立ったままのタスクの後ろ姿。)

違うんだ、
テル。
これは……

(2コマ目:タスクの足元のアップ。ガチャンと大きな音を立てて日本刀が落下する。)

(3コマ目:首元に手を触れ、それが危うく切り裂かれる直前だったことを実感し、顔中に汗を流すテル。その後ろを、大声を上げてドアの方に走り去るタスク。)

あああああ
あああ‼︎

(4コマ目:静まり返る室内。床にはダンボールやタスクのカバン、缶詰、日本刀とそのさや、とんび座りのワンピース姿のテルがある。)

(5コマ目:開け放しの扉の外から白猫が入ってくる。)

テル、一体何が
あったんだよ。

あいつ部屋を
飛び出して
行ったぞ。

93ページ目

(1コマ目:絵の無いコマ)

何やってんだ、
俺は……

………

……仕方ない、
もうこのまま
出発しよう。

食料と武器は……
どっかで調達する
しかないな。

連載途中のコミック (93 / 144ページ完成)

連載開始: 5月31日   最終更新: 12月13日   完成率: 64.5%

これまでの進行度から算出したこのコミックの完成予想日: 3月31日ごろ

Production started: 31st May   Last updated: 13rd December   Progress: 64.5%

Estimated completion date of comic calculated from the current degree of progress: Around 31st March