5ページ目
5
手強そうな魔獣だが
捕まえられるかね。
ご心配なく、市長。
我々はプロですから。
でもテトリ、本当に
ヤバそうな相手だよ。
何か策はあるの?
そうだな……
俺の大根がー!
10ページ目
10
うわーん。
あたしのギターが……
いやぁ、お二人とも
今回もお手柄でしたな!
魔獣は頂いて
帰りますんで。
ポプリポリスの最西端に
位置するコルテロ市。
魔境に面するこの街は
魔獣の出現率が高い
危険な場所でもあります。
11ページ目
11
ついでに
直してくれたって
いいじゃん。ケチ。
楽器の
修理は専門外
なんだってば。
いつもみたいに
ナナんところに
行ってきなよ。
変なの。
ナナもテトリも
職業は同じ魔法使い
なんでしょ?
一口に魔法使いって
言っても、色々違いが
あんの。
普通ならば市民が退治した魔獣は
市が引き取って処分するのですが……
テトリは自分が倒した魔獣を
全て持ち帰っています。
マルベリは
もう帰るの?
ううん。まだ
お店にいるよ。
12ページ目
12
お、重い……
転ばないでよ。
はぁ、はぁ……
死ぬかと思った……
体力ないなぁ。
テトリの魔獣解体工房
ねぇ、これから
その魔獣、魔法で
解体するんでしょ?
え、う、うん。
そうだけど……
テトリが魔法
使ってるところ、
見てみたいな!
14ページ目
14
「コルテロ市のバジリコ街に
魔獣の肉を食わせる店がある」
……って聞いた時は
どんなゲテモノ屋だよ!
って思ったけど。
な?
全然イケるだろ?
イケるどころか、
猫の舌にはたまらない
味だよ。
何かすっごい
秘訣があるんで
しょう?
15ページ目
15
魔獣の肉は
煮ても焼いても食用には
ならないはずなのに……
そうそう、一体
どうやって調理を?
ああ、それはですね。
上に住んでる
魔法使いの人が……
マルベリ、困るんだ
よね、店の秘密を
ペラペラ喋られては。
店長、別に秘密でも
何でもないでしょ!
ご近所は皆
御存知ですよ。
しかしね、
雰囲気と
いうものが……
その人が魔獣を
食肉用に処理して
くれてるんです。
あたしも詳しい仕組みは
知らないんですけど……
ふぅん。不思議な
もんだなぁ。
18ページ目
18
この構造で再現性能は
大幅にアップするはずです。
確かに良い
アイディアね。
でしょう?交差配線の
設計はお任せするので、
後は図面の通りに……
お、マルベリ。
あら、
いらっしゃい。
ブルスケ。また
ヘンテコな機械を
思いついたの?
ヘンテコとは
失礼な!今回のは
実用的な発明です!
たった今、
ナナ先生に製造を
委託したのは……
我々のバンドのための
新型アンプです。
え、また……?
この間新調した
ばっかじゃ……
次の練習には
間に合うように
するから。
21ページ目
21
そういえば、
ナナの作業場も見せて
もらった事無いなぁ。
テトリは解体作業を
見られるのを恥ずかしい
って言ってたけど……
魔法使いの人たちは
自分の部屋で一体何を
してるんだろう?
魔法を使うとき、人には
見せられないような恐ろしい
姿に豹変するとか……?
あるいは、儀式で使う
衣装や呪文が文字通り
恥ずかしいとか……
流石にそれはないか……
23ページ目
23
商売、順調みたいね。
あ、ありがとう。
一時はどうなる事かと
思ったけど、安心したわ。
……本当は道具も
自分で作れるように
なりたいけど……
またそういう。
別にいいじゃないの。
人には得意不得意が
あるわ。私の真似ばかり
する必要はないのよ。
あ、そうそう。
実は手伝って欲しい
ことがあんのよ。
え、何?
マルベリちゃんとこの
バンドの人から
仕事の依頼があってね。
24ページ目
24
その材料集めで
出掛けなきゃいけ
ないんだけど……
買い出し?
うん、いいよ。
丁度、私も都の方に行く
用事があるんだ。ビナリオン
先生に呼ばれてて……
ああ、違う違う。
都心に出るんじゃ
ないわ。
その逆。
魔境に入る!?
25ページ目
25
そう、魔境の森には
材料のアルトパ梨が
群生してる所があるの。
そんなの、
普通に店で買えば
いいじゃん……
ダメダメ、街で売ってる
アルトパ梨なんて。
質は悪いし値段も高いわ。
ちょっと汽車で
出掛ければ、新鮮な
梨がタダで取り放題。
材料費も浮いて
ボロ儲けの一石二鳥!
って寸法よ。
そういう
カラクリか……
あ、おはよー。
三人だけで
行くの?
大丈夫、危険手当は
出すから心配しないで。
席の手配は
済んでるわ!
さ、行くわよ!
26ページ目
26
ポップコーン機関車
トウモロコシの粒が爆裂する
エネルギーを利用して走る。
列車が出まーす。
ご乗車下さーい。
エンジン作動開始!
発車オーライ!
27ページ目
27
出発進行、
オベストポプリ線!
この路線を利用するのは主に
魔境にあるトウモロコシの
採掘場で働く人々です。
アルトパ梨の群生地は、
その採掘場の近くに
あるそうです。
28ページ目
28
元々、この路線は
部分的に残っていた古代の線路を
修復する形で開通したそうです。
駅を出発すると、すぐに
建物がまばらになります。
放置区域を抜けると
もうそこは魔境の入り口です。
29ページ目
29
目的地まではおよそ1時間。
危険な地域を、列車はひたすら西へ進みます。
お弁当〜、お菓子〜
お飲み物などは
いりやせんか〜。
あ、あの……
はい、なんに
しやしょう。
マルベリちゃん、
そのメモは?
え?
ああ……
今度の新曲の歌詞を
考えてたんだ。
バンドで演奏する曲?
30ページ目
30
でも、最近ちょっと
スランプなんだよね。
なかなか良い
案が思い浮かば
なくって。
ブルスケ達からも
急かされて
るんだけど……
あら、
大変ねぇ。
へぇ、マルベリって
作詞とかも
やってたんだ。
うん、まぁ……
他にやる人
いないし。
あ、お菓子
買ったから皆で
食べてね。
こんなに
食べきれない
わよ!
私には音楽のことは
よく分からないけど、
そんなに難しいものなの?
曲のタイトルさえ決まったら
細かい台詞も自ずと
決まってくるんじゃない。
そんな簡単な
話じゃないよ。
31ページ目
31
全体のバランスとか
言葉の響きとか
そっから伝わる印象だとか……
演奏を聴いてくれる人に
伝わるように色々
考えないといけないの。
例え出鱈目に見える
歌詞でも、そこには作家の
魂が込められてる。
白紙の状態から一つ一つ
人の手で考えだすんだ。
杖を一振りして
チンカラホイ!で出来上がる
ような物とは違うんだよ。
ふーん……
そういうもん
かなぁ。
あっ!
ねぇ、駅が
見えてきたよ!
37ページ目
37
あ、あったー!!
へー、これが
野生のアルトパ梨。
ああ、こんな
風になるんだ……
でも、ナナ。
あんな高い所にある梨を
どうやって取るの?
どうって、そんなの
決まってるじゃない。
38ページ目
38
なんであたしが
こんな目に……
早く早く〜!
護身用の剣を
こんなところで使う
羽目になるとは……
うおりゃ!
39ページ目
39
やっぱり採りたては
新鮮でいいわぁ。
確かに、その辺で
売ってる梨より
綺麗な色してるね。
大きさも十分だし、
これならいいアンプが
作れそうよ。
……ん?
何の音だ……?
44ページ目
44
あちゃー。
全然帰ってくれる
気配がないよ。
あんな化け物が
下にいたんじゃ
降りられないぞ。
何とかしてくれよ。
あんた達が連れて
来ちゃったんだろ。
あの魔獣は
恐らく甲殻類の
一種だろうな。
つまり防御力は
最強クラス。
中途半端な攻撃じゃ
いたずらに刺激を
与えるだけね。
強力な武器が
いる……ね?
……… !!
46ページ目
46
燃料用トウモロコシを
詰め込んであるから
破壊力は抜群のはず。
え
バズーカじゃねーか!
私が囮になって
適当な場所まで
魔獣を誘導するわ。
二人はそれを後ろから
狙い撃ちにするのよ。
いいわね?
51ページ目
51
やっぱり手作りの
ロケットじゃ真っ直ぐ
飛ばんなぁ。
なに呑気なこと
言ってんの!
わーっ!
こっちに飛んできた!
ひゃあああ!
逃げろ!
56ページ目
56
この甲冑の下に
肉があるのかしら?
だろうね。
テトリ、この魔獣を
魔法で解体しなさい。
えーっ!!
そ、そんな……
二人の前で魔法を
使うなんて……
しかもこんな
屋外で……
何言ってんの、
こんなデカイの家まで
持って帰れないでしょ!
それとも、
このままここに
放置する気?
ほらほら、折角の獲物が
もったいないわよ。
うう……。
57ページ目
57
ねぇ、ナナ。
ん?
魔法を使う所って、
人に見られると
恥ずかしいものなの?
ああ、んん、
まぁ……
あんまり
見せびらかすもの
ではないかもね。
あたし、魔法って
見るの初めてだから
ちょっとドキドキする。
そう……。
ま、適当に見学
するといいわ。
始めるよ。
62ページ目
62
私たちがいるのは
テトリが開いた
魔法陣の中よ。
魔法陣って……
この建物が?
魔法陣っていうのは
文字とかが書かれた
変な図形の事じゃないの。
あら。情報が文字に
よってのみ記されるとは
限らないじゃない。
それに、これこそ
図形以外の何物でも
無いわ。
ここに書かれているのは
あの魔獣の存在と記憶……
遺伝情報と経験情報。
それを樹形図として
立体的に映像化したのが
この魔法陣なのよ。
???
63ページ目
63
いわば、これは
あの魔獣を形作るための
設計図のようなものよ。
あの魔獣という現象を
音楽の演奏だとすれば、
これは譜面って所ね。
よ、よく
分からない
例えだ……
この景色は水の記憶……
あの魔獣の心象風景ね。
魔獣たちの普遍的
無意識を構成する
太古の光と水……
なんで森の生き物の
太古の記憶が
水の記憶なんだ?
なっ……
じ、地震……!?
65ページ目
65
あ……ほら。
あそこにいたわ。
テトリがこれを?
い、一体何の意味が
あってこんな……
なにって、
そりゃ魔法陣を
書き換えるのよ。
書き換える?
そうよ、これが私たち
魔法使いの仕事なの。
この設計図は紙に写した
コピーとはわけが違うわ。
生きている設計図なの。
現世にある物質と
幽世にある設計図は
対になっているわ。
66ページ目
66
魔法陣を通じて設計図に
加えた変更は、現実の物質
にも反映されるのよ。
譜面のアレンジによって
曲そのものが
変化するかの如く……。
つまり包丁や鋸が
なくても設計図を
書き換えれば……
現実の魔獣を
バラバラに解体
出来るってこと?
その通り!
でも、形を変える
だけじゃないわ。
魔獣の肉は
「煮ても焼いても食えない」
と言われてるでしょ?
だから、身体にとって
有害な成分を構成する
情報を削り落としたり……
隠れた遺伝子を発現させて
味を整えたりといった操作も
同時に行ってるの。
67ページ目
67
食べられないはずのものを
食用に加工する方法を
編み出したのよ、あの子は。
ねぇ、ナナ。これのどこが
見られて恥ずかしい事なのか、
まだ分からないんだけど……
んえ?
ああ、うーん。
それはねぇ……
68ページ目
68
魔法っていうのは
答えの決まってないパズルを
組み上げるようなものなの。
目的を同じくしていても
手法や発想は人によって
全然違うものになるわ。
個人の性格や美的感覚、
感情的な面がどうしても
出ちゃうものなの。
だから魔法を使うって
いうのは、自分の内面を
曝け出す事でもある。
69ページ目
69
だからちょっと
気恥ずかしい気持ちに
なるのかもね。
はあ……。
あたし、魔法ってのは
てっきりもっと簡単な
ものなんだと思ってた。
確かに、そういう
イメージはあるかも
しれないわね。
ルールを知らない人に
そのパズルの難解さは
想像出来ないもの。
この図面を見せても
その内容までは
伝わらないし……
私たちの仕事を普通の人に
理解してもらうのは
難しいわね、残念だけど……
でもね、
これだけは言えるわ。
70ページ目
70
杖の一振りで勝手に
出来上がるような、便利な
魔法なんてありはしない。
みんな人の手によって
作られているのよ。
72ページ目
72
あんなデカイ魔獣
ちゃんと売り切る
事が出来るかなぁ。
店長さんの
頑張りに期待だね。
73ページ目
73
そういえば、
あの魔獣の名前は
分かったの?
?
うん。魔法陣に
古い記録が
残ってたから。
ズワイガニ。
さぁさぁ、お急ぎ下さい!
在庫限りのご提供です!
カニ鍋パーティ
開催中
裏庭へどうぞ
魔境の奥深くで発見された
新種の魔獣!
神秘の味ですよー!
76ページ目
76
なぁ、マルベリ。
いいのかよ。
え?
あそこにいるの、
お前の友達だろ?
ああ、うん。
あたしが誘ったんだ。
お前、自分の知り合いに
練習見に来られるの
嫌がってなかったっけ?
どういう
心境の変化だよ。
へへっ。
ちょっとね〜。