全12話予定 R-15 

フェリスマンの国

第1話 人間の騎士

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(1コマ目:シルエットの絵画のような画面。剣と盾を携えマントを羽織った人間の男性と、その眼前でもがく二つの大きくいびつな形の手。)

今から200年前──

(2コマ目:徐々に真っ暗になる画面。)

世界を脅かす魔王は
勇者の手によって倒され、
封印された。

(3コマ目:真っ暗闇の中で、不気味に笑う口からは、鋭い牙がたくさん生えている。)

だが、
魔王は封印の直前、
世界に一つの
「呪い」を残した。

人間どもよ、
せいぜい苦しめ。
そして滅びるがよい。

2ページ目

(1コマ目:明るい空。遠くに見える山々。その下には深い森が生い茂る。)

第1話

人間の騎士

(2コマ目:暗い森の奥からドドドドと地鳴りのような音を立てながら、全速力で走ってくる集団。陰になってよく見えないが、それは馬に乗った一段らしい。)

(3コマ目:轟音と土煙を上げながら走る馬の脚。)

(4コマ目:暗闇から徐々に姿を現す馬に乗った者たち。しかしその顔は全てが猫のものだった。)

(5コマ目:何十もの猫の顔が、長い槍を持ち、鎧を着て馬にまたがり、怒った顔をしながら森の中を走っている。それは猫の騎士団だ。)

3ページ目

(1コマ目:否、例外がいる。騎士団の中に一人だけ人間の顔が混じっている。肩まで伸びた長い黒髪を風になびかせ、真剣な面持ちで馬を駆るその人間の婦人は周囲の猫たちよりも小柄である。)

(2コマ目:横から明るい足音を響かせながら走り寄ってくる馬の脚。)

(3コマ目:それに気付いた人間の目元のアップ。)

(4コマ目:近寄ってきた馬に乗っている灰色の猫は、人間の少し前を走りながら、横目で人間に向かって微笑んでいる。その猫に向かって人間が話し掛ける。)

副長!
あまり前に
出過ぎるな!

ははっ。
置いてきますよ、
隊長!

(5コマ目:プープププーと進軍ラッパをを鳴らす別の猫。)

4ページ目

(1コマ目:前方の光景。森を抜け、広々とした野原に敵の軍勢が集結している。)

(2コマ目:ワアアアアと雄叫びを上げながらこちらに向かってくる敵軍。その構成は、鎧をまとった二足歩行の犬、鳥、ウサギ、スライム状の軟体生物など、様々な生き物の集合体だ。)

(3コマ目:人間は腰のサーベルを抜いて敵軍に向け、大声で叫ぶ。)

突撃‼︎

5ページ目

(1コマ目:歩兵、騎兵が入り混じった猫の騎士団と、その中心で剣を振り上げながら叫ぶ長い黒髪の人間。猛進する彼らの眼前には、同じようにこちらに突進してくる様々な生き物の軍団が広がっている。)

魔王軍の
残党どもを…

皆殺しに
するのだ‼︎

隊長さん。

(2コマ目:絵のないコマ)

隊長さん。

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(1コマ目:人間の顔のアップ。人間は頬杖を付いて俯いた姿勢で、何者かの声に目を覚ましたその額には冷や汗が流れている。)

う…ん…

隊長さん。
起きてください。

(2コマ目:ガタンゴトンと音が響く。そこはどうやら列車の中らしい。ボックスシートに座っている人間。その顔は先ほどまで叫んでいた隊長の物だが、髪の毛はバッサリショートになっている。人間の向かい側には、白い猫がいる。)

…ああ、
なんだ?

そろそろ王都が
見えてきましたよ。
下車の準備を。

(3コマ目:窓の外から進行方向を見つめる二人。人間はどこか暗い顔で、猫はにやけている。)

(4コマ目:風景のロングショット。ポッポーと汽笛を鳴らしながら線路の上を走る流線型の蒸気機関車と、その後ろに接続された数両の客車。列車はちょうど深い森の出口に差し掛かったところで、前方には大都市が広がっている。)

今のは……
夢か……。

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(1コマ目:列車の窓から外を眺める猫。)

駅に着いたら
出迎えとか
あったりして。

なんせ戦争の
英雄の凱旋
ですからね。

(2コマ目:向かい合う人間と猫。二人は同じような軍服のような服を着ているが、猫の方が大柄である。)

あるわけないだろ、
皮肉を言うな。
私は英雄じゃない。

でもあなたの
名前は王都でも
噂ですよ。

(3コマ目:脚を組み、不機嫌そうに片眉を持ち上げて口を結んだ人間。)

人間でありながら
最前線での活躍で
百人隊長になった…

伝説の騎士、
ナオミ・
カザモーラ。

ふん。

(4コマ目:どこからともなく取り出した紙を広げてにらみつけるナオミ。)

その伝説とやらも
君が持ってきた
この手紙のせいで
終わりだ。

(5コマ目:手紙の内容を読み上げるナオミと、それを軽薄なニヤニヤ顔で見つめる猫。)

「副都騎士団所属
 カザモーラ百人隊長殿、
 9月21日付で王都騎士団
 への転属を命ずる」

良かったですね。
王都行きってことは
栄転でしょ。

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(1コマ目:ナオミの腰に下げられたサーベルの柄。)

連絡員の君とは感覚が
違うかもしれないが、
私たち騎士にとっては
戦いが本分だ。

平和な王都に
騎士の任務など
なきに等しい。

(2コマ目:視線を落とすナオミと、自分のカバンを取り出して何やら準備を始める猫。)

王都行きは
左遷さ。

悪い方に考え
過ぎじゃない
ですかねぇ。

(3コマ目:ほくそ笑みながらながら目を閉じる猫の横顔。)

今回の人事も
きっと上層部の
思いやりです。

身体の弱い人間の
あなたを過酷な戦場
から遠ざけようと…

(4コマ目:不機嫌そうに猫を睨みつけるナオミの横顔。)

……もはや戦場に
人間など不要、
というわけだな。

(5コマ目:再びナオミを見つめ、得意げなポーズで喋り出す猫。)

まぁ、
実際そう
でしょう。

今やこの世は
私たち

人猫の時代!

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(1コマ目:大都市の風景のロングショット。立派な駅舎の前に広がる街には、数回建ての建物や、高層建築など、大小様々な建物がひしめき合っている。そのどれもが石造りで、色のついた様々な形の屋根が乗っている。駅舎の目の前は下り坂になっており、また遠くには盛り上がったスカイラインがあったりしていて、ここが元々でこぼこした山間の地形だったことが分かる。)

軍事、商業、政治……
あらゆる分野の中枢を
ふわふわの種族が
支配しているのですから。

(2コマ目:大きな駅舎の正門からぞろぞろと出てきて、階段を下っている客たち。その中にはナオミと連絡員の人猫の姿も見える。)

人間の時代なんて
とっくの昔に
終わったんですよ。

(3コマ目:王都の大通りの光景。広い道路は曲りくねり、道沿いに肩を並べる建物も緩いカーブを描いている。道路にはいくつもの歩道橋が掛かっている。歩道橋には道路から上る階段があったり、そのまま路地裏まで続いているものがあったり、歩道橋同士が接続したり立体的に交差しているものがあったりして、複雑な構造をしている。歩道や歩道橋には沢山の通行人がおり、道路の真ん中には荷馬車もひっきりなしに走っている。)

(4コマ目:ナオミの視点。ショーウィンドウの前には様々な毛色や模様の人猫と、様々な髪色や肌色の人間が往き交い、この古い都市を人種のるつぼたらしめている。)

(5コマ目:雑踏の中を歩きながら、周囲を眺めるナオミと連絡員。)

この辺りは
昔と変わら
ないな。

あっ!

(6コマ目:何かに気付いた様子の連絡員。彼が見上げる歩道橋の上を練り歩く集団がいた。)

あれって花嫁行列
じゃないですか?
ほら見てください、
神殿に続く道に…

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(1コマ目:沢山の棒にぶら下がった縦長の旗が風にはためき、同じように沢山の棒の先に引っ掛けられた丸い提灯が揺れている。旗にはどれも同じ菱形が二つ縦に並んだマークが描かれている。)

(2コマ目:橋の上を通行する花嫁行列の一団。人間と人猫、大人と子供が入り混じった正装姿の集団。よく見ると、旗を持っているのは人猫で、提灯を持っているのは人間だけだ。一団の中心には並んで歩く、白いドレス姿の花嫁と、母親らしき人間の姿が見える。)

(3コマ目:花嫁のアップ。短いくるくるの淡い色の髪、白い肌や白いドレスは日光を浴びて輝く。その花嫁の両手には、白いドレスには似つかわしくない、黒と金属色のツートンカラーの細長い筒状のものが握られている。)

(4コマ目:不機嫌そうな顔で花嫁を見上げているナオミの顔のアップ。)

ふん、
気に食わない。

(5コマ目:呑気に橋の上を見上げている連絡員と、その横をさっさと通り抜けようとするナオミ。)

いやぁ、
華やかです
ねぇ。

いいから
行くぞ。

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(1コマ目:大きな古い建物。)

王都騎士団本部

(2コマ目:事務室の中。部屋の両脇に並んだ二つの長いデスクには人猫ばかりの職員が並んで座り、何か書類を書いている。部屋の奥の中央にある一人用のデスクには、この部屋の長と思われるメガネの人猫が座っている。ナオミはその人猫の目の前に、両手を後ろに回して立ったまま人猫の話を聞いている。)

君には政府施設の
警備を担当してもらう。

(3コマ目:うつむいたナオミの横顔。その目は片側に流した髪の毛で隠れて見えないが、落胆の色は隠せない。)

警備……
ですか。

(4コマ目:小さな紙切れをナオミに向かって差し出すメガネの人猫。)

着任は明日の夕方、
ここに書いた住所に
向かいなさい。

長旅で疲れたろう。
今日はゆっくり
休んでおくように。

(5コマ目:分厚いファイルを持ち上げ、目を凝らす人猫。)

宿泊場所は…ああ、
君はこの王都に
実家があるんだな。

はい、そう
ですが…

(6コマ目:再びナオミを見据えるメガネの人猫。)

君にとっては
久しぶりの故郷だろう。
家に戻ってご家族に
顔を見せてあげなさい。

…………。

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(1コマ目:夕焼けに染まった王都の街並み。)

…そうさせて
いただきます。

(2コマ目:すっかり薄暗くなった通り。急な坂道に建っている家々の一つに、ナオミが近付く。)

(3コマ目:ナオミがドアを開き、住宅の中に入ると、ドアに取り付けられた鐘がカランコロンと音を立てる。)

ただいま。

(4コマ目:玄関のナオミに近付く人影。)

まぁ…!
あなたなのね。
お帰りなさい。

(5コマ目:室内はそこには二人のドレス姿の人間が立っている。奥で驚いたような表情をしている方は若く、柔らかな笑顔でナオミに声を掛けた方はナオミよりもずっと歳上に見える。どちらもナオミによく似た顔で、長めの髪も色は同じぐらい黒い。歳上の人間は続けて口を開く。)

ナオミ。

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(1コマ目:ナオミの浮かない顔のアップ。)

…母様。

(2コマ目:小さな部屋に移動した三人。部屋の中央の小さな丸テーブルにはティーカップやお菓子が並べられ、それを取り囲んだ大きな安楽椅子に腰掛けたナオミとその家族が語らっている。)

副都のグーベン殿とは、
結局…正式な婚約には
至らなかったそうね。

残念だわ。

……はい。

(3コマ目:心配そうにナオミを見る母親。)

お母さんが新しい
結婚相手を見つけて
あげるから。

あなたも
頑張って
ちょうだい。

(4コマ目:うんざりした表情で顔を背けるナオミ。)

母様、私には無理です。
今更結婚なんて
気持ちには…

(5コマ目:椅子に座ったまま、いかにも嫌そうな顔のナオミに食ってかかる二人。)

ナオミ。
気持ちの問題では
ないのですよ。

ふさわしき相手を見つけ、
お家を守り、
人類に貢献するのは
全ての人間の義務です。

お母様のおっしゃる
通りよ、お姉様。

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(1コマ目:非難がましい顔でまくし立てる妹と、それを睨み返すナオミ。)

お役目も果たさず、
好き勝手ばかりして
ずるいわ。

(2コマ目:母親の台詞に合わせて得意な顔で背筋を伸ばす妹と、興味なさそうに受け答えるナオミ。)

あなたが王都を
離れている間に
あなたの妹は相手を
見つけました。

へぇ…
それはどなた
ですか。

(3コマ目:嬉しそうに話す母親と、二ヘラといやらしい笑みを浮かべる妹の視線。)

隣町の男爵家の
ご子息です。

家柄も良く、
社会的地位も高い。
申し分ない相手よ。

正式な婚約はまだ
ですけど、このまま
順調にいけば……

(4コマ目:うんざりした顔で安楽椅子の背にもたれ掛かるナオミと、それを見ている母親の後ろ姿。)

なんだよ、その
出し抜いてやった、
みたいな顔。
別に悔しくねぇよ。

悔しがって
くれないと
困ります。

(5コマ目:突如カランコロンと音が響き、妹が玄関の方向を見る。)

おーい、
けえったぞー。

あら、お父様
だわ。

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(1コマ目:のっしのっしと屋内に入ってきたのは人猫だった。父親は大柄で白い体毛に黒いフォーマルなスーツが栄え、口元にはヒゲのような毛が生えている。笑みを浮かべつつも威厳に満ちた表情は、よく見ると目の形はナオミやその妹にそっくりだ。)

おお、こりゃ
珍しいな!

よく戻ったなぁ、
ナオミ!

(2コマ目:椅子から立ち上がり、柔らかい表情になるナオミと、部屋に入ってきた父親の後ろ姿。)

父様。
お久しぶり
です。

どうだ、
仕事の方は。

職場のみんなとは
仲良くしてるか?
わっはっは!

(3コマ目:急に表情を強張らせ、冷や汗を流すナオミ。)

は、はい。
そりゃもう…

副都では部下も
沢山できましたし
……

(4コマ目:ナオミはそのまま視線を落とす。)

ですが……

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(1コマ目:焦りながら説明を続けるナオミと、大きな口を開けて笑みを弾けさせる父親。)

………わ、私は
王都騎士団に転属に
なりましたので……

今後はもっと
頻繁に帰って
こられるかと…

おお、そうかそうか!
よく分からんが、
良かったなぁ!

(2コマ目:再びのっしのっしと大股で部屋から出て行く父親と、その後ろ姿を不満げに見送るナオミ。)

やぁー、よくできた
娘が二人もいて
父ちゃんは鼻が高いぞ。
わっはっはっは!

(3コマ目:固く握られたナオミの拳。その後ろで、尚も責めるような視線を送る母親と妹。)

……ナオミ。
お父さんは
ああ言って
おられるけど。

人間のあなたが
騎士の仕事なんて
いつまでやっても
仕方がないのよ。

(4コマ目:ナオミは部屋の入り口に立ちすくんだまま、浮かべた悔しそうな表情を母親たちには見せようとしない。ナオミの後ろで、母親と妹は椅子に座り直そうとしている。)

早くどこかに嫁いで、
お母さんを安心させて
ちょうだい。

(5コマ目:ギイ、ギイ、と軋む音を立てながら暗い廊下を歩くナオミ。その突き当たりには扉がある。)

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(1コマ目:ガチャっと扉が開き、薄暗い部屋の中にナオミがトボトボと入ってくる。そこはベッドルームのようだ。)

はぁ…

(2コマ目:ナオミが力無くベッドに倒れ込み、顔のめり込んだ枕がボフッと音を立てる。)

(3コマ目:脱ぎ散らかされたブーツやサーベルが床に散乱する真っ暗な実家の自室で、ベッドに突っ伏したまま動かないナオミ。その表情は枕に埋もれていて見ることができない。)

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(1コマ目:翌日の夕方。まだ空は明るいが、徐々に沈みゆく太陽が王都の街並みに強い影を落としている。)

(2コマ目:不安げに建物を見上げながら通りを歩くナオミ。)

住所…
合ってるよな。

(3コマ目:メモを片手に持つナオミの表情は、目の前に現れた予想外の建物に驚き、訝しんでいることを表している。)

警備を担当
しろと言ってた
けど……

政府施設……
って、
これか?

(4コマ目:入り口の扉の上に掛かる梁に直接彫り込まれた、建物の名前が目に入る。)

“総理大臣官邸”

(5コマ目:四角い窓に四角い柱、緩い曲線状に手前に膨らんだ梁、丸っこいドア。荘厳ながらもどこか奇妙で冗談めいたデザインのその建物の前にナオミは立っていた。)

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(1コマ目:静かな官公庁街にあるその建物は五階建ての荘厳な屋敷で、全景が一眼には見渡せないほど大きい。)

(2コマ目:薄暗い廊下を進む二人の人間の婦人。ナオミに向かって手招きしているのは、小柄な褐色肌で長い黒髪、メガネの事務員だ。)

本日配属になった
カザモーラさんですね。
お待ちしてました。

いやぁ、珍しいですね。
人間の騎士さんなんて
私、初めて見ました。

人間の騎士も
そんなに珍しく
ないですよ。

(3コマ目:廊下の奥の方に目をやるナオミと、疲れた表情で笑顔を作る事務員。)

なんだか中の方が
騒がしいですね。

ええ、実は邸内で
パーティの真っ最中
でしてね。

総理のお客様が
大勢いらしてて……
私たち事務員も対応に
追われてるんです。

(4コマ目:二人の後方から、別の事務員と思われる人猫が慌てた様子で声を掛ける。)

ベルプルちゃん!
ちょっと……

え、でも…

(5コマ目:腰を屈めて手を振るナオミと、それにお辞儀をする事務員。)

ああ、
大丈夫です。
私は一人で。

すいません。それでは
警備部長の部屋に行って
ください。場所は……

(6コマ目:反対方向に歩いていく二人の事務員と、そのまま廊下を進むナオミ。)

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(1コマ目:人猫の手に握られたグラスの酒の中で弾ける星。)

(2コマ目:広い部屋の中で騒ぐ大勢の人猫や人間たち。各々が酒を片手に談笑したり、歩き回ったりしている。人猫たちはみんな黒っぽいフォーマル寄りなスーツ姿で、人間たちはドレス姿だ。部屋の奥に並んだ柱が部屋と廊下を区切っており、いくつかの柱には同心円状の花のシルエットのようなマークが描かれた垂れ幕が掛かっている。)

(3コマ目:小皿に乗せたエビのようなものをフォークで食べる人猫の向こうに、廊下を歩きながら会場内を睨んでいるナオミの姿。)

それで、こいつらが
総理のお客様…ね。

(4コマ目:不機嫌そうなナオミの顔のアップ。)

お偉い方が
寄り集まって
宴会か。

平和ボケも
甚だしいな、
王都の連中は。

(5コマ目:部屋の隅でひそひそと会話する長毛と、ハチワレ模様の人猫。その会話が会場から離れていくナオミの耳にも入る。)

…なんと140年
ぶりだそうだ。

世も末
ですなぁ…

……

(6コマ目:パーティ会場の喧騒を背後に廊下を進んでいくナオミ。)

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(1コマ目:廊下の門を曲り、少し明るい場所に出ると、前方に人影が見える。)

…ん?
あれは…

(2コマ目:そこにいたのは人間の婦人だった。二人は目が合う。明るい色でウェーブの掛かった長い髪をリボンで束ね、宝石のネックレスの掛かった首元以外、ドレスにはほとんど露出がない。手に持った酒のためか、その白い頬がほんのりと赤く染まっている。その人間もナオミの接近に気付き、二人の目が合う。)

(3コマ目:廊下を進みながら無表情にドレスの人間を見つめているナオミ。)

…パーティの
客の連れ人か。

22ページ目

(1コマ目:明るい廊下のロングショット。歩くナオミの正面でこちらを見つめているドレスの人間。)

こんなところで
何を……

だ、誰だ…?
……あっ。

新顔か?
どうやって
入った?

(2コマ目:不審そうに相手を睨むナオミ。)

は……?
は、はぁ。

私は本日、
騎士団から派遣されて
きた者ですが。

(3コマ目:やれやれといった風に表情を緩める人間。)

ふうん……
なるほど。
人間の騎士、ね。

(4コマ目:突然、ナオミの目の前でグラスに入った酒を喉にぐーっと勢いよく流し込む人間と、それを見て面食らうナオミ。)

(5コマ目:いっぺんに空になったグラスを片手に、プハーッと下品に息を吐く人間。その赤い顔には満面の笑みを浮かべている。)

23ページ目

(1コマ目:コトッと音を立てて空のガラスをテーブルに置く手。)

(2コマ目:下品な笑みを浮かべ、右手で口元をぬぐいながら近付いてくる謎の人間。こちらを見つめながら大きなゲップをする。)

うんうん、
ふっふっふ。
困ったやつだ。

(3コマ目:戸惑い、訝しむナオミ。しかし相手は無遠慮に顔を近付け、間近でナオミを見上げる。)

なっ…
なんですか⁉︎

ちょっと来るのが
早すぎるぞ。
これは後でおしおきが
必要だな。

(4コマ目:なおも訳が分からないナオミの顔を、両手でそっとつつみこもうとする謎の人間。)

私はすぐにでも会場に
戻らねばならんのだ。

24ページ目

(1コマ目:ナオミの両頬を掴み、うっとりと自分の顔を近付ける謎の人間。)

でもその前に……

(2コマ目:そのまま二人の唇が重なり、ちゅっと音がなる。)

(3コマ目:それまで呆然としていたナオミの顔が、ゾッと青ざめる。)

25ページ目

(1コマ目:右手で相手の右腕をガッと掴む。)

(2コマ目:そのままナオミが相手の腕を背中にぐりっと曲げると、謎の人間は驚いて悲鳴を上げる。)

キャッ!

(3コマ目:右腕を掴んだまま、今度は左手で背中を押し付けると、謎の人間はそのまま床に崩れる。顔を真っ赤にし、汗を浮かべながら必死の形相で怒鳴るナオミに対し、謎の人間は激痛に顔を歪めている。)

何をするんだ、
この酔っ払い‼︎

ああああああ
あああああ‼︎

痛い痛い
痛い痛い‼︎

26ページ目

(1コマ目:婦人は床に這いつくばったまま息を荒げて泣きべそをかき、後ろに捻じ曲げられた右腕を痛そうに震わせているが、その腕を掴むナオミは尚も怒りの形相を崩さない。)

怪しいやつめ。
絡む相手を
間違えたな。

つまみ出す前に
もっと痛め付けて
やろうか。

あ…

いあ…

(2コマ目:廊下の奥、ナオミの後方から騎士の人猫が駆け寄ってくる。)

一体どうした
んですか⁉︎

警備の者か。

(3コマ目:謎の人間を抱えたまま人猫に話しかけるナオミ。)

こちらのご婦人は
少々お酒を飲み過ぎた
ご様子。

裏口にお連れして
外の空気を吸わせて
あげなさい。

そのまま
お帰りになるまで
必ず見届けること。

に、人間の
騎士…!?

(4コマ目:膝を付き、人間が立ち上がるのを支えようとする人猫と、ぷりぷりしたまま去っていくナオミ。)

大丈夫ですか、
立てますか?

まったく、
油断も隙もない。

(5コマ目:赤い顔で涙を浮かべたまま、歯を食いしばってキッとナオミを睨みつける謎の人間。)

27ページ目

(1コマ目:どこかの室内。応接用と思われるツルツルのローテーブルの周りに、角ばった安楽椅子が並ぶ。)

(2コマ目:部屋の奥の壁に並んだ二つの窓。その間には分厚い立派な垂れ幕が掛かっており、中央には大きく菱形と曲線が組み合わさったような意匠の国章が描かれている。その手前の黒光りする事務机から立ち上がったのは、ヒゲを伸ばした初老と思われる白い人猫だった。)

君がカザモーラ
隊長か。

警備部長の
ハナハッカだ。

(3コマ目:立ち上がってナオミを出迎える初老の人猫。二人は部屋の壁際で握手を交わす。)

急な異動に応じてくれて
助かるよ。この警備部も
今はてんやわんやでね。

ご命令と
あれば。

どこも人手が
不足している
ようですね。

(4コマ目:部屋の奥に目をやる人猫と、その横顔を見据えるナオミ。)

まぁ、忙しいのは
今だけさ。

この引き継ぎが
終われば
ひと段落だよ。

(5コマ目:ナオミが口を開くと、初老の人猫は振り返る。)

引き継ぎ?
どなたのですか?

なんだ、
聞かされていな
かったのか。

28ページ目

(1コマ目:室内のロングショット。広々とした奥行きのある部屋の中央に大きなローテーブルとその周囲に並ぶ四つの安楽椅子、部屋の奥には立派な事務机と事務椅子。警備部長の執務室に差し込む夕日が、向かい合って立つ老人とナオミの二人を照らしている。)

君に与えられた職務は
次の警備部長だ。

君は私の
後任だよ。

(2コマ目:戸惑い、驚くナオミの顔のアップ。)

わ、私が
警備部長…
ですか?

(3コマ目:部屋の隅に置かれた斜めの掲揚台に掛かった大きな国旗。)

官邸警備部は
総理の身の安全を
お守りする、
国家の重要部署……

(4コマ目:ナオミの正面を向き、背筋を伸ばして目を瞑る人猫と、それを見上げるナオミ。)

部長任命は
最高の栄誉と
心得よ。

は、し、しかし…
私に務まる
でしょうか。

(5コマ目:不安げに視線を下げるナオミ。)

なに、私のような
老人にもできる
仕事だ。

人間の君でも
問題はない
だろう。

………

(6コマ目:部屋の入り口側の隅に注意を向ける老人。そこに置かれた大きな振り子時計は、四時前を指している。)

お、もうこんな時間か。
そろそろ総理の演説が
始まる時間だ。

29ページ目

(1コマ目:部屋の外側に歩き始める初老の人猫。)

例のパーティ会場
でな。
我々も行こうか。

は、はい……あの、
あれって何のパーティ
なんですか?

(2コマ目:カチャっと音を立ててドアが開く。)

総理の
引っ越し祝い
だよ。

(3コマ目:廊下を歩くナオミと人猫。)

引っ越し祝い?
今引っ越して
きたんですか?

それも知らな
かったか?

まぁ、無理もない。
つい先日まで
君は最前線にいた
のだったしな。

(4コマ目:再びパーティ会場。会場に掛かった垂れ幕の下で、人々は相変わらず酒を片手に談笑している。)

先週、王国議会の総選挙が
あったのだよ。
その結果、政権が変わって
新たな総理が誕生したのだ。

(5コマ目:会場の中に顔を出す二人。)

新たな総理、ですか…
この賑やかなパーティは
彼自身の戦勝祝いも
兼ねてるわけですね。

あ、ああ。
だな。

30ページ目

(1コマ目:室内を見回すナオミの顔のアップ。)

それで、
総理は一体
どちらに…

あ!

(2コマ目:驚いたナオミの目線の先には、雑踏の中を上機嫌でフラフラ歩く、先ほど廊下で出会った謎の人間の姿があった。)

あいつ……
つまみ出した
はずなのに…!

(3コマ目:謎の人間を目で追いながら睨み付けるナオミと、その様子を不思議そうに見下ろす警備部長。)

カザモーラ君、
どうしたんだ?

なんで
まだ邸内に
いやがる⁉︎

(4コマ目:謎の人間の身柄を預けた警備員が会場内にいることに気が付き、話し掛けるナオミ。)

お、おい!
君!

ああ、
さっきの…

(5コマ目:部屋の隅で会話するナオミと人猫の警備員。)

あのご婦人は
帰るまで見てろ
と言った
じゃないか!

え…? ですから、
言われた通り
帰ってくるまで
見届けましたが。

(6コマ目:怪訝な顔になるナオミと、その後ろで気だるそうにナオミの様子をうかがっている初老の人猫。)

……は⁉︎

何を話してる
のかね、静かに
してなさい。

31ページ目

(1コマ目:チーンチーンと音が鳴り響く。人猫の一人がグラスをスプーンで叩く音だ。)

(2コマ目:グラスとスプーンを持ったとぼけた顔の人猫が、周囲の紳士たちの注目を集めている。)

お集まりの皆様、
ご静粛に願います。

総理大臣の
お言葉です。

(3コマ目:慌てた様子で警備部長の元に駆け寄るナオミだが、すでに老人は他の人々と同じように、部屋の中央に注目している。)

警備部長、
それが……

本日は我が新居に
お越しくださり、
ありがとうございます。

(4コマ目:部屋の中央から聞こえてきたのは、聞き覚えのある、しかしさっきよりも凛とした響きを帯びた、婦人の声だった。)

改めまして
自己紹介をさせて
いただきます。

32ページ目

(1コマ目:背の高い黒スーツの人猫たちが注目する中、両手を前に組み、まっすぐに立っている小柄なドレス姿。スピーチを行う威風堂々としたその顔はもはや酔っ払いのそれではなく、自信に満ちた晴れやかな笑顔を浮かべている。それは今しがたナオミが廊下で出会い、無理矢理唇を奪われたあの人間の婦人だった。)

先日、国王陛下のお招きで
組閣の大命を授かり、
この館の主人となりました…

総理大臣の
サンドラ・ベテグラース
と申します。

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(1コマ目:会場内を見渡すサンドラの視線が、ふとこちらに向く。)

我がベテグラース内閣は、
この停滞した社会において
国難を打破すべく……

(2コマ目:こちらを向いたサンドラの顔は青ざめ、こわばり、冷や汗が流れている。)

来たるべき激動の…
時代を…………

(3コマ目:現警備部長の傍に立つナオミも、汗をだらだらかきながら同じようにこわばった顔でサンドラを見ている。)

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(1コマ目:夜。再び警備部長の執務室。窓の外から満月の光が差し込む部屋の中で、ナオミの怒鳴り声が響く。)

私は嫌です‼︎

(2コマ目:ナオミは怒り顔を警備部長に向けながら反対の手でサンドラを指差し、そのサンドラは来賓用の安楽椅子に腰掛けたまま、不機嫌そうにそっぽを向いている。)

この人の部下には
なれません!

ああ、そうだ!
私も反対だ!

(3コマ目:椅子に座ったままのサンドラと、鬼のような形相をしているナオミ、二人に負けじと声を張る警備部長。)

私の官邸に
こんなバカを
置けるか!

なんで
すって⁉︎

総理‼︎

(4コマ目:二人の人間に交互に顔を向ける初老の人猫。)

わがままを
おっしゃっては
なりませんぞ!

君もだ!
言葉を慎み
なさい!

(5コマ目:しかし怒りは収まらず、警備部長に向かって説明を続けようとするナオミ。その後ろで、急に頬を赤らめ、しまったという顔をしているサンドラ。)

警備部長!
この人はですね、
さっき私に
いきなり……

(6コマ目:目線をそらし、困ったような照れたような顔をするサンドラと、それを見下ろすナオミ。)

だ、だってまさか
本物の人間の騎士が
実在するなんて
知らなかったし…

はぁ?

その…コスプレ
かと思って…

てっきり私の客
かと……

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(1コマ目:見る見るうちに赤くなっていくナオミの怒り顔。)

(2コマ目:二人して真っ赤な顔になり、大声で怒鳴り合うナオミとサンドラ。)

こ…この……
この……

変態セクハラ
ババア‼︎

うるさい、
暴力バカ‼︎

二人とも、
いい加減に
しなさい!

(3コマ目:警備部長の執務室内のロングショット。腕組みをしてそっぽを向くナオミと、向かい合う現警備部長とサンドラ。)

総理、人間が
総理大臣になるのは
実に140年ぶりの
ことなのです。

この人猫時代では
前例のないことで、
私たちも特別な対応
が求められます。

(4コマ目:初老の人猫と、何かに気付くナオミの横顔。)

総理にご同行し、
身辺警護を行うのも
私たち官邸警備部の
任務だからです。

(5コマ目:部屋の隅を向くナオミ。)

人猫による警護
だけでは自ずと
限界がある…。

(6コマ目:淡々と解説を続ける警備部長に、尚も食ってかかるサンドラ。)

この者ほど次期警備部長に
適した騎士はおりません。
同じ人間で隊長経験もある。

ふざけるな!
だったら身辺警護
なんか要らん!

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(1コマ目:怒り顔の人猫と、それを振り返りながら指を差し、部屋から立ち去ろうとするサンドラ。)

これは騎士団本部の
勧告です!
総理といえど無下には
できませんぞ!

とにかく!
私は認めない
からな!

(2コマ目:バタンと乱暴な音がして扉が閉まる。)

やれやれ…

(3コマ目:窓際に握り拳を着くナオミ。窓の外は暗い。)

……総理が人間だから、
私が人間だから……

(4コマ目:両手を窓際に着いたたまま目を閉じ、うなだれているナオミ。その背後では不機嫌そうな警備部長がナオミの様子を観察している。)

ただそれだけの理由で
私は副都を離れなければ
ならなかったんですか。

冗談じゃない。
私を副都に……
副都に戻して
ください。

(5コマ目:人猫の後ろ頭と、窓際から動かないナオミ。)

…何か副都に
こだわる理由が
あるのかね?

………。

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(1コマ目:遠くに見える建物から漏れる光と、それにオーバーラップする窓ガラスに映った二つの不安げな顔。警備部長はなおもナオミの後ろ姿を見つめているが、ナオミは窓の外に向かってどこか遠くを見ている。)

君も戦場が
恋しいのかね?
最前線での
名誉ある戦いが。

…………。

(2コマ目:うんざりとした顔になり、フーと溜め息をつく初老の人猫。)

……警備部長に
なっても、
副都には行けるぞ。

(3コマ目:その言葉に振り返るナオミと、説明を続ける人猫。)

……どういう
意味ですか。

さっきも言ったが、
身辺警護も警備部の任務。
総理が地方に行く場合は
一緒に同行するのだ。

実際、二都間を
行き来する
機会は多いぞ。

(4コマ目:絵のないコマ)

例えば……3か月後!
諸外国のトップが集まる
副都サミットが開催される。
当然我らが総理も出席する。

(5コマ目:ぼんやりと悲しそうな顔で考えを巡らせるナオミの顔。)

あの総理に
ついていけば、
副都に行ける…

戦場に戻れる
わけではないが
………

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(1コマ目:部屋の奥で棒立ちのまま横向きの頭をうなだれているナオミと、それに向かって語り続ける人猫の後ろ姿。)

ほら、向こうは
魔物も多いし治安も
悪いし…戦いだって
あるかもしれん。

どうだ、
それで納得して
くれんか。

(2コマ目:ナオミの手が固く握られる。)

…分かりました。

(3コマ目:ナオミが顔を上げると、そこには真面目な表情が戻っていた。初老の人猫も満足そうに微笑んでいる。)

警備部長の
職務……

謹んでお受け
いたします。

よし、
よく言った!

(4コマ目:絵のないコマ)

では、
前任者として
君に最初の
命令を下す。

(5コマ目:困った顔で腕組みをする前警備部長と、それを背後に目を閉じ、眉間にシワを寄せて難しい表情をしているナオミ。)

総理大臣と仲直り
しなさい。

……。

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(1コマ目:時間は少し巻き戻り、前日の夕方。夕焼け色に染まった王都の空の下に建つ、大きなステンドグラスのような窓が付いた荘厳な建物。)

今から200年前、
世界を脅かす魔王は
勇者の手によって
倒され、封印された。

だが、
魔王は封印の直前、
世界に一つの
「呪い」を残した。

(2コマ目:神殿の建物の内部。中央には赤い絨毯が引かれ、その左右両側には丸椅子がずらりと並び、フォーマル姿の人猫やドレス姿の人間が大勢起立している。両側の壁際には黒い聖職者らしき人猫たちが、左右二種類別のマークが書かれた縦長の旗を掲げ持っている。彼らに見守られる中、絨毯を上を更新するのは六人のドレスの人間、そしてその先頭を歩くのは真っ白なウェディングドレスの人間だった。彼らが向かう先、部屋の中央には二人の神官、人猫と人間の組み合わせがいた。)

(3コマ目:白いドレスを着た短いくるくるの淡い色の髪の花嫁と、その脇に立つ人猫の神官。花嫁の正面に相対して立つ黒い服の人物も見えるが、その顔はまだ見えない。花嫁に向かって口を開いたのは人猫の神官だった。)

新婦よ、
新郎に誓いの
小刀を。

(4コマ目:緊張しているのか、やけに硬い面持ちの花嫁はその右手に黒と金属色のツートンカラーの細長い筒状のものを持ち、目の前の人物に差し出す。)

私はこの小刀を、
愛と、尊重と、
そして信頼の証として
あなたに預けます。

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(1コマ目:花嫁が差し出した小刀を掴み取ったのは、大きな猫の手だった。)

『この日、この時より先、
 生まれ出でる人の男児は
 全て獣の姿をとるであろう。』

(2コマ目:横から神官が話しかけている人猫の花婿は、どこかとぼけた顔の真ん丸い目で、白地をベースに、右目と左頬に掛かるように茶色が入った茶ブチ模様だった。黒いスーツに白いネクタイの花婿は、右手で小刀の柄を、左手で鞘を持ち、緊張しながらそれを引き抜こうとしている。)

魔王の言葉通り、
その日を最後にこの世界で
人間の男児が誕生することは
二度となくなり……

では新郎よ。
その小刀で花嫁の
信頼を試しなさい。

代わりに、まるで
猫のような姿をした赤子が、
人間の女児と同じ数だけ
生まれ始めたのである。

(3コマ目:そしてシャキッと音を立てて勢いよく鞘が抜かれ、下から不気味に光る刃が飛び出す。)

『人間どもよ、
 せいぜい苦しめ。
 そして滅びるがよい。』

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(1コマ目:差し出された花嫁の左手首には、赤い紐が括り付けられていた。その手首に新郎が持つ小刀がゆっくり近付く。)

しかし、
それでも人類は
滅びなかった。

(2コマ目:上向きの刃が紐を引っ張り上げる。)

人から産まれた獣と
人間の女の間にも
子供ができることが
判明したのだ。

(3コマ目:ピッと音がして手首に括り付けられた紐が切れる。それと同時に、花嫁と花婿の緊張の糸も切れたようだ。)

命を繋ぐため、
女たちは獣と交わる
ことを余儀なくされた。

(4コマ目:右手を上げる人猫の神官。)

種族の違いを越えた絆が、
今ここに結ばれた。
新たな夫婦に大地の精霊の
祝福があらんことを。

(5コマ目:結婚式場となった神殿内部のロングショット。柔らかな夕日が差し込む中、ずらりと並んだ椅子に座った大勢の客たちが、会場の中央で向かい合っている新郎新婦に拍手を捧げている。)

やがて時代が下り、
人間の男が絶滅した後も
状況は変わらず……

世代が交代するにつれ、
男たちの存在は
人々の記憶から消えていった。

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(1コマ目:新郎新婦の立ち姿。黒いスーツに白いネクタイを決めた若い人猫の傍らで、短いくるくるの淡い色の髪をした人間が微笑んでいる。)

かくして「男」と「女」という性別は無くなり……

人類は

「人猫」

フェリスマン

「人間」

ヒューマン

 という二つの種族に分けられ、
 区別されるようになった。

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(1コマ目:夜の首相官邸の各窓からは明かりの光が漏れている。)

そしてこれは……

人猫に支配された社会の中で生きる、
二人の人間の物語である。

(2コマ目:どこかの廊下を肩を怒らせながら闊歩するサンドラ。)

何が騎士団本部の勧告だ。
何が無下にできないだ。
私を誰だと思ってる。

(3コマ目:不機嫌そうに頬を膨らませたサンドラの横顔。)

あんな生意気な
人間を側に置くなんて
まっぴらだ。
いつかクビにしてやる。

(4コマ目:どこかの窓際で窓枠に片手を置き、考え事をするように目を瞑っているナオミ。)

手柄を立てて上層部を
見返してやるぞ。
副都サミットはその
第一歩だ。

(5コマ目:ナオミが目を開くと、そこには固い決心が宿っていた。)

いずれは本当に
副都に戻ってみせる。
こんなふざけた職場、
辞めてやる。

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(1コマ目:背中合わせにお互いを睨むサンドラとナオミ。二人は奇しくも同じことを考えていた。)

あんなやつと
ずっと一緒だなんて……

絶対にお断りだ‼︎

TO BE CONTINUED...