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官房長官。
遅くなった。
様子はどうだい?

……それでひとまず寝室に
お運びして…今はもう落ち
着かれたようなんですが…
そうか…

怪我はして
ないね?
怪我……。
…い、いえ。
ないと思います
が……。

ああ、良かった。
……。

君にはこの際だから
言っておかなければ
ならないが、その…
サンドラは……
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身体の怪我だけでも
しないように
目を配ってくれれば
それでいい。
頼むよ。
身辺警護の一環
だと思って。

………
僕が付きっ切りで
そばにいるわけには
いかないから……

はぁ…きっと仕事の
重圧のせいだろうな。
時々爆発するんだ。
せめて何か気晴らしに
なることでもあれば
いいんだけど……
気晴らし…

…失礼ですが、
随分総理を気に
掛けるんですね。
総理の健康状態
にもお詳しい
ようですし…

……友達
だからね。
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…馬鹿な話
なんだけどよ。
最近、よく
悪夢を見るんだ。
悪夢?

そ、その夢で、
お、思ったんだ。
も、もしかしたら
俺、本当は人間なの
かもしれないって…

………。

…当ててやろうか。
その夢の中で
人間の子供に
出会ったんだろ。
ほんで自分の身体が
人間になったり
人猫になったり…
な、なんで
分かるんだ⁉︎
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…そう言や
お前、田舎育ちで
学校も出てないん
だっけ。
街の子供は
学校で習う
ことだから…
なに?

俺たち人猫はな…
みんな元々は
人間だったんだよ。

「魔王の呪い」だろ?
それくらいは知ってる。
人間の半数が人猫に
成り代わったって…
でも、それは
200年前の話だろ。
今の俺らには関係
ないはずじゃ…

そうじゃ
ないんだ…
まぁ聞けよ。

人類の二種族……
人猫と人間はどちらも
人間の腹から生まれて
くるわけだが…

赤ん坊が母親の
腹の中にいる間は
種族の区別なんかない。
全員人間なんだ。
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赤ん坊は……
みんな人間…?

けれど変化
するんだ。
人間の赤ん坊のうち
半数は生まれる前に人猫になり、
残りは人間のまま生まれてくる。

でも、
変化するのは
身体だけだ。
姿形は変わっても、
俺たちは人間の魂を
持っている。

俺たちは心の奥底では
本来の身体を覚えていて、
それが夢に現れる……
と言われているんだ。

みんな……
みんな同じような
夢を見るのか。
大抵は成長期に
見るらしいけど…
身体違和が急速に
大きくなるのが
成長期だからな。
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時期に個人差は
あるんだな。
大丈夫!
そのうち慣れるし、
悪夢も見なくなる。

魔王は200年前に
消えたわけじゃ
ないんだな。

封印されただけだ。
魔王は今もどこかで
生きている。
そしてこの世界に
呪いを振り撒き
続けている。
…………。

でも「魔王の呪い」も
悪いことばかりじゃ
ないぞ。

この呪いのおかげで
俺たちの身体は
人間よりもずっと大きく…
そして強くなった。
ああ、全くだ。
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20

俺たちは
この身体をくれた
魔王様に感謝すべき
なのかもしれんな。
魔王様…
だと?

魔王は俺たちの
敵だぞ!
さてはお前、
邪教徒か?
えっ…?
ち、違う!
俺はただ…

……人猫は
呪いのおかげで
強くなった…?

確かに身体は…
しかし俺は……

うわっ‼︎

てんめぇ、
何しやがる‼︎
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23

俺たちも
ずらかろ。
あ、ああ。

大して時間を
潰せなかったが…
まぁいいか。
警備部長、
御馳走様
です!

おう、
気を付けて
帰れよ。
さっきの話の
続きなんだが…

もし本気で悩んでるなら…
うってつけの場所があるんだ。
ちょっと寄ってみないか?
場所?

いや、なに。
ちょっとした仲間内の
集会所みたいなものさ。

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25

祈りましょう。
祈りましょう。

我らが魔王様に
祈りを捧げるのです。

げえっ。
どうだ、なかなか
良い場所だろ?

俺たちも
座ろうぜ。
魔王様は我ら
選ばれし民に力を
下さいました。

魔王様に感謝しましょう。
さすれば魔王様は復活し、
救いの時が訪れます。
我らに救済を。
そして世界に
調和と友愛を。
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27

先の国政選挙では
ご投票誠にありがとう
ございました!
「魔王教」の皆様の
おかげで、我らが
スイレン党は大奮闘!

巧みな交渉の末!
タンポポ党との
連立という形では
ありますが…
18年ぶりの政権入り!
そして副総理の地位まで
獲得しました!

来年の都議選でも
是非スイレン党に
清き一票を!
目標はただ一つ!
打倒マタタビ党目指して
頑張りましょう!

スイレン党って確か
副総理が所属してる
マイナー政党だよな…
こんな宗教を
使って票集めを
してるのか…。
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28


王都グランドホテル


……はい、結構。
武器は隠し持って
いませんね。
当然ですぅ。

では奥の部屋へ。
今夜のことは
くれぐれも他言
せぬよう…
分かってます、
分かってます。

失礼いたし
ます。
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32

取り上げるだって?
ふふ、何を
言ってるんだい。
僕のこの姿こそ
生まれ持った本当の姿。
誰にも取り上げること
なんてできないよ。

そうだ…
これは呪い…
ただの呪いだ…!

解く方法が
必ずどこか
に…
苦しいかい?
でもね、君は
そこから逃れ
られない。
だって
呪いというのは
君自身のこと
だから。


その苦痛は
君自身の
ものだ。
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38

なっ…

どうしてこんな
簡単なことに気付か
なかったんだろう…
俺たちは呪いで
姿を変えられた
だけの人間だ!
これは俺たちの
本当の身体じゃ
ない!

何を言ってる!
そんなのは分かりきった
ことじゃないか!

一体全体
なんの騒ぎだ?
いいや!
何も分かって
ない!

本当の身体は
ちゃんと存在
するんだよ!

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39

このすぐ下に…
俺はそれを実感
してる。
着ぐるみを
着せられている
のと同じだ。


自分を否定しないで!
別にいいじゃない、
あなたは立派な人猫よ!
おい、あんたは
黙ってろ!

聞け!
お前の苦しみは
よく分かる!
俺たちは
みんな同じ
気持ちだ!

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40

でもどうにも
ならないんだ!
俺たちはこの呪いを
背負って生きていく
しかないんだよ!


あ、開か
ない…⁉︎


いいや…
呪いは自分の手で
終わりにできる!
俺は今から…
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41

今からそれを
証明する!

お、おい!
何する気だ!



そうだ…これは
ただの着ぐるみ…
この下に本当の
身体がある。
これを
切り剥がせば、
俺は……‼︎