第3話 呪われた種族
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第3話
呪われた種族
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官房長官。
遅くなった。
様子はどうだい?
……それでひとまず寝室に
お運びして…今はもう落ち
着かれたようなんですが…
そうか…
怪我はして
ないね?
怪我……。
…い、いえ。
ないと思います
が……。
ああ、良かった。
……。
君にはこの際だから
言っておかなければ
ならないが、その…
サンドラは……
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左腕にある
切創痕のこと
ですか?
気付いて
たのか。
偶然見ただけです。
さっき、袖が
めくれたときに。
あいつは
ああ見えて
危なっかしい
やつでさ…
見守って…
やってくれ
ないか。
嫌です!
私はただの警備の
騎士ですよ。
問題を抱えた方の
面倒なんて
見切れません!
君に多くは
求めないよ!
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身体の怪我だけでも
しないように
目を配ってくれれば
それでいい。
頼むよ。
身辺警護の一環
だと思って。
………
僕が付きっ切りで
そばにいるわけには
いかないから……
はぁ…きっと仕事の
重圧のせいだろうな。
時々爆発するんだ。
せめて何か気晴らしに
なることでもあれば
いいんだけど……
気晴らし…
…失礼ですが、
随分総理を気に
掛けるんですね。
総理の健康状態
にもお詳しい
ようですし…
……友達
だからね。
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ああ、
身体が軽い!
どこまででも
走っていける!
この感覚…
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これが僕の身体…
僕の手だ。
初めからこの姿
だったかのように
しっくりくる。
まるで生まれ
変わったような
爽快な気分だ。
いいや、僕は
今日ここで初めて
生まれたんだ。
どうして今まで
気付かなかった
んだろう。
今までの
僕は…
偽りの
僕だった!
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今のうちさ。
…え?
夜が明けたら…
…また元通り。
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な、なんだ⁉︎
身体が…
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ああ、
夢……か。
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あぐっ!
総理…
私の部屋
から…
出てけ‼︎
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なんだ畜生!
人がせっかく
心配して……
むかつく!
むかつく!
むかつく!
あ、おはよう
ございます。
…………。
おっす!
どうした、
しけた顔して。
な、なんでも
ねぇよ。
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この後どうせ
暇だろ?
付き合えよ。
あ、ああ。
いいけど。
あっ、
あそこに
いるの…
警備部長!
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珍しいですね。
これから
飲みですか?
まぁな。
お前らもか。
………。
良かったら
俺たちに一杯
奢ってください!
うわっ、
図々しい…
一杯だけだぞ。
みんな、
警備部長に
続け!
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見ろよあれ。
騎士のコスプレした
人間がいるぞ。
あっはっは。
…うぇ⁉︎
いらっしゃい、
お騎士さん方!
なんにします?
マタタビビール‼︎
……私は
リンゴ酒を。
なぁ、最近
なんかあった
のか?
良かったら
話してみろよ。
相談に乗るぜ。
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…馬鹿な話
なんだけどよ。
最近、よく
悪夢を見るんだ。
悪夢?
そ、その夢で、
お、思ったんだ。
も、もしかしたら
俺、本当は人間なの
かもしれないって…
………。
…当ててやろうか。
その夢の中で
人間の子供に
出会ったんだろ。
ほんで自分の身体が
人間になったり
人猫になったり…
な、なんで
分かるんだ⁉︎
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…そう言や
お前、田舎育ちで
学校も出てないん
だっけ。
街の子供は
学校で習う
ことだから…
なに?
俺たち人猫はな…
みんな元々は
人間だったんだよ。
「魔王の呪い」だろ?
それくらいは知ってる。
人間の半数が人猫に
成り代わったって…
でも、それは
200年前の話だろ。
今の俺らには関係
ないはずじゃ…
そうじゃ
ないんだ…
まぁ聞けよ。
人類の二種族……
人猫と人間はどちらも
人間の腹から生まれて
くるわけだが…
赤ん坊が母親の
腹の中にいる間は
種族の区別なんかない。
全員人間なんだ。
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赤ん坊は……
みんな人間…?
けれど変化
するんだ。
人間の赤ん坊のうち
半数は生まれる前に人猫になり、
残りは人間のまま生まれてくる。
でも、
変化するのは
身体だけだ。
姿形は変わっても、
俺たちは人間の魂を
持っている。
俺たちは心の奥底では
本来の身体を覚えていて、
それが夢に現れる……
と言われているんだ。
みんな……
みんな同じような
夢を見るのか。
大抵は成長期に
見るらしいけど…
身体違和が急速に
大きくなるのが
成長期だからな。
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時期に個人差は
あるんだな。
大丈夫!
そのうち慣れるし、
悪夢も見なくなる。
魔王は200年前に
消えたわけじゃ
ないんだな。
封印されただけだ。
魔王は今もどこかで
生きている。
そしてこの世界に
呪いを振り撒き
続けている。
…………。
でも「魔王の呪い」も
悪いことばかりじゃ
ないぞ。
この呪いのおかげで
俺たちの身体は
人間よりもずっと大きく…
そして強くなった。
ああ、全くだ。
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俺たちは
この身体をくれた
魔王様に感謝すべき
なのかもしれんな。
魔王様…
だと?
魔王は俺たちの
敵だぞ!
さてはお前、
邪教徒か?
えっ…?
ち、違う!
俺はただ…
……人猫は
呪いのおかげで
強くなった…?
確かに身体は…
しかし俺は……
うわっ‼︎
てんめぇ、
何しやがる‼︎
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…なんだか
騒がしいな。
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なんで私の部下が
上から降って
くるんだ!
やりやがったな
こん畜生!
なんだと
この野郎!
あっはっは。
喧嘩だ喧嘩。
お前ら、
他所でやれ!
落ち着いて酒も
飲めやしない!
これだから
人猫は!
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俺たちも
ずらかろ。
あ、ああ。
大して時間を
潰せなかったが…
まぁいいか。
警備部長、
御馳走様
です!
おう、
気を付けて
帰れよ。
さっきの話の
続きなんだが…
もし本気で悩んでるなら…
うってつけの場所があるんだ。
ちょっと寄ってみないか?
場所?
いや、なに。
ちょっとした仲間内の
集会所みたいなものさ。
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こんな地下に
一体何があるって
言うんだ…?
ここだ。
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祈りましょう。
祈りましょう。
我らが魔王様に
祈りを捧げるのです。
げえっ。
どうだ、なかなか
良い場所だろ?
俺たちも
座ろうぜ。
魔王様は我ら
選ばれし民に力を
下さいました。
魔王様に感謝しましょう。
さすれば魔王様は復活し、
救いの時が訪れます。
我らに救済を。
そして世界に
調和と友愛を。
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帰りたい…
我らに救済を。
そして世界に
調和と友愛を。
それではここで
スペシャルゲスト
の登場です!
今を時めく
大政治家!
副総理様です!
副総理
だって⁉︎
王都第12支部の
皆様、こんばんは!
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先の国政選挙では
ご投票誠にありがとう
ございました!
「魔王教」の皆様の
おかげで、我らが
スイレン党は大奮闘!
巧みな交渉の末!
タンポポ党との
連立という形では
ありますが…
18年ぶりの政権入り!
そして副総理の地位まで
獲得しました!
来年の都議選でも
是非スイレン党に
清き一票を!
目標はただ一つ!
打倒マタタビ党目指して
頑張りましょう!
スイレン党って確か
副総理が所属してる
マイナー政党だよな…
こんな宗教を
使って票集めを
してるのか…。
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王都グランドホテル
……はい、結構。
武器は隠し持って
いませんね。
当然ですぅ。
では奥の部屋へ。
今夜のことは
くれぐれも他言
せぬよう…
分かってます、
分かってます。
失礼いたし
ます。
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リーア
ちゃ〜ん♡
んも〜、
待ちくたびれた
ぞ〜。
今日はたっぷり
可愛がって
やるからな。
えへへ〜。
…どういたし
まして。
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は〜…
なんで私が
こんな…
全く世話の
焼ける…
それにしても、
こんな部屋をポンと
借りられるとは…
あいつ金持ち
なんだな。
……これで
安定してくれたら
いいんだけどな。
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なぜだ。
なぜこんな
ことを
繰り返す。
すぐに
取り上げるなら…
なぜこの身体を
寄越すんだ?
うっ…
ひいっ!
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取り上げるだって?
ふふ、何を
言ってるんだい。
僕のこの姿こそ
生まれ持った本当の姿。
誰にも取り上げること
なんてできないよ。
そうだ…
これは呪い…
ただの呪いだ…!
解く方法が
必ずどこか
に…
苦しいかい?
でもね、君は
そこから逃れ
られない。
だって
呪いというのは
君自身のこと
だから。
その苦痛は
君自身の
ものだ。
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んん…
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35ページ目
36ページ目
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ん?
お、おい!
あんたそこで
何してるんだ⁉︎
危ないぞ!
降りなさい!
なんだ、
なんだ。
誰だあれ?
騎士のよう
だが…
ちょっと、
そこの
人猫さん!
うるさい‼︎
俺は人猫
じゃない!
人間だ‼︎
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なっ…
どうしてこんな
簡単なことに気付か
なかったんだろう…
俺たちは呪いで
姿を変えられた
だけの人間だ!
これは俺たちの
本当の身体じゃ
ない!
何を言ってる!
そんなのは分かりきった
ことじゃないか!
一体全体
なんの騒ぎだ?
いいや!
何も分かって
ない!
本当の身体は
ちゃんと存在
するんだよ!
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このすぐ下に…
俺はそれを実感
してる。
着ぐるみを
着せられている
のと同じだ。
自分を否定しないで!
別にいいじゃない、
あなたは立派な人猫よ!
おい、あんたは
黙ってろ!
聞け!
お前の苦しみは
よく分かる!
俺たちは
みんな同じ
気持ちだ!
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でもどうにも
ならないんだ!
俺たちはこの呪いを
背負って生きていく
しかないんだよ!
あ、開か
ない…⁉︎
いいや…
呪いは自分の手で
終わりにできる!
俺は今から…
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今からそれを
証明する!
お、おい!
何する気だ!
そうだ…これは
ただの着ぐるみ…
この下に本当の
身体がある。
これを
切り剥がせば、
俺は……‼︎
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開け!
開けよ!
やめろー!
そんなこと
したら死ぬぞ!
死んだって
いいんだよ!
俺は…
俺はただ…
ただ、全部
終わらせたい
だけなんだ!
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ああ…
なんてことだ。
あああああ!
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なんで…
なんで開か
ないんだよ…
あれ?
あれれ?
おかしいな…
肉と骨がある
ばかりじゃないか…
こんなはずじゃ…
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なんだか急に
辺りが暗く……
俺は……
人間…………。
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ああ…
47ページ目
48ページ目
誰だ⁉︎
警備部長、
どうしました?
……いや、
気のせいか…
TO BE CONTINUED...