短編 2013-2014 完結済

バジリコの魔法使い

本編

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​バジリコの魔法使い

​LA STREGA DI BASILICO

​猫分儀スミレ

​Nekobungi Sumire

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​ポプリポリス コルテロ市

​モンスターだ!

​モンスターが
出たぞー!

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​暴れウナギか……
しかも結構大きい。

​うわっ、また
厄介なのが出たな。

​ああ、
テトリちゃんに
マルベリちゃん!

​いやあ、来てくれて
助かるよ!

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​手強そうな魔獣だが
捕まえられるかね。

​ご心配なく、市長。
我々はプロですから。

​でもテトリ、本当に
ヤバそうな相手だよ。
何か策はあるの?

​そうだな……

​俺の大根がー!

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​器用に拾って
食うもんだなぁ。

​シーッ!

​あ、ひるんだ!

​ば、バクチクマーブルとは
危なっかしいですな!

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​まだまだ投げますよ。
そーれ!

​やった!

​すごい!
魔獣を倒した!

​さて、あとは目を回してる
うちにロープを……

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​わぁっ!

​完全に気絶して
なかった……!

​キャッ!

​うわあああ!!!

​どどど……

​どうしよう!
どうしよう!

​あ、そうだ!

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​うわーん。
あたしのギターが……

​いやぁ、お二人とも
今回もお手柄でしたな!

​魔獣は頂いて
帰りますんで。

​ポプリポリスの最西端に
位置するコルテロ市。

​魔境に面するこの街は
魔獣の出現率が高い
危険な場所でもあります。

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​ついでに
直してくれたって
いいじゃん。ケチ。

​楽器の
修理は専門外
なんだってば。

​いつもみたいに
ナナんところに
行ってきなよ。

​変なの。
ナナもテトリも
職業は同じ魔法使い
なんでしょ?

​一口に魔法使いって
言っても、色々違いが
あんの。

​普通ならば市民が退治した魔獣は
市が引き取って処分するのですが……

​テトリは自分が倒した魔獣を
全て持ち帰っています。

​マルベリは
もう帰るの?

​ううん。まだ
お店にいるよ。

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​お、重い……

​転ばないでよ。

​はぁ、はぁ……
死ぬかと思った……

​体力ないなぁ。

​テトリの魔獣解体工房

​ねぇ、これから
その魔獣、魔法で
解体するんでしょ?

​え、う、うん。
そうだけど……

​テトリが魔法
使ってるところ、
見てみたいな!

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​それはいや!

​ええーっ…

​だ…だって、
そんなの……

​は……
恥ずかしいし……

​……???

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​「コルテロ市のバジリコ街に
 魔獣の肉を食わせる店がある」

​……って聞いた時は
どんなゲテモノ屋だよ!
って思ったけど。

​な?
全然イケるだろ?

​イケるどころか、
猫の舌にはたまらない
味だよ。

​何かすっごい
秘訣があるんで
しょう?

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​魔獣の肉は
煮ても焼いても食用には
ならないはずなのに……

​そうそう、一体
どうやって調理を?

​ああ、それはですね。
上に住んでる
魔法使いの人が……

​マルベリ、困るんだ
よね、店の秘密を
ペラペラ喋られては。

​店長、別に秘密でも
何でもないでしょ!

​ご近所は皆
御存知ですよ。

​しかしね、
雰囲気と
いうものが……

​その人が魔獣を
食肉用に処理して
くれてるんです。

​あたしも詳しい仕組みは
知らないんですけど……

​ふぅん。不思議な
もんだなぁ。

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​大魔法使いナナ・マルキオニの店

​そうそう。フレームは
ブロドイオ合金で……

​アルトパ梨をくり抜いて
筐体にするんです。

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​この構造で再現性能は
大幅にアップするはずです。

​確かに良い
アイディアね。

​でしょう?交差配線の
設計はお任せするので、
後は図面の通りに……

​お、マルベリ。

​あら、
いらっしゃい。

​ブルスケ。また
ヘンテコな機械を
思いついたの?

​ヘンテコとは
失礼な!今回のは
実用的な発明です!

​たった今、
ナナ先生に製造を
委託したのは……

​我々のバンドのための
新型アンプです。

​え、また……?
この間新調した
ばっかじゃ……

​次の練習には
間に合うように
するから。

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​それじゃ先生。
よろしくお願いします。

​変な奴……

​私は儲かるから
別にいいけどね。

​ところで、
今日は何の用?

​あはは、また随分派手に
ぶっ壊したわねぇ。

​あなたたちって一体
どんな演奏してるの?

​いや、これは
仕事中にちょっと……
直せるかな?

​もっちろん。
このナナ先生に
任せなさい。

​あ、領収書は
「テトリの魔獣解体工房」
でお願い。

​はいはい。

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​それじゃ、
これは責任持って
お預かりします。

​時間は、
そうね……。

​明後日ぐらいには
出来てるから
取りに来てね。

​じゃあ、またね。

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​そういえば、
ナナの作業場も見せて
もらった事無いなぁ。

​テトリは解体作業を
見られるのを恥ずかしい
って言ってたけど……

​魔法使いの人たちは
自分の部屋で一体何を
してるんだろう?

​魔法を使うとき、人には
見せられないような恐ろしい
姿に豹変するとか……?

​あるいは、儀式で使う
衣装や呪文が文字通り
恥ずかしいとか……

​流石にそれはないか……

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​商売、順調みたいね。

​あ、ありがとう。

​一時はどうなる事かと
思ったけど、安心したわ。

​……本当は道具も
自分で作れるように
なりたいけど……

​またそういう。
別にいいじゃないの。

​人には得意不得意が
あるわ。私の真似ばかり
する必要はないのよ。

​あ、そうそう。
実は手伝って欲しい
ことがあんのよ。

​え、何?

​マルベリちゃんとこの
バンドの人から
仕事の依頼があってね。

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​その材料集めで
出掛けなきゃいけ
ないんだけど……

​買い出し?
うん、いいよ。

​丁度、私も都の方に行く
用事があるんだ。ビナリオン
先生に呼ばれてて……

​ああ、違う違う。
都心に出るんじゃ
ないわ。

​その逆。

​魔境に入る!?

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​そう、魔境の森には
材料のアルトパ梨が
群生してる所があるの。

​そんなの、
普通に店で買えば
いいじゃん……

​ダメダメ、街で売ってる
アルトパ梨なんて。
質は悪いし値段も高いわ。

​ちょっと汽車で
出掛ければ、新鮮な
梨がタダで取り放題。

​材料費も浮いて
ボロ儲けの一石二鳥!
って寸法よ。

​そういう
カラクリか……

​あ、おはよー。

​三人だけで
行くの?

​大丈夫、危険手当は
出すから心配しないで。

​席の手配は
済んでるわ!

​さ、行くわよ!

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​ポップコーン機関車

​トウモロコシの粒が爆裂する
エネルギーを利用して走る。

​列車が出まーす。
ご乗車下さーい。

​エンジン作動開始!

​発車オーライ!

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​出発進行、
オベストポプリ線!

​この路線を利用するのは主に
魔境にあるトウモロコシの
採掘場で働く人々です。

​アルトパ梨の群生地は、
その採掘場の近くに
あるそうです。

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​元々、この路線は
部分的に残っていた古代の線路を
修復する形で開通したそうです。

​駅を出発すると、すぐに
建物がまばらになります。

​放置区域を抜けると
もうそこは魔境の入り口です。

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​目的地まではおよそ1時間。
危険な地域を、列車はひたすら西へ進みます。

​お弁当〜、お菓子〜
お飲み物などは
いりやせんか〜。

​あ、あの……

​はい、なんに
しやしょう。

​マルベリちゃん、
そのメモは?

​え?
ああ……

​今度の新曲の歌詞を
考えてたんだ。

​バンドで演奏する曲?

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​でも、最近ちょっと
スランプなんだよね。

​なかなか良い
案が思い浮かば
なくって。

​ブルスケ達からも
急かされて
るんだけど……

​あら、
大変ねぇ。

​へぇ、マルベリって
作詞とかも
やってたんだ。

​うん、まぁ……
他にやる人
いないし。

​あ、お菓子
買ったから皆で
食べてね。

​こんなに
食べきれない
わよ!

​私には音楽のことは
よく分からないけど、
そんなに難しいものなの?

​曲のタイトルさえ決まったら
細かい台詞も自ずと
決まってくるんじゃない。

​そんな簡単な
話じゃないよ。

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​全体のバランスとか
言葉の響きとか
そっから伝わる印象だとか……

​演奏を聴いてくれる人に
伝わるように色々
考えないといけないの。

​例え出鱈目に見える
歌詞でも、そこには作家の
魂が込められてる。

​白紙の状態から一つ一つ
人の手で考えだすんだ。

​杖を一振りして
チンカラホイ!で出来上がる
ような物とは違うんだよ。

​ふーん……
そういうもん
かなぁ。

​あっ!

​ねぇ、駅が
見えてきたよ!

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​さぁ、こっちよ!

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​すごい、魔獣が
いっぱいだ!

​この辺は小型の
魔獣ばかりだけど
油断しないで。

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​……!

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​あ、あったー!!

​へー、これが
野生のアルトパ梨。

​ああ、こんな
風になるんだ……

​でも、ナナ。
あんな高い所にある梨を
どうやって取るの?

​どうって、そんなの
決まってるじゃない。

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​なんであたしが
こんな目に……

​早く早く〜!

​護身用の剣を
こんなところで使う
羽目になるとは……

​うおりゃ!

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​やっぱり採りたては
新鮮でいいわぁ。

​確かに、その辺で
売ってる梨より
綺麗な色してるね。

​大きさも十分だし、
これならいいアンプが
作れそうよ。

​……ん?

​何の音だ……?

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​うわぁっ!

​で、でかい!

​な、なんだ
あの生き物!?

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​なんて恐ろしい……
あ、あれも
魔獣の一種なの?

​し、知らない……
あんなの今まで
見たことない……

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​うわあああ!

​逃げろ!

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​ん……?

​ギャー!

​ギャー!

​な、なんだ
ありゃあ!?

​木に登れ!

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​あちゃー。
全然帰ってくれる
気配がないよ。

​あんな化け物が
下にいたんじゃ
降りられないぞ。

​何とかしてくれよ。
あんた達が連れて
来ちゃったんだろ。

​あの魔獣は
恐らく甲殻類の
一種だろうな。

​つまり防御力は
最強クラス。

​中途半端な攻撃じゃ
いたずらに刺激を
与えるだけね。

​強力な武器が
いる……ね?

​……… !!

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​あの……
二人とも一体
何を?

​ちょっとした
工作よ。

​こ、これは……?

​有り合わせの材料で
簡単な火縄銃を作ったわ!

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​燃料用トウモロコシを
詰め込んであるから
破壊力は抜群のはず。

​え

​バズーカじゃねーか!

​私が囮になって
適当な場所まで
魔獣を誘導するわ。

​二人はそれを後ろから
狙い撃ちにするのよ。
いいわね?

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​全く、あの人も
無茶するよ。

​大丈夫、こっちには
気付いてない。

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​あ、あれは……

​崖!?

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​テトリ、ナナが!

​早く、早く!

​分かってる!

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​あ……

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​やっぱり手作りの
ロケットじゃ真っ直ぐ
飛ばんなぁ。

​なに呑気なこと
言ってんの!

​わーっ!
こっちに飛んできた!

​ひゃあああ!

​逃げろ!

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​げっ!!

​ああ、もう!
ドジなんだから!

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​や……

​やったー!!

​うわーん。
あたしの剣が……

​こうして見ると
実に不思議な構造の
魔獣だな……

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​この甲冑の下に
肉があるのかしら?

​だろうね。

​テトリ、この魔獣を
魔法で解体しなさい。

​えーっ!!

​そ、そんな……
二人の前で魔法を
使うなんて……

​しかもこんな
屋外で……

​何言ってんの、
こんなデカイの家まで
持って帰れないでしょ!

​それとも、
このままここに
放置する気?

​ほらほら、折角の獲物が
もったいないわよ。

​うう……。

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​ねぇ、ナナ。

​ん?

​魔法を使う所って、
人に見られると
恥ずかしいものなの?

​ああ、んん、
まぁ……

​あんまり
見せびらかすもの
ではないかもね。

​あたし、魔法って
見るの初めてだから
ちょっとドキドキする。

​そう……。
ま、適当に見学
するといいわ。

​始めるよ。

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​な、な、何?
いきなり風景が……

​そ、空の上!?

​ただの映像よ。
現実じゃないわ。

​え、映像……?

​ああ、風が
気持ちいいわねぇ。

​そういえば、
テトリはどこ?

​あの子ならきっと
あっちの方よ。

​あ、あ……

​大丈夫、危なく
なんて無いわ。

​ちょっと歩いて
みましょう。

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​私たちがいるのは
テトリが開いた
魔法陣の中よ。

​魔法陣って……
この建物が?

​魔法陣っていうのは
文字とかが書かれた
変な図形の事じゃないの。

​あら。情報が文字に
よってのみ記されるとは
限らないじゃない。

​それに、これこそ
図形以外の何物でも
無いわ。

​ここに書かれているのは
あの魔獣の存在と記憶……
遺伝情報と経験情報。

​それを樹形図として
立体的に映像化したのが
この魔法陣なのよ。

​???

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​いわば、これは
あの魔獣を形作るための
設計図のようなものよ。

​あの魔獣という現象を
音楽の演奏だとすれば、
これは譜面って所ね。

​よ、よく
分からない
例えだ……

​この景色は水の記憶……
あの魔獣の心象風景ね。

​魔獣たちの普遍的
無意識を構成する
太古の光と水……

​なんで森の生き物の
太古の記憶が
水の記憶なんだ?

​なっ……

​じ、地震……!?

64ページ目

​うわ、あわあわあわ!

​大変だ、早く
逃げなきゃ……

​あー、平気平気。
あれやってるの
テトリだから。

65ページ目

​あ……ほら。
あそこにいたわ。

​テトリがこれを?
い、一体何の意味が
あってこんな……

​なにって、
そりゃ魔法陣を
書き換えるのよ。

​書き換える?

​そうよ、これが私たち
魔法使いの仕事なの。

​この設計図は紙に写した
コピーとはわけが違うわ。
生きている設計図なの。

​現世にある物質と
幽世にある設計図は
対になっているわ。

66ページ目

​魔法陣を通じて設計図に
加えた変更は、現実の物質
にも反映されるのよ。

​譜面のアレンジによって
曲そのものが
変化するかの如く……。

​つまり包丁や鋸が
なくても設計図を
書き換えれば……

​現実の魔獣を
バラバラに解体
出来るってこと?

​その通り!
でも、形を変える
だけじゃないわ。

​魔獣の肉は
「煮ても焼いても食えない」
と言われてるでしょ?

​だから、身体にとって
有害な成分を構成する
情報を削り落としたり……

​隠れた遺伝子を発現させて
味を整えたりといった操作も
同時に行ってるの。

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​食べられないはずのものを
食用に加工する方法を
編み出したのよ、あの子は。

​ねぇ、ナナ。これのどこが
見られて恥ずかしい事なのか、
まだ分からないんだけど……

​んえ?
ああ、うーん。
それはねぇ……

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​魔法っていうのは
答えの決まってないパズルを
組み上げるようなものなの。

​目的を同じくしていても
手法や発想は人によって
全然違うものになるわ。

​個人の性格や美的感覚、
感情的な面がどうしても
出ちゃうものなの。

​だから魔法を使うって
いうのは、自分の内面を
曝け出す事でもある。

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​だからちょっと
気恥ずかしい気持ちに
なるのかもね。

​はあ……。

​あたし、魔法ってのは
てっきりもっと簡単な
ものなんだと思ってた。

​確かに、そういう
イメージはあるかも
しれないわね。

​ルールを知らない人に
そのパズルの難解さは
想像出来ないもの。

​この図面を見せても
その内容までは
伝わらないし……

​私たちの仕事を普通の人に
理解してもらうのは
難しいわね、残念だけど……

​でもね、
これだけは言えるわ。

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​杖の一振りで勝手に
出来上がるような、便利な
魔法なんてありはしない。

​みんな人の手によって
作られているのよ。

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​あんなデカイ魔獣
ちゃんと売り切る
事が出来るかなぁ。

​店長さんの
頑張りに期待だね。

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​そういえば、
あの魔獣の名前は
分かったの?

​?

​うん。魔法陣に
古い記録が
残ってたから。

​ズワイガニ。

​さぁさぁ、お急ぎ下さい!
在庫限りのご提供です!

​カニ鍋パーティ
開催中

​裏庭へどうぞ

​魔境の奥深くで発見された
新種の魔獣!
神秘の味ですよー!

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​いやぁ、
これは美味い!

​これぞまさに
珍味って感じですね。

​流石はバジリコの
魔法使いだ。

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​なぁ、マルベリ。
いいのかよ。

​え?

​あそこにいるの、
お前の友達だろ?

​ああ、うん。
あたしが誘ったんだ。

​お前、自分の知り合いに
練習見に来られるの
嫌がってなかったっけ?

​どういう
心境の変化だよ。

​へへっ。
ちょっとね〜。

77ページ目

​ま、俺達は
別にいいけどよ。

​みんな、機材の
準備が出来ましたよ!

​命懸けで採ってきた
アルトパ梨か……。

​懸けた甲斐のある
音が出ると
いいけど……

​おっ、いいじゃん。

​よぉし、みんな
行くよ!

​新曲、
“コロレ・デラクア”!

​イェーイ!

78ページ目

79ページ目

80ページ目

81ページ目

82ページ目

​THE END