第3章 烏木の如く黒き髪
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CHAPITRE III
“CHEVEUX NOIRS COMME L’ÉBÈNE”
ジョニーと共に関係者への
聞き込みを行うが、有力な
証言は得られず。
鑑識も調査を進めるが、
いまだ成果は無し。
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捜査に何の進展も無いまま
時間だけが過ぎ去っていった。
やはり「オーブ」は
既に国外に持ち出されて
しまったのでは……
いや私はね、犯人は
まだロンドンに潜伏し
てる可能性が……
グレープジュース、
買ってこなきゃ。
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出掛けるついでに
病院に行こう。
マリーの様子も
気になるし……
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あ、あの男は……
あの時の……!
まさか、もう
嗅ぎつけられた?
まずい……
このままじゃ……
このままじゃ
マリーが危ない!
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どうしよう……
今すぐ何とかしないと……
だけど、下手をして
あいつに見つかったら
私が殺されるかも……
でも、あいつを
マリーの部屋に行か
せるわけには……
しかし………
いや……でも……
君!
そんな所で一体
何をしてるのかね!
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え、あ、あの……
ちょっと警備室
まで来なさい!
やばい……!
こんな時に
連れて行かれる
わけには……
でも、ここで
騒ぎを起こしたら
元も子もない……
素直に従う
しか……
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落ち着け……
考えろ、考えるんだ!
きっと何か
方法が……
くくくく……
あ……ま……
まさかあなた。
くく……はははっ。
ああ、おかしい。
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全然気付かないんだ
もんなぁ。
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じゃじゃーん!
マ……
むむむー!
むむー!
おっと、安心する
のはまだ早いぞ。
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そろそろ
気付かれる
頃だ。
ちょ、ちょ……
危ない!
さぁ、さっさと
出よう!
マリー!
どこに行くのー!
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全く、何が
何だか……
ここまで来れば
もう大丈夫だろう。
でも、安心したよ。
あなたが無事で……
それにしても、
なんであの病院が
バレたんだろう。
ああ。恐らく
警察か病院の記録を
盗み見たんだろう。
それで可能性のある
入院患者を片っ端から
当っていたと……
まぁ、仕方が
ないさ。こういう
時代だからね。
そうだ……
マリーは怪我人
なんだから……
一刻も早くどこか
休める所へ連れて
行かないと……
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私を心配して
来てくれたんだね。
ありがとう、
アリス。
……マリー?
やっと二人きりになれたね。
ここなら誰にも……
い、一体何を……
こ、こんな場所で……
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お、アリスじゃねーか。
何やってんだ?
ジョ…ジョ、
ジョニー!
おい、アリス。
そいつは……
あ、い、いやっ……
違うんだ。この人は、
その………
アリス、
お知り合いかい?
……はじめまして。
アリスの同僚の
ジェームズ警部です。
友人のオラシア・
ベルモントです。
どうも…………。
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アリス〜。
くくくく、お前………
え、あ……
あの……
なにオドオドしてんだ。
心配しなくても、
誰にも言わねぇよ。
………………
…………えっ?
いやぁ、まさか
お前にあんな若い……
うんうん。
お前も、意外と
隅に置けねぇな。
は………
は、ははは……
そういう
あんたはここで
何してんの?
そりゃお前………
例の…鳥探しだ。
鳥はこういう公園に
たむろしてたりする
からな。虱潰しさ。
ふーん……
頑張ってね。
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他人事みたいに……
協力して下さいよ、
巡査部長!
え、あ、ああ!
そういう約束だったね。
ははは。
ま、どのみち
もう日暮れだし、
今日はもう帰るぜ。
じゃあな、
お二人さん。
……………。
……あの男、
諜報員だな。
えっ?
どうして君に
付きまとってるんだ?
いつから一緒にいる?
………なるほど。
よりにもよって君が
事件の担当に……
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用心しろよ、アリス。
あのジェームズという
男……
ただの間抜けを装ってるが、
ああいう男は何を考えてるか
分からないからね。
う、うん。
今晩現れたのは本当に
偶然なんだろうか?
まさか、私を監視して……
……いや、それは
考えすぎか……。
……………。
……ほら、これを
羽織っていなさい。
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……ありがとう。
ああ、いや……
何にせよ、さっきは
助かったよ。機転を
利かせてくれて……
びっくりしたよ。あんなに
スラスラ、口からでまかせの
自己紹介が出てくるなんて。
はは。あんなのは
日常茶飯事だよ。
名前や身分は
無闇矢鱈に明かさない……
それはあの男も同じさ。
ジェームズというのも
恐らく偽名だろう。
……………。
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どうしてあいつが
諜報員だって
分かったの?
ふふ。相手をよく
観察すれば
分かる事だよ。
贋作の絵画、紛い物の宝石、
身分を詐称する猫……
何だって同じさ。
本物と偽物を見分けるための
しるしは必ずどこかにある。
それを見る目があるかどうかだね。
ふん。
盗っ人ならではの
鑑識眼ってやつか。
まぁ確かに、
紛い物を掴まされるようじゃ
泥棒は務まらないだろうね。
おや。そういう能力は
泥棒ばかりじゃなくて
刑事にも必要だと思うが?
刑事じゃないって
言ってんのに……
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アリス、
この場所は……
あ、うん。
私の家。
とりあえず入って。
ちょっと散らかって
るけど……
ああ、
ありがとう。
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本棚は漫画本や
アニメのDVDばかり……
ああ、そうそう。
借りていたものを返すよ。
私のカバンに全部
入ってる。
え?
そ、そうなの。
慌てて飛び出したはずなのに
ちゃんと持って来ていたのか。
手際の良い奴……
…………。
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約束だからな。
ほら、返すよ。
恩に着るよ、アリス。
これで取り引きは成立だ。
はは……DVDと宝石じゃ
ちょっと不釣合いな取引
かもしれないけど。
見てごらん、
この美しい輝きを。
これぞ命を懸けた
甲斐があった
というものだ。
そういや博物館で聞いたぞ。
あなたたち、恐竜の骨を全部
爆破したんだって。
欲しいものはどんな手段を
使ってでも手に入れる。
それが我々のやり方さ。
滅茶苦茶だよ。
たかが展示品
一つのために。
知らないのか、
恐竜の骨って凄い
高価なんだぞ。
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あんなもの、ただの
石ころじゃないか。
何の価値も
ありゃしない。
何百万ポンドが
石ころだって……?
比べ物にならないほどの
価値がこのルビー玉には
あるっていうのか……?
…それもそうか。
命を狙われる程の
代物……
恐ろしい……
……まぁいい。
しばらく休んでな。
買い物に行って来るけど
何か要る物はある?
ん………?
ああ、そうだな……
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DVDと宝玉じゃ
不釣合い、か……
全く、おかしな
事を言う女だ。
この輝きの中に、
オーブの秘密がある。
すぐに暴いてやるぞ。
この赤い光が何を語り
かけているのか……
承認が必要な
商品です。従業員が
参りますまで……
はあ?
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今まで知らなかったよ。
セルフレジってお酒買おうと
すると止まるんだねぇ。
君はお酒は
飲まないのかい?
いや、全く…
そう言うあなたは
そもそもお酒が飲める
年齢なんでしょうね。
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この国では何歳から
飲んでいいんだっけ?
……18だ。
なら平気。
その言い方……
平気じゃない
国もまだある
って事?
あはっ。
意外と鋭いじゃないか。
さぁて……
どうかな。
あるかも
しれないとだけ
言っておこうか。
こいつ、寝顔は
子供っぽく見えたけど……
こうしていると結構
大人に見えるかも……
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あなたはフランス人?
少なくとも、この国の
出身じゃないよね。
なぜフランスだと?
そ、それは……
何となく見た目、いや、
雰囲気がそうっぽいし。
本当はあの夜に
フランス語で何か口走って
いたからなんだけど。
ふぅん、
雰囲気ねぇ。
でも、普段住んでるのは
アメリカかな?あまりにも
英語が上手だから。
どこで生まれ
育ったんだろう?
経歴が気になる。
そりゃどうも。
実際、この喋り方は謎だよなぁ。
発音は完全にアメリカ訛りだし、
口調は男の子みたいだし。
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映画版?
うん。
90年代頃から旧作アニメの
映画化ブームがあって……
色んなアニメが
CG映画になったり
実写化されたり……
そして去年、
とうとう……
秘密探偵メール・ブランクも
映画版が作られたの。
ふうん。どうだった?
面白かったか?
………ん?
どうした?
もしかして、
観てないのか?
上映は………
されてないんだ。
え?
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最初にアメリカで
公開された時に全く
人が入らなくて……
アメリカ以外での
公開は全面中止に……
なんだ、やっぱり
あれって無名なアニメ
だったのか……
ちっ……違うよ!
原作のせいじゃないもん、
映画がコケたのは!
DVDはこっちでも
もうすぐ出るらしい
んだけど……
どうせだったら
映画館のスクリーンで
見たかったなぁ。
………………。
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アリス、悪いが
そろそろ……
あ、ああ。そうだね。
休んだほうがいい。
…………。
どんな味がする
もんなのかね……
光にかざすと
意外と綺麗かも。
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…………。
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まだ起きてたの?
アリス。
これを持っていくの
忘れてて……
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そうか……。
…………。
……あのさ、
さっきから気になって
たんだけど……
その髪の毛って
変装か何かなの?
ああ、これか。
特殊な染料でね。
普段は透明
なんだけど……
いざという時は
熱を加えると一瞬で
ブロンド色になるんだ。
姿をくらますのに
役立つが、
欠点もあって……
長時間放置すると
透明に戻っちゃうとか?
正解。まだらになって
きた時は焦ったよ。
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もうそんな変装は
通用しないぞ。本当の
髪の色を見てやった。
ふふ。
残念でした。
この色も地毛じゃ
ないよ。
えっ!
そ、そんな……
ずるい……
自分の事は何にも教えて
くれないなんて……
……………
……ふうん。
そんなに私自身に
興味があるんだ。
え、い、いや、
ち、ち………
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違う……!
わ、私はただ……
あなたから情報を
集めれば、その……
捜査の
参考に……
ふーん……
なるほどねぇ……。
あ…………
それなら、君に一つだけ
私の秘密を打ち明けよう。
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マリー……?
手が……
手の感触が……
先の君の推理は間違いで、
私はアーセニウスの
関係者などではない。
アーセニウス
というのは……
この私のことなのさ。
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…………………。
……うそつき。
なぜそう思うんだい?
わ、私にだってそれくらい分かる。
年齢的に辻褄が合わないし、
あなたはまだ子供だし………
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あ……
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罠だ。
あはは、
びっくりしてる。
…こわい?
そ、そんな事……
君のほうが
よっぽど子供みたい。
一体何が狙いなの?
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抵抗しなきゃ、
抵抗しなきゃ……
ああ、でも………
月が………
とても、眩しい……
41ページ目
……………。
お腹の包帯が
痛々しいな……
42ページ目
43ページ目
TO BE CONTINUED...