全12話予定

フェリスマンの国

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第1話 人間の騎士

1ページ目

(1コマ目:シルエットの絵画のような画面。剣と盾を携えマントを羽織った人間の男性と、その眼前でもがく二つの大きくいびつな形の手。)

今から200年前──

(2コマ目:徐々に真っ暗になる画面。)

世界を脅かす魔王は
勇者の手によって倒され、
封印された。

(3コマ目:真っ暗闇の中で、不気味に笑う口からは、鋭い牙がたくさん生えている。)

だが、
魔王は封印の直前、
世界に一つの
「呪い」を残した。

人間どもよ、
せいぜい苦しめ。
そして滅びるがよい。

2ページ目

(1コマ目:明るい空。遠くに見える山々。その下には深い森が生い茂る。)

第1話

人間の騎士

(2コマ目:暗い森の奥からドドドドと地鳴りのような音を立てながら、全速力で走ってくる集団。陰になってよく見えないが、それは馬に乗った一段らしい。)

(3コマ目:轟音と土煙を上げながら走る馬の脚。)

(4コマ目:暗闇から徐々に姿を現す馬に乗った者たち。しかしその顔は全てが猫のものだった。)

(5コマ目:何十もの猫の顔が、長い槍を持ち、鎧を着て馬にまたがり、怒った顔をしながら森の中を走っている。それは猫の騎士団だ。)

3ページ目

(1コマ目:否、例外がいる。騎士団の中に一人だけ人間の顔が混じっている。肩まで伸びた長い黒髪を風になびかせ、真剣な面持ちで馬を駆るその人間の婦人は周囲の猫たちよりも小柄である。)

(2コマ目:横から明るい足音を響かせながら走り寄ってくる馬の脚。)

(3コマ目:それに気付いた人間の目元のアップ。)

(4コマ目:近寄ってきた馬に乗っている灰色の猫は、人間の少し前を走りながら、横目で人間に向かって微笑んでいる。その猫に向かって人間が話し掛ける。)

副長!
あまり前に
出過ぎるな!

ははっ。
置いてきますよ、
隊長!

(5コマ目:プープププーと進軍ラッパをを鳴らす別の猫。)

4ページ目

(1コマ目:前方の光景。森を抜け、広々とした野原に敵の軍勢が集結している。)

(2コマ目:ワアアアアと雄叫びを上げながらこちらに向かってくる敵軍。その構成は、鎧をまとった二足歩行の犬、鳥、ウサギ、スライム状の軟体生物など、様々な生き物の集合体だ。)

(3コマ目:人間は腰のサーベルを抜いて敵軍に向け、大声で叫ぶ。)

突撃‼︎

5ページ目

(1コマ目:歩兵、騎兵が入り混じった猫の騎士団と、その中心で剣を振り上げながら叫ぶ長い黒髪の人間。猛進する彼らの眼前には、同じようにこちらに突進してくる様々な生き物の軍団が広がっている。)

魔王軍の
残党どもを…

皆殺しに
するのだ‼︎

隊長さん。

(2コマ目:絵のないコマ)

隊長さん。

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(1コマ目:人間の顔のアップ。人間は頬杖を付いて俯いた姿勢で、何者かの声に目を覚ましたその額には冷や汗が流れている。)

う…ん…

隊長さん。
起きてください。

(2コマ目:ガタンゴトンと音が響く。そこはどうやら列車の中らしい。ボックスシートに座っている人間。その顔は先ほどまで叫んでいた隊長の物だが、髪の毛はバッサリショートになっている。人間の向かい側には、白い猫がいる。)

…ああ、
何だ?

そろそろ王都が
見えてきましたよ。
下車の準備を。

(3コマ目:窓の外から進行方向を見つめる二人。人間はどこか暗い顔で、猫はにやけている。)

(4コマ目:風景のロングショット。ポッポーと汽笛を鳴らしながら線路の上を走る流線型の蒸気機関車と、その後ろに接続された数両の客車。列車はちょうど深い森の出口に差し掛かったところで、前方には大都市が広がっている。)

今のは……
夢か……。

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(1コマ目:列車の窓から外を眺める猫。)

駅に着いたら
出迎えとか
あったりして。

なんせ戦争の
英雄の凱旋
ですからね。

(2コマ目:向かい合う人間と猫。二人は同じような軍服のような服を着ているが、猫の方が大柄である。)

あるわけないだろ、
皮肉を言うな。
私は英雄じゃない。

でもあなたの
名前は王都でも
噂ですよ。

(3コマ目:脚を組み、不機嫌そうに片眉を持ち上げて口を結んだ人間。)

人間でありながら
最前線での活躍で
百人隊長になった…

伝説の騎士、
ナオミ・
カザモーラ。

ふん。

(4コマ目:どこからともなく取り出した紙を広げてにらみつけるナオミ。)

その伝説とやらも
君が持ってきた
この手紙のせいで
終わりだ。

(5コマ目:手紙の内容を読み上げるナオミと、それを軽薄なニヤニヤ顔で見つめる猫。)

「副都騎士団所属
 カザモーラ百人隊長殿、
 9月21日付で王都騎士団
 への転属を命ずる」

良かったですね。
王都行きってことは
栄転でしょ。

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(1コマ目:ナオミの腰に下げられたサーベルの柄。)

連絡員の君とは感覚が
違うかもしれないが、
私たち騎士にとっては
戦いが本分だ。

平和な王都に
騎士の任務など
なきに等しい。

(2コマ目:視線を落とすナオミと、自分のカバンを取り出して何やら準備を始める猫。)

王都行きは
左遷さ。

悪い方に考え
過ぎじゃない
ですかねぇ。

(3コマ目:ほくそ笑みながらながら目を閉じる猫の横顔。)

今回の人事も
きっと上層部の
思いやりです。

身体の弱い人間の
あなたを過酷な戦場
から遠ざけようと…

(4コマ目:不機嫌そうに猫を睨みつけるナオミの横顔。)

……もはや戦場に
人間など不要、
というわけだな。

(5コマ目:再びナオミを見つめ、得意げなポーズで喋り出す猫。)

まぁ、
実際そう
でしょう。

今やこの世は
私たち

人猫の時代!

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(1コマ目:大都市の風景のロングショット。立派な駅舎の前に広がる街には、数回建ての建物や、高層建築など、大小様々な建物がひしめき合っている。そのどれもが石造りで、色のついた様々な形の屋根が乗っている。駅舎の目の前は下り坂になっており、また遠くには盛り上がったスカイラインがあったりしていて、ここが元々でこぼこした山間の地形だったことが分かる。)

軍事、商業、政治……
あらゆる分野の中枢を
ふわふわの種族が
支配しているのですから。

(2コマ目:大きな駅舎の正門からぞろぞろと出てきて、階段を下っている客たち。その中にはナオミと連絡員の人猫の姿も見える。)

人間の時代なんて
とっくの昔に
終わったんですよ。

(3コマ目:王都の大通りの光景。広い道路は曲りくねり、道沿いに肩を並べる建物も緩いカーブを描いている。道路にはいくつもの歩道橋が掛かっている。歩道橋には道路から上る階段があったり、そのまま路地裏まで続いているものがあったり、歩道橋同士が接続したり立体的に交差しているものがあったりして、複雑な構造をしている。歩道や歩道橋には沢山の通行人がおり、道路の真ん中には荷馬車もひっきりなしに走っている。)

(4コマ目:ナオミの視点。ショーウィンドウの前には様々な毛色や模様の人猫と、様々な髪色や肌色の人間が往き交い、この古い都市を人種のるつぼたらしめている。)

(5コマ目:雑踏の中を歩きながら、周囲を眺めるナオミと連絡員。)

この辺りは
昔と変わら
ないな。

あっ!

(6コマ目:何かに気付いた様子の連絡員。彼が見上げる歩道橋の上を練り歩く集団がいた。)

あれって花嫁行列
じゃないですか?
ほら見てください、
神殿に続く道に…

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(1コマ目:沢山の棒にぶら下がった縦長の旗が風にはためき、同じように沢山の棒の先に引っ掛けられた丸い提灯が揺れている。旗にはどれも同じ菱形が二つ縦に並んだマークが描かれている。)

(2コマ目:橋の上を通行する花嫁行列の一団。人間と人猫、大人と子供が入り混じった正装姿の集団。よく見ると、旗を持っているのは人猫で、提灯を持っているのは人間だけだ。一団の中心には並んで歩く、白いドレス姿の花嫁と、母親らしき人間の姿が見える。)

(3コマ目:花嫁のアップ。短いくるくるの淡い色の髪、白い肌や白いドレスは日光を浴びて輝く。その花嫁の両手には、白いドレスには似つかわしくない、黒と金属色のツートンカラーの細長い筒状のものが握られている。)

(4コマ目:不機嫌そうな顔で花嫁を見上げているナオミの顔のアップ。)

ふん、
気に食わない。

(5コマ目:呑気に橋の上を見上げている連絡員と、その横をさっさと通り抜けようとするナオミ。)

いやぁ、
華やかです
ねぇ。

いいから
行くぞ。

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(1コマ目:大きな古い建物。)

王都騎士団本部

(2コマ目:事務室の中。部屋の両脇に並んだ二つの長いデスクには人猫ばかりの職員が並んで座り、何か書類を書いている。部屋の奥の中央にある一人用のデスクには、この部屋の長と思われるメガネの人猫が座っている。ナオミはその人猫の目の前に、両手を後ろに回して立ったまま人猫の話を聞いている。)

君には政府施設の
警備を担当してもらう。

(3コマ目:うつむいたナオミの横顔。その目は片側に流した髪の毛で隠れて見えないが、落胆の色は隠せない。)

警備……
ですか。

(4コマ目:小さな紙切れをナオミに向かって差し出すメガネの人猫。)

着任は明日の夕方、
ここに書いた住所に
向かいなさい。

長旅で疲れたろう。
今日はゆっくり
休んでおくように。

(5コマ目:分厚いファイルを持ち上げ、目を凝らす人猫。)

宿泊場所は…ああ、
君はこの王都に
実家があるんだな。

はい、そう
ですが…

(6コマ目:再びナオミを見据えるメガネの人猫。)

君にとっては
久しぶりの故郷だろう。
家に戻ってご家族に
顔を見せてあげなさい。

…………。

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(1コマ目:夕焼けに染まった王都の街並み。)

…そうさせて
いただきます。

(2コマ目:すっかり薄暗くなった通り。急な坂道に建っている家々の一つに、ナオミが近付く。)

(3コマ目:ナオミがドアを開き、住宅の中に入ると、ドアに取り付けられた鐘がカランコロンと音を立てる。)

ただいま。

(4コマ目:玄関のナオミに近付く人影。)

まぁ…!
あなたなのね。
お帰りなさい。

(5コマ目:室内はそこには二人のドレス姿の人間が立っている。奥で驚いたような表情をしている方は若く、柔らかな笑顔でナオミに声を掛けた方はナオミよりもずっと歳上に見える。どちらもナオミによく似た顔で、長めの髪も色は同じぐらい黒い。歳上の人間は続けて口を開く。)

ナオミ。

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(1コマ目:ナオミの浮かない顔のアップ。)

…母様。

(2コマ目:小さな部屋に移動した三人。部屋の中央の小さな丸テーブルにはティーカップやお菓子が並べられ、それを取り囲んだ大きな安楽椅子に腰掛けたナオミとその家族が語らっている。)

副都のグーベン殿とは、
結局…正式な婚約には
至らなかったそうね。

残念だわ。

……はい。

(3コマ目:心配そうにナオミを見る母親。)

お母さんが新しい
結婚相手を見つけて
あげるから。

あなたも
頑張って
ちょうだい。

(4コマ目:うんざりした表情で顔を背けるナオミ。)

母様、私には無理です。
今更結婚なんて
気持ちには…

(5コマ目:椅子に座ったまま、いかにも嫌そうな顔のナオミに食ってかかる二人。)

ナオミ。
気持ちの問題では
ないのですよ。

ふさわしき相手を見つけ、
お家を守り、
人類に貢献するのは
全ての人間の義務です。

お母様のおっしゃる
通りよ、お姉様。

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(1コマ目:非難がましい顔でまくし立てる妹と、それを睨み返すナオミ。)

お役目も果たさず、
好き勝手ばかりして
ずるいわ。

(2コマ目:母親の台詞に合わせて得意な顔で背筋を伸ばす妹と、興味なさそうに受け答えるナオミ。)

あなたが王都を
離れている間に
あなたの妹は相手を
見つけました。

へぇ…
それはどなた
ですか。

(3コマ目:嬉しそうに話す母親と、二ヘラといやらしい笑みを浮かべる妹の視線。)

隣町の男爵家の
ご子息です。

家柄も良く、
社会的地位も高い。
申し分ない相手よ。

正式な婚約はまだ
ですけど、このまま
順調にいけば……

(4コマ目:うんざりした顔で安楽椅子の背にもたれ掛かるナオミと、それを見ている母親の後ろ姿。)

何だよ、その
出し抜いてやった、
みたいな顔。
別に悔しくねぇよ。

悔しがって
くれないと
困ります。

(5コマ目:突如カランコロンと音が響き、妹が玄関の方向を見る。)

おーい、
けえったぞー。

あら、お父様
だわ。

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(1コマ目:のっしのっしと屋内に入ってきたのは人猫だった。父親は大柄で白い体毛に黒いフォーマルなスーツが栄え、口元にはヒゲのような毛が生えている。笑みを浮かべつつも威厳に満ちた表情は、よく見ると目の形はナオミやその妹にそっくりだ。)

おお、こりゃ
珍しいな!

よく戻ったなぁ、
ナオミ!

(2コマ目:椅子から立ち上がり、柔らかい表情になるナオミと、部屋に入ってきた父親の後ろ姿。)

父様。
お久しぶり
です。

どうだ、
仕事の方は。

職場のみんなとは
仲良くしてるか?
わっはっは!

(3コマ目:急に表情を強張らせ、冷や汗を流すナオミ。)

は、はい。
そりゃもう…

副都では部下も
沢山できましたし
……

(4コマ目:ナオミはそのまま視線を落とす。)

ですが……

16ページ目

(1コマ目:焦りながら説明を続けるナオミと、大きな口を開けて笑みを弾けさせる父親。)

………わ、私は
王都騎士団に転属に
なりましたので……

今後はもっと
頻繁に帰って
こられるかと…

おお、そうかそうか!
よく分からんが、
良かったなぁ!

(2コマ目:再びのっしのっしと大股で部屋から出て行く父親と、その後ろ姿を不満げに見送るナオミ。)

やぁー、よくできた
娘が二人もいて
父ちゃんは鼻が高いぞ。
わっはっはっは!

(3コマ目:固く握られたナオミの拳。その後ろで、尚も責めるような視線を送る母親と妹。)

……ナオミ。
お父さんは
ああ言って
おられるけど。

人間のあなたが
騎士の仕事なんて
いつまでやっても
仕方がないのよ。

(4コマ目:ナオミは部屋の入り口に立ちすくんだまま、浮かべた悔しそうな表情を母親たちには見せようとしない。ナオミの後ろで、母親と妹は椅子に座り直そうとしている。)

早くどこかに嫁いで、
お母さんを安心させて
ちょうだい。

(5コマ目:ギイ、ギイ、と軋む音を立てながら暗い廊下を歩くナオミ。その突き当たりには扉がある。)

17ページ目

(1コマ目:ガチャっと扉が開き、薄暗い部屋の中にナオミがトボトボと入ってくる。そこはベッドルームのようだ。)

はぁ…

(2コマ目:ナオミが力無くベッドに倒れ込み、顔のめり込んだ枕がボフッと音を立てる。)

(3コマ目:脱ぎ散らかされたブーツやサーベルが床に散乱する真っ暗な実家の自室で、ベッドに突っ伏したまま動かないナオミ。その表情は枕に埋もれていて見ることができない。)

18ページ目

(1コマ目:翌日の夕方。まだ空は明るいが、徐々に沈みゆく太陽が王都の街並みに強い影を落としている。)

(2コマ目:不安げに建物を見上げながら通りを歩くナオミ。)

住所…
合ってるよな。

(3コマ目:メモを片手に持つナオミの表情は、目の前に現れた予想外の建物に驚き、訝しんでいることを表している。)

警備を担当
しろと言ってた
けど……

政府施設……
って、
これか?

(4コマ目:入り口の扉の上に掛かる梁に直接彫り込まれた、建物の名前が目に入る。)

“総理大臣官邸”

(5コマ目:四角い窓に四角い柱、緩い曲線状に手前に膨らんだ梁、丸っこいドア。荘厳ながらもどこか奇妙で冗談めいたデザインのその建物の前にナオミは立っていた。)

連載途中のエピソード (18 / 44 ページ完成)