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これは意外だな。
かの有名なアーセニウスが
こんな小娘だったとは。
うーん………?
あの顔、どこかで
見たような……
さぁ、約束通り
ウルフォーゲルのオーブを
返してもらうぞ。
マリー……。
ああ、返してやろう。
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オーブは渡したぞ。
人質を解放しろ。
ご苦労だったな、
アーセニウス。
だが、今この場で
オーブの中身を確認
する必要は無い。
世間知らずのバカガキめ。
私たちの顔を見たお前らを
無事に帰すと思ったか。
二人ともここで
死んでもらう。
やっぱそう
ですよねー……!
…………ふっ。
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くそ、状況がわからない。
一体何が起こってるんだ?
お、おい!
あそこにいるぞ!
やっと
姿現し……
うわああ‼︎
マリー!
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お腹の怪我は
大丈夫なの?
平気さ。
もう敵が
来るよ。
私が奴らを引き
付ける。君は
その隙に逃げろ。
あなた一人残して
なんか行けないよ!
私も一緒に……
わがまま言うな、
アリス。ここは
危険なんだ。
もう危険なんて
恐れない!
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逃げもしない、
そう決めたんだ。
私も戦う。
あなたのため
なら……
…………。
……わかった。
私は残りの敵を倒して
オーブを取り返す。
援護してくれ。
うん。
あ、ちょ…
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く……くそ、強い!
なぜ俺たちの動きが
読まれてる?
あいつの武器は
ジャイロキューブ
だけじゃないのか?
わからん……
まるで天から
全てを俯瞰している
みたいな……
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この……!
はぐあああ……
見事だ、
アリス。
敵は大体
倒したはずだ。
多分残りは……
ティラミス一人!
でも気をつけないと、
どこに潜んでるか……
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どうやら私の仲間を
随分可愛がって
くれたようだな。
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なかなか良い武器だが、
それで私を撃とうとは
思わん方がいいぞ。
衝撃でうっかり
引き金を引いちまう
かもしれんからな。
…………。
さぁ、銃を捨てろ。
それからその妙な
モノクルもだ。
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よしよし、
良い子だ。
アーセニウス、
貴様に一つ
聞く事がある。
オーブの中身だ。
あれは……
一体何だ?
見たのか?
正常にデコードして
表示出来たか?
画像だ。
あれがオーブの全て
だと言うのか。
他には何も無いのか。
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期待外れのもの
だったか?
とんだ道化に
なった気分だよ。
オーブを手に入れる
ために多大な労力……
リスクを冒したのに。
危ない橋を
渡ったのは
私も同じだ。
貴様のような
薄汚い武器商人と
一緒にするな!
私たちの活動は
我らが同胞の
ためだった!
武器商人……?
……だが、それは
まぁいい。元より
危険な賭けだった。
私たちは
他の方法を
探し続ける。
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おっと。
動くんじゃねぇぞ、
アーセニウス!
俺の狙撃の
腕は今ので
分かったろ。
おかしな真似すると
今度はてめぇの頭を
吹っ飛ばすぞ!
そんな……
⁉︎
今度は一体……?
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俺が一人で
来たとでも
思ったか?
首都警察局の
特殊部隊が一緒さ。
誰も逃がさねぇぜ!
大げさな奴だな。
わかったよ……
ほら、降参だ。
うう……
ああ……
ジェームズ
捜査官!
お、丁度
良かった。
お前らはそこの
犬を連行しろ。
おー、元気そうだな。
この後もたっぷり可愛がって
やるから覚悟しとけよ!
……。
アリス、
怪我は?
あ、いや
大丈夫。
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47
よし、アリス。
その泥棒に手錠を
掛けるんだ。
手錠は
あるか?
あ、あるよ。
でも……
……アリス、私の前へ。
唇を読まれないよう、
奴の死角に入るんだ。
………。
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48
この状況で私を
逮捕しなければ、
君が疑われるぞ。
さぁ、早く。
あの男の言う
通りに……
そ、そんな!
出来ないよ、
私は……
……アリス、これ
以上君を巻き込む
わけにはいかない。
君を悪党にはしたくない。
君は正義の警察官のまま
でいるんだ。
でも、でも……
それじゃあなたが
どうなるか……
ふっ、忘れたか?
私は手錠なんて
簡単に外せるんだ。
なぁに……君に迷惑が
掛からない頃合いになったら
とっとと逃げ出すさ。
……………。
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犯行グループの
犬10名を確保。
ふぅ……
全員が腕や脚を
撃たれ、重軽傷……
死亡者はありません。
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51
アーセニウスなんて
いなかったんだ。
正体はあなた
自身だったん
だね。
前にも
そう言った
じゃないか。
あの時は
とても信じられ
なかったよ……
その……年齢
から判断して。
パジャマ姿
だったしな。
博物館でオーブを
奪い去ったのも……
今ここにいるのも……
全部あなた
なんだね?
そう、
この私だ。
初めから終わり
まで、私一人。
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53
アーセニウスって
言うのは共通の
コードネームで……
あなたはその
二代目……的な感じの
設定だったりする?
ああ、まぁ
そんなところだ。
ああ、くそっ!
そうだったのか!
先代がいたんだ。
年齢の事も説明がつく!
どうしてこんな簡単な事に
気付かなかったんだろう。
…………。
……あ、あのさ。
何だ?
ちょ、ちょっと
気になって……
その……
こんな質問を
するのはとても
失礼なんだけど……
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なんで私を助けて
くれたのかな……
ってさ。
あのままオーブを
持って逃げる事だって
出来たはずなのに……
なのに、あなたは
命懸けで戻って
きてくれた。
……つ、つまり……
その……やっぱり、
もしかしたら……
本当は……
あ、あ、あなたは
私の事を……
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はっ……
私は泥棒だぞ。
盗みは私の専門だ。
君のようなシロウトに
泥棒の心が盗めるかな。
言ってくれるね……
だけど、私はあくまで
警察官なんだ。
私なら、
“盗む”などという
言葉は使わない。
ふうん?
私は必ず貴様を
追い詰めてやる。
貴様が地の果てまで
逃げようが……
どこまでも追い掛ける。
そして何度でも
捕まえる。
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見て、渡り鳥だわ。
おかしいわね、
こんな時期に……
西の国境に向かって
いるのだろう。
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きっと……
この国にいられ
なくなったのね。
鳥族とて、地上の
動乱と無関係では
いられないか……
あなたの作っている
「鳥」の様子はどう?
ん?
ああ……実は最近、
新しい暗号理論を
思いついたんだ。
それを使って、
あのオーブの中の鳥に
データを隠す事にした。
データを隠す?
一体何のデータを?
それはね──
──────
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まぁ、そんな事をして、
もし暗号が解読されたら
どうするの?
あのオーブは
政府への献上品
なのよ。
ははっ……
解読など不可能さ。
今の技術ではね。
この暗号は……
暗号化するのは
簡単だが……
復号に膨大な量の
計算が必要な仕組みに
なってるんだ。
私の予想では、
あれを鍵なしで
解読するには……
今の何万倍も高性能な
コンピュータを何億台も
集める必要があるだろう。
何億台……
それほどたくさんの
コンピュータが作られる時代が
いつか来るのかしら……。
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その頃になれば、
コンピュータは大企業や
専門機関だけでなく……
個人個人が自由に使い、
ものを考えるための
道具となっているだろう。
……私たちが
生きている間には
到底無理な話ね。
将来、あの鷲の
秘密が明らかに
なる時……
少しでも世の中が
良くなっている事を
祈るばかりだわ。
……そういえば、
奇妙な学説を唱えた
生物学者がいてね。
今の鳥類は、元々
恐竜から進化した
種族だというんだ。
ふふ、それは
確かに奇妙な話ね。
本当かしら。
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実は今回の作品のテーマに
「鳥」を提案したのはそれが
きっかけなんだ。
え、じゃあ
まさか……
そう、あの鳥は鷲だと
上には説明したが……
あれは嘘だ。
本当のモデルは……
その昔、恐竜の時代に
出現した最初の鳥類。
この世界に進化という
現象が存在する事の証。
始祖鳥だ。
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やあ、刑事さん。
また会ったね。
事件を解決して
くれたそうだね、
ありがとう。
ザッハトルテ卿。
お目にかけたいものが
あって参りました。
ほう、それは
何ですか?
ウルフォーゲルの
オーブと……
その中身です。
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アルベルト・テロポダ博士と、
その恋人……
ヨハンナ・ボーグン博士。
その写真です。
ああ、彼女が
先生の……
お姿を見るのは
初めてだ……。
そうか、写真か……
破壊兵器などでは
なかったんだな。
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大量破壊兵器の
設計図……そんな
噂もありましたね。
先生は生前に一度、
このオーブを俺に
見せてくれた。
そしてこんな
事を言ったんだ。
“このルビーには秘密の情報が
隠してある。目には見えないし、
触る事も出来ないけど──”
“将来、技術が追いつき、
その情報を取り出せるように
なる日が必ず来る”……。
博士は……それが
どんな情報なのか
言いましたか?
“とても危険で……”
“今の世の中の手には
負えないものだ”……と。
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確かにこの写真は
二人にとって
致命的だ……
これを誰かに見られでも
したら、二人とも収容所
送りになっていただろう。
結局は……どちらも
長生きは出来なかった
わけだが………。
俺は今まで……
先生に聞いた事を
誰にも話してない。
オーブの存在が
どこから漏れたのか、
それは分からん。
噂は噂を呼び……
尾ひれがどんどん
ついていった。
そしていつの間にか、
色んな連中がオーブを
狙うようになっていた。
くだらない噂だ……
でも、もし本当に兵器の
情報が入っていたら……
そう考えると、私は
オーブを奪われるのが
恐ろしくなった。
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だが、ようやく肩の荷が
降りた。もう狙われる
事もないだろうが……
これはまた金庫に
でも仕舞って
おくとしよう。
……ところが、
そういうわけには
参りません。
言ったでしょう、
私はこれを見せに
来ただけ。
お返しに来た
わけではない。
な……何だと⁉︎
なぜなら、この
オーブはもう……
この私、アーセニウスが
頂戴した物だからだ。
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72
ああ、警備員を
呼ぼうとしても
無駄だぞ。
回線は切って
ある。
……やられた。
ザッハトルテ卿。
一つ質問する。
あんたはこのオーブに
兵器が隠されている
可能性を恐れていた。
あの男……
ティラミスの思惑にも
気付いていたはずだ。
ああ。
なぜ今になって
オーブを貸し出す
気になったんだ?
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マイク・ティラミス……
彼は同胞思いだったが、
社会を憎んでもいた。
そして力を欲していた。
彼もまた、この社会では
弱者だった。
彼らが破壊兵器を
手にする事になった
としても……
彼らなら、この腐った
世界をぶち壊しにして
くれるかも……
それはそれで
良いと思った。
……全く、あんたって男は
とんでもない大悪党だな。
おまけに悲観論者ときてる。
ああ、野蛮な時代に
生まれ育った
あなたが可哀想だ!
そして余生は暗い部屋に
閉じこもって過去を反芻
するだけ……!
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そうしている間にも
世界はどんどん新しく
なっているというのに。
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もう行くよ。そろそろ、
私の脱走に気付いた警察が
やってくる頃だろう。
……アーセニウス君。
私にも一つ質問させて
くれるか。
何だ?
君はオーブの中身が何か……
最初から知っていたのかね?
……何か凄い兵器が
入ってる、なんて話は
信じちゃいなかった。
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76
コンピュータ、
レーザー、人工ダイヤ、
その他あれこれ……
あの場所にあったものは
何もかも、もう世の中に
出てしまってる。
そして今では別物に
なってる。技術も人も
進歩するんだ。
鳥籠の中に閉じ込めておける
オーバーテクノロジーなんて
あるわけない。
青臭い小娘め……
そんな事を言ってられ
るのも今のうちだぞ。
いずれお前も……
………ん?
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良い酒だ。あんたの
ような老いぼれには
もったいない。
あとは私が
もらっておく
としよう。
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未確認情報ですが、
この屋敷に逃走中の
アーセニウスが……
厳戒態勢を取れ、
周囲をくまなく
捜索するんだ。
おい、誰か
テープを張れ!
あーあ、全く……
お祭り騒ぎにしち
まいやがって。
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どうした、アリス。
女に逃げられたか?
ジョニー。
丁度良かった。
あんたにこれを返そうと
思って持ってたんだ。
あっ……!
そ、そいつは
……‼
発電所跡に
来い。
一人でな。
俺の鳥だ。
もう見つからないと
思ってた……
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ありがとう。
本当に捕まえて
くれるなんて……
約束だった
からね。
…………。
ジョニー、
どうかしたの?
……せっかく
捕まえてくれたのに
悪いんだが……
この鳥、もう
逃してやろうと
思うんだ。
ハアッ⁉︎
今更何言ってんの?
あんた、あんなに必死に
探してたじゃ……
あれ以来、こいつは
一人で生き延びて
こられたんだ。
もう俺が餌やる
必要なんか
ねぇよ……
俺の秘密が漏れる心配も
なさそうだ。誰かが別の
台詞を吹き込んだんだな。
ウルフォーゲルの
オーブを持って……
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アリス、
なぜだ?
自由の味?
檻が可哀想?
そんなの勝手な理屈。
一度飼い始めたペットは
最後まで責任を持って
飼いなさい!
何が“自由の鳥”だ。
そんなもん、
クソ食らえ!
アーセニウス!
ここに居たお前の
仲間は……
俺達が預かっている。
彼女に死んでほしく
なければ……
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86
なぁ、
ところで……
この鳥が言ってる
「仲間」って一体
誰の事なんだ?
……
考え中
アリス?
あ、ああ、
それはね……
私の事。
実はあんたに
黙ってたけど……
私は潜入捜査で
アーセニウス一味の
一人に接触したんだ。
犬たちには私も
仲間だと思われ
たみたい……
それであんな
メッセージを残し
たんだと思う。
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お前には後で
聞きたい事が
色々ある。
本当に問題のない
“捜査”だったのかも
含めてな。
……待ちな、
ジョニー。
そういうあんたの
行動に問題は
無かったと言える?
あったら教えて
もらいたいね。
あんた、本当は
五課じゃなくて六課の
捜査官なんでしょ。
何……?
今、何て言った?
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前回、二人で
この屋敷に来た時……
ジョニー君と私は
古い馴染みでね。
この件は内々に
済ませたかった
のだが……
……なんて言っていた
ザッハトルテの経歴は
元・外務大臣。
六課こと秘密情報局は
外務省系……
あんたが所属してる事に
なってる五課こと保安局は
内務省系の組織。
元外相が五課にコネが
あるのは変だし、“内々に”
って表現もおかしい。
おかしくねぇよ!
そんなのはお前の
主観だろう。
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その後、六課の
アレックス博士に
会いに行った時も……
保安局捜査官の
ジョニー・ジェームズ。
博士は“顔見知り”と
言ってたのに、なぜ
あんな自己紹介を?
あれは博士の口から
自分の正体がバレない
ように……
とっさに偽りの
身分を説明した
んじゃない?
………。
あ、そうそう……
内務省には五課以外にも
もう一つ組織があった。
「警察」だ。
同じ内務省同士、
五課と警察は協力
関係にある……
五課の捜査官なら、
警察の現場に紛れ込んでも
そんなに不自然じゃない。
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あんたは当初、
警察に疑いを
持っていた……
警察を探るために
急遽、五課のフリを
する事にしたんだ。
どう?
違う?
…………。
六課の捜査官が五課の
身分証を偽装して警察を
嗅ぎ回っていた……
関係者は良い気が
しないと思うよ、
特に内務省はね。
む、むぐぐ……
……わ、わかった、
わかったよ。
おっかねぇ女だな。
お互い余計な
詮索はしない
って事で、な?
……そう願う。
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ああ、そこの君……
アリス・シャーロック
巡査部長だったかな?
あ、あなたは
確か……
グレッグ警部刑事だ。
一度会ったよな、
あの博物館で……
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ジョニーが
「デコスケ」と
呼んでた人だな。
ジョニー君に
付き合って刑事役を
してあげたそうだね。
それと……
アーセニウスの逮捕、
でかしたぞ!
警部、大変申し訳
ないのですが……
アーセニウスは
護送中に逃亡して
しまいました。
いやいや、それは
君の責任ではない。
護送車の連中のだ。
一度逮捕出来ただけで
十分お手柄だよ。
知っての通り、
奴は世界的に有名な
泥棒だが……
今まで一度も
逮捕された事は
なかったのだ。
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君は奴を逮捕した。
これは世界初の
快挙なんだよ。
世界初!
は、はあ。
なあに、逃げたものは
また捕まえればいい。
そこで相談
なんだが……
アリス君、役ではなく
本当に刑事になる気は
ないかね?
えっ⁉︎
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そう、本物の刑事に
なって事件を解決
するのだ。
そしてアーセニウスが
再びこの国に
やってきた時には……
君を捜査担当に任命しよう!
世界で唯一アーセニウスを
逮捕した刑事が奴を追うのだ。
これは我々
首都警察局としても
大きなアピールになる。
わ、私が……
刑事に……?
あー、もちろん
君には先に言って
おくが……
96ページ目
96
刑事の仕事は
生やさしいもの
ではないぞ。
単なる制服警官で
いるのとはわけが
違う。
これまで以上に
様々な困難に
直面するだろう。
場合によっては
非常に危険な目に
遭うかもしれない。
だが、やりがいのある
立派な仕事でもある。
98ページ目
98
はい‼︎
ALICE SHERLOCK: THE RUBIOUS NEBULA
THE END